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第8話 4人の男女

 

 須田浦旅館のゲーム場で知り合った4人の男女。

 話をしてみると、中々凄いメンツのようだった。


 ひとりは、牧野(まきの)和一(かずいち)

 京東大学の学生で、既に司法試験を一発でパスしている強者(つわもの)だ。

 将来は弁護士になるそうだ。


 俺の頭を撫でながら、懐から飴玉を取り出し餌付けしてくる女がいる。

 可愛い可愛いを連発しているこの女は、矢代(やしろ)(みやび)

 なんでも、とある人気沸騰中のアイドルグループに所属していて結構な有名人らしい。

 たしかに、普通に可愛いとは思うが、「アークス」で美少女には見慣れているので、それだけで見惚れるということはない。

 だが、日本で見た中では、断トツで可愛いのは間違いなかった。


 そして、もうひとり。

 クールな感じの黒髪のお姉さんがいる。

 名前は、綾瀬(あやせ)才花(さいか)

 和一も及ばない程の天才だそうで、京東医療大学病院で働く凄腕の外科医だという。


 な?凄いメンツだろうこれは……。

 ほぼ弁護士が決まっている超一流大学の学生に、人気沸騰中のアイドル、おまけに女医さんだ。


 それが、この田舎の旅館で卓球しているというのだから驚きだ。


「へぇー、凄いな。雅ってテレビにも出てるんだ」

「うん、まぁね。でも、一番有名なのは……」


 雅は、あっしーこと芦原(あしはら)風李(ふうり)を見た。

 その視線は、あっしーが一番有名とでも言うようなものだった。

 このダーツ下手くそな青年が?


「そういえば、あっしーは普通の大学生なの?」

「ん?あぁ、俺か。俺は」


 あっしーの言葉を遮って、ゲーム場のドアが開いた。


「こんなとこにいたか。祐也、行くぞー」

「あら、ごめんなさい。うちの子がご迷惑をかけなかったかしら?」


 俺の両親がやってきた。

 どうやら館内を探し回っていたらしい。

 もう少し駄弁っていたかったけど、この後は動物園に行く予定なので仕方ない。


「ごめん、もう行かなくちゃ。またな」


 俺がそう言うと、雅が抱きついてきた。

 良い匂いがする。


「ゆうやくん、今夜ここに泊まるんでしょ?私たちの部屋201号室だから、夜遊びにきてね?」

「わかった。俺ももう少し話したかったし」

「ほんと?約束よ、うふふ」


 笑顔の雅から解放されて、あっしーに視線を向けると軽く手を振ってきた。

 俺はそれに応じて手を振り返し、ゲーム場を後にした。





 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 俺は最初、特に何も考えずにそいつに話しかけた。

 格ゲーを凝視していて、如何にもやりたそうだったから、100円ぐらい出してやるかと思ったのだ。


 だが、少年というには少し幼すぎるそいつは、到底その年代が使わないであろう言葉遣いと態度で、ダーツの矢を取れと言ってきた。


 俺はそれに少し面食らいながらも、矢を渡してやると、なんといきなり真ん中に命中させていた。

 それも、ふわりと飛ばす綺麗な弧を描いて。

 真っ直ぐ飛べば、まず刺さらない角度だったが、簡単に命中させたのを見て、俺はいつもの負けず嫌いが子供相手に発動した。


 投げてはみたが、狙いからは少し外れて20ポイントに刺さった。

 投げる方(、、、、)ではないといっても、かなり悔しかった。


 その後、和一たちがやって来た。

 アッシー君と言われて、少しムカついたが子供相手にムキになってもしょうがないと思った。


 各々簡単な自己紹介をして、雅が祐也に色々自慢をしていた。

 どうやら、かなり好かれたようだった。

 可愛いものに目がないからな、あいつは。

 ふたりで写真を撮ってインスラに投稿までしていた。

 仮にも人気アイドルが、大丈夫か?と一瞬思ったが、祐也はまだ幼稚園児だし、勘違いされても弟ってところだろうと思い直した。

 話してると、つい年齢を錯覚するんだよ、この坊主は。


 そしてその後、祐也の両親が迎えにきて、ゲーム場を出ていった。


「随分、頭良さそうな子供だったな」


 和一の呟きに、俺たちは自然と頷いていた。




 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~




 須田浦旅館を出ると、定食屋で昼ご飯を食べてから動物園に到着した。

 森の中にあって、多種多様な動物が飼育されている。


 早速入場して、朱美と話ながら道順に動物を見て回る。

 親バカな恭介は、ずっと後ろでカメラを回していた。


 そうして程々にはしゃぎながら歩いていると、ゴリラが入っている檻にやってきた。

 ゴリラのような魔物、ジャイアントコングに比べるとあまりにも可愛いらしかった。

 まぁ、ジャイアントコングも倒しすぎて怯えられてからは中々従順で可愛いかったが。


「ママ、ゴリラがドラミングしてるー」

「うふふ、そうね」


 朱美も上機嫌で、いつもよりもよく笑っていた。

 そしてそんな俺たちの様子を、少し離れた所から撮っている恭介。

 やれやれ、父親ってのは大変だな。



「あっ、ちょっとトイレ行ってくるよ」

「あら、じゃあママたちはここで待ってるわ」


 そう言って、俺はひとりトイレに入っていく。

 すると、そこでは──。


「ガハッ……ハァハァ」

「おい、立てよ。オラアァ!」

「グワッ……!」

「なんでこれっぽっちしかねんだよ、おい。5万持ってこいっつったよな?」

「言ってた言ってた。なんで1枚だけなんだよッ!」

「でも、グフッ………」

「でもじゃねんだよッ」


 制服を着た男子高校生たちが面白そうなことをしていた。

 状況は、気弱な男子高校生がふたりの男子高校生にかつあげされているという、まぁありがちなもののようだ。

 そういえば、遠足なのか何かの実習なのか知らんが、制服を着た集団がいたなぁと思い出す。


 正直助ける気はあまりない。

 女子ならまだしも、男なら自力でどうにかしろと思ってしまうからだ。

 まぁ、こういう感じでいじめからの自殺に繋がっていくのかもしれないが。


 でも、今回は助ける形になってしまうかもしれないな。

 なぜかって?

 こいつらをどかさないと、用を足せないからさ。


 邪魔すぎる。

 そういうのは、もっと裏道とか人気(ひとけ)のない場所でやってほしいものだ。

 トイレの中でやんなよな。

 そう思いつつ、痛め付けるのに夢中な高校生に近寄っていく。


「ねぇ、邪魔だよ。公共の施設で……人の迷惑を考えろ」


 高校生に説教する3歳児。

 中々シュールな絵面だった。






あっしーの正体は、果たして!?

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