裏切られまくり
私の名前は天音悠希。高校二年生。成績優秀(自己評価)、容姿端麗(目と鼻と口以外)、みんなから愛され(未定)、頼りにされる(パシリ)、そんな素敵でかわいい萌え萌えヒロイン。それが私、天音悠希。
でも…でも…でも…、私今、とても困っているんです。
なんと、なんとなんとなんと…異世界に飛ばされ、しかもただいま現在進行形でモンスターたちに襲われているんですー-----!!!
なんで?訳わかんない。朝起きて、学校行って、授業受けて、休み時間になって、みんなの輪の中心で囲まれて、喋ってたら、場面が変わって、友達じゃなくて、化け物たちに囲まれて、殺されそうになってるんですけど!
夢ですか?妄想ですか?いつもの私の空想ですか?って、ぴゃー-ー--!いたい!殴ってきた、殴ってきた!あの豚の擬人化みたいなやつ、殴ってきたんですけどー---!
痛いから夢じゃないよう。多分。いや絶対。
「だれかたすけてー--」
はっ!まさかここで白馬に乗った王子様降臨!?そんな素敵展開、波乱のラブロマンス、あっちゃったりするのかな。異世界だから、それくらいあるよね?期待していいよね?てかそうでもしてもらわないと、理不尽すぎる!
「お願い…、白馬の王子様。私をここから連れてって……。」
ってこれ、囚われのお姫様が言うやつじゃん。
…パカラ。
え?うそ、ほんとに?ほんとに白馬の王子様が来て…って、……え?
そう、そのとき、王子様降臨っと思って、振り返った私の目の先にいたのは、真っ黒で、禍々しい馬に跨ってて、首なしの、王子様(化け物)でした☆
死んだ。これはさすがに死んだ。諦めよう。もう無理だよ。きっと私は現実世界で大罪を犯したんだ。だから地獄(異世界)に来たんだ。
ああ、首なしの化け物がこっち来る。手に持ってるの、何あれ。ああ、剣だ。あれで今から私切られるんだ。そして死―、
「そんなの絶対無理!私はイケメンでかっこよくてお金持ちの王子様と結婚するんだ!こんなの絶対いや!!!」
そうだ、ここは異世界なんだ。もしかしたらなにか、魔法とか、呪文とか、スキルとか、これ全部一緒では?…とか言ってる場合じゃなくて、何か、何かないの?
……あれ?使える。魔法が…使える気がする。今使えるようになったとかじゃなくて、元から備わってて、私は普段から使ってて、使えなかった現実世界の私が、本当じゃなくて、大事なものを忘れてて……なんだろ、この感覚。
これは一体、いや今はそんなこと考えてる場合じゃない。使うんだ、この力を。
「女の子(美少女)によってたかっていじわるする(自分で言っててちょっとかわいいなって思う)、変態で鬼畜な化け物たち!くたばれ!…じゃなっかた、どっかいっちゃえー-!!」
ずどー-----------ん!!!!!!!!
「へっへー-ん。どや!」
ってなるはずだったんですよね…(笑)
なんで何も起こんないの?今の、フリなの?『使える気がする…』からここまで盛大なフリだったの?訳わかんない、訳わかんないって。
今のは隠された真の力に目覚めてここから無双していく流れじゃん。みて、心なしか化け物たちも、あれ?なんで自分生きてんすか?なんかいつもと違くないすか?って顔してんじゃん!
気まず!!!
微妙な間が流れた。
しばらくたって、化け物たちが、互いに顔を見合わせた。そして3…2…1…、と言わんばかりに首を縦に三回振り(首ないやつもいたけど)、こっちに、私のほうに、一斉に、…迫ってきた。
ああ、死んだ。今回ばかりは絶対無理。助かんない。助かるはずがない。
「悪ぃ、私死んだ」
これが最後の言葉だった。最悪すぎる。
ずどー----------ーん!!!!!!!!!!
「はへぇ?」
耳をつんざくような、すごい大きな音がした。
なに?びっくりして変な声出ちゃった。…って、
「謎の大爆発が起きて、化け物たちがみんなたおれてるー--!」
すごい解説口調になっちゃった。でも一体何が起きたんだろう。心なしか化け物たちも、ですよね~って顔してる。顔ないやつもいるけど。
ほんとに何があったんだろ。わかんない。…もしかして、真の力にやっぱり目覚めてたと―
「大丈夫だったか」
………………………え、うそ…でしょ?まさか、まさかまさかまさか、王子様降臨!?一度はフラグを折られたと思って諦めてたけど、こんなことって…あるの?
やっぱり私は素敵でかわいい愛されヒロイン(自称)。天音悠希。結局王子様と運命の出会いをしてしまう純情乙女だったのね。
って、いけない、いけない。勝手に一人で舞い上がっちゃって、助けてもらったんだから、ちゃんとお礼しないと。
「あの、えっと、そのー、あっありがとうございました!」
「ん?いいよ、気にしないで。たまたま通りかかっただけだから。それよりけがとかしてない?」
「はい、大丈夫です!って…、イタ!」
さっきまでは必死だったから忘れてたけど、殴られてたんだった。すごい痛い。
「ケガしてるじゃないか。安心しろ今、治癒魔法をかけてやる」
すごい。さっきまであった痛みが、どんどん引いてく。
王子様…、フードをかなり深く被ってて顔が見えない。さっきの爆発と、この治癒魔法。ここは異世界だし、もしかしたら魔法使いさんなのかな。うーん。
しばらくして、痛みが完全に引いた。
「これでいいだろう。この辺には魔物が多い。くれぐれも注意するように。」
行ってしまう。せめて、名前と顔くらいは教えてほしい。
「ま、待って!私なんでか知らないけどここにいて、何言ってるかわかんないと思うけど…だっだからさ、おねがいします!私も連れてってください!!」
あれ?名前と顔だけのつもりが、デートに誘っちゃった(誘ってはない)。…まいっか。
「…ふむ、そうだな。たしかに、魔物の多い場所に少女を残すなんてまねすべきではないな。いいだろう。ちょうど隣町まで行くところなんだ、そこまでは一緒に行こう」
まじか!やった!優しい!かっこいい!イケメン!こんな幸運あるんですね。一時はどうなるかと思ったけど、まさか王子様(魔法使い)と一緒に行動できるなんて!
「ありがとうございます!すごく、すごく助かります!」
「ふふ、いいさ。当然のことだ。…ああ、自己紹介を忘れていたな」
そう言って、王子様はフードに手をかけた。フードをめくろうとする、その瞬間、緊張のせいか、世界が、とても、スローモーションに感じた。まるで時間が、本当に止まっているかのように、パラパラ漫画を、一枚ずつ、丁寧にめくっていくような、そんな感じ。
これは後日談になるけど、あれは緊張なんかのせいじゃなかった。それは衝撃だった。時間が止まったかのように思えるほどの衝撃。物理的な衝撃なんかではない。脳裏に、海馬の奥底に深く刻まれてしまったような、それはそんな衝撃だった。
「私の名前は栗栖春香だ。しばらくの間よろしく頼む」
そう…私の王子さまは、なんと…。
………………………女の子だったのです!(しかも美少女)