神の奇跡と人の奇跡 Ⅲ
ミコリーナの理解は置いておいて、とりあえず俺は刻死病の正体を探る為の情報を集める。
様々な情報が集まったが、事態を裏付けるのに役立ちそうなものは、一つ、刻死病の発生は春から夏にかけてが多く、特に冬の間に発生する事はほとんどない、という事。
これは、元の宿主と思われる巻貝、いや、まだ巻貝と確定したわけではないのだが、なんであれその生物が冬の間は冬眠している、もしくは越冬できない生物であり、人間との接触が少なくなる為だと予想できる。
次に、刻死病が発症する箇所だが、レポートによれば全身に現れると書いてあったものの、細かく聞き込みをすると子どもは全身に現れ、大人になるにつれて手や足など、身体の先端よりに現れる割合が高い事がわかった。
これは、元の宿主と接触する確率の問題で、子供は全身を用水に浸かり遊ぶような事があるが、大人は農作業を行う以外、全身を用水路に浸かるような事をしないからだろう。
レポートには、とりあえず刻死病から回復したというケースも乗っていた。
それは、一つは幹部が手足の先端だった場合、その部分を切り落とすというものだった。
つまり、手首に発病したら手首を切り落とす、もしくはかなり深いところまで抉り取るという事なのだが、そんな事をしたら感染症で亡くなる可能性もあり、そもそも胴体に発症した場合はどうするのか。
そこらへんの人体実験の成果がレポートには纏めてあり、おそらく貴族や王族がかつて刻死病にかかり、そういう実験を行なってまで治療を試みたんだろう。
後は、刻死病によってできる痣はほとんどの場合が2つまでで、2つ以上できる事もあるがそれは極めて稀な事らしい。
情報がだいぶ出揃ってきたので、少しまとめてみよう。
ウィロットに植物紙とペンを用意してもらい、インクをつけて持たせてもらう。
いちいちやって貰わなければいけない事に突っ込むのはもうやめよう。
一つ、身体に1つ、又は2つの痣ができる。
一つ、痣は徐々に大きくなり、数日かけて拳大程のになり、消える。
一つ、微かに痒みがあるくらいの症状だが、2つの痣が重なった場合には痣が全身に現れ、衰弱死に至る。
一つ、痣が大きくなっても、癒しの奇跡を施す事により黒子状まで小さくなるが、消える事はない。
そして、過去にヴィンストラルドで調査されたレポートの内容と、ミコリーナから聞き取りをした内容。
(もしかしたら、病気で死ぬ事を防ぐのはけっこう簡単かも知れない・・・。けど、この方法はミコリーナには使えないな・・・)
「ユケイ様?」
考え込む俺に、不安そうにミコリーナが声をかける。
「あ、すいません。マリー、ウィロットを呼んできてくれ」
俺は側に控えていたウィロットに声をかけ、アゼルの身の回りと様子を見に行かせていたウィロットを呼び寄せる。
「ウィロット、マリー、あとミコリーナ殿、今からわたしが言う物を手に入れて下さい。おそらく鍛冶屋や職人街に行って作らせてなければいけない物もあるでしょうが」
俺は植物紙に、細かく必要な物を書き出していく。
集まった一同は、書き込みを見て不安そうに顔を見合わせるばかりだった。
「マリー、これを書き写して皆に配ってくれ。大きさや材質が重要だから、特に間違えないように」
「はい」
マリーは俺からメモを受け取ると、自分の執務机へ向かった。
「ユケイ様、このミールって言う単位はどういう意味ですか?」
マリーから受け取ったメモに目を通し、ウィロットが口にした。
「ああ、シールの下の単位だよ。100シールで1リールはわかるだろ?10ミールで1シールだ」
「なるほど、10ミールで1シール・・・」
確かにそこまで厳密な縮尺を求められる事もないので、何かの職人でもなければ知らなくても仕方がない。
ミコリーナは当然わかっていただろうが、様子を見る限りマリーもわかっていたように思える。
彼女の基礎教養の高さは、いったいどこから来ているのだろうか?
そんな俺の視線に気づいたのか、マリーはパタパタと机を離れ、何事も無いように筆記具を片付ける。
「随分とサイズや材質が細かく指定されてますが・・・」
「はい、非常に重要ですのでその通りにお願いしたいです」
「それでは職人街へ行かないといけないですね」
ミコリーナの職人街という言葉に心が躍るが、当然俺は行く事などできないだろう。
ああ、アルナーグにいた頃は離宮暮らしといえど、工房もあったし書斎もあった。まだまだ自由があった事を思い知らされる。
そもそも、この時代において本当に自由な人などいないのだ。
いや、思い返せば、前世でも同じだったのではないだろうか?
「まったく、冒険者になりたいよ」
まあ、冒険者にも実際は自由などないのだろう。




