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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
175/204

新たな旅立ち。――EP.15

[The Pilgrims Begin.――EP.15]



「次は俺の番だな」


 そう言って笑う。


「宣言:関数 早業」


 短剣を投げる。

 大剣に変化。

 ドラゴンが寸前で避ける。

 避けたところに、


「宣言:関数 早業 大地の槍」


 槍を突き込む。

 しかし、こちらもかわされる。


「俺の番じゃねえの!?」

「アホか、お前」


 これは早い者勝ちのゲームなのだ。

 先に相手を殺《PK》した方が勝ちのゲーム。

 順番なんてあるか。


「宣言:関数 早業」


 たたみ掛ける。


「宣言:関数 早業」


 それでも、全ての攻撃が届かない。


「宣言:関数――」


 その時だ。

 ドラゴンの一閃。

 関数の発動前に、握った短剣を叩き落とされる。


「――早業」


 当然ながら関数は不発。

 

「あー、それはもういいや。他の技も見せてくれよ」


 幾分いくぶんかつまらなそうに、ドラゴンは言った。

 俺は短剣を抜く。


「宣言:関数――」


 しかし、発動前に短剣を弾かれる。


「――早業」


 不発。


「だから、飽きたって。その技」


 ドラゴンが言い放つ。

 この短い時間で見切ったと言うのか。


「今度こそ俺の番な」


 ドラゴンが構えた。

 瞬間、切り込む。

 その斬撃は、もはや肉眼が役に立つ速度ではなかった。

 目では追えない。

 ほとんど勘だった。

 短剣で受ける。

 重い衝撃。

 金属が噛み合う甲高い音。

 吹き散る火花。

 大地の樹(ツリィ・オブ・アース)でできた短剣が、刃こぼれしていた。 


「マジかよ……」


 先読みが使えなければ、今の一撃で終わっていた。


「おいおいおいおい!!!」


 突然、1人で盛り上がりだすドラゴン。


「……な、なんだよ?」

「初めてだよ! 俺の攻撃をちゃんと(・・・・)防がれたのは」

「は?」

「今までもいたんだよなー。俺の攻撃をふせぐ奴は。でも、たいていは関数だったり、アイテムの効果だったりだけどな。自力で避けたのはお前が初めてだぜ!」

「ああ。なるほどな……」


 今までのやり取りだけでも、こいつの性格は理解できる。

 自分の実力に自信を持っている。

 過信かしんではない。

 相応ふさわしいだけの能力がある。

 そして、その実力を試したいと望んでいる。


 このドラゴンとか言うプレイヤは間違いなく格上だ。

 ただ、ゲームを楽しんでいる。

 遊んでいるのだ。

 そこにつけ入る隙があるか。


「お前、勘違いしてるよ」


 俺は言う。


「何をだー?」

「お前が強いんじゃない。お前が今まで、弱いやつとしか戦ってこなかったんだ」


 もちろん、嘘だ。

 しかし、彼は素直なんだろう。

 こんなハッタリにもきちんと反応してくれる。

 ドラゴンの顔から笑いが消えた。


「弱いんだよ。お前は。……かかって来いよ、三下さんしたが」


 ドラゴンはあっけに取られる。

 そして、彼は口を開いた。


「三下って何?」


 言葉の選択、間違えたかな。




 ツヅリは空を見上げていた。

 空中に浮かぶ飛行船のようなオブジェクト。


「とりあえず、落とそうかな。宣言:関数デクラレーション・ファンクション 無重力ゼロ・グラビティ


 重力が消えた。

 とんっ、と甲板を蹴る。

 ふわりと浮かび上がる身体。

 夜空を一直線に上昇。 


発動:能力アクティベーション・アビリティ 【魔王ザ・デーモン・ロード】――」


 ツヅリが能力を発動させる。


「――引数アーギュメント:1/10」


 さらに、


「宣言:関数 空衝エア・ハンマ


 頭上に向けて、圧縮された空気の塊を放つ。

 反動で上昇が止まる。

 飛行船と同じ高度。

 夜空を背景にツヅリは浮遊する。


「こんばんは。良い夜だね」


 ツヅリは言う。


「こんな良い夜を邪魔したんだからね。ゲームオーバ、してくれるんだよね?  宣言:関数――」


 ツヅリが関数を使おうとしたその時、

 飛行船の中から2人の人間が飛び出した。


「――落星スタァ・フォール


 直後、空の1点がキラリと光る。

 瞬間、はるか上空から高速で飛来する物体。

 バスケットボールほどの岩石だった。

 白い炎をまとったそれが飛行船を射貫く。

 衝撃音。

 飛び散る火花。

 一瞬、まるで花火のように夜空を照らす。

 その余波で空中のツヅリが揺れる。

 飛行船が姿勢を傾ける。

 そのまま緩やかに下降。

 海中に消えた。


「よし。次はプレイヤか……」


 ツヅリが周囲を見渡す。

 すると、下方に2人のプレイヤを見つけた。

 真っ逆さまに落下している。

 その時だ。

 落下中のプレイヤが泣きそうな声で関数を呼び出した。 


「《計画》ってこんなんばっかじゃん! 宣言:関数! 鳥呼び(バード・コール)ッ!!」


 直後、どこからともなく巨大な鳥が飛来する。

 漆黒のカラスだ。

 カラスは2人のプレイヤを背中で拾うと、力強く羽ばたく。

 

「へぇ。珍しい原典だね。鳥飼い(エイビアリィ)かぁ……」


 天高く登っていくカラスを見上げながら、ツヅリは呟いた。


「さて。どう料理しようか」


 口の端を吊り上げて笑う。

 白い犬歯けんしのぞかせながら。


 一方、カラスの背中で2人の少女は会話を交わしていた。


「や、ヤバいよ透子とうこ! 飛行船、落ちたよっ!?」

「落ちただけ」

「え?」

「落ちただけだって。大丈夫。あのくらいじゃ壊れない。あとで回収できる」

「う、うん……」

「それより、あれがツヅリだよね……?」

「たぶん……」

「あれはヤバいでしょ……」


 トーコは唇を噛む。


「って言うか、浮いてるよね!? あの人!」


 ツグミが声を上げる。


「浮いてるね」

「あの関数なに!?」

「知らないよ……」


 あんな重力を消すなんて関数など見たことも聞いたこともない。


「それに、さっきの爆発何だったの?」

「流れ星だと思う」

「はぁ!?」

「……とにかく、やるしかないよ」


 これほどの強敵だ。

 簡単に見逃してくれるとは思えない。

 戦うしかないのだ。 


「いつも通りで」


 そう言って、トーコはカラスの背から飛び降りた。

 そこは丁度、ツヅリの真上だった。

 重力に引かれ急加速。

 背負った金色のついを構える。

 堕星鎚メテオ・ショット

 異様に重い金属でできたハンマだ。

 落下の勢いに任せて、ツヅリに叩きつける。


「宣言:関数 空衝」


 ツヅリが手の平から気流を生み出す。

 反動で横滑りする。

 そのまま攻撃をかわす。

 一方、空振りしたトーコ。

 そのまま落下。

 しかし、


「トーコ!」


 ツグミが先回りしていた。

 トーコは鳥の背中に着地。

 そのまま距離を取る。


「空中だったらこっちの方が速いね」


 カラスの背中でツヅミは言う。


「うん。距離を取りながら速度を活かして戦えば、勝機はある」


 トーコが答える。


「……へぇ。上手いじゃん」


 そんな2人を眺めながら、ツヅリが言葉を漏らす。

 夜風に吹かれて目を細める。

 遠巻きに旋回せんかいするカラス。

 

「ボクも乗り物、欲しいかな。宣言:関数 竜巻トルネード


 ツヅリは手を上げて関数を宣言。

 その指先で、空気は渦を巻く。

 渦はみるみるうちに成長。

 巨大な竜巻となる。

 周囲の空気が竜巻に流れ込む。

 ツグミたちが乗ったカラスも、その流れに吞み込まれる。

 

「え、やばっ!?」


 ツグミが叫んだ。

 みるみる竜巻が近づく。

 その根元で、悪魔のように笑うツヅリ。

 しかし、美しい。

 現実離れした光景に背筋が凍る。

 その時だ。


「あ、やば……」


 トーコはツヅリの狙いに気付く。


「ツグミ! カラス消してっ!!」

「わ、分かった!」


 しかし、遅かった。

 その時、ツヅリは目の前にいた。

 その目が鋭く光る。

 彼女が拳を引き絞る。

 少女らしい華奢きゃしゃな手足。

 しかし、なんという圧力か。


「宣言:関数 隷属の一撃フィスト・オブ・サボディネーション

 

 ツヅリの拳が、カラスの腹を射貫く。

 その時だ。

 2人を乗せたカラスが急に羽ばたく。


「く、くーちゃん! どうしたの!?」


 カラスは空中で急旋回。

 2人を振り落とす。

 空中に投げ出される。


「宣言:関数 鳥呼び《バード・コール》!」


 ツグミが新しい鳥を呼び出す。

 銀色の羽を持ったフクロウだ。

 動的対象:銀翅梟シルバー・オウル

 機動力はカラスに負けるが、高い耐久性をほこる。

 その背中に飛び乗って、なんとか空中に踏みとどまる。


「今の何!?」


 ツグミが声を上げる。


「関数:隷属の一撃フィスト・オブ・サボディネーションでしょ」


 トーコが周囲を見渡す。

 上空、カラスの背に乗るツヅリがいた。

 先ほどまで、自分たちが乗っていたカラスの背に乗っている。

 カラスを奪われたのだ。

 ツヅリは誇らしげに笑う。


「え、でも、それって調教師テイマの関数だよね」

「うん」

「でも、ツヅリ、竜巻とかも使ってなかった?」

「使ってたね」

「ええ!? どーゆーことっ!?」

「複数の原典ライブラリの関数を使えるんだと思う……」

「ず、ずるくない?」

 

 あまりの強敵に、ツグミは言葉を漏らす。


「勝ち目、あるかな……?」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-43,764,899(日本円)

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