第6話 転移した世界では その4
帝国皇城の皇族のプライベートエリアにあるテラスで皇帝と妃、息子・娘と共に食後のお茶を楽しんでた時に空を覆う眩い光が走った。
皇帝は光が収まると直ぐに家族の安否を確認し駆け寄って来た護衛兵に手を挙げ無事を伝えた。 そして何事かを考える様に手を顎に添えた。
その様子を見た妃が
「陛下、先程の光はもしや… 」
妃から質問された皇帝は少し迷うそぶりを一瞬見せたが妃を見て答えた。
「恐らく伝承等に残る異界の者が現れたのだろう。 これから暫く忙しくなりそうだ。 お前たちには寂しい思いをさせるかもしれん。許せ」
それを聞いた妃は首を小さく振った。
「陛下は帝国の要です。帝国に事が起こると言うのであればそれを為さって下さい。わたくしはそれを支えるのが役目に御座います」
妃の言葉を聞いた陛下は頷き護衛兵に命令を出した。
「護衛兵! 直ちに軍部局長、財務局長、帝都警備部長それと法務局長を協議の間に集まる様に伝令を出せ! 事は一刻を争う急げ」
「は!」
護衛兵の一人が短く返事をし素早くテラスから出て行くのを見て皇帝は子供たちを見た。
「済まぬな、見ての通り緊急事態だ。 久しぶりにお前たちとゆっくり過せると思ったのだがいずれこの埋め合わせはしよう。 皇太子よお前は私と一緒に来なさい」
「はい、父上!」
声を掛けられた皇太子は素直に返事をして皇帝を追いかけた。 それを不満げに見つめてた娘は妃に笑われた。
「ふふ、可愛いですね。 兄である皇太子はいずれこの帝国を背負って行かねばなりません。 ならば皇帝陛下は皇太子に皇帝としてその重さを教えなければなりません。 皇太子に皇帝としての姿を見せる為に一緒に連れて行ったのでしょう、だからその様な顔はお止めなさい」
「ですが母上、お父様はいつも忙しそうです。これ以上忙しくなったらお父様が倒れてしまいますよ。 今日だって我儘を言って時間を取って貰ったのに神様ももう少しタイミングを見て欲しいです」
「あらあら、本当に陛下が大好きなのですね貴方は。 今日は私が一緒に居てあげます、さあ部屋に戻りましょう」
「本当ですか! お母様、私お母様に見て頂きたいものがあるんです」
妃の手を引いて嬉しそうに自分の部屋へと向かって行った。
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協議の間
皇帝が協議の間に入ると既に呼び出した者達は揃っていた。皇帝を確認すると席を立ち上がり深々と頭を下げた。
「皆ご苦労、面を上げ席に就け」
「「「「は!」」」」
4人は返事をして席に着いた。 その様子を見て警備部長が息が上がってるのに気が付いた。恐らく伝令が来て大慌てで走って来たに違いない。
そう言えば警備部長の部屋は遠かったかと思いながら後ろに付いて来た皇太子と共に席へ着いた。 そしてタイミング良くメイドがそれぞれの前へ紅茶を出し部屋を後にしたのを確認して協議を始める為皇帝が口を開いた。
「皆も先程の光を見たであろう、あれは何だと思うか述べてみよ」
真っ先に答えたのは軍部局長だった。
「恐れながら、先程の光は言い伝えにある異界の者が現れた際の光であると思います」
軍部局長が言うと他の3人も大きく頷き法務局長が次に答えた。
「陛下、それ以外にあの様に空を覆う光が現れる事はありません。 その様な問答をして時間を消費せず陛下のお考えをお聞かせ下さい」
法務局長はそう言うと皇帝へ頭を下げた。 それを見た他の3人も頭を下げたのを確認した皇帝は頷き、これからの事を指示すべく口を開いた。
「では之から言う事は皇帝からの勅1等命と心得よ!」
「「「「は!」」」」
「1つ、現在行ってる領土拡大の為の戦を全て止め現在地より5キメル程後退し防衛陣地を構築せよ! 2つ、法務局長は外務部長に戦争を行ってる相手国に対し一時休戦を申し込め! 3つ、神々の草原外縁部の都市の正規軍に召集を掛けよ、兵数は3千と輜重部隊・工兵千を集め指示有るまで都市で待機とする。 4つ警備部長先程の光で民が騒ぎ出すだろう、その対応を頼む。警備兵が足らぬなら軍部帝都守備隊の歩兵師団への救援要請を許可する。 軍部局長、要請が来た場合直ちに動けるよう手配しておけ。
5つ、軍部情報省は教会の監視を減となせ! 少しでも民衆を煽るような言動が見られたら即捕縛を許可する。 6つ、財務長官よ各戦線に既に出てる輜重部隊以外は出立を一時止めよ。 其の上で各戦線が停戦した場合の補給計画を見直せ。 余剰分が出るであろう武器と兵糧を外縁部都市への輸送計画を立てよ。 以上だ!」
皇帝が言い切ると一様に驚いた顔をすると真っ先に軍部局長と法務局長は異を唱えた。
「お待ちください陛下! 全ての戦線を下げるのですか。そしてその全ての相手国に休戦を申し込めと言うのですか!」
「そうですぞ陛下、何故領土拡大戦線全てを止める必要があるのですか。止めるにしても神々の草原外縁部に近い戦線か最も遠い戦線だけでも良いではありませんか。 全ての戦線で戦を止めれば兵達の士気にも関わりますぞ」
それを聞いた皇帝は二人に対しきつい顔をして言い放った。
「余は最初に『勅1等命』と言ったはずだ! これに異を唱える事は即ち国家反逆罪となる事は其方らも知ってるはず! それを知らずに異を唱えた訳ではあるまい」
皇帝が言うと2人は狼狽えながら
「いえ、決してその様な事は…」
「も、申し訳ありませんでした」
と反省した様な態度を取ったが皇帝はその手を緩めなかった。
「その態度と言葉、国家反逆罪になると知っている何よりの証拠! 近衛兵この2人を直ちに国家反逆罪で拘束し牢へぶち込め‼ 沙汰を出すまで何人たりとも近づける事は許さん、連れて行け」
「「「「「は!」」」」」
皇帝の命で部屋に四隅と皇帝・皇太子の後ろに控えてた2人のうち1人が動き法務局長と軍部局長を取り押さえ部屋から連行して言った。
その様子唖然と見ていた皇太子が恐る恐る皇帝へ尋ねた。
「ち、父上? 之から大変になるのに局長を2人も拘束して大丈夫なのですか?」
部屋に残ってた近衛兵以外不安そうに皇帝へ視線を向けた事に気づいた皇帝は皇太子に説明する様に答えた。
「帝国に置いて皇帝とは絶対的な権威を持ってるが1人で何でも出来る訳では無い。それは皇太子であるお前も分かってるだろう。だが、結局は最終判断は皇帝がする事になる。それまでに細かい部分を詰めたり纏めたりするのが官僚達だ、だがその官僚達が好き勝手に判断し実行していけばやがて帝国は崩壊する。先代皇帝は皇帝の絶対的権力を使うのを恐れその弱さを官僚達に利用された結果が今の帝国の有様だ。無駄に領土拡大をする為に周辺各国へ戦争を仕掛け帝国を疲弊させている。
その負の連鎖をいずれ断ち切らねばならなかった。異界の者が現れた今が絶好のチャンスだったのだ。 その為の根回しもして来ていた事だしな。
良く覚えて置け、お前がいずれ手に入れるであろうこの力を振るう事を恐れれば官僚達はその利用し帝国を破滅の道へと向かうと」
そう言うと皇帝は皇太子の頭に手を置いて優しく微笑んだ。
手を離すとまだ部屋に残っていた各局長たちを見た。
「いつまで其処に突っ立って居るのだ? 勅1等命を出したはずだ。直ぐに取り掛かれ! それと軍部と法務部の副長を此処に来る様に伝えろ」
「「は!」」
返事をした2人は頭を下げてから部屋を足早に退出して行った。 その後暫くたってから部屋に来た格副長達に先程起こった事を正確に伝え2人に改めて勅1等命を言い渡した。 言い渡された直後は驚愕した表情であったが直ぐに気を引き締めてその命を受け取ってから取り掛かるべく部屋を後にした。 それを見送った皇帝は窓から外を眺めて呟いた。
「異界の者よ、帝国を正常な状態に戻す切っ掛けを与えてくれた事感謝する」
その呟きは皇太子には聞こえなかったのか顔を傾げていた。 それを見た皇帝は小さく笑い執務室へ向かう為部屋を後にする。 皇太子も連れて。
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