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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
171/204

新たな旅立ち。――EP.11

[The Pilgrims Begin.――EP.11]



「それじゃあ。行こうか」


 ツヅリは言う。


宣言:関数デクラレーション・ファンクション 劫火インフェルノ


 周囲を覆う氷が溶ける。

 俺は船尾から垂れる巨大な鎖に触れる。

 そして、関数を呼び出した。


「宣言:関数 早業」


 鎖が、短剣に変わる。

 俺はそれを懐に納める。


いかりは上がったぞ」

「出向!」


 ツヅリが声を上げる。

 彼女は舳先へさきかじを握る。

 俺はロープを引く。

 帆を張った。

 これでもかと広げられた帆が風をつかむ。

 前進。


「うん。良い風だ」


 ツヅリは言う。

 

「う、渦までどのくらいでしょうか……?」


 スミレが問う。


「そうだな……」


 海上は障害物が無い。

 遠くまで見渡せる。

 マストの上から見えたということは、数十キロは先か。


 今はかなり良い風が吹いている。

 順風だ。

 ほとんど進行方向と同じ向きの風だ。

 15ノットは出ているか。


「まあ、1、2、時間はかかるかな」

「結構あるねー」


 シイカは言う。


「あまり近くで休むわけにもいかないからな」

「それもそうかぁ」

「今すぐに渦とぶつかるわけじゃないから、緊張しすぎるなよ」


 しかし、俺はすぐにその言葉を訂正することになる。


「船が、加速してる……?」


 最初に気付いたのは俺だった。

 確かに良い風が吹いている。

 風向き、速度、ともに申し分ない。

 しかし、それにしても船が速すぎる。

 20ノットは出ているか。

 帆船としては限界だ。


「エン。海面」

「ああ……。流れが速いな……」


 その流れに乗って、船が加速しているのだ。

 渦に向かって。


「なるほど。だから、渦に挑んだプレイヤは、誰も戻って来なかったのか」


 恐らく、風も常に渦に向かって吹いているのだろう。

 海流と風。

 最早、抜け出すすべは無いだろう。

 あとは渦に呑まれるのみ。

 船はさらに加速する。


「エンくん! めちゃくちゃ速いよ!?」


 マストにしがみつきながら、シイカが声を上げた。


「……ああ」


 速度は25ノットを超えたか。

 すでに限界を超えている。

 しかし、加速は止まらない。

 海面は、もはや川のように流れていた。

 30ノットを超える。

 40、45、さらには50ノット……。

 まだまだ加速する。

 これが普通の帆船なら、速度に船体が耐えきれない。

 既に壊れても不思議ではない。

 しかし、この海原を駆ける。

 ビクともしない。

 大地の樹(ツリィ・オブ・アース)という頑強な素材から造られた、一切の継ぎ目が無い船。

 普通の船なら渦に辿り着く前に沈没してもおかしくない。


「爺さん、やるじゃねえか……」


 良い仕事だ。

 その時だ。


「エン! あれ!!」


 舳先へさきでシイカが指差す。


「あれが……!!」


 見えた。


 海面を横断する巨大な渦だ。

 海の底でも抜けたのか。 

 そんな勢いで莫大な水が、暗い海底へと流れ込んでいく。

 そんな渦が幾つも。

 水平線の向こうまで続いている。


「なるほどな……」

「エン?」

「渦の原因が分かったよ」

「え?」


 見れば、遠くに巨大な雪山が見えた。

 山脈(・・)と呼ばれる標高10,000メートルを超える大山だ。

 そこから流れる氷河が、海に落ちているのだ。

 つまり、冷たい海流がより冷たく冷やされてる。


 一方、暖流は相当に温かい。

 スミレが釣りあげていた魚を思い出す。

 南の島で、ムムムトが採っていた魚と同じ種類が混じっていた。

 あの島から1000キロ以上も北上したにも関わらずだ。

 海底に大規模な火山でもあるのか。

 大量の熱水が吹き出しているのだ。

 これだけ大規模な山脈の近くだ。

 地殻ちかくが活発に動いていても不思議ではない。


 結果、生まれるのが地獄のような光景だ。


「すごいね」


 ツヅリが言葉を漏らす。


「ああ。こんな渦、現実世界にも無いな」

「違うよ。ボクがすごいって言ったのは渦じゃない」

「え?」

「キミだよ」

「どういう意味?」

「ちょっと景色を見ただけで、そこまで推測するキミの洞察力どうさつりょくだよ」

「……大げさだな」


 俺が答える。


謙遜けんそんだねぇ」


 ツヅリは笑う。


「大丈夫。これくらいの困難、キミがいれば超えられそうだよ」


 船はもう戻れない。

 巨大な渦が造り出す流れに飲み込まれていた。


「で、でも、このまま進んでも渦に呑まれるだけでは……!?」


 スミレが言う。

 確かにその通りだ。

 巨大な渦は海面を埋めつくしている。

 目をらす。


「……渦と渦の間に、微妙に通れそうな隙間はあるな」

「あるけどねぇ」


 ツヅリは言う。


「あ、あんなの、船で綱渡りをするような物だよ!!」


 シイカが叫んだ。

 上手いたとえだ。

 確かに、それほど至難しなんわざだ。

 少しでも進路を誤れば渦に呑まれてしまう。

 そのまま暗い海底まで一直線だ。

 さて、どうするか。

 悩んでいる時だった。


「うわっ! 船が光ってる!?」


 シイカが声を上げた。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-43,764,503(日本円)

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