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魔学と化学 Ⅰ

「それでは、ユケイ王子はイザベラ姫の保護を求めるということですね?」


 あの事件の翌日、新しく用意された部屋で、細身の執務官ティナードは言った。

 鋭い目つきを伏せ、何か考え込むような仕草をする。


「今回の件は、現時点では筆頭侍従による犯行であり、主であるイザベラ姫は関与していないとされています。しかし、王族へ向けられた害意に対しては、相応の処罰が必要です」

「それはもっともだが、ローザは貴族だ。貴族が責任を取って罰せられるのであれば、連座でその主が罰を受けるは必要ないはずだ。それに、俺は王族とは言っても王位継承権は与えられていない。だから、俺への害意は、アルナーグ王家へ向けられているわけではない」


 ティナードは眉間の皺を、さらに深い物にしていく。

 理論としては、かなり厳しいのはわかっている。

 しかし、イザベラは十分に苦しんだのだ。これ以上罰を与える必要は無いはずだ。


「ではティナード殿、イザベラ姫が罰せられて、その結果はどうなりますか?リュートセレンは姫を失い、その上でまだ人質を差し出せと、使者を送るのですか?それこそリュートセレンとヴィンストラルドの間に禍根を残すことになります。そして、私はアルナーグ王子であり、イザベラ姫の従兄妹にあたる関係だ。それがどういう意味かわかりますね?」


 ティナードは深くため息を吐いた。


「ユケイ様は魔力は見えぬが先を見通す目は誰よりも鋭いという噂でしたが、どうやら真のようですね。......私の一存では返事はできませんので、一度持ち帰らせて頂きます。最後の言葉は、聞かなかったことにしましょう......」

「すいません...... ありがとうございます」

「害をなした相手の主を助けようとは、私には理解できませんが、それが血縁というものなのでしょうか」


 そうしてティナードは、部屋から出ていった。


(血縁...... だからなのかな...... 少なくとも今回の件で、イザベラは俺を恨んでるはずだ)

 

 どっと体から力が抜け、椅子に体が深く沈み込む。


「安全のためには、ユケイ様に怨みをもつイザベラ姫にも処罰を受けてもらった方がよろしいのではないでしょうか?」


 マリーがそう呟く。


「マリー、発言の許可を求めなさい。しかし、それに関してはその通りです」


 2人の発言に、ウィロットが涙目になる。

 マリーはカインに嗜められるが、だいぶ棘が取れている気がする。

 いつのまにか、カインとマリーは随分と仲良くなったものだ。


「それは違う。今の状態で私に敵意を持つのはイザベラだけだ。しかし、イザベラに何かがあった場合は、リュートセレン王家全体を敵に回すことになる。さらに減免が通れば、リュートセレンの姫を守ったのは俺となる」

「なるほど、確かに」


 カインは納得したようだ。

 ただ、俺はそんなことより、これ以上イザベラには何も失って欲しくなかったのだ。


「それよりマリー、君は何処で剣を習ったんだ?」


 俺の質問に、カインとウィロットが興味深げにうんうんと頷く。


「剣ですか?何処でも習っておりません」


 そう言うと、そそくさと離れていった。

 カインとウィロットは、「そんな筈あるか!」と言わんばかりの表情でマリーを凝視している。


 そう、そんな筈はないのだ。

 バルコニーへ渡った身のこなしは置いておいても、拾い上げた剣の刃をちゃんと相手に当てたこと。

 素人には剣を振り、刃が有効な角度と威力で人に当てるなど不可能に近い。

 それ以上に、次に放った一撃だ。


 現代の知識を持つ俺は、脇の下に急所があることは知っている。

 マリーはそれがわかった上で、女性としても小柄である自分と身長差がある相手に向かって、素手で的確に急所を拳で撃ち抜き、一撃で脇に密集する神経を十分に圧迫させ、さらにローザの肩を脱臼させたのである。


 そもそも経験のない人間が、いくら敵意を向けられたとはいえ、致命傷となる一撃を繰り出すことができるのか?

 少なくとも前世も含めて人に危害加えた経験のない俺には出来ない。


「マリーは魔法は得意なのか?」


 俺はこそりとウィロットへ問いかける。

 俺の周りでは、基本的に魔法が使われることは無い。

 それは、俺に対しての気遣いという面もあるが、誰かが魔法を使い何かをしたとしても俺はそれに気が付けないので、不用意な危険に巻き込まれないようにという配慮からだ。


「どうでしょうか?火を起こすのは魔法を使っていないですけど。明かりは魔法を使いますね。特に得意でも苦手でもないと思いますが?」


 日常生活を送る時に使われる魔法はだいたい限られていて、それは「精霊の加護」と言われる区分のものが多い。

 常に周りにいる精霊の力を借りて、奇跡を起こすというものだ。

 

 まあ日常の中で、誰かの魔法の得手不得手を知る機会はほとんど無い。

 炎の加護を受けず光の加護を受けているというのは、リセッシュの犯人像と一致はするのだが、俺はもうその件はどうでもいいと思っている。


 そういえば、昨日騒ぎが収まった後にマリーに聞いてみた。


「何故あんな危険を冒してまで、俺を助けてくれたんだ?」


 マリーの身のこなしだったら、隣のバルコニーへ飛び移るなんて簡単なのかも知れないが、万が一落下した場合は無傷では済まないし、飛び移る最中に妨害に合う可能性がある。

 飛び移った後も、どんな危険があるかはわからない。

 そもそも彼女は、身の回りであって護衛騎士ではないのだ。


 そんな俺の問いに対して、マリーは不思議そうな顔で答えた。


「主を危険から守るのが、そんなに不思議なのですか?」



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