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オペレーション「セカンドライトニング」

注意!

「才の無い貴族と毒見少女の憂鬱」の続編的位置付けの作品ですが、時系列、キャラ名、年齢、年表、イベントなどが矛盾しています。

 才の無い貴族と毒見少女の憂鬱を軸にした修正版「才の無い貴族と悪魔王」をご覧ください。

 よろしくお願いします。

「この世の中には、二種類の人間がいる。それは、童貞か非童貞かだ!」


 俺、村上拓哉はそう叫んだ。


 そこは怪しげな夜の街、背後には煌びやかなネオンが輝き、行き交う人からはゴミを見るような視線を容赦なく投げつけられる。

 客引きの黒服から受ける終わったんならサッサとどっかいけ!という態度も、今の俺はスルーすることは簡単だ。

 なぜなら俺は今、まさに今さっき!童貞を捨てたのである!

 いや、ここは俺の相手をしてくれた90分3万8千円の恋人、「らぶえんじぇる」のアケミちゃんに童貞を差し上げたと言おう。


「......気持ちよかった」


 夢のような90分間だった。

 初めて触る女の子の体は、どこもかしこも柔らかかった。


 俺とアケミちゃんの出会いも、決して障害がなかったわけではない。

 第一印象は、「え?ほんとに22才?」だった。


 (ま、まあ、女の子は化粧で変わるからな)


 受付で見たアルバムには、確かに22才と書いてあったのだから間違いないだろう。

 ぱっと見22才からひとまわりくらい年上に見えるが、まあ、ね、きっと22才だ。

 あとなんとなくアルバムよりひとまわり?いや、ふたまわりくらい太く見えるし、なのに胸だけはなぜか小さいという奇跡の体型だったが、それはきっと噂に聞く「寄せて上げる」というやつだろう。

 寄せて上げる魔法のブラがもたらした奇跡の写真......

 

 そんなこんなで2人の出会いには障害(アルバム詐欺)もあったが、彼女が俺のワイシャツのボタンを外し、にっこり微笑んだ瞬間に俺は恋に落ちた。


「好き......」


 そこから先、愛し合う2人に言葉はいらないのだ。


 そしてあっという間に時は流れる。無慈悲なキッチンタイマーの音に俺たちは引き裂かれ、そして天使達の棲家を後にしたのである。


 アケミちゃんと愛を語らい、再会の約束手形でもある名刺を交換し、ほのかな石鹸の香りと股間からは湯気を立ち上らせる俺は、ほっと胸を撫で下ろしながら時計を確認する。


「24時ジャスト、どうやら間に合ったようだな......」


 そう、6月2日になったこの瞬間、俺は30才を迎えたのだ。

 

『30才まで童貞を貫くと魔法使いになる』


俺はその伝説を、僅か数分ギリギリタッチの差で回避したのである。


 頬を一筋の涙が伝う。


 素人童貞は童貞に含まれますか?みたいな、遠足におけるバナナの扱いを問うようなことはこの場合置いておこう。

 俺にはアケミちゃんのとの愛を確認し合ったレアアイテム(名刺)がある。

 そこには可愛らしい手書きの文字で、「初めてだから緊張しちゃったかな?時間たっぷり余っちゃったね!また遊びにきてね!(はーと)次回指名料50%オフ」と、書いてあった。


「ああ......、好き......」


 これはほぼ恋人と言って間違いないだろう。

 ということは、俺はほぼ素人童貞ではないと結論に至るのは当然のこと。


「長かったな......」


 思い返せば過去に童貞をすてるチャンスはあった。

 21才の時、幼なじみから恋人へクラスチェンジした妙子の部屋での出来事。デート帰りに「今日はお母さんもお父さんも、旅行に行ってるんだ」という、一級フラグ建築士顔負けのセリフ。


 俺はついにこの時が来たかと思った。


 そして脳みそをフル回転し、過去の記憶(エロゲー)を総動員し、妙子の部屋へ共に侵入することに成功。

 1ミリ1ミリ牛歩の如く距離を縮めた結果、緊張がマックスになった俺はそれをごまかす為に慣れない酒を大量に飲み、妙子のベットに大量の嘔吐をぶちまける結果となった。


 それからなんとなく疎遠になりそのまま関係は消滅。先日母親から、「妙子ちゃんのところ、男の子が産まれたみたいよ」という一言で、俺は今回のオペレーション「セカンドライトニング」の決行に至ったのである。


 俺は決してモテないわけではない。

 確かに陰キャでカッコ良くも無いが、思い返せば今までにも行ってたらいけてたというシーンはけっこうあった気がしないでも無い。

 しかし、あえて行かなかったのだ。

 妙子との一件がトラウマになっていたというのもある。

 あの地獄絵図を繰り返す勇気がなかったのかもしれない。


 しかし、それも全て過去のことだ。俺はアケミちゃんという恋人を手に入れ、30才目前で童貞を捧げ、魔法使いになるのを回避したのだ!


 現実世界で魔法使いになっても何もいいことはない。

 科学技術が発達したこの世界において、魔法使いという実利よりも、それに伴うスティグマの方がはるかにデメリットが多いのだ。


 「もしここが異世界なら、もしくはこれから異世界に転生するようなことがあるなら別だけどな!」


 横断歩道を渡りながら、感極まった俺は叫び声を上げた。 

 その声は、ネオンに輝く星の見えない狭い空へと吸い込まれていく。


 どうやら俺は、妙子を超える超級フラグ建築士だったらしい。

 背後から近づくトラックは、涙で滲んで良く見えなかった。

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