#2 試験開始
正門に向かうと、学生の八割がたが集合しており、前には強面で上裸のおっさんが立っていた。
教官全員知っているわけないので、学生はあれが教官なのかどうなのかで、ざわざわと話し合っていた。
残りの学生もちらほら集まり始め、コートが私の隣に来た。
「よ、メロペア引いた豪運のネーミアさんじゃないですか。俺、チャータがペアだよ助けてくれ」
勢いのいい声がどんどんしぼんでいった。そこまで嫌なのだろうか。
「成績2位のチャータなら当たりだろ」
コートは、私の肩に手を載せてゆすってきた。
「あの鬼だよ、いくら成績良くても嫌だって。助けてくれ」
チャータ・α・トルエステン。学年唯一自分が訳ありであると公表している人物。トルエステン伯爵家の長女で、長男と長女が一代ごと交互に当主と軍人をやる家系で彼女の母が当主なので彼女の代は軍人という事で軍大学に来た令嬢だが。語気が強い上に成績優秀、武闘や剣術にも精通している才女でもある。とまあ、同級生からしてみれば、虚勢ではなく素で強気なので怖がられて当然である。
コートの手を振り払い、なだめるとまたわめき始めた。
「あの鬼なぜかネーミアにだけは優しいから、ネーミアにはわからないんだよこの恐怖」
ごもっともである。
チャータは、なぜか私に対して不気味なほど優しく、この前は食堂で財布を忘れたときに、割と遠くにいたのにお金を貸してくれたりした。
こうして話していると。前にいる上裸のおっさんが話し始めた。
「諸君、私は君たち13期生の魔法実技を担当する。ロード・δ・フメロ。軍では少将をやらせて頂いている」
学生の間に緊張が走る。たいていの教官は佐官なので、将官の教官は珍しい。
「早速だが、今日の魔法実技は初めての実戦としてはかなりハードだ。どのくらいハードかと言うと、今日中に終わるペアはおそらくいない。そのくらいだ」
学生がざわつく。魔法実技自体、数日は数週間かかることもあるというのは事前に知っていたが。いざ言われると現実感が出てくる。通りで後期の授業から予備講義が多く組まれているはずである。
「という事だ、早速だが魔法実技について説明したいと思う」
魔法実技は毎年内容や成績評価が異なるためか、社会授業に長々と説明されると聞いたことがある。
「13期生の魔法実技は、二人ペアでの魔獣討伐で評価を行う。魔獣は、こちらで捕獲してあるものや、実際に非安全地域に出て行っての討伐を行う。成績評価についてだが、授業ごとに制限時間があり、制限時間内に討伐できればC評価、クリアタイム上位75%がB、50%がA、15%がSとなり、それぞれ1から4点に換算する。各学期終了時に、点数を授業の数で割った数字が魔法実技の成績となる。なお、1点未満の場合単位が認定できないため補修を行う形となる。何か質問は」
学生たちが顔を見合わせている。普通の評価基準なので質問も何もないかと思ったが、あのコートが手を上げた。
「魔獣に負けてしまった場合どうなりますか」
なるほど、こういう時質問をするのは優等生だが、そういう人間は成績ASばっかり見ていて、負ける可能性など考慮してないだろうから、コートの質問は重要である。
ロード少将は一瞬コートを睨みつけた後、咳払いをした。
「当然気になるであろう。もちろん全員がクリアできるほど生ぬるいものは一個も用意していない。 もちろん今日の実戦も含めて。戦いは常に大学職員が監視しているため、命の危険があるような状況では即座に救出する。もちろん救出された時点でリタイアとなり、その授業では0点となる。他にあるかな」
数十秒間の沈黙の後ロード少将は胸を張り、叫んだ。
「では、早速だが初回の実戦を始める」
すると、学生各々の足元に魔法陣が展開されて、体が足から順に消えていった。
転移魔法を受けて目を覚ますと、森の中にいた。
「意識切断する転移魔法は慣れないな」
そう呟いてあたりを見回すと、メロが立っていた。
「意識切断されない転移魔法を受けたことがあるみたいな口ぶりだね」
メロは笑ってそういった。
転移魔法は一部を除いた意識が切断される。つまり、転移先でいきなり行動できず眠りから覚めたような感覚から行動することになる。
「精霊の知り合いを疑うのか」
そう言い返す。
意識を切断しない転移は人間にはできないが、精霊や神格などの外の世界の種族が使えるという話はたびたび耳にする。
「まさか、悪かったよ」
メロがそう言って、手を振ると。どこからともなく声が聞こえてきた。