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東方霊々那  作者: 幽零
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―メイドと衝突―

―メイドと衝突―












 魔理沙たちが紅魔館で弾幕戦をしている同時刻、博麗神社には妖怪の賢者、八雲紫が傘を差しながら空を見上げていた。


「…………。」


 紅魔館の方を向きつつ、目を閉じ何か思案している様子。そんな彼女の背後から声が聞こえる。


「紫さま。」

「ご苦労様。藍、橙。」


 紫が振り向くとそこには跪き顔を下げている妖怪少女二名。一名は八雲藍。八雲紫の式であり、その尾は九本に分かれている。そして帽子をしていても目立つ大きな耳。その正体は九尾の狐だ。もう一名はその八雲藍の式である橙。彼女の特徴もまた尾があることだが、こちらは狐の尾ではなく猫のような尾。しかし途中で二股に分かれており、通常の猫の尾ではない。彼女は猫又の妖怪だ。

「勿体無いお言葉です。」

「それで、各方面への連絡は終わったのね?」

「はい!みんな驚いてましたけど、今回の異変は新しい巫女が解決するって伝えてきました!特に守谷の巫女は慌ててました!」

「……そうね。あの子は騒ぎそう。」

 しばらくは喧騒が続くだろう。それでも、今回の処置は必要なことだと、紫は思案する。

「藍、橙。しばらくここで休んでいなさい。あの子が帰ってきたら、また忙しくなるだろうから。」

「承知しました。橙、中に行こうか。」

「はい、藍様。」


 二人が神社に入るのを見守った後、紫は再び空を見上げ目を閉じる。

「……頑張りなさいな。霊那。」

 











「今更だけど、良かったのですか?」

「うん?何が?」

アリスたちと離れ、異変の原因と思われる魔力の塊を目指しつつ向かう杏理沙に並行して飛ぶ霊那が質問する。杏理沙はその問いの意味が分からず、首を傾げながら答える。


「あの四人の魔法、あなたは見ていたかったんじゃないかと思いまして。」

「ああ、そういうこと。いいんだ。今はこの異変を解決したいし、それにみんなアリスさんの知り合いなら後でも色々聞けるでしょ。」

 言葉だけみればあっけらかんとして見えるが、その表情は少し堅かった。それを読み取った霊那は言葉を続ける。


「お姉さんに会えたのに、あまり話もさせてあげられなくて申し訳ございません。楽しみにしてたんですよね?」

「……それは、うん。でもね、お姉ちゃんといざ会ってみて、何を話せばいいかわからなくなっちゃってたんだ。だから、落ち着いてちゃんと話したい。少しだけどお姉ちゃんの魔法も見れたし、今は、これでいいんだ。」


 そう笑顔を作りながら答えた杏理沙は、まっすぐ前を向いて答える。霊那もこれ以上の問答は不要だろうと、一呼吸入れながら頷き前を見据える。


「わかりました。では、前へ進みましょう。」




 それからしばらくは無言で進む二人。途中でメイドの姿をした妖精が弾幕を飛ばしてきたこともあったが、返り討ちにしながら進む。大きな妨害もなく二人は図書館を抜け、地下への入り口を通り抜ける。

 そこで見えてきたものは、大きな扉。不可思議な紋様が浮かび上がり、「もや」のようなものがその門から溢れ出ているのが目に取れた。


「…あれ、魔力だね。目に見える魔力がこんなに溢れ出ているなんて。」

「それほど大きな、密度のあるものということですね。こんなものが人里にまで向かっていったら……!」

「絶対良くないね。なんとかして食い止めないと。」




「全くお掃除が進まない。ここにきてお邪魔虫が入ってくるなんて。」




 その人間は霊那と杏理沙の視界の先に突然現れた。銀髪に特徴的なメイド服に身を包んだ彼女は腕を組み、目を細めながら二人を見ている。


「銀髪にメイド服……。間違いありません。貴方は十六夜咲夜さんですね?」

「いかにも。しかし見覚えのある巫女服に見覚えのある魔法使いだと思いましたが、違うようですね。本日は誰もお客様のお迎えをする予定がございません。お出口はあちらですわ。」

 手のひらを霊那たちがいた方向へ向けながら答えるメイドの少女。

「うわー。清々しいほどのスルーだね。」

 顔を引き攣らせつつ杏理沙が呟く。

「魔法使いは生類哀れみの令、ですから。」

「哀れんでくれるのなら、お願いを聞いてくれますか?」

「それはダメ。あなたたちが何者なのか気にはなりますが、それは後で聞かせていただきますので、素直に回れ右をして欲しいのだけれど。」

「そういうわけには行きません。その魔力が外に漏れて周囲の物質が異変を起こしているんです。人体や人里に影響が出る前に、解決させていただきます。」

「……物質の異変。そう。それはそのうち元に戻るから、安心しなさい。あなたたちが気にすることではないわ。だから。」





「帰りなさい。」





 その声が二人の耳に入ったのは、一瞬にして咲夜の姿が消え、二人ともに首筋にナイフを突きつけられた時だった。しかし二人は臆することなく口を開く。

「帰らないです。あの扉の先にこの異変の元凶があるんだったら、見過ごすわけには行かなないですから。」

「杏理沙の言う通りです。メイドさんなら、お使いに出て行ってください。図書館の方で党首の妹さんが暴れていますので。」

「ああ、どうりで上の方が騒がしい……。一体誰と……?いや、この魔力の波長はアリスに魔理沙ね。全く、また掃除場所が増える。」

 その言葉を咲夜が口にした瞬間。その腕を引き、ナイフが二人を引き裂く。赤い鮮血が吹き出すかに思われたが、杏理沙と霊那の二人は急速に色を失い、黒くドロっとした液体のようなものに変わり床へ吸い込まれていく。


「っし!」

 それを見たのち、咲夜は上空へナイフを投げ、自らも上空へ向かう。

「のわあ!?」


 ナイフを投げた先から声が聞こえ、投擲されたナイフが霊那の御幣によって弾き飛ばされるとともに、杏理沙と霊那の姿が視認できるようになる。咲夜はそれを見つつ冷静に、二人の前へと立ちはだかった。

「小賢しいわね。奇術の類は私には通用しませんわ。影の魔法で身代わり人形を作っても、人形には影がないからバレバレですわ。」

「うう、良い手だと思ったのに。」

「やはり一筋縄では行きませんね。」

「やっぱりメイドさんってすごいんだね……。」                          

「何がやっぱりなのかはわかりませんが、その通りですね。ここはやはり二人で協力して……」


 戦いましょう、と霊那が口を開こうとした時だった。周囲にあった『もや』が門へ吸い込まれ、門が開かれるのと同時に大きなうねりとなり三人に襲いかかってきた。


「あう!?」

「これ……は?」

「っく…!?」


 不意だったこともあり三人ともその魔力に当てられる。特に異なる存在の魔力に当てられて杏理沙と咲夜の二人は唐突に気分が悪くなり、宙から地へ下降していく。


「うえ……気持ち悪い……」

「あの子……!これ以上は……!」

 魔法使い、魔力を扱うものにとって他者からの急激な魔力干渉は毒になる場合もある。事前に対策を行い、お互いに意識をした上でならば益になることもあるが、今回は違う。そのせいで一時的に動けなくなるほどに体調が悪くなる。


「杏理沙?大丈夫ですか?」

「……ちょっと厳しいかも。」

 口元を押さえつつ霊那に返す杏理沙。そんな姿の彼女の背中をさすりながら身を案じる。しかし目線は目の前の咲夜から離すことなく、咲夜が口にこぼした言葉について考えていた。

(さっき『あの子』と言っていた……。事前に聞いていた情報では、紅魔館の住人は先ほど上階で会ったパチュリーにその使い魔である小悪魔、そして吸血鬼姉妹の妹、フランドールにその姉レミリア・スカーレット。そして目の前にいる従者であるメイドの咲夜さんに、門番をしている妖怪、紅美鈴だけのはず。立場的に咲夜さんが『あの子』と呼べるような存在がいるとは思えない……。まさか他にも誰かいるということ?)


「……これも、運命なのかしら。」

「一体何がでしょうか?」

「私も何度か彼女たちと共に行動したこともあるのよ?……霊夢や魔理沙たちとね。」

「……お姉ちゃんたちと?」

「姉?貴女、もしかして魔理沙の妹?。確かに顔立ちに面影がある。それに、巫女服の貴女……。」

「……。」

「以前この紅魔館は異変の元凶となり、この幻想郷を紅く染め上げようとした。その際に現れた『博麗の巫女』と『人間の魔法使い』によってそれは阻止された。まるでその時の様だわ。」

「後に『紅霧異変』と呼ばれるようになった異変ですね。霊夢様が魔理沙さんと共に、『スペルカードルール』にて最初に解決された異変。貴女もその場にいたのですよね。」

「そう。霊夢には打ち倒され、魔理沙には出し抜かれた。良い思い出ではないわ。」


 咲夜も魔力に当てられて表情は苦い。しかし、いい思い出ではないと言葉にした時の表情は、その言葉とは裏腹に多少柔らかい。




「あの門の先には、一人の人間がいるの。」

「人間……?」

「ええ。つい最近お嬢様が拾った人間。成り行きで私の妹分のようなものになっているけど。」

「つい最近……。通りで。」

「でも、なんで急にそんなこと教えてくれたんです?」

 

 咲夜の出した情報に霊那は納得し杏理沙はさらに疑問を投げる。魔力に当てられ調子が悪くなり勝負が止まっていたとはいえ、先ほどまで対峙していたのにも関わらず。


「……なんでかしらね。」

 そう言った咲夜の表情は笑顔だった。その顔から二人は咲夜の真意を読み取ろうとするが、それは叶わない。次の瞬間には、二人の目の前にナイフと弾幕が広がっていたためだ。

「っく……!?」

「ちょ、待って……!」


霊那が杏理沙を引っ張り、その弾幕は回避する。多少会話をしていた時間があったとはいえ、杏理沙の調子はまだ悪い。おそらく咲夜もだが、あの短い時間で呼吸を整え、二人に迫ってきている。


「まだまだヒヨッコね。会話の最中にも他のことに目を向けていないと、これから先足元を掬われるわ。」

「それはどうも……!ご忠告痛み入ります!」

「霊那!」


 ナイフを避けつつ反撃の弾幕を放つが、難なく咲夜はそれをかわす。さらに多くのナイフと弾幕で返され、杏理沙が思うように動けない霊那は防戦一方になっていく。


「さすがに手強い……!」

「……霊那。考えがあるんだ。」

 霊那が弾幕を防いでいる間に杏理沙がある提案をする。その言葉に思わず、霊那は声を荒げて答えてしまった。

「でも!杏理沙!」

「君は博麗の巫女なんでしょ?なら、その責務を果たしたいんじゃない?」

「でも貴女が……!」

「僕のことならだ大丈夫だよ。このくらいの不調なら、前から慣れっこだから。」

杏理沙は笑顔で答える。霊那は杏理沙の過去を知らない。アリスや成美から魔法のことを教えてもらうまで、彼女は体が弱く、今のような状態に陥ることも多々あった。

「ですが………。」

「博麗霊那。君は、君には、役目があるんでしょう?」


 視線が交差する。二人は数時間前に知り合ったばかりだ。しかしそれでも、互いのことを話した。短い時間だったが、互いの弾幕も競い合った。以心伝心とは言えない。それでも、その杏理沙の一言は、霊那の表情を引き締めさせるには十分だった。


「……杏理沙。」

「何?」

「頼みます。」

「任されたよっ!」



 短いやり取り。返答があると同時に霊那は咲夜へ弾幕を放ちつつ、扉へと前進する。

「させると思って……?」

二人の意図を察知した咲夜が迎撃に入る。弾幕を避けつつ霊那の進路上に陣取り進ませまいとするが、やはりまだ回復仕切っていないのか動きにキレが少ない。


 

「さっきより弾幕が薄い、これなら……!」

 初手に繰り出したナイフの弾幕の数より、明らかに数が少ないこともあり、その合間を縫うように弾幕を避け、時にはグレイズ(掠り)ながら扉へと向かう霊那。しかし後体一つ分。咲夜の横を通り抜けようとしたその時。



「幻象『ルナクロック』」



 その言葉が聞こえた瞬間、霊那は札を取り出す仕草を見せた。しかし、無情にもそれは間に合わず、世界は、止まる。



 十六夜咲夜の能力は、時間を操る程度の能力。自分以外の時間を止めたり加速させたりなど、普段の生活の中では紅魔館の家事のためにその力を使用している。そして弾幕ごっこの中でも、スペルカードとしてその力を利用している。

 しかし時が止まったこの世界の中で、動いているものが二つ。一つは十六夜咲夜本人。そしてもう一つは、扉より流れる魔力。


「やっぱり止まらない……。急がないとダメね。」


 その言葉をこぼしつつ、霊那の周囲にナイフ型の弾幕を展開。時が戻った際に霊那へ向かうよう調整する。

「死にはしないだろうけど、しばらく再起不能リタイアしててもらうわ。」


 止まった時の中で指を鳴らす音が響く。それと同時に止まっていた時間は動き出し、霊那へ向かって弾幕が襲いかかる。そして、なすすべなく弾幕が着弾した。







「……やられましたわ。」







 その言葉を発した時にはすでに霊那は扉の奥へ翔けていた。咲夜はそれを追いかけず、振り向き言葉をかける。

「一体どうやって突破させたのかしら。魔理沙の妹?」

「そうやって確信を持って言われるとなんだか怖いなぁ。」


 帽子の鍔に手をかけ、箒を片手で持ちながら不敵に笑う。いや、不敵に笑っているのではない。精一杯の強がりだ。そうしないと、目の前の人に飲み込まれてしまう。そんな考えが杏理沙にめぐる。しかしそんな考えの杏理沙とは違い、咲夜はその姿にいつかの魔理沙の影を見たような気持ちになり、笑って答えていた。


「そうね。確信しているわ。現に魔力の痕跡がある。もうちょっと鍛錬が必要ね。」

「うわあ。やっぱりバレちゃうか。でもタネも簡単ですよ。一番最初に見せた影の人形、あれを霊那の身代わりにしただけですから。」

「さっきのあれね。弱点を聞いてすぐに修正したところは褒めてあげたいけど、この後あなたはどうするのかしら?」

「もちろん、霊那の邪魔はさせたくないので、あなたの邪魔をします。」

「ふうん。でも、できるかしら?あなたに。」

「できれば手加減して欲しいかなぁ。なんて。」

「そうね……。してあげようかしら。」

「え?ほんとですか?」

「ええ。できれば、だけど。」



 笑顔で言った咲夜は宙へ向かう。同時に弾幕を展開。その数は先ほどよりも濃く展開されている。



「……それ、絶対手加減してる量じゃないですよねぇ!?」



「だから言ったじゃない。できれば、ってね。」


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