船舶をつくろう!!――EP.9
[Let's Build The Ship!!――EP.9]
「分かった。ここは俺だな」
「頼めるの?」
ツヅリが問う。
「ああ。大丈夫だと思う。多分……」
俺は刀を抜く。
銀翅刀。
半透明の美しい刃。
それを振るう。
抵抗もなくモヤを切り裂く。
モヤに切れ目が入る。
しかし、1秒も経たないうちに、切れ目に靄が流れ込む。
埋まってしまった。
「どう?」
その様子を眺めながら、ツヅリが問う。
「まあ、行けそうだな」
霧の流れる速度から、大丈夫と判断。
短剣を抜く。
「宣言:関数 早業」
切り裂く瞬間、それは大剣に変化。
周囲のモヤを豪快に吹き飛ばす。
半径、2メートルほど。
モヤの無い空間を作り出す。
「じゃあ、行ってくる」
その空間に飛び込む。
「え、エンさん……!?」
「エンくん!?」
「ヤバかった戻って来るよ」
俺はさらにモヤの中に踏み込んだ。
◆
水よりはサラサラと流れるが、煙よりは粘っこい。
そんなモヤだ。
吹き飛ばせば、そこモヤの無い空間ができる。
そして、モヤがその空間を埋めるまで、わずかなラグがある。
簡単だ。
早業で大剣を呼び出す。
周囲のモヤを吹き飛ばす。
そして、モヤがその空間を埋める前に、再びモヤを吹き飛ばす。
それを繰返しながら少しづつ前進して行く。
モヤは自在に形を変える。
そして、360度、あらゆる方向から迫る。
しかし、
「温いな……」
ムムムトの攻撃に比べたら遙かに遅い。
あくびをかます余裕もあるほど。
恐らく、このモヤは気体ではない。
気体ならば、剣で払ったからと言って、そこに空気だけの空間は生まれない。
だから、微粒子なのだ。
超極小の微粒子だ。
だから、押しのけることができる。
その時だった。
モヤが異様な動きを見せた。
モヤの1点が、槍のように伸びる。
「宣言:関数 早業」
大剣を呼び出す。
その刃を盾にして受ける。
「まあ、そうだよな……」
ムムムトが苦戦したのだ。
ただのモヤのはずがない。
「宣言:関数 早業」
モヤを払いのける。
しかし、その隙を縫うように、モヤの槍が生える。
鞭のように足元を払う。
剣のように薙ぎ払う。
しかし、
「――やっぱり、温いな」
その全てを躱す。
目を細める。
モヤには流れがあった。
流れを見れば、次の挙動が予想できる。
だから、それに合わせて先に剣を振るう。
モヤが触手を伸ばした、時にはすでに切り落とされている。
前進の速度は遅くなったものの、対応できる。
今回の敵は俺と相性が良い。
早業と先読み。
おかげで変幻自在のモヤを捌くことができた。
しかし、運が良い。
先読みを覚える前の俺なら、ここで詰んでいたか。
着実に前進する。
すり鉢状の盆地。
波に流されてと言うことは、工具がもっとも低い場所にある可能性が高い。
つまり、盆地の中央だ。
そろそろ着くだろうか。
一切、変わらない光景。
ただ、もう、紫一色だ。
距離感だけでなく、時間感覚までも奪い去る。
その時だ。
モヤの中に人影を見た。
直後、その人影が飛び出した。
ひときわ濃い紫色。
濃縮されたモヤが作り出した人の形。
「宣言:関数 早業」
剣を薙ぐ。
払い飛ばす。
「宣言:関数 早業」
横薙ぎの勢いをそのままに、さらにもう1振り。
モヤも押し返す。
ただ、驚きは無い。
槍や鞭、剣を造れるのだ。
人型だって作れるだろう。
しかし、妙な手応え。
ちらり、
紫色の液体が
しゅー、しゅー、と煙を上げていた。
刺激臭。
刃が溶けている。
「酸か……」
やってくれる。
時間をかければ、手持ちの武器が全て尽きる。
その時だ。
再び、モヤの中に影を見た。
しかし、人ではない。
それよりももっと背の低い。
例えば、それは犬のよう――。
「速っ!」
認識した時には、眼前に迫っていた。
人型よりもはるかに速い。
受けるのは間に合わない。
跳んで躱す。
瞬間、鳥が飛来した。
濃縮されたモヤでできた鳥だ。
「宣言:関数 早業」
剣で払い飛ばす。
この間も、絶え間な空間を埋めようとするモヤを払わなくてはならない。
この時、モヤの手数が、俺の速度を上回った。
1センチ、また1センチ。
俺の領域が狭まっていく。
踏みとどまろうとする足裏の、砂利の感覚。
剣を振るう、振るう、振るう――。
しかし、ほんの少しだけモヤが速い。
また1センチ、俺の領域が狭まる。
領域が小さくなるほど、俺の動きは制限される。
思うように剣を振れない。
結果、さらに遅くなる速度。
ますます狭まる領域。
「ダメだ……」
俺はここで、ある結論に至った。
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