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東方霊々那  作者: 幽零
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―道具屋の娘―

―道具屋の娘―

 


人間の里、ここは比較的平穏だ。滅多に妖怪が出ることは無いとされているが、その実、人間のふりをした妖怪などが現れることも多い。アリス・マーガトロイドは人間ではなく魔法使いだが、里の子供達に人形劇を披露したりなどして、代わりに親たちから物品をもらったりしている。

「今日も里は平和ね。今回の演目も好評だったし、次はなににしようかしら。」

アリスが一人呟くと、後ろから声をかけてくる人物がいた。

「やあアリス。今回も助かったよ。ありがとう。」

薄く蒼い長髪に特徴的な帽子。上白澤慧音がアリスに言う。慧音は人里で寺子屋で子供達相手に教師をしており、今回寺子屋にてアリスに人形劇を披露してほしいと依頼してきた張本人だ。

「報酬は紅茶の茶葉でお願いね。」

「ああ。稗田の家からいい茶葉をもらっている。今度来てくれたときに渡そう。」


稗田家。『幻想郷縁起』という幻想郷で存在する妖怪や主要な人間を記した書物を書き続ける家。その党首は、これを描き続けるために代々転生を繰り返してきたが、その転生の際に前世の記憶の大部分は忘れてしまう。そのため、文献を読んで知識を得て、『幻想郷縁起』を書き続けている。本来は人間から妖怪を守るために妖怪の特徴などを抑えた書物だったのだが、昔ほど危険ではなくなった現在の幻想郷では、「読み物」としての側面が強くなっている。


「阿求の様子はどうなの?」

「……あまり良くはない。しかし無理もないだろう。代々続く稗田の党首の寿命は約三十年。それを超えて生き続けているのだから。」

「そうね……。霊夢も見つからない今、阿求まで居なくなってしまうのは寂しいもの。転生するとはいえ長く生きてほしいわ。」

「霊夢も見つかっていない、魔理沙もその霊夢を探しに出かけて早二週間か。神社にはやはり帰ってきていないのだろう?」

「ええ。昨日寄ってみたけど、いつも通り藍と橙がいるだけだったわ。紫も姿を見せてないみたい。」

「そうか……やはり、このままだと……」

おそらく、このままだと次の博麗の巫女がたてられることになるだろう。博麗霊夢の行方がわからない以上、幻想郷で代々行われてきたことが起こるだけ。

「そうならないために、皆必死で探しているって言うのに。本当、霊夢はどこにいるのかしら。」

アリスは人形劇の舞台の片付けを終え、慧音に言う。

「私の方でも色々糸を張っておくわ。慧音先生も、人里での情報収集お願いね。」

「勿論だ。私もまだ霊夢には幻想郷の巫女であってほしいと願っている。霊夢ほど巫女にふさわしい子も、そういないだろうしな。」

慧音も霊夢が博麗の巫女であることを願う人物だ。彼女の人柄故、それを望む声は大きく、多い。

「それじゃあ私はこれで。……ああ、そうだ慧音先生。一つ聞きたいことがあって。」

「うん?どうした?」

アリスは一呼吸置くと、慧音に問う。


「霧雨道具店って、どの辺にあるのかしら?」





里で人形劇を行う前日。アリスは博麗神社の様子を伺ったのちに片付けきれていない魔理沙の家の掃除を行なっていた。

「ほんと全く、掃除しても掃除しても綺麗にならないわね。魔理沙もいい大人になったんだし、いい加減しゃんとしてほしい物だわ。」

そう言いつつも巧みに人形を操りながら部屋の片付けを行なっていく。一時間ほどたち、そろそろ休憩でもしようかと考えていた中、一つの人形がアリスの元へ。

「シャンハーイ!」

「あら、上海……なに、これ?」

上海と呼ばれた人形が手にしていたのは封筒。と言うよりは手紙だった。おそらく魔理沙が書いたものと思われるが、送付先は『霧雨道具店』とある。

「霧雨道具店って、魔理沙のご両親の家の……」

人のものを勝手に見るのもよくないと思いつつ、アリスはこの部屋の現状と普段の魔理沙の行動を思い返す。

「……たまには私も好き勝手やらせてもらおうかしら。」

好奇心という甘い香りには勝てなかったたようだ。幸い、封はされておらさず中の手紙も比較的綺麗な状態で入っている。


「…………」


手紙を読み終えたアリスは、今はこの場にいない彼女のことを思う。

「全く。いつも自分勝手やっている割に、自分のこととなると本当に不器用になるんだから。」

封筒に手紙を戻しつつ、出口へ向かっていく。

「皆、今日はここまでにしましょう。明日の準備もしないといけないしね。」

そして人形たちの操作をし、魔理沙の家を後にする。その手には先ほどの手紙を持って。




「ごめんください。」

慧音に『霧雨道具店』への道筋を教えてもらい別れた後、アリスは目的の場所へ到達していた。この店は人間向けの古物道具などを取り扱っており、マジックアイテムの類は取り扱っていない。それ故にアリスも今まで立ち寄ったりすることはなかったのだが、今回は用事がある。

「ああ、はい!ちょっと待っててください!」

店の奥から少女の声が聞こえた。この店は魔理沙の父親が経営しているお店だと聞いていたアリスは、少々戸惑う。

「すみません。おまたせいたしましたお客様。本日はどのようなご用件で?」

そう言いながら出てきたのはやはり少女。年の瀬は十五、十六頃だろうか。綺麗な青みがかかった銀髪に黄縁のメガネをかけており、その目はどことなく、あの少女に似ている。

「……お客様?どうかされましたか?」

少女が小首を傾けながら聞いてくる。少女の容姿に少々驚いていたアリスは次の言葉を失ってしまっていたようだった。手紙を渡そうと思いやってきたが、果たして彼女に言付けして店主に渡してもらってもいいものだろうか。

「ごめんなさい、ちょっと驚いていたわ。ここの店主は妙齢の男性だと聞いていたものだから。代わりに可愛い女の子が出てくるんだもの。」

「うぇえ!?僕が可愛いって……。あ、いえいえ!お客様の方が綺麗じゃないですか!」

顔を赤らめながら取り乱すものの、すぐにお客相手ということで落ち着いたみたいだ。少々恥ずかしさが残っているみたいだが。

「ふふ、ありがとう。その様子だとお店のお留守番をしているようね?店主はいつ頃帰ってくるのかしら?」

アリスは容姿について、客観的に自分のことを分析している。言われ慣れているということもあるが、その手のお世辞には強い。

「えっと、お父さんは今日は帰らないので僕が店番を頼まれました。なんでも、昔の知り合いに会いにいくとかで。何か言付けがあれば言っておきますけど。」

お父さん。店主のことを彼女はそう呼んだ。ということはつまりこの少女は。


(この子、魔理沙の……!)


姉妹、ということになるだろう。魔理沙がこのことを知っているかはわからないが、この少女が姉妹のことを知っているのか……

「……いえ、直接話したいし、またの機会にするわ。ごめんなさいね。」

わからないことも多いため、この子にはまだ魔理沙の事は伏せておいた方がいいと考えたアリスは、手紙を渡すことをやめた。

「ああいえ、わかりました。ではお姉さんがきたことだけ伝えておきますけど、失礼ですがお名前は?」

「……アリスよ。」

「え?アリスさんって……寺子屋で人形劇をしてるって、あの?」

「ええ、そうだけど……」

「本当ですか!?いやー、嬉しいな。まさか会えるなんて!」

興奮気味に話す少女。人形劇をやっているときに見に来ていたのだろうか。しかしそれなら、アリスの顔を見たときにわかりそうなものだが。

「あなた、人形劇を見てくれてたの?」

「ああ、いえすみません。僕、あまり身体が強くなくて。滅多に外に出られないんですけど、たまにくる貸本屋の友達が人形劇をやっている人の話しをしてくれたんです。それで一度人形劇を見たいな、なんて思ってて。あ、店の留守番くらいはできるからって、僕からお父さんにお願いしたんですよ。」

なるほどそういう事情かと、アリスは納得する。

「そう。じゃあ今度は道具屋の近くで披露しようかしら。それならここの主人もちょっとくらい外に出してくれるでしょう?今度あったときに言っておくわね。」

「いいんですか?やったあ!約束ですよアリスさん!」

「ええ。……そういえば、名前を聞いていなかったわね。あなた、名前は?」

「ああ、すみません。申し遅れました。僕の名前は、霧雨杏理沙―きりさめありさーです。」

「杏理沙……ね。」

(名前も魔理沙そっくり。性格なんかは違う見たいだけと、好奇心旺盛なところなんかは似ているかしら。)

ふふっと少し笑い、一人納得するアリス。

「それじゃあ杏理沙、またね。」

「はい、アリスさん。人形劇楽しみにしています!」

それを機に、アリスは店外へ向けて歩き出す。しかしもう一つ、聞かなければならないことがあった。戸へ手をかけ、店を出る直前に問いを投げる。


「そうだわ杏理沙、最後に一つ、聞きたいことがあるのだけれど。」

「あ、はい、何でしょうか?」


「……あなた、姉妹っているかしら?」


そう問いを投げたアリスの表情には、期待と不安が入り混じっていた。


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