―進むためには―
―進むためには―
「っくぅ…!」
わからない。なんでこんなに……!
止まらない。私の力が……なんで……?
苦しい。苦しい。苦しい。くるしい。くるしい。クルシイクルシイ。狂しい。狂しい。クルウ。クルウ。
「しっか……い!力……のま……!」
声が聞こえる。けど、聞こえない。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。姉上様。
「ようお前ら。サバト(魔女集会)でも開いてたのか?私も混ぜろよ。」
白黒の魔法使い。、霧雨魔理沙は自らの箒の上に立ちながら言う。確かにこの場には魔法使いが揃っていた。アリス、パチュリー、フランドール、魔理沙。そして魔理沙は知らないが杏理沙も魔法を扱う。魔女集会と言っても過言ではないかもしいれない。
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ魔理沙!今外では……!」
「異変、だろ?こっちに向かってる最中に見てきたよ。人里の方でも少し被害が出てたが、慧音たたちがなんとかしてたからな。あの物体が遅くなる雨に咲夜の魔力に似た魔力を感じてここに来たんだが、あいつはどこだ?」
「……あなたに教える必要はないわ。そのうちこの雨は止むから帰りなさい。」
「そう言うわけにはいかないんだよ。お前らも幻想郷に来て長いんだ。わかるだろ?」
「ふふ、そうだね魔理沙。あなたたちはいつもそう。霊夢と一緒にどんな時も異変を解決してたわ。でも、これは私たち紅魔館の問題。今日は帰ってくれない?」
「だから言ってるだろ?そんなわけにはいかないんだ、。それに霊夢がいない今、異変解決は私の専売特許だ。大人しくお縄につけい。」
アリス、魔理沙、パチュリーにフランドールが語り合う中、霊那と杏理沙は上空の四人を眺めていた。
「……あの人が、霧雨魔理沙さん。聞いていた容姿と一致します。あの人が杏理沙の……。杏理沙?」
霊那が杏理沙に魔理沙の話を振った時、杏理沙の表情は固まり、何か思案している様子だった。そして、こぼれ出す言葉。
「あの光……あの光はまさかあの時の……!?」
「杏理沙?どうしたんですか杏理沙?」
「え、ああ……うん。ごめんね。驚いちゃって。」
「それはまあ、そうですよね。突然話にしか聞いてなかったお姉さんが現れたとなっては……。」
「うん……。そうだね。あの人が、僕のお姉ちゃん……。」
黒い帽子に白いリボン。箒に跨った白黒の衣装。帽子はアリスの用意してくれ自分の被っているものと似ていると杏理沙は思った。そして顔立ちも自分と似ていると。
そしてそんな話をしている中、上空の四名の話も続いていく。
「と言うより魔理沙。あなた今までどこに行ってたの。いきなりあなたも消えたから本を返してもらおうと考えてたところなのに。」
「死ぬまで借りるって言ってあるだろ?まだ死んでないから借りてるぜ。アリスには行き先伝えたよな?」
「アリスには伝えてたの?ずるーい。私たちにも伝えてよ。」
「ずるいって……そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。」
「うん?というかアリスはなんでいるんだ?お前は異変を解決するようなやつじゃないだろ?」
「失礼ね。あなたと一緒に解決した異変もあるでしょう。……今回はあの子たちを見るためよ。」
「あの子たち……?」
ここで初めて魔理沙が下方にいる二人を見る。二人を視界に入れた瞬間。魔理沙の目は大きく開かれ、アリスに問う声が強張る。
「アリス。あの二人……いや、巫女装束のやつはなんだ?」
「……。魔理沙。」
「答えてくれ、アリス。」
「それは……。」
魔理沙は博麗霊夢を探しに魔界まで赴いた。そして一緒に戻ってきていないと言うことは魔理沙の予想は外れ、霊夢は見つからなかったのだとアリスは気づいていた。彼女にとって博麗霊夢という存在は大きい。そして、博麗霊那という次の巫女の存在は魔理沙にとって、厳しい現実を突きつけることになる。アリスはその事実を伝えることに躊躇ってしまう。
「わかってるでしょ魔理沙。魔理沙が来る前に遊ぼうと思って話は聞いたよ。あの子は……。」
「言わなくていい、フラン。異変のことも大事だが、私にとって今は……!」
「ちょっと、魔理沙!」
アリスの静止を振り切り、魔理沙は二人の元へ、霊那の前へ着地する。
「お前、なんで巫女服着てるんだ?霊夢に憧れて真似をしてるなら、怪我するだけだから今すぐ帰るんだな。」
「……あなたからは敵意を向けられると思っていました。霧雨魔理沙さん。それでも私は言いましょう。私は博麗霊那。先代の霊夢さまのあ後を継ぎ、本日より今代の博麗の巫女として今、この場にいます。」
魔理沙に睨まれながらも霊那は答える。杏理沙はその雰囲気に押され、目の前にきた姉にも霊那にも何も言えずにいる。
「ふざけるな。霊夢は必ず見つける。それなのにこんな……!」
「魔理沙!あなたの気持ちはわかるけど落ち着きなさい。この子に言ってもしょうがないことよ。」
魔理沙の後を追ってアリスも下へ降りてくる。そして決して冷静でいられない魔理沙を落ち着かせようと言葉をかける。
「アリス!お前もなんで……!霊夢のことは諦めたのか!?」
「そうじゃないわ。霊夢の居場所はこの子が知っている。そのことを聞く前に今回の異変が起こったの。だから……。」
「だとしてもだ!霊夢の居場所の情報がわかったなら聞き出すのが先だ!」
「魔理沙、あなた……。」
「魔理沙さん、あなたがなんと言おうと、私はこの異変を解決するためにここにいます。先ほどフランドールさんがこの異変を起こしたと言っていました。話を聞くために、弾幕戦をさせていただきます。」
霊那は魔理沙の言葉を聞いてなお、今回の異変解決に向けての道筋を示した。パチュリーに敗れそうになった時の目とは違い、その目には力が宿っていた。そんな目を見た魔理沙は一瞬、自分の友人とその顔を脳裏に重ねた。
「……霊那。いい目になったわね。杏理沙のおかげから。」
「はい。アリスさんには感謝しています。時間をいただいてありがとうございます。」
「ええ。……魔理沙、ここは抑えてちょうだい。この異変が解決してからは話をしましょう。」
「……。」
魔理沙の表情は苦い。やっと探していたえ手がかりが目の前にあるのに捕まえられない悔しさ。そして何より、霊那の言葉によって気付かされてしまった事実が彼女の心で、ある葛藤を産んでいた。
「さて、もう話はおしまい?そろそろ遊びを再開しようと思うのだけれど。」
上空で四人の様子を見ていたフランドールが呼びかける。四人は一斉に上空を見上げ、構える。
「フラン。あなたが遊ぶなら私はもういいかしら?アリスとの弾幕戦で疲れたわ。」
「だーめ。あそこまで大見得切ったんだからパチュリーも手伝って。さっきはあの二人と遊ぼうとしたのに魔理沙が来て始められなかったんだから。でも魔理沙もきたし私は魔理沙と遊ぼうかな。パチュリーはあの三人を止めといてね。」
「三人は流石に疲れるのだけれど……。」
フランドールとパチュリーが揉めている中、魔理沙が口を開く。
「……さっきフランがあの雨を降らしているって言ったな。本当か?」
「はい。本人の口から確かに聞きました。」
「ぼ、僕も聞いてます。確かに言ってました。」
「……そういえばお前のこと何にも聞いてなかったな。というか、それ私の箒じゃないかなんで持ってるんだ?」
「あ、それは……。」
「私が渡したのよ。この子、魔法の勉強をしてちょうど良さそうだったから。でもその話は後にしましょう。」
アリスが魔理沙の疑問に答えるが、杏理沙のことについてまだ詳しく話そうとしなかった。状況がそれを許してくれそうにないし、杏理沙の表情を見てまだその時でないとアリスが判断したためだ。
「……それもそうだな。しかし、フランが雨を降らす?おかしいな。そりゃ。」
「えっと、なんでですか?」
「そうね。フランは吸血鬼。吸血鬼は純粋な力や高い魔力を持っているけれど、弱点の多い種族でもあるの。流水もその一つね。」
「わざわざそんなことをフランがするとは思えない。それに、あの雨の魔力はフランの物とは明らかに違う。多分お前らと弾幕ごっこをするためにそれっぽいこと言っただけだろうな。異変が起きた事情自体は知ってるだろうが。」
「確かに言われてみればそうですね。でもどちらにせよ、話を聞かないことには……。」
「いや、その必要はないぜ。この図書館の下、そこから魔力を感じる。おそらくそこに原因がある。」
「え?魔力が?」
「……本当ね。ここにきてすぐパチュリーと戦ったから気づかなかったわ。杏理沙、あなたにもわかる?」
「……。あ、本当ですね。外の雨と似た魔力を感じます。大きい魔力……!これなら僕にも辿れる!」
「……なら、お前らが行け。私とアリスでフランとパチュリーを止めておく。」
「え?魔理沙?」
「いいんですか?あなたも異変を解決しに来たんでしょう?」
「……ああ。お前たちじゃフランを足止めでいないだろうしな。それに……。」
「私としては異変解決を任せてもらえるのはありがたいですが、他に何か?」
「いや、なんでもない。そろそろフランたちも痺れを切らしそうだ。私が隙をつく。アリス、いいか?」
「……ええ。いいわ。杏理沙、霊那。あなたたちもいい?」
「はい。」
「わかりました。僕と霊那で頑張ります。」
上空ではいまだにフランドールとパチュリーが話していたが、魔理沙の魔力の高まりに気付きフランドールは笑顔で手を広げ、パチュリーはやや面倒そうに本を開く。
「いくぜ、突っ込む!彗星『ブレイジングスター』!」
宣言をするなり、魔理沙は箒に跨り上空の二人目掛けて突撃していく。その背後からは星形の弾幕が煌めき、流星のように流れていく。そしてその軌道はフランドールとパチュリーの合間を抜け、さらに二人の周囲を旋回しつつ弾幕を飛ばす。
「二人とも、気をつけて行きなさい。」
「はい!行こう霊那。」
「ええ。行きますよ杏理沙。」
魔理沙が飛び出した後、杏理沙を先頭に霊那が飛び出す。アリスはそのまま二人を守るように上空へと向かう。追撃があると思ったアリスは警戒しながら向かうも、二人を狙う追撃はなく、パチュリーに問う。
「いいの?二人を行かせて。」
「……三人も相手にするのは疲れるのよ。フランには悪いけど、あの二人なら咲夜に任せるわ。」
「そう。なら私はあなたに集中したらいいのね。」
「そうでもないわ。ほら、後ろ。」
「禁忌『レーヴァテイン』!」
「っつ!?」
パチュリーが後ろと言った瞬間、アリスは背後に魔力を感じ振り向く。フランドールの放ったスペルカードの弾幕が目の前に迫ったその時。
「きゃ!?」
アリスはその場から消えていた。正確には、飛び回っていた魔理沙に捕まれその場から急速に離れていた。
「おいおいアリス。気をつけろよ?」
「こんな扱いも久しぶりね。でも助かったわ魔理沙。」
「ふふふ。さすが魔理沙。早いわねぇ。」
「全くね。ブンブン飛んでやかましいわ。」
「そんな言い方はないだろパチュリー。」
「でも驚いたわ。魔理沙、私が異変の原因じゃないっって気づいてたのにあの二人を行かせたのね。魔理沙が地下に行くと思ってたのに。」
魔理沙がアリスを救出し、アリスはそのまま魔理沙の背後に座る。そして異変の直接の原因ではないことを暴露したフランドールは、魔理沙に問う。
「……今回に限っては、私にはその資格がないのさ。」
「なぜかしら?」
パチュリーが魔理沙に対して問う。フランドールもアリスもその疑問を持っていたため、魔理沙の答えを待つ。
「さっき私は異変解決より、霊夢のことを優先した。でもあいつ……霊那だったか?あいつは異変解決を何より優先した。博麗の巫女として、な。それを私に言った時の目。一瞬私は霊夢を重ねちまった。それに事情は知らんが私の箒を持った魔法使いのあいつに……。」
「昔の自分たちでも重ねたのかしら?かつてここに乗り込んできた、あなたたちのように。」
「そうだな。だから、任せてみることにしたんだ。でもあいつらでダメそうなら、後から追いかけて私が解決するさ。」
「ふふふ。なるほどね。なら、それまでは私たちと遊びましょう!今回の趣向は、タッグマッチよ!」
「ああいいさ。私も色々スッキリさせたいからな!行くぜ!」
その言葉を皮切りに四人は動き出す。特に魔理沙は自分の心のうちを晴らすように、激しく、大きく、瞬いていく。
全ては次に、進むために。