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#4 闇

 辺りを見回すと、少将以外誰もいなかった。

「お疲れ様、諸君らは唯一の成績Sだ」

 メロはガッツポーズをして、私もついつい声を上げてしまった。

「全35組のうち30分生き抜いたのが9組。早朝を超えられたのはお前たちだけだ」

 メロはかなり満身創痍で立てないようだが、私は申し訳ないことに無傷なので立ち上がった。

近くにいた医師がメロを連れて行ったあと、少将が去り際に呟いた。

「多重ワープホールか、懐かしいものを見た。あと授業は明日からだしっかり休め」

 多重ワープホールは魔術書で読んだ。ワープホール自体は初歩魔法なので学生でも使えるのではないかと思って覚えておいたものだ。補助魔法しか使わずに実戦を潜り抜けられてひとまず安どしたがいつまでもこういうわけにもいかないだろう。

 それにしても、懐かしいか。単純な構造に簡単な発動方法で練習すら要らず、魔術書で読んだ後にぶっつけ本番で出来るレベルではあるが、実用されていたのはクロミストの悲劇以前まで遡るらしい。

 疲れ切った体を引きづって寮に戻ると、コートが後ろから近づき肩を組んできた。

「お疲れ様。24時間耐えきったんだって?すごいな」

 私は肩を振りほどいて答える。

「メロ様様だなとかは言わないのか。てっきり言われると思ったが」

 コートは頭を掻きながら言った。

「いざという時は救助があるとはいえ、死線を潜り抜けた友人にそんなことは言わねえよ。あと俺のペアがな……」

「そういえばチャータペアだったな。それなら早朝くらいまでは行けたのか」

 そう聞くと、コートはあたりを見回した。初日リタイア組にとっては休日の午後、寮内を歩き回る人は多くエントランスホールにも多少なりとも人がいる。

「ちょっと色々あってな、ここじゃ話せないかネーミアの部屋行っていいか」

 コートはかなり話ずらそうにしていた。正直今すぐベッドにダイブしたい気分ではあるが、プライバシーをお構いなくべらべらとしゃべるコートがわざわざ秘密裏にする話は気になった。

「女の部屋に気軽に行こうとするなお前は、まあ来てもいいけどお茶は出さないぞ」

 コートは笑う。

「要らねえよ、それじゃ行こうぜ」

 エントランスホールから女子寮に入る。

 深夜帯でなければ異性が入っても問題はない。

 コートを連れて歩くのは居心地が悪いが、部屋に来たことは数回あるせいか、コートは気にせず歩いていく。

しばらく歩き部屋を開ける。

 寮は個室で、ベッド、机程度しかなく、かなり小さいが、個室が貰えるだけ贅沢だろう。

 コートはクッションの上に座り、私はベッドの上に座ると、コートが話し始めた。

「実はチャータがな、魔族から逃げろっていうのが試験内容だと聞かされた瞬間にパニックになってな、叫ぶし泣きわめくし。それで、俺もチャータがこれじゃムリじゃん、って思っていたら、魔族が現れて。あとは教官が飛び込んできたリタイアだったよ」

 話を聞いて驚いた。まさかあのチャータがそんなことになるとは思はなかった。メロも半分パニックになったことを考えると、上流階級の人には何かトラウマがあるのだろうか。

「せっかくのペアが台無しだな。こっちもメロが半分パニックになってしまって、大変だったよ。

 その言葉を聞いてコートが腕を組んで考え始めた。

 30秒くらいの沈黙が流れた後、まっすぐこちらを見て言った。

「なあ、メロの本名知っているか」

「確か、メロ・α・トーメキア。あっ」

 口に出して気付いた。名前と苗字の間に入る記号。これは、今ではすっかり形骸化した家の所属階級を表している。もっとも今ではすっかり効力が消え、記号と爵位などほぼ一致しなくなっている。

 「そう、チャータ・α・トルエステン。二人とも旧公爵家出身だ。そして、ネーミアは試験が終わったばっかで知らないと思うが、30分耐えられた中にαとβはメロペア除いていなかった。」

 農区や工業区ではαβはまだまだ少ないが、軍大学ともなれば3人に1人はαβがついている。

 コートは続ける。

「まだある、30分以内にリタイアになった組の内γ以下が両方の組は全26組中2組しかない」

 偶然かと思ったが、その後しばらくコートの話を聞くと現実味を帯びてきた。

 リタイア組で傷を負った人間はいないのに、αβで医務室に行った割合は8割。一方γ以下で言った人間は一人もいない。両方医務室に行かなかったペアにはβが一方的にペアに謝り倒している場面も見たという。

 しかも考えてみれば、30分乗り切るのはかなり簡単だ。誰でも使えるステルスで早朝超感覚が来るまでは逃げ切れる。

「お前さ、今までの演習でステルスが使えなかった人いるか知ってる?」

 コートは何言っているのか見たいな顔をしてこちらを見た。

「ステルスか、なんでそんなことを。まあ、見ていた限りだと視界だけなら全員完璧にできていたはずだぞ」

 討伐ではなく脱出や生存が目標になる状態で、まずステルスが効くかどうか確かめるのは基本中の基本。授業を少しでも聞いていればわかるはずだ。

「あのなコート。お前はすぐ脱落したからわからないと思うが、あの魔族ステルスを早朝の数分を除いて見破れなかったんだ」

 コートは目を丸くした。

「は、ってことは開幕ステルスから徹夜すれば早朝までは確実に残れたという事か」

「厳密には、私の補助アリのメロでギリギリ倒せる魔獣がステルス破れたからそこまで簡単ではないが。開幕三十分で半分以上消える難度でもないんだ」

 それを聞いてコートは立ち上がった。

「ならつまり、旧公爵侯爵家は何かを知っているという事だ」

 コートの言うとおりだ。ここまでいろいろ重なると偶然とは言い切れなくなる。

 コートが続ける。

「なあネーミア、調べよう。絶対に楽しいし知るべきだ。本当のタブーなら大学側が露呈しかねない試験をするわけがないから調べても大丈夫だし」

 こちらの肩をガシガシと揺する。まったく、本当にこいつは異性に対してボディタッチの容赦がない。

「落ち着け」

 コートが手を放す。

「大学としてはタブーではないかもしれないが、調べても安全という事にはならないぞ。帝国や大学単位の大規模なタブーと、家や学生単位のタブーは違う。訳あり学生の訳を知ってしまったがゆえにトラブルになる話は先輩からも聞いているだろう」

 他国のスパイとして送り込まれた学生の正体を特定してしまった一般学生が殺されかけたり、又は殺されたり。面白半分で正体を調べたら皇室に繋がる重要人物で大学に居られなくなった、という噂は多い。

 公開情報、周知の事実、非公開情報、秘密情報これらの隔たりは大きく後者ほど触れた時の危険性が高くなってくる。

「それでも調べたいと思う。秘匿にされてない以上、将来軍人として生きていくには知っておかなければならない情報だと思う」

 コートが真面目な顔で言う。言っていることはもっともである、貴族同士の細かい関係性や、重要人物の利害関係など、自分が相応の立場に立つ場合知っていなければ痛い目を見ることは多い。

 忘れていたが、コートはかなり純粋に軍人を目指している人間だ。使命感で軍大学に来ている人間とはかなり質が違う。

 私は、この大学生活を楽しみたいと思っている。

 私がしばらく黙っているとコートは再び座った。

「いや、別に協力しろとは言わないよ。100%安全でないことは確かだ。俺が悪かった、一人でやるよ」

 平和な生活はつまらない、私はそれをよく知っている。ならば、答えは決まっている。

「いいよ」

 コートが驚いた顔でこちらを見る。

「いいよ、協力してあげる。楽しそうだからな」

 少し笑って言う。

 コートの目がとたんに輝く。

「ありがとう、じゃあ」

 じゃあじゃないが。こちらは24時間の生存試験の直後である。もう一歩も動きたくない。

「今日は疲れているからもう帰ってくれ、また明日な」

「あ、ごめん。また明日」

 そう言ってコートは珍しいことに大人しく帰っていった。

コートが出て行った瞬間、どっと疲れが噴き出てきた。座っていることもままならなくなり、ベッドに倒れ込んだ。そして、眼を閉じると意識を手放した。


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