第5話 転移した世界では その3
王国王都にある教会王国本部の司教室の主は天空を覆う眩しい光を目撃しその顔を醜く歪めていた。そこへ慌てた様子で司祭が駆け込んで来た。
「司教! ご覧になりましたか、先程の天空を覆う光を‼ アレこそ我々を導く神の使徒が降臨された証。 早急に神の使途を迎えに行きましょう。恐らく腐り切った王国の屑共も使徒様を迎えに兵を動かすはずです」
興奮し切った司祭を眺め内心同じ気持ちの司教は落ち着いた雰囲気を出し飛び込んできた司祭を宥めた。
「司祭よ、落ち着きなさい。言葉使いが蛮族供と同じ汚くなっておりますよ。 我々は神聖なる神々に使える者、その様な言葉使いをしてはなりません。 が、貴方の言う通りでしょう。 それはこの王国だけではないでしょう、あの地「神々の草原」を目指す事が可能な周辺各国は使徒様を何としても自国へと迎えようとするでしょう。ですが、それは叶わないでしょうね。彼或いは彼女は神々が地上へと遣わされた使徒です。その様な方が欲に塗れた者達の元へ行くはずがありません。必ずやその様な者達を退け神々に使える我らの元に来て頂けるでしょう」
「おおぉ、確かにその通りですね司教様。言葉使いが汚くなり申し訳ありませんでした」
司祭は司教に謝罪し深々と頭を下げた。 それを冷めた目で見つめながらこれからすべき事を素早く考え司祭に伝えた。
「司祭よ、今この本部に居る司祭全員と神官騎士団団長と副長を会議室へ召集して下さい。 直ぐに対応策を話し合います。それと砦都市の教会へ早馬の準備を」
「はい、直ぐに手配します」
それだけ返事をすると司祭は足早に部屋を出て行った。その様子を見ていた司教は今後の展開を考えた。
(間違いなくこの国は使徒様を迎える為に動く、それ以外だと東の帝国も動くであろう。南西にある王国も何かしら動くであろうがそちらは距離的に無視しても良かろう。そうなるとやはりこの国が一番厄介だ、何せこの国を成り立ちには深く異界の者、使徒様が関わっておる。此度の使途様も何としても手に収めようと躍起になるはず。ならば何にをしても奴らを妨害し奴らの手に使徒様が渡らぬ様にしなければ。しかしどの部隊が動く?砦都市の兵だけで神々の草原に向かう可能性は十分にある。そうなると軍からの伝令が必ず出るはずだ、先ずはその伝令を始末しなければならんか。 ならば王都周辺に詳しい裏の連中に依頼せねば。後城壁と接する軍施設から秘密裏に出れる門があると聞くがこちらは場所が特定出来なかったのが痛いな。仕方ない軍施設がある城壁を外側から数名で見張らせるか。 だが異界の者を迎えに行くのに王都の誰も動かぬとも思えん、誰かしらが迎えに動くはずだ。動くとしたら機動力がある第1騎兵団か? いや、騎兵団では森の中での戦闘は難しい。 第一神々の草原へたどり着くには魔物が跋扈する森を抜けねばならん。そうなると第1から第5まである魔物討伐隊のいずれかか。いや待て、魔物討伐隊は今すべて出払ってると先日密偵から報告があったな。では歩兵師団のどれかが動くか?
戦闘力だけを見るとサムライ衆も強いが普段は王都の門の警備しかしておらん、それ以外の王都の警備部隊もいくつかあるがこちらは無視してよかろう。 いずれにしても王城に入り込んでる駒からの報告待ちだなこれは。 だが、裏の連中への依頼は早急に出した方が良かろう。依頼内容は砦都市へ向かう軍の伝令の始末で良いか。)
ある程度考えが纏まった所に先ほど部屋を訪れた司祭が会議室に全員集まったと報告に来た。
報告を聞いた司教は椅子から立ち上がり会議室へと向かった。
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教会会議室
「皆さんお待たせしました。 急な召集にも関わらず集まって頂き誠にありがとうございます」
会議室に入った司教は集まった面々に先ず頭を下げた。司教に遅れて入った司祭もまた頭を下げてから席へ着いたのを確認した司教は会議を始めた。
「それでは早速会議を始めましょう。 もちろん議題は先程起きた神々からの使途様に付いてです。我々は神々を信仰する信徒です。ですから神々の使途様をお迎えに行かなければなりません。ですが、いやらしくもこの王国も恐らく帝国も使徒様を迎えるべく動くでしょう。もし我々では無く王国又は帝国が使徒様を迎え入れた場合、使徒様をあの手この手で奴隷の如く働かせ使い潰すでしょう。それはこの国の建国期を見ても分かります。真に手を取り合いこの国を建国まで至ったのならこの国から過去の使途様は国から去る事は無かったはずです。ですが実際は建国後この国から使途様は何処かへと姿を消しました。これは初代王と使途様は対等な関係では無く、無理やり働かされてた証拠でしょう。その様なこの王国へ使徒様を渡すわけにはまいりません。また帝国も先代皇帝から領土拡大を目指し周辺国に戦争を仕掛けて居ます。その帝国に使徒様が捕まれば送られるのは常に戦場の最前線を転戦させらるでしょう。その様な事態にならない様に何としても! 我々教会が神々の使途様をお迎えし聖教国へとお連れしなければなりません。
それでは皆さんの意見を聞かせて下さい」
と会議室に居る司祭3人と神官騎士団2二人へ視線を向けた。
真っ先に手を挙げたのはまだ若い司祭の一人だった。
「若輩の身ですが失礼します。 司教様の言う事は然りですが、私たち司祭以下の聖職者では神々の草原へと向かってもその手前の魔物の森で命を散らしてします。 なので此処は神官騎士団の方々に出て貰うのが一番かと思うのです」
若い司祭がそう言うと他の2人の司祭も頷いたの見た司教は神官騎士団団長へと視線を向け尋ねた。
「司祭の言う通り教会の聖職者は戦いの心得が無いものばかり、騎士団長はどう思われますかな?」
「その若い司祭の言う事も最もです。我が騎士団も戦えぬ聖職者を抱えてはかの森の魔物共に後れを取る恐れもある。 が、騎士団内にも回復魔法が使える者は居るがそちらからも回復魔法が使える者を少なくとも2名、多くて5名出して欲しい」
「分かりました。では回復魔法が使える神官を手配しましょう。それ以外で何かありますか?」
改めて聞くと今度は別の司祭が手をあげて
「王都から砦都市へ行く道中にある街の教会から回復ポーションと兵糧を騎士団にお渡しする様に指示を出しましょう。そうすればここで全て準備して出立するよりかは早く出られましょう」
「それはありがたい。それと各街で教会の守護に回してる騎士たちも我らと合流してもらっても構わぬか? ここの教会に居る神官騎士団は全員で300名、最低限の守護を残すとすれば200名を連れて行く事になる。あの森を抜けて神々の草原を目指すとなると兵力が不安だ。各街に居る騎士たちの半分と合流して行けば400から450人程になるだろう。それだけ居ればかの森も抜ける事が可能だ」
すると司教室へ走りこんだ司祭が不安な顔で司教に尋ねた。
「神官騎士団が動けば必ずや王国にもバレますが如何いたしますか?
気づかれぬ様に夜中に出るのでしょうか?」
それを聞いた司教は首を左右に大きく振ってから諭すように司祭へと答えた。
「なぜ使徒様をお迎えに行くのに神々の信徒たる我々がその様な夜逃げの如くしなければならぬです? 我々は神官騎士団を信者や民たちに堂々と使徒様をお迎えに行く姿を見せつけるのです。 先ほどの天空を覆う眩い光はこの大陸すべての人々が見たのです。 ならば、使徒様をお迎えに行くのは教会で聖教国であると見せつけながら行かなければなりません。
そうすれば王国が使徒様を手に入れるのを多少なりとも防ぐ事が可能でしょう」
「はい、分かりました。騎士団団長殿、配慮に欠ける事をお尋ねし申し訳ありませんでした」
「何、構わぬさ。其方の心配も分かる故。司教様の言う通り我ら神官騎士団が堂々と使徒様をお迎えに行く姿を信者や民たちに見せ味方に付ければ王国も無視は出来まい」
その言葉を聞いた司教も大きく頷いた。それから騎士団団長を見て
「では早速神官騎士団は出立の準備をお願いします。司祭達は各街の教会へ先程の件を早馬で知らせる手筈を整えて早急に出して下さい。それと手の空いてる者たちに騎士団の準備を手伝うようにも指示を出して下さい。 他に何かありますか?」
司教は参加者を見渡したが誰からも意見が無かった。
「これで会議は終わりとします。 皆さんよろしくお願いいたします」
司教が会議を閉めると司祭達は指示を出すためにすぐ会議室を後にした。騎士団長は副官にあれこれ指示を出し先に会議室を出る様に言い会議室に残った。 それを見た司教はたずねた。
「騎士団長、まだ何か?」
「ふん、白々しい。 俺と貴様の仲では無いか、これで我らの計画が漸く進むのだからな。 お前も下手するんじゃねぇぞ」
「分かっていますよ、漸くここまで来たのです。下げたくも無い頭をあちこちに下げ、下賤な民衆共に教会の教えを説き味方にしこの国の貴族共を少しづつ操ってまで手に入れた情報を精査して近い時期に異界の者が現れる可能性に気づいたのだ。 それにこの国の建国期の話を教会に有利な様に民衆共に吹聴に王族や貴族共に不信感を植え付けやったわ。後はお前が無事に異界の者を手に入れ聖教国に連れて行けば俺は枢機卿に、お前は聖教国教会騎士団団長も夢ではあるまい。数年かけて仕掛けて来た仕掛けが芽吹く時が来たのだ。 お前こそしくじるなよ」
「それこそ余計なお世話だ。各街に配した神官騎士団は街周辺の魔物討伐を積極的に行わせて実戦経験を積ませた精鋭共だ。必ず使徒をいや、異界の蛮族を手に入れて首輪を付けてお前の前に連れて来てやるよ」
2人はお互いに厭らしく欲望に塗れた顔で笑った後互いにすべきと事をする為に会議室を後にした。
その様子を気づかれること無く見ていた存在には最後まで気づかなかった。
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