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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
110/204

君は壊れていたんだよ。――EP.3

[You Were Broken, Already.――EP.3]


宣言:関数デクラレーション・ファンクション――――」


 ツヅリが関数を呼び出す。

 俺の意識はここで途切れた。




 目が覚めると、俺は脱衣所の床に転がされていた。

 一応、服は着ている。


「目が覚めたか?」


 そこにムムムトがいた。

 何故か正座をしている。


「なあ、小僧……」


 神妙しんみょう面持おももちで言う。


「お前さん、とんでもない変態だったんだなッ!?」

「そんな訳ねえだろっ!」

謙遜けんそんする必要は無い」

「いや。謙遜とかじゃ……」

「全裸で女湯に突入などワシでもやらんぞ!?」


 俺の行為は他人からそう見えるのか。


「ち、違うんだよ……!!」


 俺は貧困街スラム生まれの孤児院育ち。

 生まれて初めて温泉に入った。

 と言うか、湯舟ゆぶねに浸かったことも初めて。

 あそこまで温泉が気持ち良いとは知らなかったのだ。

 あまりの快感に電子ドラックだと誤解した。


 それにしても、あの快感。

 どうして法規制されていないのか。

 そういえば大麻が方法な国もあるらしい。

 温泉もその類か。

 どうなってんだよ世界。


「……正直、小僧のことをあなどっておったぞ」

「侮ってて良い! 侮ってて良いから!!」


 ふと、ムムムトは言う。


「お前さん、やっぱりまともな育ちじゃなさそうじゃのぉ……」


 現実リアル詮索せんさくはモラルに反する。

 非難しようとして、こいつはNPCだと思い出す。

 そう。

 NPCなのだ。

 NPCが俺の人生を推しはかっている。

 何だよ、この人工知能は。


「そうかもな……」


 とだけ答えておく。


「お前さんが使ってた技、あれも良くないのぉ」

「何の話だよ?」

「剣を出してたじゃろ」

「ああ……」


 関数:早業クイック・チェンジのことか。

 ムムムトには2回見せている。

 1回目は遭遇した直後。

 2回目は先ほどの温泉で。


「あの技を見て、お前さんがろくな人生を送ってないことは分かるのぉ」

「関数だろ?」


 関数はあくまでゲームのシステム。

 それで俺の何が分かるというのか。


「関数そのものではないのじゃ。使い(・・)方じゃな」

「……使い方?」


 武器を瞬間的に持ち変えて戦うスタイル。

 それを見てツヅリは、


「断言する。キミは、必ず最強になる」


 と言った。


 しかし、この戦い方をする者とは出会ったことが無い。

 普通はできないからだ。

 俺以外には。

 ただ、その理由まではツヅリも分からなかった。

 このジイさんには分かったと言うのか。

 身構えていると、彼はこんな提案をする。


「どれ。風呂上がりの運動じゃ。手合わせせんかね?」


 突飛とっぴな提案だった。


「……手合わせ? どういうことだよ?」

「言葉じゃ伝わらんこともあるんじゃ」


 ムムムトは言う。


「言葉では伝わらないこと……?」


 そんな曖昧あいまいで、まるで人間のような何かを、人工知能《NPC》に過ぎない彼が伝えると言うのか。

 もしくは、単に試練【星海航路】の強制的イベントに過ぎないのかもしれない。

 興味はある。


「分かった。じゃあ頼むよ」


 俺は手合わせを受けることにした。





 再び、樹の天辺。

 湖のほとりで向かい合う。


「殺す気で来るのじゃ」


 ムムムトは言った。

 しかし、言葉とは裏腹に彼は素手だ。


「ジイさん、武器は?」

「要らんよ。風呂上がりの運動だと言ったじゃろうが」

「ふざけてんのかよ……」

「このくらいじゃないと運動にならんからのぉ……。あ、そうじゃ」

「何だよ?」

「お前さんがやる気を出してくれるように、1つ条件を付けよう」

「……条件?」

「かするだけで良いぞ。1撃でもかすったら、シイカちゃんが工具を取りに行く時は付いていっても良い」


 好条件だ。

 俺たちが抱える1番の課題は、100万円級ミリオン・クラスのシイカが工具を手に入れること。

 それが一気に解決できる。

 しかし、


「俺が負けた時は?」

「何も無いのぉ」

「は?」

「何も無い」

「良いのか?」

「お前さんには本気で戦ってくれたらそれで良いんじゃよ」

「何でだよ?」

「言ったじゃろう。このくらいじゃないと運動にならんと」

「後悔するなよ」

「させて欲しいのぉ」


 くっくっ、とムムムトは笑った。


 風が吹く。

 鏡面のように凪いだ湖面にさざなみが立つ。


「――――来なさい」


 ムムムトが言った。

 それが合図だった。

 短剣を構える。

 投げる。

 指先から離れる瞬間、


宣言:関数デクラレーション・ファンクション  早業クイック・チェンジ


 短剣は大剣に変化。

 寸分すんぶんの狂いも無い。

 ムムムトにせまる。

 しかし、衝突の寸前、刃は方向を変えた。

 ムムムトの後方へ飛んでいく。


「何をした?」

「押した」


 簡単に言ってくれる。

 しかし、まだ攻撃は終わっていない。


「宣言:関数 早業 蛙の帯(トード・バンド)


 大剣には髪の毛ほどの鋼線が結び付けてあった。

 それが帯に変わる。

 ゲーテの大迷宮1層。

 そこで倒した唸音蛙ハミング・トードの皮でできた帯。

 頑丈で伸縮性に富む。

 その帯が勢いよく縮む。

 引っ張られる俺。

 同時に地面を蹴る。

 加速。

 独力では出せない速度。

 さらに、


「宣言:関数 早業 愚者の槍」


 速度は保ったまま。

 手には巨大な槍が現れる。

 高速で突進する大質量の槍。

 それがほんの1メートル先に現れたのだ。

 かわせまい。

 しかし、


「…………え?」


 手元から槍が無くなっていた。

 何処に……?

 周囲を見渡すがどこにも無い。

 しかし、数秒後。

 遠くで水しぶき。

 湖に波紋ができていた。

 あの巨大な槍を、あそこまで弾き飛ばしたのか。

 それも素手で。

 驚愕する俺の顔を見ながら、ムムムトは呟く。


「見れば見るほど哀しい技じゃなぁ……」

「……何の話だよ?」

「こっちの話じゃ。なぁに。死にゃあせんからのぉ」


 彼が言った直後。

 俺の身体は宙を舞っていた。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,858,711(日本円)


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