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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
144/204

船舶をつくろう!!――EP.5

[Let's Build The Ship!!――EP.5]



 その時だ。

 悩んでいると、スミレがおずおずと手を上げた。


「そ、そういうことなら、う、うちが……」

「スミレ?」

「は、はい……。な、殴ってだめなら、ど、毒殺が良いかとぉ……」

「確かに」


 ツヅリも頷いた。


 殴打や斬撃と違って、毒なら衝撃も無い。

 電圧が発生することも無いから、再生に必要なエネルギを生成できない。


 スミレはインベントリから巨大な金属製の容器を取り出した。

 それはミルクタンク、牧場などで絞った牛乳を入れる容器に酷似こくじしていた。

 彼女の腰まではある巨大な容器だった。


「すごっ! 中身見て良いー?」


 シイカが無邪気にフタに手を伸ばす。

 しかし、


「止めて下さいッ!!」


 スミレがその手を払う。

 彼女にしては珍しく強い口調。


「し、死にたいんですか……? こ、この毒、匂いで死にますよ……!?」


 シイカの顔が青ざめる。


「ふ、ふふふ……。し、失敗作がこのようなところで役に立つとはぁ……」


 スミレがぶつぶつとつぶやいていた。


「嗅いだだけで死ぬ毒だろ。成功じゃないのか?」


 恐るべき殺傷能力だ。

 毒としては非常に優秀。

 しかし、スミレは言う。


「つ、強すぎました……」

「どういうことだ?」

「だ、だって、苦しまずに死んじゃうじゃないですかぁ……。パリピーが……」

「あ、さいですか……」


 彼女はパリピーを憎んでいた。


「そ、それじゃあ、行きますね……」


 スミレがインベントリから種の入った小袋を具現する。


「えいっ」


 それを投げた。

 小袋は放物線を描いて飛ぶ。

 見事、巨大魚の口に入り込む。


「で、宣言:関数デクラレーション・ファンクション  急成長ラピッド・ベジテーション


 種が発芽。

 爆発的に成長。

 一瞬にして質量が膨れ上がる。

 その植物は、


「竹か!?」

「は、はい……!」


 狂ったように生える緑の槍。

 成長の勢いはすさまじい。

 不死の魚の口をこじ開ける。


「あ、あれはタケです……。げ、現実の竹と変わらない対象オブジェクト。かつて、戦闘機すら貫いたと言われる悪魔の植物ですっ……!」


 スミレが言う。


「そうなの!?」


 驚く歌姫が1名。


「嘘に決まってんだろ!」


 口の中に突如として竹林が生えたのだ。

 嫌でも口が開く。

 その口に目掛けて、


「よい、っしょ……」


 スミレが毒入りの容器を投げた。

 ハンマ投げの要領ようりょうだ。

 腕の力と遠心力。

 それは飛翔。

 口腔の奥に消えていった。


「ふぅ……。じゅ、重労働でしたぁ……」


 スミレが額をぬぐう。


「あ、あとはくたばるのを待つだけです……」








「し、死なないですね……」


 スミレが言った。


 匂いを嗅いだだけで人間が死ぬ毒を飲んだのだ。

 まるで無反応はおかしい。


「ほ、他の毒も試してみます……」


 そう言ってスミレは失敗作(・・・)、つまり強力過ぎたせいで長くパリピーを苦しめられないであろう毒を魚の口に放り込んだ。

 断捨離だんんしゃりか。

 そんな勢いでぽいぽいと毒を投げ続ける。

 しかし、相も変わらず魚は無反応だった。


「て、手持ちの毒がもう無いですぅ……」


 スミレが言った。

 結局、そこで出直すことになった。


「倒せなかったようじゃの?」


 洞窟からでると、ムムムトが待っていた。

 焚火で貝を炙っていた。


 ことの顛末てんまつを彼に話す。


「毒か。ワシも試したのぉ」


 ムムムトが言う。


「爺さん、毒系の関数が使えたのか?」

「関数だけが全てではないのぉ……」


 ムムムトは周囲を見る。


「あ、天然の毒か」


 ここは南国の密林だ。

 植物など無数に生えている。

 その中には有毒の種類もあるだろう。


「時間はあったからのぉ。強そうな毒草を見つけては食わせてみたんじゃよ。殺せんかったけどのぉ」


 ムムムトはしみじみと語る。


「毒の無効ねぇ。どう思う?」


 ツヅリが問う。


「仮にあるとしたら、それも都合が良すぎるな」

「だよねぇ」


 確かに、毒に強い生物は存在する。

 しかし、ありとあらゆる毒に強いわけではない。

 毒にだって種類があるのだ。


「単純に大きいから、ってのも考えられるな」


 一般的に大きい生物ほど毒に強い。


「そうなの?」


 シイカが問う。


「風邪薬だって大人の方が用量が多いだろ?」

「確かに!」

「あとは代謝たいしゃか」


 生物には体内の毒素を排出する機能がそもそも備わっている。

 そして、魚類に関してはその機能が優れていることが多い。

 マミチョグという魚は水銀で汚染された水の中を普通に動いて回る。


 身体が大きいせいで殺すのに必要な毒の量も多い。

 その上、代謝も優れている。

 毒を飲ませたそばから体外に排出されてしまう。

 つまり、底の抜けたバケツに水を貯めようとしている状態だ。


「じゃ、じゃあ……」


 スミレが手を上げる。


「た、大量の毒を、は、排出されるより早く、取り込ませれば良いんですねぇ……?」

「理論上はそうなるな」


 ただ、それは難しそうだ。

 ドーム球場ほどの巨体だ。

 必要な毒の量はどれほどか。


「だ、大丈夫です……」


 しかし、スミレは言った。


「は、生える毒でいきます……」

「「「生える毒?」」」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,942,477(日本円)

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