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国境の街リセッシュ Ⅵ

 しばらくして、荷車の確認を依頼した守護騎士と砦の兵士が戻ってきた。

 カインを側に控えさせ、報告を受ける。


「どうだった?」

「はい、最初にユケイ様が仰ったような状態でした。」

「そうか......」


 俺は、2つの状態を仮定して、現場の確認を依頼した。


 まず荷車の下の状態だ。

 荷車の下には何か焼け焦げた物があり、荷車の台車の下は煤で真っ黒になっていたらしい。

 その中央部分が焼け崩れて、上の車軸などは中央に向かえば向かうほど、損傷が激しくなっていた。


 これが何を意味しているのか。それは、放火自体は、魔法以外の方法で行われたということだ。

 もし魔法で火を付けるなら、荷車の横に立って、荷車の台車部分、もしくは荷物に直接炎を発生させる。

 しかし、魔法以外の方法で炎を起こす場合、まずは小さな火種を燃えやすい物に移し、炎を大きくしなければいけない。


 今回の犯行は、状態から推測するに、荷車の幌、もしくは何か炎が出やすい物に火を着け、それを荷車の下に投げ込んで荷車を燃やしたのだと、予想される。

 犯人は炎の加護を受けることができない者だという可能性高い。

 

「それで、例の物は?」

「はい、こちらです」


 守護騎士は侍従に何かを手渡し、侍従がそれを俺の元まで運んでくる。


「場所は?」

「はい、発火シリンジは火口箱に入ったままでしたが、火打ち金は何処にもありませんでした」

「そうか......」


 俺はひとまず、胸を撫で下ろす。

 ここまでの情報で、アルナーグから同行してきた9名の中に犯人がいる可能性は、だいぶ少なくなった。


「他に気づいたことがなければ、同じことをアセリア達にも報告を。それが済んだらもう一度調査に出てくれ。犯人はアルナーグ以外の国の者の可能性がある」


 短く返事をすると、守護騎士と兵士は部屋を後にした。

 入れ替わるように、冒険者ギルドへ行っていたウィロットが部屋へ戻る。

 アセリア達へは、既に報告を済ませた後らしい。


「ウィロット、報告を」

「はい、雪解けの候ですから、冬の間に休んでいた冒険者達もたくさん仕事を求めてギルドへ来ていました。等級が高い者も数名いましたし、身元が確認できる者で人数は十分確保できそうです。あと、焼けてしまった荷車の代わりはなんとかなるそうです。精度の確認はこれからですが、問題なければ車輪なども明日の朝には準備ができるそうです」

「わかった」

「はい...... あの......、発言しても宜しいでしょうか?」


 ウィロットが少しカインに視線を向ける。

 侍従見習いの立場なので、求められていない発言は許可がなければ許されない。

 俺は視線で、カインに許可を出すように促す。


「発言を許す」

「ありがとうございます。あの、ユケイ様、何か解ったことはございますでしょうか?......アセリア様はどうなってしまうのでしょう?」

「ああ...... もし今日中に準備が整い、事件も解決することができたら、なんとか期日に間に合わせる方法はある。しかし、アセリアの様子だと期日に間に合わなくても確実な方法を取るのではないだろうか」

「そんな......」


 部屋に重い空気が流れる。


「そういえばユケイ様、先程アルナーグ以外の国の者と言っておりましたが、どういうことでしょう?」

「いや、それはその確率が高いというだけの話しだ。しかし、少なくともアルナーグから同行してきた中には、犯人がいる可能性は少ないと思っている」


 理由はそう複雑ではない。


 火を付ける道具は、倉庫内にあった別の荷車の物が使われていた。

 そして、その火口箱には、火打ち金と発火シリンジが入っていたはずだ。

 もしあの状態で火をつけなければいけない場合、可能であれば第一に魔法、そして第二に発火シリンジ。火打ち金は極力使いたくないだろう。


 しかし、火打ち金が無くなっていることを考えると、それを使ったのだろう。


 魔法は使えないとして、火打ち金は深夜に使えば高い金属音が鳴ってしまう。

 深夜に使えば、倉庫の警備をしている兵に気づかれる可能性が高い。

 一方、発火シリンジは使い方を誤らなければ大きな音がすることはない。


 発火シリンジの仕組みは、筒の中の空気を一気に圧縮することで、圧縮された空気が発生させる熱で、火種を作るというものだ。

 しかし、発火シリンジは近年俺が開発したもので、ディストランデ全域にはまだ広まっていない。

 今回同行した者は全員使い方を知っているし、軍務で火を使うこともあるので、砦の兵達や、その関係者も知っている可能性が高い。


 知らない者からしてみれば、こんな小さな木の筒で火種が作れるなんて想像もつかないはずだ。

 火口箱に入っていたとしても、気にも留めないだろう。


 俺の説明を受け、ウィロットは目を輝かせる。


「ユケイ様、すごいです......」

「いや、そんなことはない」


 ウィロットの真っ直ぐな視線に、俺は少し気恥ずかしさを感じる。


「しかし、それならそれで少し厄介ですね。犯人が内部の人間だと分かれば調べる人間も少なくて済む。外部の人間でしたら町中から容疑者を探さないといけません」

「ま、まあそうだけどさ。裏切り者が仲間にいないと解ったんだからいいじゃないか」

「私としてはユケイ様の安全を確保するのが第一です。裏切り者だろうと何だろうと、早く犯人が捕まってくれた方がありがたい」

  

 ウィロットがじっとりとした視線をカインに向けた。

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