第4話 転移した世界では その2
会議参加者達は一様に言葉を失っていた。
それ程までに森の民からもたらされた情報はあり得なかったからだ。王はその事の重大性に頭を悩ませた。下手な対応をすれば国が滅びかねない。
「宰相よ、伝承では過去この世界に訪れた異界の者はいずれも一人づつであったか?」
「ええ、私が知ってる限りいずれも一人づつです。 そのいずれも桁外れな力を持ち合わせて居たと伝承にはあります。にわかに信じられない様な記述もありますが、何かしらの力を有していたのは間違い無いかと」
それを聞いてた森の民がさらに追い打ちをかけた。
「言い伝えられてる異界の者の力はいずれも本当ですよ。占い師のババ様の夫だった方は異界の者ですし、良くその話を小さい頃聞かされました。まぁ半分は惚気でしたけど。私が印象に残ってるのはババ様と異界の者と人族が一緒に魔物を倒してこの地域を開拓していった話ですね」
それを聞いた会議参加者は更に驚いた。
「それはこの国の建国期の話ではないか! 初代王と共に異界の者とそれに付き添う女神の化身、それに付いて来た者達でこの地域の魔物を少しづつ倒しいきやがて拠点とした場所が都市と言える頃に異界の者と女神の化身と言われた二人がいずこかへ消えたとあるがそうだったのか。女神の化身と言われた方が森の民で異界の者と共に森の民の元に身を寄せたのか」
「王よ、確か初代王と共に建国に至った方々の話も重要ですがそれよりも今は新たに表れた異界の者達の対応です。下手をすればこの国だけではなく周辺各国にも被害が及び兼ねません。
将軍、サムライ衆は動かせますね? いえ、何が何でも動かして頂きたい」
そう言われた将軍は真剣な顔で何か考えていたが考えが纏まったのか参加者を見渡し口を開いた。
「サムライ衆は現在60人程、主な任務は王都の門の警備に付いています。そのサムライ衆全員を動かせば教会はすぐに気づくでしょう。
そこで王都警備第2・第3部隊の訓練兵にサムライ衆の恰好をさせ門の警備に充てましょう。訓練兵と言えど門の警備であれば問題無いかと。
人員の移動は民が寝静まった真夜中に行うのが良いかと。後普段から軍で備蓄してる兵糧で砦都市へ移動。移動開始は同じく真夜中で城壁に面してる軍専用門から密かに出立すれば目立たたぬかと。軍専用門からならば60人程部隊が出立するに困りませんからな。
それと王よ、情報部の暗部にお願いしたい事が」
「暗部はあまり人的余裕があまりないぞ。何をさせる気だ?」
「は! お願いしたい事は軍専用門を見張ってるであろう教会関係者の排除もしくは無力化です。 殺しても良いのですが、それだと教会側にすぐに気づかれましょう。なので眠り香等で一時的に無力化が良いかと。
そうなると軍では不向きゆえ暗部にお願いしたいのです」
「ふむ、そういう事なら良かろう。 暗部長よ何人回せる?」
「そうですね、相手を眠らせるだけで良ければ… 2人回せます。
が、一時的にでも他監視が緩みますが良いですか? 回すのは危険度の低い所から回しますがそれでも監視が緩むのは確かです」
「構わん、今の最優先事項を考えれば他の危険分子の監視が1日2日程薄くなる程度どうでも良い」
「了解しました。直ちに指示を出しましょう。 将軍、出立の日時が決まり次第すぐに連絡を。 出立に合わせて監視してる者を無力化します。
それまでには監視してる者のあぶり出しも終わりましょうから」
「こちらも了解した。恐らくだが明日の夜中になるだろうが確実な日時が確定次第そちらに連絡する」
「では他は良いな、では会議はこれで終わりとする。各部署は連絡を密に取り素早く動け。以上だ」
「「「「「は!」」」」」
会議参加者は返事をし、速やかに退出していく中一人だけ動かぬ者が居た。 王はそれに気づきその者に声を掛けるか悩んだが先に動かぬ者から王へと声が掛けられた。
「王よ、我が森の民の族長より王へと報告せよ、と言われた事柄が御座います。 出来ればこのまま二人でお話出来ませんでしょうか?」
問われた王は少し悩んだが居住まいを正し森の民に頷いた。
「ありがとうございます。 族長から王へ伝えよと言われたのは、教会の者共が我が里にも聖教国の教会を建てさせろと要求して来た事。それと、教会関係者と思われる人族が里周辺を探ってる事、又その者達の数名が魔物に襲われ無くなってる事。最後に8日前に里に来た司教を名乗る者が聖教国の教えを受け入れねば森の民を異端の民とし神敵認定すると言って来た事です。 それを受けて族長は里の有力氏族を集め話合い王へ聖教国の教皇へ真意を問い合わせて貰う事に決まったのです。
私たち森の民は独自に神を祀っておりそれは聖教国の教会の教えとは異なります。それも併せて問いたいのです。 そして、王へとお願いする事に決まった話場にババ様の占いは余りにもタイミングが良すぎます。
以前からの教会の動きも合わせると教会、強いては聖教国は信用なりません。 王もお気をつけ下さい」
「相分かった。儂の方から教皇へ森の民への対応について審議を問う書簡をだそう。 確かに教会の動きがここ数年過激になって来ており国としても迷惑しておった所だしな。 だが教皇へ問い合わせても今の教会の動きから誠意ある対応が望めるとも思えん。 それは理解しておいてくれ。
それに族長とは知らぬ仲でもないしな、悪いようにはせぬよ。 礼は森の民の秘蔵の酒で良いと族長に伝えてくれ」
「分かりました。それではよろしくお願いいたします」
「ところで其方はこの後どうするのだ?」
「サムライ衆と主に里へ戻るつもりです。 将軍にもその様にお願いしにこの後向かいます。 最悪里に向かう事になれば道案内も出来ますし」
「そうか、分かった、気を付けて帰ってくれ」
そう言うと森の民は王へ向け一例して部屋を退出し将軍の元へ向かって行った。 王は出て行った森の民へ向けて誰にも聞こえぬ声で
「無事に過ごしてくれ、初恋の者よ…」
つぶやいた後、今後すべき事を考えて気合を入れ直してから部屋を後にした。