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転生悪魔の異世界革命~上級悪魔に転生した俺は、全てを憎み世界を破壊する~  作者: みなもと十華@書籍&コミック発売中


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第29話 報恩

(いつもそうだ。俺はツイていない。いつも貧乏くじを引くんだ。生まれた時からそうだ)


 薄れゆくローラの意識。流れる鮮血。アベルは、ただローラの傷口を押さえるしかできない。

 無力感に苛まれるアベルは、自分の愚かさを呪っていた。


(クソ親父の暴力や借金で貧乏暮らし。それでも真面目に生きようと頑張ったのに、周囲から蔑まれ馬鹿にされ踏みにじられた。人には優しくしなければと、他人が困っていれば助け、頼まれれば力を貸してきたのに、その全ては裏切られ恩を仇で返された)


 人は恩を仇で返す生き物なのだ。アベル――佐々木透矢はそう思っていた。

 真面目で優しい人を見たら、『コイツは利用できる』『搾取できる』と、他人を利用し自分が得をすることばかりを考えるのが人間だと。


(真面目で優しいなんてクソくらえだ! 真面目で優しい人間だから、なめられ、利用され、搾取され、使い捨てにされる! 悪い奴らが、のうのうと楽しく生きているのだ! 悪こそが人間の本性だ!)


 アベルの瞳からは、とめどない涙が溢れだす。


(それなのに……高坂直……キミは……。そうだ、キミも俺と同じだ。真面目で優しくあろうとしたが為に、他者から搾取され踏みにじられた)


 後悔だけが重く圧し掛かる。


(俺は何処かで分かっていたはずなんだ……。キミが、あんな嫌がらせをするわけがないことを。偽のラブレターなど出すはずないことを)


 心の何処かで分かっていたはずだと。


(それなのに……どうして……どうして気付いてやれなかったんだ! 自分のことが精一杯で。騙され馬鹿にされたショックで。俺はキミのことを忘れてしまっていた。あのクソみたいな世界で、たった一人の仲間になれたかもしれないキミを。俺は見捨ててしまったんだ! 俺はバカだ! 大バカだ! 最低のクソ野郎だ!)


 転生し、伯爵家に生まれ、優れた才能を持ち、勝ち組になったはずだ。しかしアベルは後悔と無力感だけが重く圧し掛かる。

 どれだけ上流階級に生まれようとも、どれだけ潜在力や魔力が高かろうとも、女一人救えないクソ野郎じゃないかと。


「クソっ! クソぉぉぉぉ! 誰か! 誰でもいい! ローラを助けてくれ! 大切な人なんだ! まだ話さなきゃならないことがあるんだ! 誰か! 誰かぁあああああああっ!」


 誰かぁぁぁぁ――――

 あぁぁぁ――――

 ぁぁ――


 アベルの絶叫が木霊のように路地に反響する。


 消えかかるローラの命の灯火。傷口を押えるアベルの手も赤く染まっていく。

 もう全てが手遅れで、全てが無意味に感じてしまう。


「俺は……何に駆り立てられていたんだ……人類滅亡も……立身出世も……。俺には身近なところでさえ、何も見えていないじゃないか……」


(何処の世界もクソばかりだ。所詮、人族も魔族も何族でも同じだ。クソみたいな世界に、ゴミみたいなヤツらばかりなんだ。そんな中で、たった一人でも信じられるものを見つけられたら。たった一人でも味方が作れたのなら。それが正解だったんじゃないのか)


 前世で女性不信と女性恐怖症になり、そしてこの世界でそれを癒してくれた初めての人。

 神の意志か運命の悪戯か、同じ世界に転生した元同級生。


「キミが存在しない世界で、俺は何を頼りに生きて征けば良いんだ」



 アベルの声が空しく響く。誰も返事をしてくれない世界に。

 もう終わりかと思ったその時――――


 路地の向こうから、こちらに歩く一人の男の姿が見えた。

 戦闘によるものだろうか?

 あちこちボロボロで傷だらけだ。


 その男は、アベルを見つけると、駆け足になって近寄ってくる。


「あれは……誰だ……。いや、誰でもいい。もう、どうでも……」


 涙で霞む視界に、軍服を着た男が映る。それは魔王軍仕官の制服だった。

 どんどん近寄ってくる男は、アベルの顔を見て声を上げた。


「アベル……君、アベル君なのか!」


 中肉中背で黒髪、実直さを絵に描いたような男だ。その男が、アベルの名を呼んだ。

 アベルは知っていた。その男の名を。


「ビリー……ビリーなのか?」

「アベル君……血が……」



 ビリー・フォルカス

 平民でありながら、貴族子女ばかりの魔王軍士官学校へ、しかもトップエリートのSクラスに特待生として入った男。

 高い潜在力を持ち、実際に魔法を行使できる者の中で千人に一人いるかどうかの希少スキルを持っている存在。

 Sクラスを出たトップエリートでありながらも、平民出身という身分や、希少スキルを激戦地で活用させる為に、国境付近の最前線へと配属された友人だ。


「ああ……あああっ! ビリー!」

「アベル君!」

「ビリー、頼む! 助けてくれ!」

「こ、この方は、アベル君のメイドの……」


 鮮血に染まったローラを見て、ビリーが驚きで目を見開いた。


「す、すぐにボクのスキルで!」


 そう言うと、ビリーは両手をローラの傷口にかざす。

 希少スキルである、治癒の魔法術式発動の体勢に入った。


「ぐっ、ぐはっ……」


 ローラが苦しそうな言めき声を上げた。

 微かに残る目の光が、今にも消えそうになっている。


 ビリーの手のひらから魔力の光が放出される。

 精神を集中させ、傷口に向け光を集束させるように、レーザーのように当ててゆく。


「ぐっあぁぁぁぁ! 治癒ヒーラス!」

 シュファァァァァァーッ!


 青白い光がローラの銃創じゅうそうに集束すると、背中から入った弾丸が押し出され、破壊された肋骨と内臓を修復し、傷口を塞いだ。


 バタッ!


 力を使い果たしたのか、ビリーが力尽きたように倒れた。


「ビリー、大丈夫か!」

「うっ……ボクは大丈夫だから、彼女を……」


 ビリーの体は戦闘で負傷したのか傷だらけだ。

 自分の怪我よりも、ローラを救う為に魔力を使い切ったように見える。


 ローラは、先ほどまでの苦しそうな表情ではなく、静かな寝息を立てているようだ。


「アベル君、治癒といっても傷口を塞ぐだけで、受けたダメージや流した血液は再生されないんだ。一命は取り留めたはずだけど、早く彼女を病院に連れて行かないと……」

「ああ、すぐにそうする。ありがとう……本当にありがとう」


 アベルは涙を流しながら感謝の言葉を口にした。


「何てお礼をいったらいいのか、ビリー、キミは命の恩人だ」

「約束を……したじゃないか。あの行軍訓練の時に……。ボクは、キミから受けた恩を返しただけだよ……」

「ビリー……キミは……約束を覚えていたのか」


 アベルの問いに、ビリーは真摯な顔で答える。


「当然じゃないか。今のボクがいるのはアベル君のおかげなんだ。士官学校に入学した時も、将校と問題を起こした時も、行軍訓練の時も、いつもボクを助けてくれたのはアベル君なんだ。その大きな恩を、いつか返したいと、ずっと思っていたんだ」


(ビリー……本当に恩を返しに……。前世では、誰も恩を返すどころか、恩を仇で返すヤツらばかりだった。優しくすれば付け込まれて、真面目にすれば踏み潰される。そんな世界で、いつしか俺は真面目に生きることに絶望していたんだ)


「本当に恩を返すやつがいたなんて……。自分がボロボロなのに、他人の為に尽くすやつがいたなんて……。自分より、他人を優先するやつが……。ビリー……キミってやつは……」


 アベルはビリーの手を握り、何度も何度も頷いた。

 しかし感傷に浸っているわけにはいかない。敵が迫っているのだ。


「ビリー、戦況はどうなっている?」

「アベル君……じゃなかった、アスモデウス中佐」

「二人の時はアベルで構わないよ」


 一瞬だけビリーの顔が綻ぶが、すぐに気を引き締めた。


「敵はアケロン川対岸に集結している。第四軍は武装解除したところを強襲され壊滅し、残った兵も散り散りなってしまった。生き残った兵士を編成しここまで転戦してきたけど、橋を守っていた兵もボクが最後の一人なんだ。敵は補給を終えたら再侵攻するかもしれない。すぐに移動しよう」

「ああ、すぐにアンテノーラに向かい第二軍と合流しよう」


 アベルとビリーが話していると、サタナキアがコソコソと近寄ってきた。


「あ、あの……ワシも忘れないで欲しいのじゃ」


 唐突に現れた魔王に、ビリーが腰を抜かしそうな程に驚く。


「うわぁぁっ、へ、陛下! あっ、し、失礼いたしました。魔王陛下の御尊顔を賜り恐悦至極にございます」

「よ、よい、それより早く行くのじゃ。ワシだけ置いてけぼりになったらどうしようと思ったのじゃ」


 自分が忘れられていないか心配なサタナキアだった。


「陛下を忘れるわけがないでしょう。さあ乗ってください」


 アベルが彼女を車に誘導する。



 逃走劇の主人公は四人となり、向かうは第二軍が守備するアンテノーラへ。

 防戦一方の魔王軍。

 果たして、アベルたちを待ち受ける運命とは――――



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