船舶をつくろう!!――EP.11
[Let's Build The Ship!!――EP.11]
「ボクが使ったのは回復の関数、1回だけ。考えられる限り、最安の攻略だと思うよ」
「そうだな。とにかく、2つ目の工具が手に入った。これで半分だな」
◆
「おおっー! これじゃ!! これぞまさしく、辰金の鉋!!!」
例の巨大樹の天辺。
工具を手渡すなり、ムムムトは歓声を上げた。
機嫌が良さそうなムムムト。
思い切って問う。
「なあ、爺さん」
「何じゃ?」
「いや。ちょっと、頼みがあるんだけど……」
「ほう? なんじゃろう?」
「それが、武器がほとんどダメになったんだよ……」
例のモヤの中で、ほとんどの武器は溶かされてしまった。
「なんじゃ。そんなことか。構わんよ。ワシの工具をとってきてもらったんじゃ。武器なんていくらでも造ってやるわい。何が欲しい?」
「本当か? 助かるよ」
身長の倍はあるような大剣。
同じく、大きな鎚。
そして、槍が欲しい。
「……早業で使うんじゃな?」
「心配するなよ。今はきちんと痛みが怖い。怖いけど、使えてる」
ムムムトとの決闘。
その土壇場で早業を使う感覚を取り戻した。
「分かっておる。乗り越えたんじゃの」
ムムムトは鎚を片手に立ち上がる。
「どれ。せっかくじゃから、他の武器も新調してやるかのぉ。手持ちの武器を見せるのじゃ」
「全部?」
「全部じゃ」
「……本当に、全部?」
「そう言っておろうが」
「後悔するなよ」
俺はインベントリから手持ちの武器を全て具現化する。
「お、おう……」
流石のムムムトが引いていた。
「全部出したぞ。アンタの言った通り」
「うわー! なにこれ? 武器庫?」
隣でツヅリが歓声を上げる。
俺も驚いている。
インベントリの武器を全て具現化させて、並べてみた。
テニスコートに収まるかどうかという武器の量だ。
大型の武器はモヤで溶けてしまったから、本来ならもっと多い。
「歩く武器庫じゃん」
ツヅリが笑う。
「ぶ、武器庫……。あ、歩く武器庫……」
その言い回しが面白かったらしい。
スミレも笑う。
その時だ。
ぽん、と肩を叩かれる。
「証拠は上がってる。正直に自白するんだ!」
シイカがいた。
並んだ武器を指差しながら真顔で言う。
「……俺は犯罪者じゃないぞ?」
「シスコン罪でキミを逮捕するよ」
「……ツヅリものっかるなよ」
なんだよシスコン罪って。
「お前さん、物騒な人間じゃのぉ……」
ムムムムがつぶやく。
「アンタが言う?」
突然、俺を半殺しにした人間が。
「この量じゃ。流石に、今すぐにとはいかないぞ?」
ムムムトは言った。
「もちろんだ。新調してくれるだけでもありがたい」
「なに。工具を集めてもらうんじゃ。このくらいはお安い御用じゃ」
とは言え、時間はかかりそうだ。
「じゃあ、待ってる間、シイカに工具を取ってきてもらおうか」
唐突にツヅリが言う。
「ええっ!?」
シイカが驚きの声を上げる。
「大丈夫なのか?」
◆
あくる日、俺たちは島の西部に来ていた。
あいも変わらず、深い南国の森だ。
しかし、その生い茂った樹々の間に、なにや黄色いモノが動くのが見えた。
「……なにあれ?」
「残念だけど、電気ネズミではないよ」
「電気ネズミが何か分からない」
「……まあ、電気ネズミについてはそのうちね。で、今からあの黄色いのを倒します。シイカが」
「無理です!」
シイカが元気よく手を挙げた。
清々しいくらいに真っすぐな否定。
「実際、無理じゃないのか?」
シイカは100万円級のプレイヤ。
明らかに実力が足りてない。
しかし、ツヅリは言う。
「キミが頑張ってる間、シイカはボクと修行していたからね」
「う、うう……」
シイカが青い顔で震えだす。
「……どんな修行したんだよ?」
「300万円級にはなったかな」
「うわぁ……」
わずか1週間ほどで3倍。
普通の方法では達成できないだろう。
シイカの怯え方からも、推して知るべし。
「でも、300万円じゃ足りなくないか?」
この島は、本来であればチュートリアルを終了してから辿り着く。
つまり、ゲーテの大迷宮を踏破するだけの実力が必要だ。
その成長は目覚ましい。
しかし、まだ実力不足だ。
「うん。それについては大丈夫だと思うよ。シイカ」
「えー、やるのー?」
私の歌声は安くないんだけどなぁ、と彼女は呟く。
そして、大げさに咳払い。
それから関数を呼び出した。
「宣言:関数 魅了の恋歌」
シイカが息を吸う。
そして、最初の1音が紡がれた。
その瞬間、
「うわ!? 何!?」
両耳を抑えられる。
「な、なに!?」
見れば、ツヅリが俺の耳を塞いでいた。
「キミは聴かないで」
ツヅリが口をパクパクと動かす。
何か言っていた。
しかし、俺には聞こえない。
一体、何が起きているのか。
しかし、その理由はすぐに明らかになった。
突如、茂みの中から、3匹の黄色い生物が跳び出した。
目にも鮮やかな原色の黄色。
ゴリラのような形状の動的対象たいしょうだ。
しかし、その腕が異様に肥大化していた。
丸太のような腕だ。
その腕から繰り出される一撃の威力は、想像もしたくない。
そんな明らかに驚異的な敵が3匹、シイカに迫る。
「ヤバいだろ!」
短剣を抜く。
助けなければ。
しかし、ツヅリに引き止められる。
「え?」
—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
総資産:-43,000,021(日本円)




