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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
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船舶をつくろう!!――EP.9

[Let's Build The Ship!!――EP.9]


「分かった。ここは俺だな」

「頼めるの?」


 ツヅリが問う。


「ああ。大丈夫だと思う。多分……」


 俺は刀を抜く。

 銀翅刀ぎんしとう

 半透明の美しい刃。

 それを振るう。

 抵抗もなくモヤを切り裂く。

 モヤに切れ目が入る。

 しかし、1秒も経たないうちに、切れ目に靄が流れ込む。

 埋まってしまった。


「どう?」


 その様子を眺めながら、ツヅリが問う。


「まあ、行けそうだな」


 霧の流れる速度から、大丈夫と判断。

 短剣を抜く。


「宣言:関数 早業」


 切り裂く瞬間、それは大剣に変化。

 周囲のモヤを豪快に吹き飛ばす。

 半径、2メートルほど。

 モヤの無い空間を作り出す。


「じゃあ、行ってくる」


 その空間に飛び込む。


「え、エンさん……!?」

「エンくん!?」

「ヤバかった戻って来るよ」


 俺はさらにモヤの中に踏み込んだ。




 水よりはサラサラと流れるが、煙よりは粘っこい。

 そんなモヤだ。

 吹き飛ばせば、そこモヤの無い空間ができる。

 そして、モヤがその空間を埋めるまで、わずかなラグがある。


 簡単だ。

 早業で大剣を呼び出す。

 周囲のモヤを吹き飛ばす。

 そして、モヤがその空間を埋める前に、再びモヤを吹き飛ばす。

 それを繰返しながら少しづつ前進して行く。


 モヤは自在に形を変える。

 そして、360度、あらゆる方向から迫る。

 しかし、


ぬるいな……」


 ムムムトの攻撃に比べたらはるかに遅い。

 あくびをかます余裕もあるほど。


 恐らく、このモヤは気体ガスではない。

 気体ならば、剣で払ったからと言って、そこに空気だけの空間は生まれない。

 だから、微粒子びりゅうしなのだ。

 超極小ちょうごくしょうの微粒子だ。

 だから、押しのけることができる。


 その時だった。

 モヤが異様な動きを見せた。

 モヤの1点が、槍のように伸びる。


「宣言:関数 早業」


 大剣を呼び出す。

 その刃を盾にして受ける。


「まあ、そうだよな……」


 ムムムトが苦戦したのだ。

 ただのモヤのはずがない。


「宣言:関数 早業」


 モヤを払いのける。

 しかし、その隙を縫うように、モヤの槍が生える。

 むちのように足元を払う。

 剣のようにぎ払う。

 しかし、


「――やっぱり、温いな」


 その全てをかわす。


 目を細める。

 モヤには流れがあった。

 流れを見れば、次の挙動が予想できる。

 だから、それに合わせて先に剣を振るう。

 モヤが触手を伸ばした、時にはすでに切り落とされている。

 前進の速度は遅くなったものの、対応できる。


 今回の敵は俺と相性が良い。

 早業と先読み。

 おかげで変幻自在のモヤをさばくことができた。


 しかし、運が良い。

 先読みを覚える前の俺なら、ここで詰んでいたか。


 着実に前進する。


 すり鉢状の盆地。

 波に流されてと言うことは、工具がもっとも低い場所にある可能性が高い。

 つまり、盆地の中央だ。


 そろそろ着くだろうか。


 一切、変わらない光景。

 ただ、もう、紫一色だ。

 距離感だけでなく、時間感覚までも奪い去る。

 その時だ。

 モヤの中に人影を見た。

 直後、その人影が飛び出した。

 ひときわ濃い紫色。

 濃縮のうしゅくされたモヤが作り出した人の形。


「宣言:関数 早業」


 剣をぐ。

 払い飛ばす。


「宣言:関数 早業」


 横薙ぎの勢いをそのままに、さらにもう1振り。

 モヤも押し返す。


 ただ、驚きは無い。

 槍や鞭、剣を造れるのだ。

 人型だって作れるだろう。

 しかし、妙な手応え。

 ちらり、


 紫色の液体が

 しゅー、しゅー、と煙を上げていた。

 刺激臭。

 刃が溶けている。


さんか……」


 やってくれる。

 時間をかければ、手持ちの武器が全て尽きる。


 その時だ。


 再び、モヤの中に影を見た。

 しかし、人ではない。

 それよりももっと背の低い。

 例えば、それは犬のよう――。


「速っ!」


 認識した時には、眼前に迫っていた。

 人型よりもはるかに速い。

 受けるのは間に合わない。

 跳んで躱す。

 瞬間、鳥が飛来した。

 濃縮されたモヤでできた鳥だ。


「宣言:関数 早業」


 剣で払い飛ばす。

 この間も、絶え間な空間を埋めようとするモヤを払わなくてはならない。


 この時、モヤの手数が、俺の速度を上回った。

 1センチ、また1センチ。

 俺の領域がせばまっていく。

 踏みとどまろうとする足裏の、砂利の感覚。

 剣を振るう、振るう、振るう――。

 しかし、ほんの少しだけモヤが速い。

 また1センチ、俺の領域が狭まる。

 領域が小さくなるほど、俺の動きは制限される。

 思うように剣を振れない。

 結果、さらに遅くなる速度。

 ますます狭まる領域。


「ダメだ……」


 俺はここで、ある結論に至った。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,991,901(日本円)


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