#4 各々の秘密
俺は、ネーミアの部屋から出て速足で男子寮に戻った。
今回の事は気付いた瞬間鳥肌が立った。数年前か数十年前かはわからないが、旧上位貴族家には何かがあった、それを示す重要な手がかりだ。
ネーミアには話していないが、旧公爵家侯爵家は何か秘密があることは前々から知っていた。
俺は、暗殺者の家系に生まれた。家に来る客は必ず長袖を着て、親と握手をしていた。そして、
客が帰ると、親が袖から数十枚の金貨と依頼書を出す。そんな、生活である。しかし、俺が10歳くらいの時、ターゲットが先に殺されることが多発したらしい。報酬は貰えるため生活に支障はなかったが不審に思った親は、まだ人に手をかけていない潔白な俺に、聞き込みを頼んできた。
結論は、何もわからなかったが、唯一の共通点は旧上位貴族だったという事だ。
ネーミアには話していない事だ、魔族の話単体ならば探っても問題ないことなのだろうが、俺の
過去の出来事と組み合わせればおそらくタブーに触れてしまう。
ネーミアにこの事を黙っているのは心苦しいが、ネーミアも何か隠していそうなため、お互い様だろう。はたから見れば平凡な学生だが、武術訓練の時の身のこなしがおかしかった。別にキレがいいとかではない、体力もないし、重心移動も疎かだろう。ただ、防御の時の守り方がただの学生のものではなかった。親から教えてもらったことが本当なら、あれは殺し合いに慣れている人間の動きだ。
普通、模擬戦で守る順番は頭→体の順である。そして、前線で戦う事は一生来ない軍大学の学生はこのまま卒業する。しかしネーミアの守る順は、頭→胸→腹→足→手。逃げるときに支障にならない手の防御が素人目でも疎かだった。
そのうちネーミアの秘密も探ろうそう思って自室へ入った。
窓から光が入ってきて目を覚ました。あのまま寝てしまったようだ。
身体を起こすと、なぜか体が異様に軽い。その上魔力がみなぎってくる。
起き上がり鏡を見る。するとそこには、20手前の女ではなく、10に満たないくらいの少女の姿が映っていた。
「やってしまった」
思った以上に疲れていたらしい。
ため息をつき、魔力を内側に押しつぶすといつもの姿に戻った。小さくなった時にズレた下着を外して、クローゼットから取り出してつける。着替えで、自分の胸の感触を確認するたびに、もう少し大きくしておけばよかったと思わないわけではない。そんな雑念を抱きながら着替えを終わらせて教室に向かう事にした。
教室に入ると何やらざわざわしていた。適当な場所にコートを見つけたので話しかける。
「なんだ、この騒ぎは」
コートが振り向くと、眼を輝かせながら答えてくれた。
「古来人のフォード様の特別講演が今日行われることになったらしいぞ。たまたま近くまで来ていたところを学長が交渉してくれたらしい」
古来人。55年前に神族から魔法を伝えられた100人の人間の事を指している。彼らによって魔法は人間に広まったと言われている。古来人は不老と莫大な魔力を与えられているため、現在でもまだ半分以上は生きているとされているが、クロミストの悲劇以降、ほとんどの古来人が表に出てこなくなったため、直接話を聞ける機会は貴重らしい。
「古来人は確かに珍しいけど、そんな話聞きたいか」
コートはため息をついた。
「ネーミアさぁあの古来人だぞ。悲劇前の詳細を知る人だぞ」
周りの人を見てもそんな感じだろう。
大人しく席に座っている人がほとんどいないといった感じだ。
「別に文献に全部載っているだろ」
コートはまたため息をつく。
「お前が本読みまくっているの忘れてた、もう少し人と会話した方がいいぞ」
こいつに言われるのは癪だが、おそらく事実なのだろう。
「あと、講義全部終わったら図書館集合な、情報集めるぞ。協力者も集めておいたぞ」
「協力者っておい」
コートは私の声が聞こえていないかのように、席に戻っていった。
しばらくたつと前の扉が開いて、うちのクラスの担任のエリナ中佐が入ってきた。
胸が大きく人が全員振り向くほどの美人で、なぜ軍人をやっているのかわからない人である。上位貴族だろうと、皇族だろうと彼女が望むらな無限に貢いでもらえるだろうに。
「静かに。フォード様が到着されたから、至急整列して中央ホールに向かえ」
そう声を張り上げると、学生は一斉に黙って立ち上がった。もちろん私も例にもれず。一般兵の訓練よりは緩いとは聞くが、集団行動が出来ないとかなり怒られる。
整列して中央ホールに入ると、前に十代前半と思われる少年が立っていた。
いまだに表に出てくる古来人の一人、フォードその人である。
顔を知らなくても、彼が本人であると本能が言う。人間とは思えない強大かつ濃密な魔力が発せられていた。
このような講演では私語厳禁なため、教室では騒がしかったクラスメイト達も一言もしゃべらなかった。
そうしているうちに、全員集まったのか、フォードが話し始めた。
「私は、このような話をさせて頂く機会がとても多い。全人間界で計100人いた古来人。クロミストの悲劇で20人程度は死んでしまったとされるが、それでも少なく見積もって70人はまだ生きているだろう。しかし、今現在、私のように表に出てくる古来人は20人に満たない。それは何故かを話したいと思う」
フォードの話初めで、もうすでに私は耳をふさぎたかった。今朝のように、いくら忘れようとしても思い出してしまう。
「そもそも、皆は古来人についてどのくらいの知識を持っているだろうか。不老で魔法を神から与えられて人間に広めた人々くらいだろうか。そこに誤りはない、しかし古来人本人からするといささか情報不足である」
「まず、我々古来人は神族と契約した100人である。神一柱と人間一人が契約した。そして契約というからには一方的に貰ったものではない。神からは魔法、そしてその魔法を行使するための莫大な魔力を授かった」
そう、神からの授かりものに不老はない。
「そして、古来人一人一人に鎖と呼ばれる代償と、その鎖を遂行するための老いない体が与えられた。私の鎖は”協人間”人間界、というより内の世界と言った方が分かりやすいかもしれないか。そこから一生出ることが出来ないという鎖だ」
「だから私はこのように人前に出ている。古来人の魔力は強力すぎて基本的には隠せない。おそらく姿をくらませている古来人の大半は外の世界にいるだろう。なぜ姿をくらませているのかそんな事を考えてそうな学生諸君が多そうだな。君たちくらいの年だと知らないと思うが、悲劇後、魔法を伝えた古来人に罪を擦り付ける人が多く、またそう考える古来人も多かった。それで、皆姿をくらませているのだ。そして、私の願いは、彼らがもう一度内の世界に帰ってきてくれることだ。帰りやすい場所を作るためにこうして話している」
その後は知っているような悲劇の話などが続いた。こうして30分程度の話が終わるころには皆、話に聞き入っており盛大な拍手が送られた。
あとがき
別ツールで書いたものをコピペして投稿しているので改行が若干バラバラになっているかもしれません。私生活のほうが落ち着いたら修正する予定です。