キミが最強になることを、今から証明しようか。――EP.6
[You'ill be invincible.――EP.6]
ツヅリは笑う。
「勝ったよ。その1匹には、ね」
目を凝らす必要も無かった。
羽虫の集団。
それも洞窟を埋めつくすほどの。
危険だと、本能が告げていた。
「逃げるぞ!」
走り出す。
「逃げれるかなぁ?」
笑いを噛み殺しつつ、ツヅリが続く。
その時だ。
きーん、と高い高音が耳元で響く。
すぐ顔の横を羽虫が飛び過ぎた。
同時に頬に鋭い痛み。
手で押さえれば、トロリとした感触。
この匂い。
血だ。
頬がぱっくりと裂けていた。
今、俺の頬を掠めたあの翅。
カミソリ並みの切れ味だということ。
背後から聞こえる重なる羽音。
地面を揺らすほどの轟音だ。
冷や汗が伝う。
何万、何十万もの羽虫が迫っているということだ。
「宣言:関数 早業」
振り向きながら愚者の剣を投げる。
巨大な剣は数百匹の羽虫を叩き潰した。
しかし、焼け石に水。
数千匹の後続がすぐに穴を埋める。
「あのくらいじゃ止まらないよね」
ツヅリが言う。
「ツヅリでもやばいんじゃねえの!?」
「まさか」
彼女は一笑に付す。
そして、その場で足を止めて振り返る。
小さなその背中。
向き合うは、波濤のような羽虫の大群。
何万匹。
その1匹1匹が名刀の切れ味。
「ここはボクに任せて先に行け! あ」
ツヅリは懐に手を伸ばす。
「待て待て待て! 「死ぬまでに言いたいセリフ」リストは後にしてくれよ!」
「でも、今のは殿堂入りのヤツだから」
「殿堂入りってなんだよ!? 死ぬぞ!」
「うるさいなー。宣言:関数 急生長」
瞬間、壁面を這う木の根が膨れ上がる。
生長したのだ。
その根はそのまま肥大化。
洞窟を完全に塞いでしまう。
羽音が聞こえなくなる。
「助かった……」
思わずその場で座りそうになる。
「ん-、まだかな。あのくらいならすぐに破るよ」
そう言いながらツヅリは「俺に任せて先に行け」に線を引いて消していた。
いや、それって死亡フラグじゃないのか。
「ここは狭い。場所を変えよう」
ツヅリが駆けだした。
俺が後に続く。
間もなく、開けた空間に出る。
「もう2層だね」
「ここが」
喋り声が反響する。
「1層は木の根が茂ってたからね。2層からは広くなるよ」
その時だ。
背後から、微かに高音が聞こえた。
「大丈夫。ボクの後ろにいて」
ツヅリは言う。
間もなく、羽音が地面を揺らしはじめる。
その時だ。
羽虫の大群が流れ込む。
「マジかよ……!」
何万匹もの羽虫が巧みに編隊を組んでいた。
一糸乱れぬその動き。
一匹の生物のようだ。
まるで竜の如く。
美しすら感じる。
一瞬、命の危険も忘れるほどに。
「だから、小さくて大きい……」
その意味を理解した。
小さな個が群れることで、大きな1匹になる。
これなら巨大でありながら、狭い空間を自由に動き回ることも可能だ。
「編隊刃虫。1層で最強の敵だよ。2層に行くには、コイツを倒さないとね」
「俺が?」
「当然」
羽虫の竜は天井付近で旋回を始める。
1匹1匹が名刀の切れ味。
それが数万匹、一斉に飛び掛かってくるのだ。
「勝ち筋が見えねぇ……」
「じゃあ、造りなよ」
何でも無いようにツヅリは言う。
「今回はボクが倒すけど、次はキミだから。……宣言:関数 暴風雨」
瞬間、空気が冷える。
同時に一陣の風。
湿り気を帯びた風だ。
それが渦を巻く。
みるみるうちに渦は加速。
羽虫の群れを吞み込んだ。
「なっ――」
苛烈な光景が広がっていた。
暴風に制御を失った羽虫。
壁に叩きつけられ、或いは互いに衝突し、次々と砕け散る。
嵐が過ぎ去った時、そこに生きた刃虫はいなかった。
ただ、砕けた翅の欠片がキラキラと雪のように降るだけ。
「集まると厄介だけど、1匹1匹は脆いからね。あ、ヒントあげすぎちゃったな……」
「もっとくれても良いんだぜ?」
「欲しがりさんめ」
「これは立ち回りでどうにか出来る相手じゃないと思うぞ……」
「うん。それはボクもそう思う」
「……なら、どうやって勝つんだよ?」
「じゃあ、明日はそれを説明しようか」
「どういうこと?」
「勝ち筋は教えられないけど、勝ち筋を造るための道具はあげる。そういうこと」
そして、彼女は目を細める。
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総資産:98,132(日本円)




