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東方霊々那  作者: 幽零
4/18

―メイドの土産―

―メイドの土産―



―あの子よ。忌み子。普通とは違うらしいじゃないー


―なんでも、時間を操作出来るとか。とてもじゃないが人間とは思えないなー


―なんでこんな化け物が!よりにもよって私たちの娘に!―


―いいかい、お前は言われたとおりにしていればいいんだよー


―だってお前は、ヒトじゃないのだからー




「あれの様子はどうなの?咲夜。」

「ときおりうなされていますが……今のところ目覚める様子はありませんね。身体の傷は治療しましが、原因はそれだけでは無いようです。」

悪魔の住む館、紅魔館。その主人であるレミリア・スカーレットと従者である十六夜咲夜。二人は以前館の外で見つけた人間の話をしていた。

「そう。まあ身辺の事は任せるわ咲夜。今日は私、旧地獄めぐりをしてくるからその間頼むわね。」

「でしたら私も……」

お供させていただきます。と言おうとした時。

「お嬢様、準備はできました!」

咲夜の後方から聞こえた声。そこには紅の長髪に緑の帽子、中華服をまとった女性がいた。

「ああ、美鈴。すぐ下に行くから門の前で待っていなさい。」

「わかりました。では門の前で待っていますね。」

紅美鈴―ホンメイリンー紅魔館の門番である彼女は、レミリアの答えを受けると颯爽と部屋を去っていく。

「今回は美鈴と行くさ。咲夜、さっきも言ったとおり、お前はあの人間の様子を見ていなさい。留守の間はパチェとフランにも手伝ってもらって魔力障壁を張っておいてもらう手筈だ。まあここ、紅魔館に今更攻め込もうとするやつもいないだろうけどな。」

レミリアがパチェと言った人物はパチュリー・ノーレッジ。紅魔館内にある大図書館の主人でありレミリアの親友、魔法使い。フランと呼ばれた人物はレミリアの妹である、フランドール・スカーレット。数年前までは精神の不安定さと能力故に隔離されていたが、ここしばらくで落ち着き、パチュリーの元で魔法を学び制御できるようになってきている。

「しかしお嬢様……!」

「咲夜、私の不在時の代理はフランだ。そろそろ我が妹にもこういったことを勉強させてやらねばならん。当主代理のあの子を支えてあげられるのは誰だ?」

レミリアのそばには常に咲夜が付いていた。レミリアのことを把握し、十全なフォローをしてきた。

「私のことをよく知っている、そしてこの紅魔館に住まう者をよく知っているお前だけだ。これ以上は言わなくてもわかるな?」

「……わかりました。」

納得するしかない。自分の主人にここまで言わせてしまったのだ。それにこれ以上の進言は主人を信じていない、侮辱となるだろう。

「それに美鈴が頼りないわけないだろう?紅魔館の門番だぞ?」

「もちろんです。美鈴なら必ずお嬢様をお守りするでしょう。」

長年一緒に暮らし、鍛錬もしてきた。咲夜も美鈴を信頼している。

「もちろんよ。では行くわ。数日は戻らないだろうけどよろしく頼むわね。」

「かしこまりました。お気をつけください。」

出かける主人へ礼。主人が決めたことなら実行するのが従者の勤め。レミリアが去った後、咲夜が向かった場所は大図書館。



「パチュリー様、いらっしゃいますか?」

広い図書館の中、パチュリーの座している場所へと赴く咲夜。

「あら咲夜。レミィはもう出発したの?」

本を読みつつ、その眼差しだけを咲夜へ向けた者。魔法使い、パチュリーノーレッジ。

「ええ。先程美鈴と一緒に。旧地獄へ向かうとおっしゃっていました。」

「そう。結界の件はレミィから聞いているわ。フランもレミィに頼まれて頑張ったから、後でご褒美でもあげなさいな。」

「そのフラン様は?」

「結界を一緒に張った後、館を見て回るって出て行ったわ。『お姉様がいない間は私が当主代理としてしっかりしなきゃ!』ということよ。」

姉に頼まれたことが嬉しいのだろう。そんな親友の妹が張り切っているのを見るのが楽しいというように、パチュリーの口元は緩んでいる。

「そうですか。フラン様には後で良いおやつを出して差し上げましょう。」

咲夜の方もパチュリーと同意見で、嬉しそうに笑う。

「数年前まではこんなこと考えられなかったのに。本当、幻想郷に来てから退屈しないわね。」

「本当に。霊夢と魔理沙たちのせい……いえ、おかげでしょうか。」

「認めたくはないけど、そうなのでしょうね。今はその二人ともいないみたいだけど。」

霊夢が消息を絶って数ヶ月。その霊夢を探しに出かけた魔理沙は出て行って一ヶ月と二週ほど経っている。

「今異変を起こしたら簡単に幻想郷が手に入りそうね。……私はそんな面倒なことしないけど。」

「お嬢様が喜びそうな提案ですが、今そんなことしてもつまらないとおっしゃりそうです。」

仮に異変を起こしたとしても、今の幻想郷には霊夢だけじゃない、ほかの面々がそれぞれの大事なものを守るために立ち上がるだろう。

「そうね。それじゃあ今のところは、その親友のために妹様のお世話でもするとしましょう。」

ティーカップをひと啜り。話は一旦終了ということだろう。

「かしこまりましたパチュリー様。では私はフラン様のところへ向かいます。」

「ええ。よろしく頼むわね。」





「っつ……!」

眠っていた金髪の少女が飛び起きる。周りを見渡し、自分の置かれた状況を思案している様子だ。

「……ここ、どこ?」

自分は怪我をして倒れていたはず、と考えているようだ。しかし腕を見ると治療が施され包帯が巻かれている。あたりを見回し、いつも自分がいた場所ではないのだと認識はしたようだ。

「とにかく……ここから出ないと……!」

知らない場所で目覚めて自分がどんな状況かもわからない以上、誰かから話しを聞く必要がある。おそらく自分は助けられたのだろうということはわかるが、なんの目的で助けられたのか、それを知るために。

その考えにふけているとドアが開く。少女がそちらに目を向け、その視界に入ってきたものは。

「あら、目が覚めていたのね。」

見た目は少女。しかし一目見ただけで普通の人間ではないことはわかる。その少女の背後からは虹色の装飾のようなものがつけられた羽が付いていた。

「っつ……!」

ベットから上体を起こしていた少女は驚きにみちた表情をする。

「あれ?起きてる?固まっちゃったね。」

「……あなたは、何……?」

頭に浮かんだ疑問がそのまま口から出たようだ。知らないという恐怖。自分の知らない知識外から出てきた恐怖故。

「ふふ。相手のことを訪ねる前に自分の名前くらい名乗るのが礼儀じゃなくて?」

「わ、わた……し、は……。」

羽のついた少女は笑顔だが、その笑顔には得体のしれないような恐怖があった。何も知らない少女が不安で口どもってしまうほどの。

「ふ、ふふ……あはは!ごめんごめん。そんな顔しないでよ。私はあなたを怖がらせるために来たんじゃないの。私はフランドール・スカーレット。この館、紅魔館の当主代行よ。」

羽のついた少女、フランドールは面白おかしく笑う。先程の妖しい笑顔ではなく、いたずらが成功したようなあどけない笑顔で。

「ちなみに私があなたを助けたわけじゃないわ。助けたのは私のお姉さまと、この館のメイド長よ。今、メイド長の咲夜を呼ぶわ。」

そう言うと彼女は目を閉じる。ベットにいるし少女は何をするのかと思い訝しげにフランドールを見るが、瞬間、慣れしたんだ感覚が周りを伝っていく感覚があった。それを皮切りに、周りの世界がー止まったー


「……え?これ……!」


フランドールは動いていない。呼吸のための運動さえ。文字通り時が止まった。唯一この部屋にいる少女は一人つぶやいたことから、自分の時は止まったわけではないことに案ずる。

「これ……は……!」

驚きのあまりベットから体を乗り出し、部屋からの脱出を試みる。動ける。周りは動けなくとも自分は動けると。痛む身体を動かし、ドアを開ける。広い廊下が視界に広がり、外へとつながる道筋を探す。

「止まりなさい。」

しかし、その歩はそれ以上進むことはなかった。金髪の少女の後ろに、いつのまにか銀髪のメイドがナイフを首に当てていた。

「あなた、なぜ動けるの?」

冷たい声が響く。後ろに迫った命の危機に金髪の少女は足がすくんでしまう。

「その様子だとフラン様に何かしたわけじゃなさそうだけれど。もしそうなら、フラン様があなたを先に消していただろうし。」

そう言いながら分析を口にし、ナイフを下ろす咲夜。

「でも、あなたがこの『世界』で動けるのはどうしてかしら?」

十六夜咲夜の能力、『時を操る程度の能力』下で時を止めた世界で動けるのは咲夜のみ。時を止めた先に策を講じられ破られることはあっても、その『世界』に踏み込んできた者はいなかった。今、目の前の少女を除いて。

「……多分、わたしの力のせい。」

「貴女の力?」

「……はい。わたしには貴女たちを攻撃する意思はありません。そんな身体の状態でもありませんし。部屋に戻って一緒に説明させてもらってもいいですか?」

「……いいでしょう。けど、少しでも怪しい動きを見せたら刺すわ。」

咲夜は少女の提案に乗ることにした。万が一があっても、たしかにあの傷の状態であれば何かされる前にこちらがなんとかできる。

そうして二人は部屋に戻り、昨夜は時を止めるのを解除する。




「フラン様、魔力をむやみに放出しないでくださいまし。」

「この方が咲夜が駆けつけてくれると思って。呼びに行くより早いでしょ?」

「……魔力。今の感覚が?」

「あら、あなた魔力を感じられたの?人間のくせに珍しいわね。」

口では驚いているが、あまり驚いている様子は見られないフランドール。知識として人間は魔力を感じられることは少ないとはわかるが、いままで人間でありながら魔法を使ったり魔力を扱う存在―十六夜咲夜や霧雨魔理沙―を見てきたフランドールにとって、実感の湧かないことだったのだろう。

「あなた何者なの?傷だらけで倒れていて、お嬢様の気まぐれで治療はしたけど、魔力を感じられる人間ということは今まで魔法をならっていたということ?」

咲夜の疑問。魔力を感じられるのであれば、おそらく魔力に触れたことがあるか、魔法というものを扱ったことがあるのか。

「……あれが魔力って呼ばれるものだっていうのは初めて聞きました。」

そして一呼吸置き、金髪の少女は咲夜の問いに答える。

「でも多分、わたしはその魔力を使った力を持っています。」

そうやって取り出したのは金の懐中時計。

「それ、マジックアイテムだね。」

フランドールの言う通り、それはマジックアイテムだ。魔力の持った者の力を増幅する役割のものから、魔力を動力源としてさまざまな効果を発揮するものまで、その用途はさまざまである。

「……そうなんですか。知りませんでした。」

金髪の少女は本当に知らない様子だ。そしてその懐中時計に付いているボタンを押すと。


―世界の時が、緩むー


「っな!?これは?」

咲夜のは驚く。自分の『世界』に似た『世界』に。この『世界』で普通に動いているのは金髪の少女と、咲夜。そして、フランドールは。

「さああくううやああ?」

驚きの表情を『ゆっくり』と浮かべながら、『ゆっくり』と声を発する。金髪の少女はすぐに時計のボタンを押すと、再び『世界』は正常に動き出す。

「今のは……」

「ねえ咲夜、今何かあったの?ボタンを早く二回押しただけだったけど。」

どうやらフランドールには金髪の少女が時計のボタンを早く二回押しただけに見えていたようだ。

「……今のがわたしの力です。私以外の時間のが緩み、時がとてもゆっくりになる。普通の人から見たら、わたしのことはとても早く動いたように見える、ということです。」

「へえ!そうなんだ!咲夜と同じ、時間を操る能力なんだね!」

「それが私の『世界』に入ってこれた理由ね。そして私もあなたの『世界』に入っていける、と。」

咲夜は納得する。しかし咲夜ほど自由に使える能力でもなさそうだ。咲夜のように完全に時を止める訳ではない。そして魔力を知らなかったということは扱い方も満足に知らないということなのだろう。

「……これがわたしのもつ情報です。貴女たちに敵意はありません。」

「それはわかったわ。じゃあ、もう一つの質問。貴女は何故傷を負って倒れていたの?」

「……それは。」

「待って咲夜。この子も起きたばかりだし、少し休憩させないと。」

フランドールが立ち上がる。当主代理として、この人間が特殊なのはわかったがこれ以上の危険はないと判断した。何よりレミリアが気まぐれとはいえ助けた人物。言わばお客だ。お客をぞんざいに扱ったとしては、紅魔館の沽券に関わる。

「……わかりました。フラン様。少し休憩にしましょう。お茶でも淹れましょう。貴女紅茶は……そういえば、貴女名前は?」

「たしかに聞いていなかったね。」

そう二人が答えると金髪の少女は顔を伏せる。

「……ありません。」

ポツリと。小さく答える。

「わたしが呼ばれる時は、―巫女さまー、―トキヨミさまー、―バケモノー。などでした。」

顔を伏せて小さく、小さく答える。

「なるほど。なんとなく予想はできたわ。なんだか本当に咲夜みたいね。」

「フ、フラン様……!」

フランドールが金髪の少女と咲夜のことを似ていると言う。咲夜が紅魔館へ住み着くまでに至った経緯、そして咲夜の能力故か。

「ねえ貴女。元の場所に戻りたい?」

問い。吸血鬼、フランドール・スカーレトは少女に問う。

「……いいえ。もう、あの場所には……」

未だ顔を上げずに答える。

「ねえ咲夜、多分お姉さまならこうすると思うけど、どう思う?」

「……おそらくフラン様の思う通りかと。おそらくこうなることは見越していたのでしょう。」

昨夜はフランドールに同意する。おそらく次に紡ぐ言葉もわかってるのだろう。

「じゃあ、私から貴女に名前を授けるわ。そうしたら貴女はここ、紅魔館で私たちに仕えるの。」

顔を上げる。その提案が、その言葉が救いのそれのように。実際は吸血鬼による契約だが。

「お姉さまが咲夜に名前をつけた時もこんな気分だったのかしら。ワクワクするわ。」

「わたしにはその気持ちはわかりませんが、楽しそうで何よりですわ。フラン様。」

「ちょ、ちょっと待って。わたしなんかを迎えたら、きっと面倒なことに……」

少女は、言う。その内心とは別の言の葉を。

「言っておくけど、貴女に拒否権はないわ。これは吸血鬼との悪魔の契約。それに、貴女程度を今更館に迎えたところで負担なんか増えやしないわ。」

「ええ。むしろ人手が増えそうですね。私に似た力を持つし、鍛えがいがありそうですわ。」

あっけらかんに答える二人。フランドールは楽しそうに、咲夜は怪しげな笑みを浮かべて。

「で、でも……」

「言ったでしょう?貴女には拒否権はないわ。貴女の面倒な部分もその力も全部ひっくるめて、ここに居なさいと言っているの。今はここに居ないけど、きっとお姉さまも同じことを言うわ。吸血鬼から逃げられると思わないことね。」

笑う。笑う。怪しげに、そして楽しげに。少女にはその笑みは悪魔の契約なんかには思えなかった。

「……いいん、でしょうか。わたしなんかが……」

「私が良いって言ってるの。私はこの館の主人、レミリア・スカーレットの妹であり今は代理のフランドール・スカーレット。もしお姉さまが帰ってきてダメって言っても、私が押し通すわ。多分言わないと思うけどね。」

「……私からもお嬢様には進言しておきます。貴女はいい働き手になりそうですし。」

「……ありがとう……ございます……」

少女から雫が溢れる。今まで人の悪意にしか触れてこなかった少女。それ以外のものを初めて与えてくれたのは吸血鬼の少女と、自分と似た力を持つ人間。


「それじゃあ貴女の名前は……」

「うん、決めた。ねえ咲夜、今からこの子、咲夜の妹ね。」

しばし考えた後、フランドールが発した答えは目の前の少女が咲夜の妹となること。

「……はい?」

これには咲夜も少々面食らったようで、思わず聞き返してしまう。


「貴女の名前は今から十六夜咲月―いざよいさつきー。ここ、紅魔館のメイドとして、姉である咲夜にみっちり鍛えてもらってね。」


金髪の少女……改め、十六夜咲月は心に誓う。


「はい……!お嬢様、姉上様。よろしく、お願いします……!」


この居場所をくれた方々に、生涯仕えていこうと。


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