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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
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船舶をつくろう!!――EP.11

[Let's Build The Ship!!――EP.11]



「ボクが使ったのは回復の関数、1回だけ。考えられる限り、最安の攻略だと思うよ」

「そうだな。とにかく、2つ目の工具が手に入った。これで半分だな」




「おおっー! これじゃ!! これぞまさしく、辰金しんきんかんな!!!」


 例の巨大樹の天辺。

 工具を手渡すなり、ムムムトは歓声を上げた。

 機嫌が良さそうなムムムト。

 思い切って問う。


「なあ、爺さん」

「何じゃ?」

「いや。ちょっと、頼みがあるんだけど……」

「ほう? なんじゃろう?」

「それが、武器がほとんどダメになったんだよ……」


 例のモヤの中で、ほとんどの武器は溶かされてしまった。


「なんじゃ。そんなことか。構わんよ。ワシの工具をとってきてもらったんじゃ。武器なんていくらでも造ってやるわい。何が欲しい?」

「本当か? 助かるよ」


 身長の倍はあるような大剣。

 同じく、大きな鎚。

 そして、槍が欲しい。


「……早業で使うんじゃな?」

「心配するなよ。今はきちんと痛みが怖い(・・・・・)。怖いけど、使えてる」


 ムムムトとの決闘。

 その土壇場どたんばで早業を使う感覚を取り戻した。


「分かっておる。乗り越えたんじゃの」


 ムムムトは鎚を片手に立ち上がる。


「どれ。せっかくじゃから、他の武器も新調してやるかのぉ。手持ちの武器を見せるのじゃ」

「全部?」

「全部じゃ」

「……本当に、全部?」

「そう言っておろうが」

「後悔するなよ」


 俺はインベントリから手持ちの武器を全て具現化する。


「お、おう……」


 流石のムムムトが引いていた。


「全部出したぞ。アンタの言った通り」

「うわー! なにこれ? 武器庫?」


 隣でツヅリが歓声を上げる。

 俺も驚いている。

 インベントリの武器を全て具現化させて、並べてみた。

 テニスコートに収まるかどうかという武器の量だ。

 大型の武器はモヤで溶けてしまったから、本来ならもっと多い。


「歩く武器庫ぶきこじゃん」


 ツヅリが笑う。


「ぶ、武器庫……。あ、歩く武器庫……」


 その言い回しが面白かったらしい。

 スミレも笑う。


 その時だ。

 ぽん、と肩を叩かれる。


「証拠は上がってる。正直に自白するんだ!」


 シイカがいた。

 並んだ武器を指差しながら真顔で言う。


「……俺は犯罪者じゃないぞ?」

「シスコンざいでキミを逮捕するよ」

「……ツヅリものっかるなよ」


 なんだよシスコン罪って。


「お前さん、物騒な人間じゃのぉ……」


 ムムムムがつぶやく。


「アンタが言う?」


 突然、俺を半殺しにした人間が。


「この量じゃ。流石に、今すぐにとはいかないぞ?」


 ムムムトは言った。


「もちろんだ。新調してくれるだけでもありがたい」

「なに。工具を集めてもらうんじゃ。このくらいはお安い御用じゃ」


 とは言え、時間はかかりそうだ。


「じゃあ、待ってる間、シイカに工具を取ってきてもらおうか」


 唐突にツヅリが言う。


「ええっ!?」


 シイカが驚きの声を上げる。


「大丈夫なのか?」




 あくる日、俺たちは島の西部に来ていた。

 あいも変わらず、深い南国の森だ。

 しかし、その生い茂った樹々の間に、なにや黄色いモノが動くのが見えた。


「……なにあれ?」

「残念だけど、電気ネズミではないよ」

「電気ネズミが何か分からない」

「……まあ、電気ネズミについてはそのうちね。で、今からあの黄色いのを倒します。シイカが」

「無理です!」


 シイカが元気よく手を挙げた。

 清々しいくらいに真っすぐな否定。


「実際、無理じゃないのか?」


 シイカは100万円級のプレイヤ。

 明らかに実力が足りてない。

 しかし、ツヅリは言う。


「キミが頑張ってる間、シイカはボクと修行していたからね」

「う、うう……」


 シイカが青い顔で震えだす。


「……どんな修行したんだよ?」

「300万円級にはなったかな」

「うわぁ……」


 わずか1週間ほどで3倍。

 普通の方法では達成できないだろう。

 シイカのおびえ方からも、して知るべし。


「でも、300万円じゃ足りなくないか?」


 この島は、本来であればチュートリアルを終了してから辿り着く。

 つまり、ゲーテの大迷宮を踏破とうはするだけの実力が必要だ。

 その成長は目覚めざましい。

 しかし、まだ実力不足だ。


「うん。それについては大丈夫だと思うよ。シイカ」

「えー、やるのー?」


 私の歌声は安くないんだけどなぁ、と彼女は呟く。

 そして、大げさに咳払い。

 それから関数を呼び出した。


「宣言:関数 魅了の恋歌(チャーミング・コール)


 シイカが息を吸う。

 そして、最初の1音がつむがれた。

 その瞬間、


「うわ!? 何!?」


 両耳を抑えられる。


「な、なに!?」


 見れば、ツヅリが俺の耳をふさいでいた。


「キミは聴かないで」


 ツヅリが口をパクパクと動かす。

 何か言っていた。

 しかし、俺には聞こえない。

 一体、何が起きているのか。

 しかし、その理由はすぐに明らかになった。


 突如、茂みの中から、3匹の黄色い生物が跳び出した。

 目にも鮮やかな原色の黄色。

 ゴリラのような形状の動的対象どうてきたいしょうだ。

 しかし、その腕が異様に肥大化ひだいかしていた。

 丸太のような腕だ。

 その腕から繰り出される一撃の威力は、想像もしたくない。

 そんな明らかに驚異的な敵が3匹、シイカに迫る。


「ヤバいだろ!」


 短剣を抜く。

 助けなければ。

 しかし、ツヅリに引き止められる。


「え?」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-43,000,021(日本円)

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