第7話 家族旅行
一週間後に、玲華は何事もなかったような顔でやって来た。
通報した後、マップで様子を見ていたが無事に保護されたらしかった。優秀優秀。
その後は、一週間大事をとって家にいたようだ。
「ゆうやー、これ見て。わたくちの方が上手でしょ?」
今日も泉とお絵かきで張り合っている。
中々の負けず嫌いっぷりだ。
「いやー。やっぱ泉の方が上手いわ」
「なっ!?……ゆうやのバカーー!」
ポコポコ頭を叩いてくる玲華。
可愛い。
「ふんだ。ゆうやよりはすっごく上手なんだからっ」
「ほっとけ」
その後も幼稚園児の平和な勉強は続いた。
うん、平和だ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ある日──。
幼稚園に迎えに来た朱美と手を繋いで自宅に帰ると、珍しいことに恭介がいた。
「おう、祐也。おかえり。幼稚園は慣れたか?」
「あっ、パパ。ただいま。今日は早いね。どうかしたの?……もしかしてクビにでもなった?」
「バっ。んなわけないだろ」
「「…………」」
「違うからな。今日は早く上がっただけだからな」
「本当かしら」
朱美にまで疑いの視線を向けられ、あたふたしだす恭介を横目に牛乳をラッパ飲みする。
「うー、うまい!」
「だいたい、なんではや上がりしたかわかってるくせに」
「まぁ、そうね。なんとなくよ」
ん?と俺がふたりに視線を向ける。
今日早く帰って来たのには理由があるらしい。
「祐也、明日と明後日の土日使って旅行行くか!」
どうやら、家族孝行する為に早帰りしたようだ。
翌日。太陽が出る前に起きて、車に乗った。
現在の我が家の愛車、トヤタのアルフィードだ。
高級感のある外観デザインと、上質で快適な車内が人気のワンボックスカー。
俺が産まれる前に大きい車に変えたらしい。
時たま、俺が寝たふりをした後に夜な夜な行為に及んでいるようなので、そのうち弟だか妹だかができると思う。
まぁ、その為のビッグカーなんだろうな。
それはさておき、今向かっている場所は、片田舎の旅館だ。
駒木町という緑豊かな町で、駒木温泉街は全国でも有名な観光スポットである。
高速も使って、2時間程かけて到着した。
「着いたぞー。ここが映画の舞台にもなったことがある駒木町の須田浦旅館だ」
「あら。風情があっていいわね。じゃあ、早速荷物を置きに行きましょう」
「ほんとだ。心なしか空気が澄んでるね」
「祐也、難しい言葉知ってるな」
「そうかな?普通だと思うけど……」
部屋に荷物を置いた俺は、とりあえず旅館を探検してみることにした。
朱美は化粧直し、恭介は仕事の電話をしていたので、ようするに暇潰しだ。
温泉エリアに食堂、お土産コーナーと色々な場所を見て回る。
中々広いなぁと思いつつ、廊下を歩いていると、ポンポンと軽快な音が聞こえてきた。
「これは、卓球の音だな」
音の発生源に入ると、そこはゲーム場だった。
卓球、ビリヤード、ダーツ、そして、昔ながらのアーケードゲームが壁際に並んでいた。
メジャーな格ゲーから、プユプユまである。
「なつかしい……。まだこんなんあったのか」
俺が懐かしさにジーンときていると。
「なんだ坊主。それやりたいのか?」
後ろから卓球をしていた大学生ぐらいの青年が話しかけてきた。
それとは、俺の前にあるこの格ゲーのことだろう。
「大丈夫だ。見ていただけだから」
俺がそう返すと、青年はキョトンとした表情をみせる。
「……なんかお前、ガキらしくねぇな。まぁいいや。あまりうろちょろして迷子になるなよ」
親のようなことを言って、卓球に戻ろうとする青年を呼び止める。
「ダーツをやりたいんだけど、矢が置いてある場所が高くて。ちょっと取ってくれない?」
「おぉ、いいぞ。………ほい!しかし、坊主の身長じゃ刺さんねんじゃねぇかな?」
「サンキュー。まぁ、見てて」
俺の身長は、100cm届かないぐらいだ。
ターゲットの高さが大人用なので、角度は大きくて普通ではまず刺さらない。
だが、俺は戦場で弓矢も使ったことがある。
俺の命中精度を侮ってもらっては困る。
数m離れて、ふわりと優しく投擲する。
それは狙いたがわずに、真ん中に命中した。
もちろん、ダブルブルだ。
ディスプレイに50点の表示が出る。
「なんだ。意外と簡単じゃん」
「おぉ、すげー!いきなりド真ん中かよ。ちょい貸してみ。俺もやってみるわ」
強引に俺の手から矢を一本取って、その青年は投げた。
ディスプレイには70点の文字が。
20ポイントのシングルエリアに刺さったのだ。
「あっ、おしい!もうちょっと上だったな」
「別におしかねーよ」
「………坊主、ちょっと言葉遣い、それどうなんだ?」
スルーだ。
さて、ラスト一本。
狙いを定めて投げようとすると、ダーツが音を鳴らす。
『目指せ!百ポイント!』
ふむ。どうやら、ポイントをジャストにするルールらしい。
ということは、30ポイントとりゃいい。
いくつか方法があるが、一番難しそうなのは10ポイントのトリプルエリアだ。
真ん中付近にあり、3倍のポイントが入る所になる。
俺は、少し眉間に皺を寄せる青年を無視して、矢を投擲する。
すると、ディスプレイの文字が100点に更新された。
『おめでとう!百ポイントだよ!』
チョロいな、ダーツ。
ふと、今度はアーチェリーとかやりたくなった。
機会があれば、やるか。
「いつまで遊んでんだよ、あっしー。お前の番だぞ?」
「そうよ。卓球もうおしまいなの?………なに、その子……めっちゃ可愛い……」
「本当だ。可愛い」
青年のツレである、男ひとりに女がふたりやって来た。
皆それなりに整った顔立ちをしている。
が、俺はその呼び名にツボった。
「ぶふっ!……アッシー君なのか?」
「ち、ちげーわ!!」
慌てた感じで青年──あっしーがツッコミを入れてきた。
駒木町とはもちろん架空です。
絶対無いとは言いませんが……。