プロローグ
王都デスザガート最終防衛ラインは陥落しようとしていた。
魔王軍の防衛ラインは相次ぐ失策により次々と落とされ、人族の侵略により魔族の村々は蹂躙され悪逆非道の限りを尽くされた。今まさに、最後の砦が落とされ人間共が王都へとなだれ込もうとしているのだ。
「魔王様、もうこれまでです。お逃げください……」
側近の悪魔が力なく告げる。
「嫌じゃ! 皆を見捨ててワシだけ逃げるなどできぬ!」
魔王こと、サタナキア・ルシフェルが答える。魔王などと呼ばれているが、少女のようにしか見えない。
魔王軍の相次ぐ失策は、この少女の無茶な命令によるところが大きかった。
悪魔のトップである魔王でありながら、『人間との共存』だの『友愛』だのとふざけたことを言っている内に、次々と人族の侵略を受けこのありさまなのである。
「どうすれば良いのじゃ……ワシが間違っておったのか……」
サタナキアは今にも泣き出しそうな顔で俯く。
「魔王陛下よ! だから俺の軍学を使うべきだったのだ! 今からでも遅くない、俺を最高司令官に任ぜよ!」
そう声をかけた男、アベル・アスモデウスは転生者である。元は佐々木透矢という名前で暮らしていたが、ある理由で転生し上級悪魔となったのだ。
アベルは人間を憎んでいた。人間共に復讐し、人類滅亡させるのが彼の望みだった。
彼は思う――
俺が最高司令官になっていれば、こんな無様に敗走に敗走を重ねるような事態にはなっていなかったはずだ。これが最後のチャンスだ。
「さあ、俺のアスモデウス流軍学を見せてやる。さあ!」
「し、しかし……そなたは酷いことをしそうだし……」
まだ、サタナキアは迷っているのだろうか。
「まだそんな甘い事を言っているのですか! 敵はもうそこまで来ているのですよ! あなたの失政で、いったいどれだけの同胞が死んだと思っているのです!」
「お、おい、アスモデウス卿、魔王様に失礼ですぞ」
魔王の側近が見苦しい程に狼狽してアベルを止めようとする。
「あなたは黙っていて下さい! このままここで人族に蹂躙され悲惨な最期を遂げる気ですかな?」
「う、うう……」
側近は何も言えず引っ込んだ。
「わ、わかった……そなたを最高司令官である、魔王軍総司令官に任ずる。魔王の有する全ての統帥権をそなたに与える。それにより階級を大元帥とする。全軍を率いて王都を守ってくれ」
「謹んで最高司令官の任、お受けいたします」
アベルは、仰々しくサタナキアに平伏した。
「それで、どうするのじゃ?」
「先ず、城に備蓄してある油を集め砦まで運びます。グツグツに熱していれば尚良い! それを城壁に張り付いている敵目掛けてぶっかけるのです! 更に火矢を放ち一網打尽に!」
「そ、そんな酷い事ができるかー! おぬし悪魔かー!」
「もちろん悪魔です! 私は魔王軍総司令官です!」
くそっ、この小娘め! この期に及んでまだ甘っちょろい事を――――
「分かりました。それでは作戦変更しましょう。人族にもあまり被害を出さない作戦です」
「おおっ! それは良い。すぐ取り掛かってくれ」
「はい、では魔王様、取り敢えず、このバケツにウ〇コをして下さい!」
「はあぁぁぁ! はぁぁ!? な、何を言っておる! 乙女のワシに、う、う、ウ〇コをせよとは……」
「まあ、それは冗談ですが。すぐに準備して欲しい物があります」
「そ、そ、そなたの冗談は分かりづらいんじゃ!」
魔王軍総司令官になったアベルが宣言する。
「さあ、ここからが反撃の時だ! この俺の知識を総動員して、この絶望的な状況を覆してやる! そして、人類滅亡だ!!」
この物語は、異世界転生して上級悪魔となった主人公が、人間界にいた時の知識を使って人類滅亡のその時まで走り続ける魂の軌跡である――――
お読みいただきありがとうございます。
この作品は、主人公がどん底から魔王軍総司令官に上り詰めて国を救う物語です。前世でイジメやパワハラを受け悲惨な最期を遂げた主人公が、上級悪魔の貴族に転生し様々な理不尽やゴミ共を蹴散らし、真の英雄へと上り詰めて行くお話になります。
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