表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
145/204

船舶をつくろう!!――EP.6

[Let's Build The Ship!!――EP.6]




「だ、大丈夫です……」


 しかし、スミレは言った。


「は、生える毒でいきます……」

「「「生える毒?」」」


 聞いたことがない。


「こ、これは、う、うちの母親の発言から思いついた植物です……」

「どんな発言だよ?」


 それはそれは恐ろしい発言です、と前置きしてからスミレは言う。


「……す、スイカの種を食べると、お腹で育って、おへそから芽が出るよって」

「え?」


 どういうこと?

 しかし、


「あ、それ、ボクも言われた。小さいころ」

「私も!!」


 ツヅリとシイカが答える。

 何それ。

 そんなに全国的に知られてる事象なの。

 聞いたことが無い。


「エンは言われなかった?」

「いや、うち、母親がいないから……」

「あ、そっか」

「と、とにかく、こちらがその種です……」


 スミレがインベントリから種を具現化する。

 黒い小粒の種。

 つやつやと光っている。


「い、生きている動物の肉でしか育たない植物ですぅ……」

「お、おう……」

「成長するにつれて、根から毒を出します……」

「ええぇ……」


 生物の身体でしか生きられないのに、その生物を殺してしまう。

 生命として欠陥品なのではないか。

 いずれにせよ、殺意が高い。


「そんな植物、なんのために?」

「そ、それはぁ……」


 えへへ、と恥ずかしそうに笑うスミレ。


「悪い。愚問だったな」


 パリピーを殺すためか。


「さ、さあっ! 植えに行きましょう!!」




 再び、例の洞窟の中。

 相も会わらず、巨大な魚はたたずんでいた。

 何をするでもなく、闇の中、海水に洗われている。

 圧倒的な耐久を備えた不死の魚。


「じゃ、じゃあ、行ってきます……」


 スミレは小舟から跳んだ。

 魚の上に飛び移る。

 撃退者リパルサではないと言え、4000万円級のプレイヤ。

 このくらいは訳もない。


 彼女が手にしたのはスコップだった。

 金色に輝く曲線美。


 豊穣ほうじょう円匙スコップ


 優秀な基本性能に加えて、それで植えた植物の成長を促すという機能ファンクションを備えている。


「えいっ」


 躊躇ためらいはなかった。

 その鋭利な先端で、魚の肉を掘る(・・)

 しかし、魚は動じない。

 巨大な魚にとって、わずか30センチの穴など傷とも呼べないのか。

 スミレがその穴に種を植える。

 傷はすぐさま再生。

 体内に種を残したままで。


 スミレは同じことを繰り返す。

 穴を掘る。

 種を埋める。

 そして、また穴を掘る。

 はたからは畑作業にしか見えない。

 それが巨大魚の上で行われていることを除けば。

 やがて、準備が整ったらしい。

 スミレが舟に戻る。

 軽やかな着地。

 小舟を中心に、かすかに波紋がた立つ。


「い、行きます……。宣言:関数 急成長ラピッド・ベジテーション!」


 不死の魚のぬめった背中が、緑の草原に変わる。

 草原と言うより、ネギ畑と言った方が正確か。

 ネギ、ネギ、ネギ。

 えてはしげるネギのような植物。

 わずか1分弱。

 魚の背中にネギの森が完成する。

 しかし、


「き、きかないです……」


 魚は動じない。

 相も変わらず、

 口を半分開いて、間抜けな顔をさらしている。


「ま、まだです。宣言:関数 肥沃化ファーティライズ


 それは土壌を改良する関数だ。

 植物の成長を促進そくしんする。

 今回の土壌は生きた魚なのだが。

 しかし、効果はあったらしい。

 さらに激しく、ネギが生える。

 爆発的な成長具合。

 その時だ。

 不死の魚がぶるりと巨体を震わせた。

 効いているのか。

 スミレがあやしく笑う。


「う、植えますよぉ……」


 スコップを突き刺す。

 掘っては埋め、掘っては埋め。

 さらに種を撒く。


 背びれを中心に、ネギが茂っていた。

 遠目には巨大なブロッコリィのようだ。

 あれが全て毒を吐いているのか。

 しかも、増殖を続けている。

 怪魚がいくら毒に強くても、膨大な量の毒を注入し続ければいずれは死ぬ。


 その時だ。

 怪魚が身体を捻る。

 海水が持ち上げられ、巨大な波が押し寄せた。

 小舟は波の先端で弾き飛ばされる。

 いとも簡単に空中へ投げ出された。

 ゆるやかに回転。

 もはや、船体は真横に倒れていた。


「エン!」

「あいよ」


 短剣を抜く。


「宣言:関数 早業」


 短剣を投げる。

 指から離れる直前、それは巨大な剣に変化。

 巨大な剣が高速で飛んでいく。

 反動で、逆向きの力が生じる。

 作用反作用の法則だ。

 舟は体勢を戻す。

 水面に軟着陸なんちゃくりく

 飛沫しぶきの向こう。

 笑うツヅリ。


「すっかり元通りだね」


 彼女は言う。


「まあな」

「また泣いても良いんだよ? ボクの胸で」

「記憶に無いな」


 本当に無い。


「あ! スミレがいないよ!?」


 その時、シイカが叫ぶ。


 海水の中、苦しそうにのたうち回る怪魚。

 毒が効いているらしい。

 しかし、魚の背中に乗っていたスミレの姿が無い。

 海中に引き込まれたら不利か……。


「いや。いたぞ!」


 洞窟の壁面だ。

 松のような植物を生やし、その枝に避難していた。


 毒は効いているらしい。

 魚は暴れまわっていた。

 揺れ続ける地面。

 天井は崩れて降り注ぐ。

 激しく波打つ海は、もはやどこが水面か分からない。

 舟は何の役割もはたしていなかった。

 その時、ツヅリが関数を呼び出す。


「宣言:関数 石灰華柱スタラグマイト


 直後、洞窟の壁面から無数の柱が伸びた。

 鍾乳石しょうにゅうせきだ。

 それが縦横無尽じゅうおうむじんに伸びる。

 壁面や天井を支える。

 即席の耐震工事。

 揺れが収まる。

 しかし、魚はまだ暴れ続けていた。


「……いや。ダメだ」


 自らの身体を壁面にぶつける巨大魚。

 その度に、身体の表面がこそげ落ちる。

 生い茂った毒草も一緒に。

 いつの間にか、森のように茂っていたネギは半分以下に減っていた。

 松の上に避難したスミレ。

 彼女も気付いているらしい。

 枝にしがみつきながら、魚を見つめていた。


「なあ、ツヅリ……」

「どうしたの?」

「このままだとスミレ、負けないか?」

奇遇きぐうだね。ボクも同じことを訊こうとしてた」


 目線を合わせて頷く。

 考えていることは同じか。


「お願いしても良い?」

「ああ」


 工具集めは失敗に終わるかもしれない。

 それでもスミレを失うわけにはいかない。

 彼女は手練れのプレイヤだ。

 スミレほどの建築者ビルダはなかなか見つからない。


 俺は短剣を抜く。


「スミレを助けてくる」





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,942,401(日本円)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ