俺、貧乏で良かった……。――EP.8
[I Am Poor...and Good!! ――EP.8]
「そうか。俺、貧乏で良かった……」
◆
密林の中。
鬱蒼と茂った樹々のせいで視界は効かない。
「エン。来るよ」
ツヅリがささやく。
直後、地面から巨大な鮫が飛び出した。
陸鮫。
土の中を自由に泳ぐ機動力。
そして、強靭なサメ肌。
鋭い牙。
強敵だ。
しかし、分かる。
相手の次の行動が手に取るよるように分かる。
俺は後ろに跳ぶ。
一瞬遅れて、そこにサメが落ちてくる。
難しくない。
俺はただ、構えた刀を突き刺すだけだ。
銀翅刀。
低い耐久と引き換えに、切れ味は抜群。
サメの唯一の弱点、エラを切り裂く。
痛みにのたうち回る巨体。
2度、3度、刃を突き入れて止めを刺す。
コンソールを開く。
[>>> land shark defeated. 2989.71(JPY) aquired.]
つまり、
「陸鮫を撃破。2989.71円獲得」
という意味。
「おめでとう。エン。復活だね。いや。それ以上かな――」
見上げれば、木の枝に腰掛けたツヅリがいた。
不敵に笑う。
「――前より強くなってる」
◆
それからも動的対象を倒し続けた。
1日経った頃には新しいBMIにも慣れた。
最終的な儲けは3万円を超えた。
「うーん。キミってやっぱり、利益率が良いんだよね……」
ログアウトして、マンションのリビング。
ジャージ姿の綴が言う。
完全に油断しきった恰好。
そうか。
美人も部屋着はダサいんだな、というちょっとした驚き。
考えてみれば当たり前のことなのだが。
「早業は金が掛からないからな」
【計画】において、関数は使えば使うほど金が減る。
同じ敵を倒すにしても、使う関数が少ない、使う関数が弱いほど儲けは多い。
その点、早業は最弱の部類だ。
プレイヤが何を持っているか。
書き換える情報はそれだけ。
だから、消費する金も少ない。
結果、手元に残る金も多い。
東雲兄妹が今まで生活できた理由の1つだ。
「そっか。敵が強くなるほどエンは稼げるようになるね」
綴が言う。
「まあ、そうだな……」
敵が強くなるほど手に入る金も増える。
一方、早業に必要な金は変わらない。
つまり、利益も増える。
「じゃあ、これなんか良いんじゃないかなぁ……?」
綴が携帯端末の画面を見せる。
表示されたのはBMIの一覧だ。
「新しいの買っちゃいなよ」
「……いや、これ、高すぎんだろ」
「でも、これから敵も強くなるよ。一瞬の遅れが勝敗を分けるかもよ?」
「そうかも知れないけれど……」
しかし、流石に100万円台は高すぎる。
「綴が貸してくれたBMIじゃだめなのか?」
「遠のよりはマシだけどね。推奨スペックは満たしてないかな……」
「確かにな……」
混戦になると、ほんの一瞬だけ視界が揺れることがあった。
おそらく、あれがラグだ。
「ボクみたいなハイエンドモデルじゃなくても良いけどね。最低、このくらいは欲しいかな」
綴のおすすめのモデル。
第7世代のSSSモデル。
メモリは32T。
お値段は約100万円。
「無理だよ高すぎる」
「ごめん。でも、もう買っちゃった」
「は!?」
「ポチっちゃった」
えへへ、と笑う綴。
「ちょっと待てよ。そんな金無いぞ!? お前さんも知ってんだろ?」
金が無いどころか、借金まである。
「うん。だから、これはボクからの引っ越し祝い」
しかし、
「駄目だ。そんな高い物。理由も無く受け取れない……」
その言葉を聞いて綴は笑う。
「キミ、変なところで律儀だなぁ……。くれるって言うんだから貰えば良いのに」
「そういうのは一度、なあなあにするとどこまでも行くからな……」
ぷっ、と綴は吹き出す。
「貧乏のくせに」
「うるせえな」
「じゃあ、これは投資ってことで」
「投資?」
「そう。今お金を払えば、将来的に増えて帰ってくる」
「それは良いけど、俺にBMIを買うと、どうして投資になるんだよ?」
「キミが強くなる。そしたら強い仲間が増える」
「……かもしれないけど、100万円だろ? 元取れるのか?」
「取れる」
そう断言されてしまうと返す言葉が無い。
「返すからな。金ができたら」
「別に良いのにさぁ。それより――」
ぱん、と綴が手を叩く。
「――これからの話をしようか」
「これから?」
「エンも復活したからね。ゲーム攻略の話をしよう。まずは、現状を整理しようか――」
状況を確認する。
俺たちは未踏破領域へと続く試練:星海航路を開始した。
直後、南の島に漂流する。
そこで出会ったムムムトというNPC。
彼は未踏破領域への情報を握っているようだった。
ムムムトが情報と引き換えに柄維持した条件は、4つの工具を集めること。
「それで、遠。ボクたちの目的は何だっけ?」
「工具集めだろ」
しかし、綴は言う。
「違うよ」
「え?」
「遠。工具集めは手段だ」
「ああ、そう言うこと……」
俺の答えを聞いて、綴は満足そうに笑う。
「キミは話が早いから好きだよ」
俺たちの究極的な目的は、金を稼ぐことだ。
そのために未踏破領域を目指している。
極論、なんであれ目的地に辿り着きさえすれば良いのだ。
「だからさ、倒しちゃわない? ムムムト」
「いや。待てよ。アイツを倒したら情報が手に入らないぞ?」
「うん。だから、死なない程度に倒して、吐くまで痛めつけようよ」
「発想がマフィアだぞ……」
「先に仕掛けてきたのはアイツじゃん」
「そう言えば」
俺がムムムトに半殺しにされた件を言っているのだろう。
おかげで俺は早業を使えなくなってしまった。
綴は根に持っているらしい。
「もう工具集めとか面倒だよ。そっちの方が早い」
「アイツ、かなり強いぞ?」
「今のボクたちなら勝てるんじゃない?」
「可能性はあるな」
「うん。だから、倒そう」
「分かった。だけど、1つ条件があるんだ」
「条件?」
「と言うか、これはむしろお願いだな」
「キミのお願いだったらだいたいは聞くけどね。どんなお願い?」
「ああ。それは――」
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総資産:-42,872,139(日本円)




