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東方霊々那  作者: 幽零
16/18

―流星、翔けめぐる―

―流星、翔けめぐる―


 

 霊那や杏理沙がそれぞれ紅魔館へ突入する少し前。博麗神社の少し裏、ある洞窟への入り口に一つの影が現れる。





「さて、久々に幻想郷に帰って来たと思ったら、なんだこりゃ。」

 夜の雨空の音でどうやって帰ろうかと思っていたところ、洞窟からやっと外に出たと思って見たら金色の雨。おまけに変な魔力が混じってる。


「この感じ、咲夜の魔力に近いな。けど、違う。あいつの魔力ならもっと、確定的に事象を止める。」

 けど目の前にあるこの事象は違う。対象を緩めるような、それを証拠に、雨に当たった物体は動きが遅くなっているだけ。

「ってことは、これは見知らぬ誰かが起こした異変だな。異変が起きたのなら私が解決しなきゃならん。……霊夢がいない今、私がやってやるぜ!」



 金の雨降る夜の中、一筋の光がそれを切り裂いていく。それは、夜空に瞬く流星の輝き。その進行方向は、紅の館へと続いていた。











「……杏理沙は、なんで魔法を学び始めたんですか。」

 アリスとパチュリーの弾幕戦に魅入っていた霊那と杏理沙。霊那は杏理沙の方を向かずに疑問を口にする。

「なになに?急に。」

驚きから上空で行われている弾幕戦より視線を外し、隣にいた霊那を思わず見る。驚きと嬉しさ。霊那が自分に興味を持ってくれたことに対する思いもある。

「……外から弾幕戦を見て、アリスさんとパチュリーの意思を感じます。思いがあるから、あんな綺麗な軌跡ができる。……私の弾幕には、おそらく無いものです。けどあの時、少しだけしか弾幕戦をしていませんけど、杏理沙の弾幕にはそれが見て取れました。だから……貴女の思いを、意思を、知ってみたいと思ったから。」

 弾幕戦に向いていた顔から、杏理沙と目を合わせて言う。この想いは、気持ちは、向き合って言葉にしないといけないと感じたから。

「……僕はね霊那。霊那に会う二週間前から魔法をアリスさんから学び始めたんだ。」

 真っ直ぐ向けられたその目から逃れるように杏理沙は未だ続く弾幕戦へと目を向ける。

「二週間?あの魔法が……!?」

「うん。まだまだ駆け出し。実はね、魔法を習う前までは病弱で禄に外も出歩けなかったんだ。」


 霊那は驚愕する。あのレベルの魔法が、魔法を習得し始めて二週間と言う事実に。到底普通の人間がこの短い期間で習得できるレベルでは無いだろうと。霊那は魔法を扱っているわけでは無いが、自分は霊力の扱いをものにするのに一ヶ月半はかかった。そしてその後、スペルカードルールにおける弾幕戦の修練、幻想郷の知識の吸収に二ヶ月。残りの半月でやっと弾幕戦が形になったと言うのに。

 そんな考えを込めての驚愕。しかし杏理沙はそれを短い期間だとは思っていなく、まだまだだと自分を戒める。


「いろいろあってアリスさんと成美さんに出会って、僕の身体が魔力を糧にして元気になって、今まで知らなかったお姉ちゃんの存在を知った。」

「……お姉さん……魔理沙さんのことですね。」

「やっぱり霊那も知っているんだね。まだ会ったこともないけど、僕はお姉ちゃんに会って見たいと思った。お父さんはお姉ちゃんのことを教えてくれなくて、どうしてもあって見たいと思った。」

「じゃあ、魔法を習得しようと思ったのは魔理沙さんに会うためですか。」


 杏理沙はそうじゃ無い、と首を横に振りながら上空の弾幕戦から目を離し霊那と目を合わせる。

「ううん。それはきっかけの一つ。僕が魔法を覚えようと思った一番の理由は、僕が魔法を使って見たかったから、だよ。」

 ちょうど杏理沙がその言葉を放つと同時に、上空のアリスとパチュリーの弾幕同士がぶつかり光を放つ。それに照らされて映る杏理沙の表情は、幼い子供のように楽しそうな笑顔。純粋に、魔法の習得を楽しんでいる表情。


「あんなに綺麗な光と形を成せるんだよ!僕、憧れてたんだ。昔小さい頃に見た夜に流れる流れ星を!あの綺麗な光を自分でも生み出せると思ったんだ!しかもそれを、自分だけじゃなくて他の人の思いを込めた形でも見ることができるって。」

 上空の弾幕戦を見ながら、目を輝かせる杏理沙。二人の魔法使いの弾幕戦に自分にも使えるような魔法がないかと、飽くなき探究心と好奇心を潜ませて。


「……なるほど。納得が行きました。だから杏理沙の弾幕は真っ直ぐで、楽しそうなんですね。」

上空を見上げる杏理沙を見ながら、霊那は納得する。杏理沙は自分のために弾幕を、魔法を習得した。だからこそ楽しそうに魔法を使うのだろう。そして同時に、博麗神社での弾幕戦を思い返す。おそらく、あのまま勝負を続けていたら自分は最終的に負けていただろうと。そんな不安から、勝負を別の……異変解決を先にした方が勝者などと口にしてしまったのであろうと自嘲気味に笑う。


「そうかな?でも、そう見えたのなら、僕も嬉しい。まだまだ魔法は始めたばっかりで、至らないところもあるけど、僕はアリスさんや成美さん、会ったばかりだけどパチュリーさんにも追いついてみたい。まだ会ったことは無いけど……お姉ちゃんにもね。」

 杏理沙は笑いながら語る。目標とする人たちへの尊敬、感謝、そして挑戦。それらを全て含み、楽しそうに。


「私は……私には、そんな人たちはいませんでした。」

 杏理沙の思いを聞いた霊那は目を閉じ、語り始める。

「え?」

「お察しかも知れませんが、私は幻想郷の外から来ました。こことは違い、外の世界では霊力などを扱う人間は少ないです。」


 唐突に霊那が話を始めたため、杏理沙は驚きつつも霊那の話を聞く態勢をとる。

「……そして私はそんな少ない事例の一人。とある小さな村で暮らしていました。霊力を扱えることは周囲に隠したまま日々を過ごしていた最中、声をかけられました。」

「……それが、八雲紫さん?」

 霊那は首を縦に振る。その表情からは感情がうまく読み取れない杏理沙だが、霊那の言葉の先を待つ。


「私にとっては渡りに船でした。……村には、いたくなかったですから。あちらでの全ての縁を切り、博麗の巫女になることは私にとって僥倖だったと思います。」

 村にいたくなかったと語る霊那の表情には少し影があった。その表情を見た杏理沙は、ただ黙って次の言葉を待つ。 

 

「そうして私は今、ここにいます。あのお方にも……霊夢様にも託されたこともあります。だからこんなところで立ち止まっているわけにはいかないんです。」

「なんで話してくれたの?僕に。」

「………私自身の意志の確認のためもありますが、あなたが身の上を話したのに、私が話さないのもフェアではありませんから。」

「そっか。ありがとう。霊那にも事情はあることはわかったよ。でも、一ついいかな?」

上空では未だ二人の弾幕戦が繰り広げられている。ちょうど弾幕の光が二人の顔を照らしたとき、霊那と杏理沙は向き合い、話す。

「なんですか?」

「霊那が覚悟を持ってここに来たこともわかったよ。そして、霊夢さんに何かを託されたことも……。でも、それって、霊那が楽しみながらやっちゃいけないことなの?」

「え……?」

「神社で弾幕ごっこをした時も言ったけど、霊那は楽しそうじゃなかった。それが弾幕の中にも表れていて、なんていうんだろう、霊那らしくなかった気がしたんだ。そんなに肩すじはらずに、もっと気楽に考えていいんじゃないかな?霊那は博麗の巫女っていう役割を与えられとはいえ、その前に、博麗霊那っていう一人の人間でしょ?」

「気楽に……。」







―そんな緊張しないで、気楽にやればいいのよ。アンタはアンタらしく、ね。ー



―じゃあ、頼んだわね霊那。博麗の巫女として、悪い奴はぶっ飛ばしちゃいなさい。アンタらしく、ね。―



―いい?紫はあんなこと言ってるけど、気にしないでアンタは気楽に楽しんで巫女やればいいのよ。考えてばっかだと疲れちゃうし、時には勘に頼りなさい。重荷を感じる必要は全くないからね。ー




「あ……。」

 ふと霊那は思い出す。弾幕の練習前に言われた言葉を、幻想郷に来る前に言われた言葉を。あの言葉を私はなんて返しただろうか。

「霊那?」

 それを、目の前にいる少女が思い出させてくれた。

「ふ、ふふふ……。」

「え?いきなり笑ってどうしたの?え?」

 それが可笑しかったし、嬉しかった。こんな状況だが、自分を見て話をしてくれたそ少女は、きっとこれからも自分の友人になってくれるのだと、そう、直感した。

「いえ。ありがとう杏理沙。私、あなたに重要なことを思い出させてもらいました。」

 そう、笑顔で杏理沙に言う。それは霊那にとって幻想郷に来て初めての表情だった。

「……うん。それはよかった。」

杏理沙はその表情を見て悟った。これから霊那との弾幕戦はきっと、楽しいものになると。そして、早く霊那と弾幕戦をしてみたいと。そのためには。

「じゃあ早くこの異変を解決させないとね。霊那。」

「その通りですね。そのためにも、パチュリーからお話を聞かなければ。」

二人が言葉を交わした直後、パチュリーとアリスのスペルカードがは同時に発動する。両者の魔法がぶつかり均衡している中、霊那と杏理沙も行動を起こそうとする。


「わあ!綺麗ね。パチュリーの魔法もアリスの魔法も!」

二人は同時に飛び退いた。上空の弾幕戦に感嘆の声を送るその声の主がいきなり目の前に現れたから。

「誰かは知らないけど、あなたたちもそう思うでしょう?」

 その声の主の特徴は一目瞭然だった。翼。虹色の宝石がのようなものが散りばめられた翼がある。そして、幼く見えるがどこか怪しく笑う。

「あなたは……吸血鬼ですね。」

「あはは。わかるんだね。そう、私は吸血鬼、フランドール・スカーレット。この紅魔館の党首であるレミリア・スカーレットの妹よ。」

「アリスさんが言ってた、魔法を使う吸血鬼さん……!」

「なんか騒がしいから来ちゃったけど、あなたたち、人間よね?」

「ええ、そうです。私は博麗霊那。こっちが霧雨杏理沙。」

「フランドールさん、私たち、外の不思議な魔力を持つ雨をと止めるためにきたんです。何か知っていますか?」

「知っているわよ。だって私がやってるんだもん。」

「……!」

「え?じゃあフランドールさんがこの異変の主犯!?」


 あまりにもあっさりと回答したフランドールに霊那と杏理沙の二人は驚く。その様子が面白かったのか、ケラケラと笑いながら話す。

「異変……。異変ね。確かにそうなのかも。それで?ニセ霊夢とニセ魔理沙が揃って異変解決をしに来たのかな?」

「ニセではありません。私は今日から正式には博麗の名をつ継ぎ、博麗の巫女となりました。幻想郷の調停者として、この異変を解決します。」

「えっと、僕も偽物ってわけじゃなくて……。お姉ちゃんにはまだあったことないけど、一応妹です。」

「……霊夢の次の巫女、それに魔理沙の妹?フウン…。あなたは確かに魔理沙の魔力と似た波長を持ってるわね。それじゃあ、二人は本当に異変解決のためにここに来たんだね。」

「ええ、その通りで…!?」


 霊那が答えた瞬間、二人の間に寒気が走る。フランドールは笑っている。笑っているにもかかわらず、二人は悪寒を感じずにはいられなかった。


「じゃあ、一緒に遊びましょう?パチュリーも遊んでるし、丁度よかったわ。飛び込んできたお客様相手に、それ相応のおもてなしをしなくてはね。」



フランドールが手を広げ、どこから呼び出したのか不思議な形状の棒のような物を携得ながらち宙へ浮かび始める。逃げるのは不可能、そして二人の目的は異変解決。


「……やるしかありませんね。杏理沙、行けますか?」

「もちろんだよ。フランドールさんに勝てば異変解決っぽいしね。」

「さて、そう簡単に行くかな?今夜の食事代は安く済みそうね。」

「それ、いくらくらいなんですか?」

「そうね……二人でコイン一個ってところかしら。」

「コイン一個程度じゃ、私たちは変えないことを証明して見せます!」

「ふふふ……!前もこんなやりとりをした気がするわ。そして答えたの。」



 



「あなたたちが、コンティニュー出来ないのさ!」






 霊那と杏理沙が覚悟を決め、弾幕戦のため構える。

フランドールの周囲から弾幕が展開され、発射される瞬間。それは奇しくも上空でアリスとパチュリーの拮抗が破られる時と同じだった。その時、勘高いガラスの割れるような音が図書館内に響き渡っ他のと同時に、まるで流星のように図書館内を翔けめぐる。しばらく旋回したのち、止まったソレは声を発した。




「おおっと!スピード出しすぎたぁ!。けどまあ無事着いたな。」


その音と声はその場にいた五名の動きをとめ、注目を集める。ソレは、大きな箒に跨り、大きな黒い帽子に白いリボン、金髪の髪に黒と白の衣装。



「よお、久しぶりだなアリス!パチュリーにフランも!咲夜がいないな。あいつはどこだ?外で降っている金色の雨、あいつが関わってるんだろ?」



「魔理沙!?」

「……魔理沙?」

「魔理沙!!」


 三人の魔女が彼女の名前を呼ぶ。かつて博麗霊夢と共に数々の異変を解決してた、霧雨魔理沙。普通の魔法使いが、その場にいた。


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