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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
15/204

キミが最強になることを、今から証明しようか。――EP.6

[You'ill be invincible.――EP.6]


 ツヅリは笑う。


「勝ったよ。その1匹(・・)には、ね」


 目を凝らす必要も無かった。

 羽虫の集団。

 それも洞窟を埋めつくすほどの。

 危険だと、本能が告げていた。

 

「逃げるぞ!」


 走り出す。


「逃げれるかなぁ?」


 笑いを噛み殺しつつ、ツヅリが続く。


 その時だ。

 きーん、と高い高音が耳元で響く。

 すぐ顔の横を羽虫が飛び過ぎた。

 同時に頬に鋭い痛み。

 手で押さえれば、トロリとした感触。

 この匂い。

 血だ。

 頬がぱっくりと裂けていた。


 今、俺の頬を掠めたあの翅。

 カミソリ並みの切れ味だということ。

 背後から聞こえる重なる羽音。

 地面を揺らすほどの轟音だ。

 冷や汗が伝う。

 何万、何十万もの羽虫が迫っているということだ。


宣言:関数デクラレーション・ファンクション  早業クイック・チェンジ


 振り向きながら愚者の剣を投げる。

 巨大な剣は数百匹の羽虫を叩き潰した。

 しかし、焼け石に水。

 数千匹の後続がすぐに穴を埋める。


「あのくらいじゃ止まらないよね」


 ツヅリが言う。


「ツヅリでもやばいんじゃねえの!?」

「まさか」


 彼女は一笑に付す。

 そして、その場で足を止めて振り返る。

 小さなその背中。

 向き合うは、波濤はとうのような羽虫の大群。

 何万匹。

 その1匹1匹が名刀の切れ味。


「ここはボクに任せて先に行け! あ」


 ツヅリは懐に手を伸ばす。


「待て待て待て! 「死ぬまでに言いたいセリフ」リストは後にしてくれよ!」

「でも、今のは殿堂入りのヤツだから」

「殿堂入りってなんだよ!? 死ぬぞ!」

「うるさいなー。宣言:関数  急生長ラピッド・ベジテーション


 瞬間、壁面を這う木の根が膨れ上がる。

 生長したのだ。

 その根はそのまま肥大化。

 洞窟を完全に塞いでしまう。

 羽音が聞こえなくなる。


「助かった……」


 思わずその場で座りそうになる。


「ん-、まだかな。あのくらいならすぐに破るよ」


 そう言いながらツヅリは「俺に任せて先に行け」に線を引いて消していた。

 いや、それって死亡フラグじゃないのか。


「ここは狭い。場所を変えよう」


 ツヅリが駆けだした。

 俺が後に続く。

 間もなく、開けた空間に出る。


「もう2層だね」

「ここが」


 喋り声が反響する。


「1層は木の根が茂ってたからね。2層からは広くなるよ」


 その時だ。

 背後から、微かに高音が聞こえた。


「大丈夫。ボクの後ろにいて」


 ツヅリは言う。

 間もなく、羽音が地面を揺らしはじめる。

 その時だ。

 羽虫の大群が流れ込む。


「マジかよ……!」


 何万匹もの羽虫が巧みに編隊を組んでいた。

 一糸乱れぬその動き。

 一匹の生物のようだ。

 まるで竜の如く。

 美しすら感じる。

 一瞬、命の危険も忘れるほどに。


「だから、小さくて大きい……」


 その意味を理解した。

 小さな個が群れることで、大きな1匹になる。

 これなら巨大でありながら、狭い空間を自由に動き回ることも可能だ。


編隊刃虫フォーメション・ブレード・フライ。1層で最強の敵だよ。2層に行くには、コイツを倒さないとね」

「俺が?」

「当然」


 羽虫の竜は天井付近で旋回を始める。

 1匹1匹が名刀の切れ味。

 それが数万匹、一斉に飛び掛かってくるのだ。


「勝ち筋が見えねぇ……」

「じゃあ、造りなよ」


 何でも無いようにツヅリは言う。


「今回はボクが倒すけど、次はキミだから。……宣言:関数 暴風雨テンペスト


 瞬間、空気が冷える。

 同時に一陣の風。

 湿り気を帯びた風だ。

 それが渦を巻く。

 みるみるうちに渦は加速。

 羽虫の群れを吞み込んだ。


「なっ――」


 苛烈な光景が広がっていた。


 暴風に制御を失った羽虫。

 壁に叩きつけられ、或いは互いに衝突し、次々と砕け散る。

 嵐が過ぎ去った時、そこに生きた刃虫はいなかった。

 ただ、砕けた翅の欠片がキラキラと雪のように降るだけ。


「集まると厄介だけど、1匹1匹は脆いからね。あ、ヒントあげすぎちゃったな……」

「もっとくれても良いんだぜ?」

「欲しがりさんめ」

「これは立ち回りでどうにか出来る相手じゃないと思うぞ……」

「うん。それはボクもそう思う」

「……なら、どうやって勝つんだよ?」

「じゃあ、明日はそれを説明しようか」

「どういうこと?」

「勝ち筋は教えられないけど、勝ち筋を造るための道具はあげる。そういうこと」


 そして、彼女は目を細める。





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:98,132(日本円)



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