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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
130/204

俺、貧乏で良かった……。――EP.8

[I Am Poor...and Good!! ――EP.8]



「そうか。俺、貧乏で良かった……」




 密林の中。

 鬱蒼と茂った樹々のせいで視界は効かない。


「エン。来るよ」


 ツヅリがささやく。

 直後、地面から巨大な鮫が飛び出した。


 陸鮫ランド・シャーク


 土の中を自由に泳ぐ機動力。

 そして、強靭きょうじんなサメ肌。

 鋭い牙。

 強敵だ。

 しかし、分かる。

 相手の次の行動が手に取るよるように分かる。

 俺は後ろに跳ぶ。

 一瞬遅れて、そこにサメが落ちてくる。

 難しくない。

 俺はただ、構えた刀を突き刺すだけだ。

 銀翅刀ぎんしとう

 低い耐久と引き換えに、切れ味は抜群。

 サメの唯一の弱点、エラを切り裂く。

 痛みにのたうち回る巨体。

 2度、3度、刃を突き入れて止めを刺す。


 コンソールを開く。


[>>> land shark defeated. 2989.71(JPY) aquired.]


 つまり、


陸鮫ランド・シャークを撃破。2989.71円獲得」


 という意味。


「おめでとう。エン。復活だね。いや。それ以上かな――」


 見上げれば、木の枝に腰掛けたツヅリがいた。

 不敵に笑う。


「――前より強くなってる」





 それからも動的対象を倒し続けた。

 1日経った頃には新しいBMIにも慣れた。

 最終的な儲けは3万円を超えた。


「うーん。キミってやっぱり、利益率が良いんだよね……」


 ログアウトして、マンションのリビング。

 ジャージ姿の綴が言う。

 完全に油断しきった恰好。

 そうか。

 美人も部屋着はダサいんだな、というちょっとした驚き。

 考えてみれば当たり前のことなのだが。


「早業は金が掛からないからな」


 【計画】において、関数は使えば使うほど金が減る。

 同じ敵を倒すにしても、使う関数が少ない、使う関数が弱いほど儲けは多い。


 その点、早業クイック・チェンジは最弱の部類だ。

 プレイヤが何を持っているか。

 書き換える情報はそれだけ。

 だから、消費する金も少ない。

 結果、手元に残る金も多い。

 東雲兄妹が今まで生活できた理由の1つだ。


「そっか。敵が強くなるほどエンは稼げるようになるね」


 綴が言う。


「まあ、そうだな……」


 敵が強くなるほど手に入る金も増える。

 一方、早業に必要な金は変わらない。

 つまり、利益も増える。


「じゃあ、これなんか良いんじゃないかなぁ……?」


 綴が携帯端末の画面を見せる。

 表示されたのはBMIの一覧だ。


「新しいの買っちゃいなよ」

「……いや、これ、高すぎんだろ」

「でも、これから敵も強くなるよ。一瞬の遅れが勝敗を分けるかもよ?」

「そうかも知れないけれど……」


 しかし、流石に100万円台は高すぎる。


「綴が貸してくれたBMIじゃだめなのか?」

えんのよりはマシだけどね。推奨スペックは満たしてないかな……」

「確かにな……」


 混戦になると、ほんの一瞬だけ視界が揺れることがあった。

 おそらく、あれがラグだ。


「ボクみたいなハイエンドモデルじゃなくても良いけどね。最低、このくらいは欲しいかな」


 綴のおすすめのモデル。

 第7世代のSSSトリプルモデル。

 メモリは32T(テラバイト)

 お値段は約100万円。


「無理だよ高すぎる」

「ごめん。でも、もう買っちゃった」

「は!?」

「ポチっちゃった」


 えへへ、と笑う綴。


「ちょっと待てよ。そんな金無いぞ!? お前さんも知ってんだろ?」


 金が無いどころか、借金まである。


「うん。だから、これはボクからの引っ越し祝い」


 しかし、


「駄目だ。そんな高い物。理由も無く受け取れない……」


 その言葉を聞いて綴は笑う。


「キミ、変なところで律儀だなぁ……。くれるって言うんだからもらえば良いのに」

「そういうのは一度、なあなあにするとどこまでも行くからな……」


 ぷっ、と綴は吹き出す。


「貧乏のくせに」

「うるせえな」

「じゃあ、これは投資ってことで」

「投資?」

「そう。今お金を払えば、将来的に増えて帰ってくる」

「それは良いけど、俺にBMIを買うと、どうして投資になるんだよ?」

「キミが強くなる。そしたら強い仲間が増える」

「……かもしれないけど、100万円だろ? 元取れるのか?」

「取れる」


 そう断言されてしまうと返す言葉が無い。


「返すからな。金ができたら」

「別に良いのにさぁ。それより――」


 ぱん、と綴が手を叩く。


「――これからの話をしようか」

「これから?」

「エンも復活したからね。ゲーム攻略の話をしよう。まずは、現状を整理しようか――」


 状況を確認する。


 俺たちは未踏破領域へと続く試練:星海航路を開始した。

 直後、南の島に漂流ひょうりゅうする。

 そこで出会ったムムムトというNPC。

 彼は未踏破領域への情報を握っているようだった。

 ムムムトが情報と引き換えに柄維持した条件は、4つの工具を集めること。


「それで、遠。ボクたちの目的は何だっけ?」

「工具集めだろ」


 しかし、綴は言う。


「違うよ」

「え?」

「遠。工具集めは手段だ」

「ああ、そう言うこと……」


 俺の答えを聞いて、綴は満足そうに笑う。


「キミは話が早いから好きだよ」


 俺たちの究極的な目的は、金を稼ぐことだ。

 そのために未踏破領域を目指している。

 極論、なんであれ目的地に辿り着きさえすれば良いのだ。


「だからさ、倒しちゃわない? ムムムト」

「いや。待てよ。アイツを倒したら情報が手に入らないぞ?」

「うん。だから、死なない程度に倒して、吐くまで痛めつけようよ」

「発想がマフィアだぞ……」

「先に仕掛けてきたのはアイツじゃん」

「そう言えば」


 俺がムムムトに半殺しにされた件を言っているのだろう。

 おかげで俺は早業を使えなくなってしまった。

 綴は根に持っているらしい。


「もう工具集めとか面倒だよ。そっちの方が早い」

「アイツ、かなり強いぞ?」

「今のボクたちなら勝てるんじゃない?」

「可能性はあるな」

「うん。だから、倒そう」

「分かった。だけど、1つ条件があるんだ」

「条件?」

「と言うか、これはむしろお願いだな」

「キミのお願いだったらだいたいは聞くけどね。どんなお願い?」

「ああ。それは――」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,872,139(日本円)


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