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赤毛の少女 Ⅺ

 窓の外がすっかりと暗闇に包まれる頃、喧騒は落ち着き、さまざまな事態が収束を迎える。


 アゼルはバルコニーから落下したが、下にあった植え込みがクッションとなり、命に関わるような負傷はしていなかった。

 落下や植え込みの枝などで負った裂傷は、治癒の奇跡で多少の対処はできたが、複数箇所にわたり骨折しているため、慎重に経過を見守る必要があるらしい。

 治癒の奇跡は自分の回復を高める効果があるが、深い傷や病魔、骨折などの怪我にはほとんど効果が認められない。


 マリーは、衛兵がイザベラの部屋へ押し入った際には、既に姿を消していたらしい。

 そして、俺達も気づかないうちに、部屋へ戻っていた。


(こいつほんとは忍者じゃないか?)


 今回の件は、当然ローザから仕掛けられたことだ。

 しかし、平民であるマリーが、リュートセレンの貴族であるローザに対して行ったことに対して咎が出る可能性がある。

 もちろん何か容疑はかかるようで有れば全力で守るが、マリーは今回俺を守ってくれただけだ。

 不用意に事件に関わらせない方が、マリーを巻き込まずに済むのではという判断だ。


 そして、ローザは自分が行ったことを全て認め、俺に対して呪詛の言葉を吐きながら、連れられていった。


 イザベラがどうなったかは、最後までわからなかった......


 俺は衛兵に顛末について詰問され、余りにも荒唐無稽な話しに疑われもしたが、結局ローザの持ち物から毒物が見つかり、事件は解決を見た。


 その後、俺達は別の部屋を用意され、疲れ果てた俺は、身を潔める手間もかけずに眠りについた。


 翌日、目を覚めた後も、マリーの姿は無かった。


「結局...... なんだったんだ......」


 本当になんだったのだろう。

 ローザの逆恨みと言えなくは無いが、俺が産まれた事が、リュートセレンの幸せな姉妹の人生を、大きく変えたことは間違いない。


 幸せな姉妹......


 シスシャータ、アシスシート、そしてローザ。


「お母様も......俺のことを怨んでいるのだろうか......」


 そもそも、魔力の目がないということは、それほどのことなのだろうか?

 産まれながらにして、何かの障害を持つ者はたくさんいる。

 それを、ただ単に「仕方がない」と思えるのは、俺の感覚が前世に帰属しているからなのだろうか?


「それか...... 俺が知らない何かがあるのか?」


 何か、ゾクリとした物が背筋を走った。


「ユケイ様、失礼します......」


 ウィロットが、手に何かを持って現れた。


「あ、あの...... アルナーグから手紙が届きました」


 ウィロットから受け取った手紙は、以前俺が送った物の返事だった。


「ああ、ありがとう...... 少し席を外してくれ」


 ウィロットは「はい」と返事をし、一礼して自室へ戻っていった。

 カインも俺から離れることは無いが、少し距離を空けて視線を外してくれた。


 母からの手紙は、自分の近況に始まり、俺の身を案じる内容、そして、最近は趣味としてリュートを弾き始めたという。妹が得意だったという一文が添えられていた。そして、手紙の最後は、こう締め括られていた。


「追伸

 どうかローザへお伝え下さい。

 わたしは今、幸せに暮らしています。

 いつか平和な世になったら、一緒に故郷の歌を歌いましょう。


 シスシャータ・アルナーグ」


 

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