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短編とかその他

戦う事しか知らない女ですが、幸せにしてくれますか?

作者: リィズ・ブランディシュカ




――私は戦う事しか知りません。


――剣をふるう事しか知りません。


――何も面白い事など語れません。




――それでも結婚したいというのですか?




 私がそう問いかけたら、貴方は答えました。


 にっこりと笑いながら、まっすぐにこちらを見て頷きます。


「ええ、もちろん」


 返ってきたたそれは、肯定の言葉です。


 聞き間違えようのない言葉です。


 けれども。


 私はその言葉を、信じられない思いで聞いていました。


 だって、今までの人生が人生でしたから。


 簡単に今起こった事を信じろと言う方が無理です。


 私の人生は、そんな風に求婚されるようなものではなかったから。


 私の歩いてきた道は、誰かに「人生を共にしてほしい」と言われるようなものではなかったから。









 私が生きている世界には、明確に決められている事がいくつかあります。


 それは。


 聖女は一般的には女性。


 勇者は一般的には男性。


 そして剣聖は一般的には男性がなる。


 という事です。


 魔物からの脅威にされされている人間達は、自分達で力のある存在を決めて、聖女や勇者、剣聖などをまつりあげてきました。


 けれど必ず。


 聖女は女性。


 勇者は男性。


 剣聖は男性。


 が、なったのです。


 この話をはじめにしたという事は、つまりそういう事です。


 私は剣を扱う者。


 だから、私は剣聖で、男性がなるはずの剣聖に女性がなっているのです。


 聖女を決める基準は、人を癒す力が強い人です。


 勇者を決める基準は、多くの敵を葬る事が出来る人です。


 そして剣聖を決める基準は、誰よりも剣の扱いにたけている人、です。


 数年に一度行わる剣術の大会。


 そこで、優勝した人が剣聖になります。


 剣聖はすべての剣士の上にいる存在です。


 国王に認められた存在。


 正式な剣士の中の一番。


 多くの人が羨み、尊敬する存在ですが、剣術大会で優勝した私は女性でした。


 だから剣聖になった後は、誰もが戸惑い、扱いかねる事になりました。


 親しみをもって接してくださる方は少なく、いつも人から遠巻きにされるばかり。


 剣聖になった瞬間から、私の人生は孤独になりました。


 けれど、それでも良かったのです。


 私の剣の腕で、大切な家族や友人を守る事ができるのなら。


 喜んで残りの人生を孤独の中におこうと思いました。







 そんな剣聖の仕事は、過酷なものばかりになります。


 人類の敵であるやっかいな魔物を退治したり、犯罪者や重罪人と戦ったりします。


 状況によっては、戦場に赴き、千人以上・一万人以上の敵の中にほうりこまれたりもしますね。


 だから、剣聖は短命なんです。


 先代も、先々代も若くして亡くなりました。


 私もきっと、すぐに死んでしまうのでしょう。


 しかし、すぐにまた新たな剣聖が選ばれるので、問題はありません。


 私の大切な人達はきっと、次代の剣聖が守り通してくれるでしょう。


 この境遇に、文句などはありません。


 剣聖だけでなく勇者や聖女なども同じです。


 騎士や兵士達だって同じなのですから。


 私達は、その方達より少し危険な場所に身を置く事が多いだけ。

 






 だから、そんな剣聖である私は、恋をしようなどとは思いませんでした。


「恋をしないのか?」


 などと、そんな事をたまに聞かれますが、私はいつもあいまいに笑ってごまかします。


 優秀な遺伝子を残すべきだと、そう考える人達が声をかけて下さるのですが、私は頷けません。


 そんな事の為に相手と一緒になるのは、その人に失礼ですし、剣聖は短命ですから。


 本気で好きになったら、辛いだけでしょう?


 それに。


 私と一緒にいても面白くないですし。


 昔はともかく、仕事をこなすようになってからは、戦いの事しか、お話できません。


 だから、恋はいいんです。


 私はずっと一人で剣を振っている方がいいんですから。


 けれど。







「僕と結婚してほしい!!」


 私に求婚する方がいらっしゃいました。


 驚きのあまり、「今、なんとおっしゃったのでしょうか」とそのセリフをもう一度聞いてしまったほどです。


 今思えば、とても失礼な事をしてしまったと思います。相手の人は、笑って許してくださいましたが。


 求婚した彼の気持ちは、固いようでした。


 遺伝子目当てでも、剣聖という名誉目当てでもなく、本気で私の事が好きなように見えました。


 そんな人があられるなんて思いもみませんでした。


 とても物好きな方です。


 その人は、それからも何度か私に告白してくださいました。


 私はそのたびにお断りの言葉を伝えるのですけれど、彼はまったく諦めません。


 たいして面白くもない私と結婚するために、顔を合わせるたびに求婚してくださるなんて。


 どうしてそんな事ができるのでしょうか?


 ひょっとして変わり者、という方なのでしょうか?。


 けれど一つ分かるのは、悪い人ではないという事です。


 何か困った事があれば、相談にのってくれますし。


 相手の方は私の気が変わるのを、ずっと待ってくれていますから。


 しかしそれは、相手の時間を無駄にするばかりなので、いつも早く諦めてくださいと言っています。


「私を気にかけるよりも。その時間を使って、他の女性の事を考えてあげてください」


 こうやって断りの言葉を続けていれば、いつか諦めるとかなと思っていました。


 けれどその人は諦めませんでした。






 なぜか次第にその方は、剣をふるうようになりました。


 私と同じ立場になれば、結婚の願いを受け入れてくれると思ったらしいです。


 その人は、少し考え方がずれているのかもしれませんね。


 剣聖は一人しかなれないのですから、同じ立場にはどうやってもなれないというのに。


 それでも、歴史を紐解けば、剣聖に匹敵する人間が数名いた時代もあったので、それを目指していたのかもしれません。


 しかし、その努力が実らない事は明らかでした。


 才能があればまた違う話になっていましたが、彼に剣の腕はありませんでした。


 振った剣が手からすっぽぬけて、どこかへ飛んでいくくらいですから。


 だから、彼のしている事は無駄なのです


 私は、なんども「諦めて」と声をかけました。


 けれど、「君が好きなんだ」と彼は諦めません。


 ずっと、ずっと諦めないままです。


 雨の日も、晴れの日も、忙しい日も、そうでない日も。


 いつも地道に上がるはずのない剣の腕を鍛えていました。







 その光景を見ているうちに私は分かってしまいました。


 彼は私がいくら諦めてといっても止まらないのだと。


 それほどまでに彼の愛は真っすぐで純粋で強いものだったから、きっといつまでたっても止まらないだろうと。


 ならば、彼にやめてほしいなら、私が折れるしかないじゃないですか。


 計算してやっているわけではないのが、質の悪い所ですね。


 真っすぐで良い人なのに、なんて卑怯な方のでしょう。


「分かりました。あなたの求婚をお受けいたしましょう」

「本当かい!?」

「だからもう剣を握る必要はないのですよ」


 私は彼と婚約を結びました。


 剣聖だから、明日死ぬかもしれませんし、明後日死ぬかもしれません。


 世界の様子が変われば、子供を授かる暇もないほどの激務がまっているかもしれません。


 温かい家庭など、つくる事もできないかもしれません。


 それでも、彼はずっと変わらないままなのだろう。


 私を思い続けてくれるのだろう。


 永遠に好きでい続けてくれる。


 愛してくれるのだろう。


 そう思ったから、私は彼と一緒に生きる事を選びました。


「いつまで一緒にいられるか分かりませんがよろしくお願いします」


 短い命で生きるこの人生の中、後悔しないようにと。



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