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東方霊々那  作者: 幽零
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ー受け継いだカードー

―受け継いだカード―





一人異変の調査へと先に出発した霊那は雨にあたりつつも、空を翔けながら思案していた。

(なんで私は、あんなことを提案したんだろう。)

あんなこと。杏理沙に、異変を先に解決した方が勝利者として決着という提案。あの蒼黒あおくろの魔法使いに言われたことが頭の中で繰り返される。


(弾幕は、自分を表すもの……。)


 自分の弾幕がどの様に映るか、霊那は考えたことがなかった。ただひたすらに、博麗の巫女としてどのようにあるべきか、どうしたら霊夢の代わりになれるのかを考えながら力をつけてきた。


「……今は考えてもしょうがない。とにかくこの異変を終わらせないと。」


 首を振りながら前を見据える。視界の先には空中の雲。その流れを観察し、さらに霊那の直感で導き出された進行方向は、霧の立ち込める湖。その先にあるのは悪魔の住む館、紅魔館。


「確かこの先には吸血鬼が住むっていう、紅魔館。……霊夢様が初めてスペルカードルールで解決した、紅霧異変の地。何かの因果があるのかしら。」

 かつて博麗霊夢が解決した紅霧異変。突如霧の湖の中心に現れた紅の館より紅い霧が発生し、幻想郷を覆った異変。当主レミリア・スカーレットは吸血鬼で、己の弱点である日光を遮ることで昼のうちでも騒げると考え、この異変をおこした。

 しかし紅い霧は妖気を帯びており、これにより人間の里の人々は体調を崩し、家から出ることもできず。さらに幻想郷を超え外の世界にも干渉しそうになるところを博麗霊夢が動き、霧雨魔理沙と共にレミリアらを退治、解決に至った。


「聞いていた紅霧異変はたしか、霧に妖力が混じったもの。さっきアリスさんたちが話していたように、今回の雨は魔力が混じっている……。今のところ私にはあまり体調の変化はないけど、いつ何が起こるかわからない。早急に対処しないと。変な奴がでないとも限らないし。」

「変な奴って誰のことよー?」


 霊那が一人こぼしているとふと背後から声が聞こえた。振り返り確認してみるとそこには幼い少女の姿。金髪に特徴的な赤いリボン。黒いロングスカートで何故か両手を大きく広げている。


「誰もあなたのことなんて言っていませんが。」

「それはまあ、当然……。ってあれ?なんかこんなやりとりをいつだかしたようなー?」


 金髪の少女は首を傾げながら数秒思案するが。


「ま、いっか。それよりあなた、巫女のニオイがする。」

「巫女のニオイってなんですか。それより貴女は……妖怪、ですね。」

「うん。私はルーミア。あなたは巫女?」

「博麗霊那。博麗の巫女です。」

「あれ?博麗の巫女は霊夢じゃなかったっけ?」

「その霊夢様に変わって、今日から私が博麗の巫女になったんです。」

「へー。そーなのかー。」


 ルーミアと名乗った妖怪少女は霊那のことをまじまじ見つめる。霊那は少々面倒そうに答える。

「で、あなたは何をしにここへ?用がなければ邪魔なので。」

「いきなり不躾ねー。妖怪が人間を前にしてやることって言えば一つでしょ?」

「あなたに構っている暇はないのですが。」

「この雨のことねー。なんか物は遅くなるけど、悪い気分じゃないわー。」

「調子がいい……?この雨の魔力は、妖怪の動きを活性化させる……?」

「そういうことになるのかしらねー」


 この雨が続くようであれば魔力に敏感な物はもちろん、妖怪にも影響がありそうだと感じた霊那は、やはり先を急ぐことを決める。

「それでは私は急ぎますので。くれぐれも人間を襲わないように。」

「それは妖怪に対して言う台詞?暇なのよー。相手してもらうわー。」


 言葉を言い終えるなりルーミアは弾幕を展開、霊那に向けて撃ってきた。

「……人にあだなす妖怪を退治する。博麗の巫女として退治はさせてもらいます。それに、ちょうど良かったかもしれません。」


 ルーミアの弾幕を交わしつつ思案を口に出す。このもやもやとした気持ち。あの魔法使いとの弾幕戦も中途半端に終わっていたため、いまいちすっきりしていなかった霊那。しかし。


「八つ当たりのようで悪いですが、退治させてもらいますよ。宵闇の妖怪、ルーミア!」


「そうこなくちゃねー。霊夢も最近いなかったから、代わりにいっぱい遊んでねー!」


 そのまま展開していた弾幕を霊那へ向けてさらに放出するルーミア。球状のそれは直線的に霊那へ向かう。霊那はそれを大きく旋回し回避、反撃に御幣をむけ針状の弾幕をルーミアへ発射する。


「霊夢と同じ弾幕ー」

 笑いながら霊那の弾幕を躱し、嬉しそうにこぼすルーミア。その笑顔は久々に人間相手に弾幕勝負をするからなのか、霊那と霊夢を重ねているからなのか。


「まだまだ霊夢様には遠く及びませんよ。そこ!」

 霊那はルーミアの言葉を否定し、さらに懐から二つ、紅白の陰陽玉を取り出す。二つのそれは霊那の周りへ浮遊しながら旋回。弾幕を発射する。


「む、それはちょっと厄介ね。それじゃあ、これでー!」

 顔をしかめながら懐からカードを出すルーミア。

「スペルカード!夜符……」



「『ナイトバード』〜!」



 スペル宣言。自らのスペルの名を宣言し、相手へ伝える。勝負事においては手の内を晒すことになるが、弾幕戦においてそれは自分の弾幕の美しさを相手に伝えながら勝利するための物。


 そしてそのスペルの名を宣言したルーミアは闇に隠れる。自分の周囲に「闇」を纏わせ、弾幕を放ってくる。

 ルーミアの能力は『闇を操る程度の能力』。その闇に包まれてしまうと、

夜と同じ暗さの視界の中にいるのと同じこととなる。が、欠点もある。それは。


「……あらぬ方向に弾幕がいってますが、大丈夫なんですかあれ。」

 闇の中にいるルーミア自身も視界が奪われてしまう点。そのため本人も相手である霊那の姿が見えずに弾幕が反対方向に発射されている。

現在は雨が降っていて暗いとは言え、ルーミアの周りの闇も見にくい状態ではあるが、見えないわけじゃない。もし戦っているのがよるであったらいつどこからくるかわからない弾幕に警戒しなければならないが、この状況において、見える弾幕を避けることは霊那にとっては容易い。


「あー、今馬鹿にしたでしょ。」

「どうでしょう。避け(グレイズ)しやすかったとは思いましたが。」

「ふふふ、そう言ってられるのも今のうちだよ。それじゃあ次はー」




「闇符『ディマーケーション』。広がれー」




 ルーミアがそのスペルを宣言し、手を広げた途端闇が広がっていく。

「これは……!」

 あたり一面が真っ暗となり、視界が奪われた霊那は戸惑い呟く。

「それじゃ、行くよー」

 立ち止まったところにルーミアの声が響く。暗闇の中から放たれた弾幕が霊那の目の前に迫ってきていた。

「っく……!?」

 突然現れた弾幕に驚きながらも躱す。その後も継続的に弾幕が迫ってくる。


「……こんなところでつまづいている訳にはいかない。そろそろ勝負をつけましょうか。」

 一度ルーミアの弾幕が収まったと同時に懐からカードを出す。

(霊夢様。お力、お借りします。)


「貴方を、結界の隙間に閉じ込めます!」

「スペルカード……」



「夢符『封魔陣』!」



 御幣を振り下ろし、袖から札を展開、巨大化し全方位へ放出する。ルーミアの放った弾幕を封じながら札は進んでいく。


「何処にいるのかわからないのならば、どこにいても当たるようにしてしまえばいいってことです!」

 目に見えないのならば、いるであろう位置に目測をつけ放てばいい。その究極系がこれだ。全方位に弾幕を放てばいずれ当たるだろうと。

 考えは極端だが、その思いきりの良さはどこか霊夢に似ているところもあると、みるものが見たら口にするだろう。



「のわー!?」

 ルーミアの叫び声が聴こえた途端、霊那の周囲の闇は晴れる。そしてあたりを見回してみると、木の上に倒れたルーミアが見えた。


「やられたー……」

 木の上で伸びているルーミア。そんな彼女のもとに霊那は降り立つ。

「しばらくは大人しくしていてくださいね。これ以上時間をかける訳にはいかないので。」

「ううー。わかったよー。せっかくごちそうが来たと思ったのに。」

「物騒なことを。もう一度食らっておきます?」

「それは勘弁。せっかく楽しそうなことになってるのに、もったいないことはしたくないからねー」

「ああ、そういえばルーミア、あなたはこの異変について何か心当たりは?」

「それ、最初に聞いて欲しかったけど。気付いたらこんな雨が降ってただけだし私は知らないかなー。」

「やっぱりそうですか。ではこれで。」

「あ、でもあの雨はあの紅い館からでた雲が原因みたい。」

「……それは心当たりがあるって言うんですよ。」

 思わぬところで意外な情報が手に入った。己の推察と勘で紅魔館へ向かっていたが、確証を得られた霊那はその視線を湖の方へ向ける。


「助かりました。風邪をひかないように帰ってください。」

「妖怪って風邪引くの?」

「知らないですよ。あなたの方が知っているのでは?」

「わかんない。まあいいや。また神社に遊びに行くからねー」

 言うなり、ルーミアは立ち上がりふわふわと飛び立っていった。大きな傷はないようだ。


「神社に妖怪が来ても良いことはないのですが……。まあ、今はとにかく異変の解決です。」


 ルーミアが立ち去った方向とは逆方向。紅魔館の方へ視線を向け、再び空を跳んでいく。

 弾幕戦を終えて少し気持ちが晴れたのか、霊那の表情は先ほどより明るくなっていた。


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