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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
174/204

新たな旅立ち。――EP.14

[The Pilgrims Begin.――EP.14]




 空からソレ(・・)が降って来たのはそんな時だった。


「ドンッ!!」


 と鈍い衝撃音。

 それから、澄んだ金属音。

 何事かと周囲を見渡せば、傾いていく帆柱マストが見えた。

 最初は目の錯覚かと思った。

 しかし、確かに傾いていく。

 轟音。

 そして、倒れた。

 そのまま海中に消える。

 目を凝らせば、そこに人影がいた。


「よう――」


 彼が立ち上がる。

 月明かりに照らし出される。

 刈り込んだ短髪。

 筋肉で盛り上がる体躯たいく


「――俺はドラゴン(・・・・)


 そのプレイヤ・ネームを聞いて、


「ダサい」

「ダサいな」

「だ、ダサいです……」

「ダサいね!」


 全員が反射的に口に出していた。


「ダサくねえよっ! 格好良いだろ!? ドラゴン!!」


 男が声を荒げる。


「「「全然」」」


 3人が首を振る。


「……確かに、ダサくないかもね」


 しかし、そう答えたのはツヅリだった。

 遅れて、俺もその意図に気付く。

 帆柱は断面は滑らかだった。

 まるで、鋭利な刃物で切断されたかのように。

 そして、ドラゴンと名乗った男の腰には日本刀のようなオブジェクト。


「その柱、アンタが斬ったのか?」


 俺が問う。


「……ん? ああ。俺が斬った」


 悪びれる様子もなく、ドラゴンは言う。


「何のために?」

「はっはー! 愚問だよなぁ!?」


 笑い飛ばされる。


「これ以上、先に進めないようにするために決まってんだろ」

「あー、良く分からんが、お前が敵ってことで良いんだな?」

「そうだな。悪いけど、お前らの冒険はここでお終いだ」

「ったく……。本当、こんなんばっかりだよ……」


 大渦を超えた。

 目指す未踏破領域まであと少し。

 しかし、そこに立ちふさがる敵。


「本当、こんなんばっかりだよ……」


 別に、大金持ちになりたい訳じゃない。

 人並みに暮らしたいだけ。

 それなのに、こうして邪魔ばかり入る。


「分かった。そっちがそのつもりなら、ぶっ殺してやるよ」


 俺は短剣を抜く。

 ドラゴンは笑った。


「……良いねぇ。あんた、気に入ったよ」


 ドラゴンは刀を抜く。

 月明かりを跳ね返して、剣呑けんのんに光る。


「名前は?」


 ドラゴンは問う。

 面倒なので答えない。

 どうせすぐに倒す。


「エン。アイツ、強いよ」


 その時、ツヅリは言う。


「あいつの装備。どっちも1級品だよ」


 彼が装備している、軍服のような上衣コート長靴ブーツのことか。


「まあ、そうだろうな……」


 未踏破領域にいるのだ。

 つまり、例のチュートリアルをクリアしたのだ。

 弱いはずが無い。


「任せても大丈夫?」

「ああ。装備を見た感じ、物理主体みたいだからな。相性も悪くないだろ」

「分かった。じゃあ、ボクはあっち(・・・)かな」

「あっち?」


 ツヅリは空を見上げる。


「あれか……」


 夜空に飛行船のような物体が浮かんでいた。

 なるほど。

 ここは大海原のど真ん中。

 どこからこのプレイヤが湧いたかと思えば、あの飛行船から落ちてきたということか。


「了解」


 ツヅリは頷く。


「スミレは援護と、シイカの護衛。シイカは大人しくしてて!」

「は、はい……!」

「全力で大人しくするよ!!」

「おう。話し合いは終わったか?」


 その時、ドラゴンが問う。

 律儀にこちらの話し合いが終わるまで待っていたらしい。


「始めようぜっ!!」


 ドラゴンが笑う。

 刀を真正面に構えた。

 正眼の構え、と言うのだったか。

 その姿が様になっている。

 ゲーマーが雰囲気で剣を構えているのとは明らかに違う。


 あ。


 こいつ、強い。


 向かい合っただけで感じる。

 初めての感覚だ。

 先読みが使えるようになったからか。


「来ないのか? それじゃあ、俺から行くぜ」


 本能がマズいと感じていた。

 反射で踏み出していた。

 突貫とっかん


宣言:関数デクラレーション・ファンクション――」


 短剣を振るう。

 敵が強い。

 ならば、何かをする前に殺《PK》してしまえば良い。


「――早業クイック・チェンジ


 振り抜いた短剣は、瞬間、巨大な剣に姿を変えた。

 黒い刀身。

 硬さも、密度も、鋼鉄を遙かに上回る。

 そんな剣が、わずか10センチ手前に現れたのだ。

 もちろん、速度は短剣のそれだ。

 こんな技、初見でかわせるはずがない。

 しかし、


「――おっと!」


 斬撃と身体の間に、ドラゴンは刃をすべり込ませた。

 衝撃。

 ドラゴンが後方へ吹き飛ばされた。

 靴底で甲板デッキに線を引きながら止まる。 


「痛ってえな!!」


 叫ぶ。

 あれだけの大質量をぶつけたのだ。 

 相当な衝撃だろう。

 しかし、その程度。

 一線級のプレイヤからすれば軽傷だ。


「おい、何だよ! 今の技!?」


 ドラゴンは目を輝かせる。

 今の一撃、初見でかわせるのか。

 ならば、


「宣言:関数 早業」


 短剣を投じる。

 手首のひねりを利かせる。

 強烈な回転が加わる。

 そして、指先から離れる瞬間、それは大剣に変化。

 巨大な鉄塊てっかいが横回転しながら迫る。

 狭い船の上。

 左右に避ける空間は無い。

 ならば、ドラゴンは上に逃げるはず。

 だから、俺は先に飛んでおく。

 無防備に跳び上がった所を叩くのだ。

 しかし、


「せいっ!!」


 裂帛れっぱくの気合。

 一閃。

 ドラゴンの刀が、回転する大剣を弾いた。

 大剣の軌道が変わる。

 そのまま明後日の方向へ飛翔。

 遠くの海面に落ちた。


「マジかよ……」


 あの大質量を弾くのか。

 予想が外れた。

 俺は意味もなく空中に飛び出したことになる。

 いや。

 状況はむしろ悪い。

 空中で身体の自由が利かない。

 ドラゴンの切り上げ。


「宣言:関数 早業っ!」


 寸前、大剣が出現。

 刃を防ぐ。

 俺はその大剣を蹴り飛ばして、後ろへ跳ぶ。


「参ったね……」


 強いことは分かっていた。

 しかし、俺よりも強い。

 数回のやりとりで分かってしまった。

 だからと言って、勝負を投げるわけにはいかない。

 生活が懸かっているのだ。


「アンタ、強いなッ……!!」


 声を上げたのはドラゴンだ。

 心底嬉しそうな声。


「次は俺の番だな」


 そう言って笑う。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-43,764,688(日本円)

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