表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/143

国境の街リセッシュ Ⅳ

 それぞれの仕事をするため、アデルとアセリアは部屋を後にした。

 俺はカインと砦の兵士、侍従と共に部屋へ取り残される。


 決して何か当てがある訳ではない。

 見た目は子供、頭脳は大人という言葉がある。

 確かに俺は前世を含めて48年生きているのだから、それに当てはまらないこともないだろう。

 ディストランデでは14才で成人とする国が多いらしいので、その価値観で言うと見た目は成人、中身はおっさんといったところか。


 そんなことを言ってる場合でもなく、アセリアのためにもなんとしても犯人を探さなければいけない。

 自由に動けないのであれば、安楽椅子探偵よろしく情報から推理するしかない。

 しかし、推理だけで犯人像を探し出すためには一つ、大きな障害があった。


 それは魔法の存在だ。


 魔法といえど、決して万能ではない。

 しかし、遥かな高みに到達した魔法使いは、ほぼ万能と言ってもいい程の伝説が残している。

 前世の言葉で、「極めて発展した科学は、見る者によっては魔法と変わりない」という言葉があるくらい、極めて発展した科学に準えるようなものなのだ。

 それに加え、俺は魔法を見ることができない。

 見るだけでなく、魔法で発せられた現象であれば、それが光だろうと衝撃だろうと、音だろうと匂いだろうと、そして癒しの力であろうと、関与することができないのだ。


 しかし、犯行に魔法が使われていたら俺にはどうすることもできないか?と、言われれば、決してそうではない。

 実はある意味、俺はこの世界で、魔法を誰よりも深く理解しているとも言えるのだ。

 そう、ここでやっと、俺が唯一異世界転生者として手に入れることができた、超絶チートスキルが発動する。

 間違いなくこのディストランデで、俺だけがただ1人だけ持つ、チートスキル。


 それは、

「21世紀の日本で、大学を卒業出来るくらいの基礎学力」......だ。


 いやいや、これが結構馬鹿にできないのだ。

 そのチートスキルは、魔法という現象を理解するのに非常に役に立った。


 かつて俺は魔法を理解しようと、あわよくば魔法の力や魔法の目をを手に入れようと、現代の基礎知識を活用して可能な限り解析したのである。


 例えば魔法で火を起こすことは可能だ。

 実際、昨日の夜に小休止を取った際、たまたま前の旅人が残した炭跡へ、魔法で火を付けていたはずだ。

 ディストランデの常識で考えれば、魔力が炎を産み出したと言われているが、チートスキル「21世紀の日本で、大学を卒業出来るくらいの基礎知識」でそれを解析すると、別の側面が見えてくる。

 炎を産み出すためには、まず、燃える物体が必要であり、それを発火させる「熱量」が必要だ。よく燃える紙に、熱量をどんどんと足していけば、いずれ炎になる。

 熱を吸収しやすい黒い紙に、虫眼鏡で太陽光という熱量を集めていけば、炎という現象が産まれるということだ。


 つまり、例えば昨夜の炭跡に火を付けるような場合、魔力で産み出しているのは、炎ではなく熱量であるということがわかる。


 それを踏まえて状況を整理すれば、今回の件でもいくつか浮かび上がって来ることがあるはずであり、障害になると思われる魔法の存在が、解決の糸口になる可能性もある。


「ホシを挙げる為にまず必要なのは、正確な情報だ。現場へ行って確認して欲しいことがある」

「ホシとは何のことですか?」

「いや、今その話しはいいんだ。俺がこれからいうことを確認してきて欲しい」


 アルナーグから連れてきた守護騎士と、砦の兵士達に、細かく調査の指示を出していった。

 先ずは、小火を起こした荷車の状態を確認してもらう。


「時間がないから、本当はカインも情報を集めに行って欲しいんだが......」

「言わなくても解ってもらえると思いますが、それはもちろんできません」

「だよな......」


 アゼルと違い、年が近いこともあって若干砕けた口調になる。

 アセリアがいても、こんな言葉は使えないだろう。


 カインは俺の護衛について4年ほどになる。

 俺が14才の成人を迎えた時、背格好が近い守護騎士は必要になると言われ付けられた者だ。


 前世風の言葉で言えば、影武者というやつである。

 俺は黒髪、カインも黒髪と言えなくもないが、やや赤みががっている。身長は同じくらいでも、カインの方が騎士として鍛えてる分かなりガッシリとしている。

 近くで見れば、2人を見間違えることはまずないだろう。


 しかし、影武者とはそんな程度で十分役割を果たすのだ。

 前世と違い、ディストランデには写真がない。

 口頭で俺とカインの特徴を伝えようとすれば、両方とも黒髪の青年になるのだ。

 そっくりな外見を揃えることにはあまり意味はなく、それよりも忠誠心があり、腕が立つ者を用意する方がよっぽど重要なのだ。


「ユケイ様、言わなくてもお分かりかと思いますが、もしや賊は思ったよりも近くにいるかも知れません」

「わかってる......」


 そう、全体の旅程を把握して妨害している可能性もある。

 その場合、犯人は当然アルナーグからの同行者9名の中の誰かの可能性も高い。

 アゼルもアセリアもそのことを口にしなかったが、今この状況の護衛をカインと砦の兵に任せているということは、信頼できる同行者以外を俺から離す為の配慮だろう。


 しかし、同行者である場合、俺に何か重大事態が起きた時、連座で処罰される可能性がある。

 それを考慮すれば可能性は低いのかも知れないが、どちらにせよ油断することはできない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ