船舶をつくろう!!――EP.7
[Let's Build The Ship!!――EP.7]
工具集めは失敗に終わるかもしれない。
それでもスミレを失うわけにはいかない。
彼女は手練れのプレイヤだ。
スミレほどの建築者はなかなか見つからない。
俺は短剣を抜く。
「スミレを助けてくる」
しかし、俺たちはスミレを見くびっていたらしい。
「「「あ」」」
スミレが枝から跳んだ。
巨大な魚に比べたら、まるでゴマ粒のようなスミレ。
しかし、彼女は金色のスコップを振り上げた。
「宣言:関数 開墾」
そして、振るう。
それはあまりにも早い。
視認できないほどの速度。
瞬間、巨大魚の背中が耕される。
数十条、整然とならぶ畝。
それは確かに菜園だ。
地面が土ではなく、魚の肉であるということを除けば。
スミレはさらに周囲に種をまき散らす。
「宣言:関数 急成長!」
一瞬にしてネギが芽吹く。
さらに、
「宣言:関数 肥沃化」
ネギの成長が加速。
わずか数十秒。
毒草の森が完成する。
しかし、怪魚も必死に抵抗する。
一際、強く身体をくねらせた。
そして、そのまま背中を思い切り岸壁に叩きつけた。
「スミレ!!」
目を凝らす。
壁面のシミになってはいないか。
しかし、そんな痕跡は見つからない。
「エン。あそこ!」
ツヅリが指差す。
怪魚の背中で肉が盛り上がる。
そして、内側から破けた。
中から跳び出したのはスミレだった。
血まみれの彼女は叫ぶ。
「う、うちは死にません! 【楽園】に行くまではっ!!」
なるほど。
壁に叩きつけられる寸前、スコップで魚の肉を掘ったのか。
そして、その中に逃げ込んだ。
あの土壇場で何と言う機転か。
「う、うちは、ひとりぼっちになるんですっ……!」
そんな雄たけび。
「宣言:関数 開墾」
魚を耕す。
耕しては種を撒く。
「宣言:関数 急成長」
そして、溢れかえる毒草。
しかし、スミレはそんな結果にも目もくれない。
「宣言:関数 開墾」
すでに次の肉を耕しているからだ。
激しい。
かつて、こんなに激しい造園があったか。
水の代わりに血を、肥料の代わりに肉を。
育った毒草だけが青々と輝く。
「じ、じごく……」
シイカが戦慄していた。
怪魚も暴れる力も尽きたらしい。
巨体を横に倒して、力なく水面に浮かぶ。
「パリピー! コロス!! ゼッタイッ!!!」
「……いや。魚だろ」
スミレが錯乱していた。
「宣言:構造 蛇のような木」
「「あ」」
ツヅリと俺が思わず声を出す。
見覚えがある。
異様に死なない蛇。
3億円プレイヤのツヅリさえも苦しめた強敵。
それが4匹。
一斉に巨大魚に飛び掛かる。
蛇に肉を抉られても、抵抗するだけの体力は残っていなかった。
生える毒も成長を止めない。
身体の表面の半分は覆ってしまったか。
その全てが大魚に毒を注ぎ込む。
怪魚に、迫る死を回避する手段は残っていなかった。
そして、その時はやってきた。
スミレがおもむろにコンソールを開く。
数秒、画面を見つめる。
そして、顔をほころばせる。
怪魚撃破のログを確認したのだ。
「う、うち、やりましたぁ……!!」
血肉にまみれ、緑の大蛇を従える。
その姿は
「魔王」
という言葉が相応しい。
◆
「不死鮟鱇」
それが巨大な魚型MOBの名前だった。
今は、その死骸が水面に浮かんでいた。
「鮟鱇ねぇ……」
黒くぬめぬめとした体表。
無数のイボに覆われている。
確かに、アンコウに似ている。
「工具が無くない!?」
シイカが言う。
「確か、ムムムトは「呑まれた」って言ってたな」
つまり、この巨大な魚の体内のどこか。
「え!? ……じゃあ、これを解体するの?」
半泣きでシイカが問う。
確かに、クジラ並みの怪魚をバラすのは骨が折れる。
「まあ、デカいって言っても魚だしな」
体内の構造は大きく変わらないだろう。
それなら、大体の場所の見当はつく。
消化器官のどこかだろう
面倒だが捌くか。
そう思った時だ。
「う、うちがやります」
「スミレ?」
「宣言:関数 堆肥化」
見る見るうちに巨大な魚が腐り始める。
「この関数は?」
「し、死体を肥料に変える関数です……」
スミレが言う。
「なるほど……」
死体が分解される時の発熱で、海水が湯に変わっていた。
湯気が立つ。
そして、すさまじい臭気。
「こほっ、こほっ……! で、宣言:関数 旋風!!」
耐えかねたツヅリが換気を実行。
呼吸ができるようになる。
わずか1分ほどで不死アンコウは白骨化していた。
「え!? 最初からこの関数使えば良かったんじゃない?」
シイカが言う。
「ひ、肥料に変えられるのは、し、死体だけですぅ……」
スミレが答える。
問答無用で敵を腐らせる関数など強すぎる。
しかし、カナヅチが見つからない。
「……海中に落ちたか?」
「それなら大丈夫かな。ボクがやるよ。エン。大きい剣出せる?」
「愚者の剣で良いか?」
「もっと大きいの」
「あいよ」
インベントリから愚王の剣を呼び出す。
あまりにも巨大。
海底に切っ先が付き立ってなお、水面から柄の部分が出ている。
「どうするんだよ?」
「まあ、見ていてよ。宣言:関数 磁化――」
「あ、なるほど……」
「――引数:最大磁束」
ツヅリは愚王の剣を強烈な磁石に変化させたのだ。
水中の金槌は、その磁石に吸い寄せられる。
1分ほど経ったころだ。
海の中から巨大なカナヅチが跳び出した。
それが愚王の剣に衝突。
そして、剣は粉々に砕けた。
「「「え!?」」」
それでどころか、まだ勢いは止まらない。
くるくると回りながら宙を舞う金槌。
壁面に衝突。
巨大なクレータを造りながようやく静止した。
愚王の剣。
厚み50cmはあろうかと分厚い鉄の板だ。
それを一撃で粉砕。
相当な威力。
傷1つ付かない大地の樹を加工するには、これだけの工具が必要なのか。
「これはすごい船ができそうだねぇ」
ツヅリは言った。
そして、不敵に笑う。
「この調子でどんどん集めようか!!」
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総資産:-42,942,401(日本円)




