第9話 そんな事って…
どうやら俺がリーダーらしい。
って言ってもリーダーって何すりゃ良いんだ? さっぱり分からんぞ。
まぁそんな事はさておいて、他にも気になる事を確認した方がいいかな?
「まぁリーダーが何をするのか知らんけど、今はどうでも良いわ。 それよりも他にも気になる事があってな。最初説明始めた時にさらっと言ったんだけど、皆基礎体力が増えたって言ったの覚えてる?」
「確か武が井上さんに質問された時だよな? その後ステータス画面がとか言ってたよな」
「おう、それに付いても思う所があってな。 上がったのは基礎体力だけじゃなくて精神面でも何か耐性が付いてても可笑しくないって思ってる」
「武君、それどういう事?」
「あー 先ずは体力面だけど、やっぱり1時間歩き続けてれば程度の差はあれ普通は疲れるのに指摘するまで殆ど気づいて無かっただろ? それだけで判断するには弱いけどやっぱり体力は増えてると思う。 それだけじゃなくて身体能力も上がってる可能性もあるな。 由衣、心当たりないか?」
「え、私? え~と… ダメ分かんない」
由衣が分からないと答えたら別の所から答えが来た。
「もしかして、由衣ちゃんが一番最初に光って見える森を見つけた事?」
「お、正解だ朱美。 実際今見ても結構な距離があるのに最初に気づいたのは由衣だけど、俺達全員があの距離から光って見える森に気づける視力になってた事で体力を含む身体能力が上がってると思う訳だ」
俺がそう言うと4人とも考え始めた。 が、今のままでは判断材料が少ないから何とも言えない感じだよなぁ。
「考え込むのも良いけど取り合えず次、行っていいか? 精神面の事だけど」
「お、おう、いいぞ」
「で、だ精神面だけど、俺達全員がこの異世界転移に直面しても妙に冷静だったのとさっき俺が考えた一番最悪なパターンを言った後皆顔色悪く怯えてたよな? それで今はどうだ? 見る限り顔色は大分元に戻ってるけど。 それに、俺自身が一番驚いてるんだが結構物事を冷静に考えれてるんだよな」
「確かに普段の武君に比べたら落ち着いてるよね。 ふざけないし」
「そうだな、聞いた直後はそんだよそれ、って思って落ち込んだと言うかびびったてたこど今は其処までじゃないな」
「うん、今は其処まで怯えてないかな?」
晃も口には出さなかったが俺を見てしっかり頷いたのを確認した。
「まぁ、そんな訳で俺は転移して来た際に身体能力と精神耐性が増えたと思ってる。 実際は気が張り詰めててそう感じてるだけって可能性もあるけど。 で、次に言う事はかなりキツイ事言うぞ。 正直今まで話して来た以上にキツイと思う。 これを言えば発狂するんじゃ無いかと思うような内容だと思う。 それを踏まえて良く考えて答えてくれ、聞くか?」
多分俺は今、今までした事が無い程の真剣な顔をして4人を見てると思う。その証拠に4人の表情が驚いてるからだ。でも、俺の真剣な顔を見て聞くか聞かないか4人も真剣に考えてくれてるみたいだ。
何とも言えな静寂が支配して俺は時間がやたらと長く感じた。 小説とか読んでると良く出てくる表現だけど実際体験すると(あぁ、これがあの表現の感覚なのか)何てどうでも良い事を妙に冷静に考えた自分に驚いてた。
どれぐらい待っただろうか、俺は皆の返事を待つ時間が長く感じられて微妙に時間間隔が怪しいと思っていた。 そんな中一番最初に答えたのは晃だった。 晃は顔を上げ、しっかり俺を見てから
「私は、聞くべきだと思う。 武が其処まで言うって事はとても重要な事だと思うから。 だから私は聞きたい。 聞いて後悔するより、聞かずに後悔する方がイヤだから」
晃はそこまで言うと1つ深呼吸をして残りの3人を見て
「皆は私の意見に影響されないで自分でしっかり考えて。武が此処まで真剣な顔で聞いて来るって事はそれだけ重要な事だと思うから」
それだけ言うと晃は精神統一する様に目を閉じた。
すると他の3人も
「ああ、俺も聞く。 柊さんが言った事は僕も考えてた。ちと違うけど諺に『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」ってあるしな」
見ると明人は幾分顔色が悪いがそれでも覚悟を決めた顔をしてるのが分かった。 それに続く様に由衣が
「私も聞きたい、正直どんな事なのか全然想像付かなくて物凄く怖い。本当なら聞きたくないけど、聞きたくないけど、それでも! 晃ちゃん言った様に聞かずに後悔はしたくない」
由衣を見ると明人以上に顔色が悪いがそれでもしっかりと聞く覚悟がある様に見えた。 後は朱美だけかと思って朱美を見ると、俺を今にも泣きそうな顔をして見てた。
「私、武が言いたい事分かっちゃったかも。 正直今ね、物語の登場人物になって見たいと思ってた自分をひっぱたいてやりたい気持ちだよ。武ごめん、私も聞くけど多分泣くから背中貸して」
そう言うと朱美は立ち上がって俺の後ろ、背中に頭をコツンと当てて来た。
俺は残りの3人を見てもう一度確認した。
「もう一度聞く、本当に良いんだな?」
3人は朱美の様子から何か察したのか一瞬躊躇ったがしっかり頷いた。それを確認して深呼吸をしてから話し始めた。
「最初に言って置く、これはあくまで俺が読んで来た異世界物のほぼ定番のパターンであって俺達も必ずしもそうであるとは限らない。それでも心して聞いてくれ。 俺達5人は地球では既に死んでる可能性がある。 (俺はなるべく平静を装い俺自身にも言い聞かせるように)異世界転移も転生も大抵の場合、主人公は死んでから異世界に移動してるんだ。 だから俺達もそう言う可能性も大いにあると思う。 もしそうだとしたら俺達は二度と地球には帰れない。 まだそうと決まった訳じゃ無いから地球に帰れる可能性も無い訳じゃない。 だが、俺達5人は地球に帰れないかもしれない可能性も考えないと行けない」
俺は言い切ってから改めて3人を見た。 背中から小さく「やっぱり」言う小さな呟きが聞こえ背中に掛かる重さが増えて声を殺して泣き始めた。
明人は明人で泣きそうな、それで居て何処か怒ってる様な複雑な顔をして俯いてしまった。 晃は察していたのか落ち着いた顔をしていたが顔色は優れなかった。 由衣は最初驚いた顔をしていたが次第に泣きそうな顔にになり立ったかとも思うと朱美の横に移動した。 晃もそれを見て朱美の元に移動した。背中から朱美と由衣の泣き声と泣くのを堪えてる気配が伝わって来た。 そんな中朱美の「そんな事って…」と言う言葉が俺の心を締め付けて来た…
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