王都ヴィンストラルド Ⅴ
それから数日、部屋で何事もない日を過ごす。
俺もイザベラも相変わらず呼び出しがかかることは無い。
お互いにすることもない為、1日に数回バルコニーで言葉を交わす。たわいもない会話の中で、リュートセレンは湖の辺りにある美しい城を持つこと、音の魔法の研究が盛んなこと、楽器の生産が盛んであること、気候や風土、いろいろな話しを聞く。
そして、イザベラの筆頭侍従であるローザも、母であるシスシャータの姉妹にあたるそうだ。
つまり、俺にとっての叔母にあたるのだ。
同じ離宮内でも普段生活する部屋はもちろん分かれていたが、食事やお茶を一緒にとる機会は多く、その都度いろんな話しをした。
しかし、こうしてイザベラと言葉を交わすと、母からリュートセレンの話しはほとんど聞いていなかったことがわかる。
「今度機会がありましたら、リュートセレンの歌を披露差し上げますわ」
そう言って、今日の会話は終わった。
イザベラの話によると、彼女の客室でも侍従用の部屋が4名分しか無く、身の回りの数がやはり足りなかった。
男の俺とは違い、やはりイザベラは姫だ。身の回りだけでも4名は欲しいが護衛を減らすわけにはいかない。そこで、街で身の回りを雇って、城まで通わせているらしい。
ついでにイザベラの筆頭侍従であるローザが、街からの通いの者の給金は、自分もちだと教えてくれた。
それが許されるなら、ウィロットの手間はだいぶ減らすことができる。そもそも、それならアルナーグから連れてきた侍従は、街に住まわせて城まで通わせたのに。
まあ、女性の身の回りはもともと2人しか連れていなかったから、結果は同じだっただろうが。
「では、我々もそうした方がよろしいですな。1人は経験が豊かな者がいいですが、経験が豊かである程度の年ですと街を離れなければいけなくなった時に困ります。経験豊かな者が1人と、ここに住み込みながら仕事ができる女性が1人。ウィロットと同じ部屋を使ってもらいますので」
アゼルがその他の条件を書き出し、また手紙にする。
やけに協力的だが、身の回りがいなければアゼルも困るのだ。
条件は、住み込みが出来る成人済の女性が1名、そして、通いで経験があり、手紙が書ける程度の読み書きができる者、こちらは男女を問わない。もちろん住み込みが出来る女子の経験豊富な身の回りが見つかれば一番だ。
ヴィンストラルド側に嫌な顔をされるかとも思ったが、商業ギルドを通して募集するならという条件で許可が降りた。
ヴィンストラルド側も、侍従を自分で集めてくれるなら、それに越したことはないのだろう。
そしてさらに数日が経ち、侍従希望者が面接にやって来る日になった。
アセリアがいない現状、面接を俺とウィロットで行わないといけないのだ。
もちろん2人とも面接なんてしたこともなく、何を基準に選べばいいのか全くわからない。
恒例となったバルコニーでの会話の際、背に腹はかえられず、俺はローザへ声をかけた。
ローザはイザベラ以上に母とよく似ていた。
妹にあたるそうだが、むしろ母より年上に見える。穏やかそうな顔つきだが、時折厳しい視線を見せるのが印象的だった。
「......そうですね、まず住み込みをここで確保するのは非常に難しいと思います。特に、ユケイ王子のお立場上、頻繁にお暇は出せないかと。お城勤めは不敬で処罰されることも多々ありますので、若い希望者は少ないのではないでしょうか?むしろ、連れ合いもいないわたくしのような者でしたら、住み込みは叶うのではないでしょうか?」
ローザもイザベラに着いて国を離れているのだ。確かに家族がいたら難しいかも知れない。
アゼルの様に、家族を置いてまで供をしてくれる方が稀なのだ。
「今いる身の回りの侍従が若い女性なので、できれば住み込みは若い女性をと思っているのですが......」
「そうですね、例えば両親を亡くした者ですとか、孤児院の者でしたら叶うかも知れないですね」
なるほど、世間に疎い俺には、非常に参考になる意見だった。
今回の面接で希望の人材が見つかるとは限らない。しっかりと吟味する様にと、アドバイスを受ける。
ローザはアセリアに似た、やり手の空気を感じる。
イザベラが産まれた時から、ずっと彼女に付いているらしい。未婚のローザにとって、イザベラは我が子みたいなものなのだろう。
そうこうしているうちに、面接の時間は近づいてくる。
「ユケイ様、差し出がましい申し出でしたらお断り頂きたいのですが、もし宜しければ面接の際、わたくしがお手伝いいたしましょうか?」
「えっ?それは......」
俺は言葉の意味を理解出来なかったが、イザベラは察した様で、パッと笑顔を見せる。
「それはいい考えでございますね。ローザをお貸しいたしますので、面接を一緒にされてはいかがですか?」
俺は慌ててアゼルを振り返る。
アゼルも突然の申し出で、目を丸くしている。
そもそも他の部屋へ出入りしていいのかと思ったが、主は許可が降りないが、侍従であれば特に問題はないらしい。
「事情はわかりませんが、そちらには今、面接をされる筆頭侍従がみえないご様子。準備も要りますので大変でしょう?」
「申し出は有り難いですが、そこまでして頂くわけには......」
「従兄妹ですもの、それくらいのご助力はさせて頂きますわ。その代わり、今度こそお茶会をいたしましょう?アルナーグ国の美味しいお菓子で、報酬は手を打ちます」
嬉しそうに笑うイザベラ。
ローザは既に何かを考えている様子だ。
アゼルが激しく首を縦に振り、ウィロットは涙目で縋るようにこちらを見て来る。
カインは相変わらず、我関せずだ。
「申し訳ありませんが、是非よろしくお願いします」
「ええ、お茶会楽しみにしておりますね。あ、わたくしもローザも、胡桃が食べれませんの。お計らいくださいませ」
「ええ、必ずご恩はお返しします」
アレルギーでもあるのだろうか?
そんなこんなで、俺たちは強力な味方を手に入れた。




