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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
105/204

歌姫の受難。――EP.10

[ Diva's Ordeal.――EP.10]


「止めとけよ」


 ジジイは言った。

 口調は軽い。

 しかし、目は笑っていなかった。

 これは親切心で言うんじゃが、と前置きしてから彼は言う。


「お前さんたち、ちと弱すぎる。これでは死ぬだけじゃ」


 返す言葉が無かった。

 ジジイと俺にはそれだけの実力差がある。


 ちらりとツヅリを見る。

 彼女もけわしい顔つきをしていた。


「ジイさん。未踏破領域について知ってるのか?」

「あたりまえじゃ! でなきゃこんな島(・・・)に来ない!」

「……どういう意味だ?」

「何じゃ? 何も知らんでこの島に来たのかのぉ!?」


 【星の導きザ・フォーテリング・スタァ

 チュートリアルを完了して手に入れたアイテムだ。

 それを使用したところ、大波にさらわれてこの島に流れ着いた。

 だから何も知らない。


「失敗したかも……」


 ツヅリが耳元でささやく。


 明らかに情報が足りない。

 ただ、それがどこまで影響を与えるか。

 不利になるだけか。

 あるいいは、致命傷ちめいしょうか。


「いや。仕方ないだろ……」


 俺たちはゲーテの大迷宮を爆破した。

 無数のプレイヤを生き埋めにして3億の金を稼いだのだ。

 つまり、大量殺人犯。

 情報を集めている余裕は無かった。

 元々、PKを終えたらすぐに未踏破領域へと逃げ込んでしまう予定だったのだ。


「ああ。何も知らないでこの島に流れ着いた」


 今更、嘘をついたところで仕方ない。

 正直に話してしまう。


「そうか。それも良いかもしれん」


 しかし、ムムムトは言った。


「……どういう意味だよ?」

「そのままの意味じゃ。この先に進んでも死ぬだけだからのぉ」

「シイカ。頼む」

「はいよ! おじいちゃーん。どうしてこの先に進んでも死ぬんですか?」

「えぇ~ん? お嬢ちゃんたちが弱いからじゃよぉ~」


 にたにたと笑いながらムムムトは答える。


「こ、この先になにがあるんですか!?」

「う~ん。教えたくないのぉ~」

「シイカ。可愛さが足りないって」

「ええっ!? 私より可愛い女の子なんていないよ?」


 コイツ、本気で言っている。


「ボクがいるけどね」


 ツヅリが答えた。

 コイツも本気で言っている。


「じゃあ、ツヅリが訊けよ」

「エン。ボクは安くないんだよ」

「私だって安くないよ!!」

「心配しなくともみんなかわええぞぉ~」


 そんなことを言いながら、くねくねと身体を捻っているムムムト。

 ただ、軽薄な態度とは裏腹に意思は固いようだ。

 本当に話すつもりが無いらしい。

 どうやって口を割らせるか。

 力尽ちからずくは無理だ。

 ジイさんの方が強い。


「ムムムト」


 その時、口を開いたのツヅリだった。


「ボクは進むしか無いんだ」


 彼女は言う。


 世界の富の3分の1を奪った【計画】というゲーム。

 2500万人を超える自殺者と、それを遙かに上回る貧困者を生み出した。

 そんなゲームのデザイナであるアサカワ。

 有史以来、他者から最も多くのモノを人間かもしれない。

 つまり、他者から最も多くの憎しみを向けられた人間だ。

 その娘こそがツヅリだった。


「遠。この世界にボクの居場所は無いんだよ」


 ツヅリは言った。

 だから、彼女は【楽園】を目指す。

 そこは絶海に浮かぶ人工島。

 外部と隔絶されたままで半永久的に持続可能。

 10億ドルと言う途方も無い金を稼ぎ、その島を買う為に。

 ツヅリは未踏破領域を目指す。


 ムムムトがぽかんと口を開ける。

 しばらく、


「あー」


 とか、


「うー」


 とかうなってから、彼は答えた。


「はぁ……。そうじゃったな。死ぬなんて理由じゃ諦めきれんことは、意外に多いからのぉ。すっかり忘れとった。年を取るとダメじゃな。進みたいなら進めば良い。昔のワシらがそうしたようにな」

「じゃあ、進んだら何が有るか教えてくれる?」

「お前さんたちが進むのは好きにしたら良いさ。だが、教える訳にはいかんのぉ」

「どうして?」

「若者が無駄死にしようとしてるんじゃ。そんなもんに手を貸したらムナクソ悪いじゃろうがーっ!!」


 なるほど。

 このジイさん、本当に俺たちが死ぬと思っているのか。


「無駄死にじゃなければ良いの?」


 ツヅリが問う。


「まあ、そりゃそうじゃなぁ……」


 ムムムトは生い茂ったヒゲを撫でる。


「ワシも昔、未踏破領域を目指した。無理じゃったがな……。ワシより弱いお前さんたちには、万に1つの可能性も無い。そうじゃろう?」


 その通りだ。

 ジイさんでも無理だったなら、それより弱い俺たちには余計に不可能だ。

 しかし、ツヅリは言う。


「それなら、ボクたちがムムムトよりも強ければ良いんだね」

「はっはっは! それはその通りじゃが、お前さんたちは弱い」


 その言葉を聞いて、ツヅリは不敵に笑う。


「だけど、ボクたちは強くなる。若者には未来があるんだ。忘れちゃったの?」

「ほぉ! これは1本取られた!!」


 ダメだと言いながらも、ムムムトは楽しそうに笑う。


「30年。この島の暮らしも悪くなかったが、こんなに胸が踊るのは初めてじゃ。やはり若さは良いのー!!」

「じゃあ、ボクがムムムトを倒せたら、この島に何があるか教えてくれる?」


 しかし、ムムムトは答えた。


「ダメじゃ」


「「「「ダメなの!?」」」」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,858,641(日本円)


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