176話 再挑戦はどうする……?
リンクス達が戻って来たと噂になり、ドワーフの村にいる住人達も出迎えにきているようだ。
「おい、なんであんなに少ないんだ?」
「さぁー? 後から来るとか?」
出迎えに来ていた人がリンクス達を見て不思議に思ったらしいが、そう思うのも無理は無いだろう。
出発当初に比べると、半分以上の人間が帰って来てないのだ。
「ッチ、忌々しい者達だ」
住人達の喧騒に対して舌打ちをするリンクス。
「副官、コイツらどうにかならんか?」
「流石に、無理ですな……」
リンクス自身は、二度目の撤退という屈辱感から来るのか、今は注目されたく無いらしい。
「おい、シャレよ」
リンクスが、エルフ族を纏めあげていたリーダーに話しかける。
「また、兵士を募って再度あの場所に向かう。それまでしっかり休むが良い」
シャレは、表情を変えずリンクスを睨みつける様に見る。
(誰が、またあの様な場所に行くか)
「生憎だが、我々エルフ族は次は参加するつもりは無い」
シャレが不参加の意思を表すと、賛同する様に、副官率いる二班の参加者からも声が上がる。
「そこのエルフ同様、我々ドワーフ族も次は参加するつもりは無い」
エルフ族のシャレに続いて不参加の意思を示したドワーフは、キルと言い大きなハンマーで小型を一人で倒してしまう程の実力を持った強者である。
(ドワーフ族も不参加を表明したか……当然だな……)
シャレは目線だけキルを捉えると、キルはハンマーを肩に下げ、もう片手で自身の長い髭を撫でて居た。
(私と同じで、あの武器を使って一人で小型を倒せる者か……)
エルフ族とドワーフ族からの不参加を聞き、リンクスは焦る。
「な、何を言っているのだ。あと少しで攻略出来るのに!」
「リンクスよ、はっきり言うが貴方に、あの場所を攻略する事は無理だと思う」
シャレの言葉に、目を見開き唇の端を噛み怒りを押さえ込んでいる様だ。
「な、何が無理だと言うのだ!」
リンクスの声色や表情を見る限り、どうやら怒りを抑え込めてはいない様だ。
「儂も、そのエルフと同じ意見だ。あの人数で、更には強者が集まって居たと言うのに、結局は前回同様の三日までしか進めなかったのだ、諦めろ」
シャレ同様、キルにも痛い所を突かれて、リンクスは返す言葉が見つからないらしい。だが、副官がリンクスに耳打ちをすると、見る見る内にリンクスの表情が、怒りから余裕ある表情に切り替わる。
(あの、副官何を吹き込んだ?)
シャレは、リンクスの表情に余裕が生まれた事に嫌な予感を感じた。
そして、その予感は見事に的中する。
「あはは、そうかお前達は参加しないのか。ならしょうがないな」
シャレとキルを交互に見渡し不敵に笑う。
「なんじゃ?」
「いやいや、参加出来ない者に報酬を渡すわけにはいかないと思ってな」
リンクスの言葉に、一班、二班の参加者全員が驚愕する。
「それは話が違うぞ!」
「シャレよ、何が違う? 私は成功した暁にはと言ったはずだぞ?」
(やられた……。確かに成功した暁にはと言われたが、少しは報酬を出して貰えると考えた私が甘かったか……これだから人間族の男は!)
シャレ同様、ドワーフのキルも苦虫を噛んだ表情で低く唸っていた。
二人の表情に満足しているのか、リンクスはある提案をする。
「今回の分は報酬を払えないが、次も参加するなら、その時は成功、失敗の結果に関わらずに報酬の宝箱を最低一つずつエルフ族とドワーフ族に渡す事を約束しよう」
リンクスの提案を直ぐに突っぱねる事は簡単だが、断れない理由がそれぞれの種族にある様だ。
次は、シャレとキルの二人が先程のリンクス同様に怒りを我慢している様子である。
「まぁ、ゆっくりと考える事だな。次の出発は一週間後だ」
そう言うとリンクス達一同は去って行く。
(クソ……。どうする……?)
シャレは珍しく、眉間にシワを寄せて今後の事を考えている。それはドワーフも同じらしく、キルも他のドワーフ達と一緒に一週間後に参加するかどうかの話し合いをしている様だ……。
「シャレ様、どうするつもりですか?」
「……一晩考えさせてくれ」
「我々エルフはシャレ様の判断に従います」
「いつも、ありがとう」
部下であるエルフに笑いかけ、シャレは一人でその場を離れる。
どうやら、冷酷に見えていたシャレであるが、同族には心を許しているのか表情が柔らかい。
(私が一族を守る……。その為には……)
何やら、シャレには色々なしがらみがありそうである。
同じく参加、不参加の有無についてドワーフ達もどうするか決めかねている様子である。
「キルよ、どうする?」
「そうじゃな……。はっきり言って我々だけではあのモンスターの群れをどうにかするのは無理だ」
皆、キルの言葉に頷く。
「だが、我々にはどうしても資金がいるのは分かっているな?」
「あぁ。俺達の夢の為には資金が必要だ」
「そうだぜ。夢に向かって動かないなら、それは死んでいると一緒だぜ?」
「そうじゃな。よし我々は参加するぞ!!」
「そう来なくちゃな!」
どうやらドワーフ達は参加する方向で話が決まった様だ。
「だが、何か対策を立てないとな」
「対策?」
「あぁ。奴らは恐らく次で俺達を使い潰す気だ」
キルはリンクス達が本当に報酬を払ってくれるか怪しんでいる。
「ど、どうするんだよ……」
「安心しろ、奴らはこのドワーフの村で宣言した。次は失敗しても宝箱を一つ渡すと」
その言葉はその場に居た住人達もしっかりと聞いていた事である。
「この土地で、約束を守らなかった場合はどうなるか知っているだろ?」
そう言うと、他のドワーフ達は納得がいったのか、それぞれが頷いている。
「成る程な。この土地で約束を守らなかった場合、奴らは今後ドワーフが作る武器が買えないって事だな?」
仲間の言葉に、ニヤリと笑うキルであった。
「その通りだ。人間族でも武器を作れる奴はいるが、俺達が作る武器程丈夫で斬れ味の良い武器は作れねぇからな」
ドワーフ達の武器はとても質の良い物ばかりであり、他種族の作った武器と比べるとやはり、かなりの差が出てしまうのである。
そこで人間族や他の種族なども殆どがドワーフの作る武器欲しさに買いに来る。
「俺達との約束を守らなかったら今後一切人間族に武器は売らねぇぞ!」
人間族だけでは無いが、他種族含めてドワーフの武器を買えなくなると言う事は、痛手であり望む結果では無いであろう。
「そうと決まれば俺達の楽園を作る為にも報酬を頂くぞ!」
「おうさ! 楽園を作るぜ」
「その為には金が必要だからな」
ドワーフ達は種族がら好奇心旺盛で、尚且つ夢見がちなのである。本来なら考えても、それを形にするのは難しいが、ドワーフ達は夢を形にする技術を持っている為、あながち夢見がちでも無いのかもしれない。
「俺達の技術を使って、人間族の住処以上の強固な砦を作って一生平和に暮らしていくぞ」
「そうだ。あんな自然の力で偶然手に入れた場所では無く俺達の土地であるココで、平和に暮らす!」
「その為には莫大な金が必要だしな」
「よーし、やる気が出てきたぜ。皆んな頑張るぞい」
キルの掛け声でドワーフ達は一週間後に向けて気合を入れるのであった。
どうやら、ドワーフ族が言っている楽園とはモンスターに怯えず平和に暮らす住処の事らしい。
確かに、この世界でドワーフ達が考える住処は楽園である……。
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