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第61話 忠犬フィリアの確信的直感

ご無沙汰です。

いつの間にかフォーマットがすごいアプデされててよくわかんなかったですが、これでなんとか投稿できるっぽい?笑



 

 ん。ご主人様の忠実なる犬、フィリア。フィーと呼んでもいいけど、身体を触っていいのはご主人様だけ。だから不用意に近付かないで。噛み殺すよ。


 でも、所詮フィーはご主人様を守れなかった出来損ないの駄犬。ううん、守るどころかフィーはその場にはいなかった。ご主人様にとって、フィーは護るべき盾じゃなくて、ただのお荷物でしかなかった、きっと……。


 あの日、ご主人様が邪神討伐に赴いたことを、フィーは置き手紙で知った。『ちょっと邪神たおしてくる。ちゃんと留守番しとけよ、フィー』という短い文章で、いつもの軽い感じ。このときのフィーは何の心配もしてなかった。噂では複数の邪神が目撃されたということだったけど、あのご主人様が負けるというのは想像もできなかったから。


 でも後になって知らされたのは、有り得べからざる結果──訃報。

 どういう戦闘が行われていたのかわかんないけど、地形が大きく変形し、凡そ半数以上の邪神が姿を消したそう。周りの人たちは、『自分の命と引き換えに10体以上もの邪神を屠った最強の勇者』とか言って称えていた。でも、フィーにはそんなことどうでもよかった。ご主人様がいなくなったことこそが最大で究極の問題で、この世の終わり。



 そして、フィーは暫く抜け殻のようになっていた。この時の記憶は何もない。でも、後になって冒険者ギルドの皆や宿の人たちに生かされていたのだと知った。無理やりご飯を食べさせられたり寝かしつけられたり、フラフラと出歩いた時には誰かが見守ってくれていたらしい。


 そんな人たちの厚意を知ろうともせず、フィーは何度も自殺を図った。ご主人様のいない世界なんて塵芥に等しいと思っていたし、価値はないから。それは今でも変わらない。ご主人様のいる世界が、フィーのいるべき世界。それがたとえ地獄や魔界だとしても、魂だけになったとしても、フィーはご主人様のお傍に居続けたい。


 そんな叶わぬ願いを抱き続けて5年。

 フィーはご主人様が亡くなったというのに無駄に生き続けてしまっている。皆がフィーを生かしてくれたその気持ちには報いたいけど、それでもフィーにはご主人様しかいない。ご主人様がフィーのすべて。フィーはご主人様のもの。


 ふと小刀を手に取る。

 何度これを自身の身体に突き刺したかわからない。数え切れない程滅多刺しにして死のうとした。でも、その度に治癒魔法が使える誰かが邪魔を……ううん、助けてくれる。こんな恩知らずの犬っころを助けてくれる。見返りなどない。それでも皆はフィーを生かそうとする。


 鋭く研がれた小刀の刀身に自分の顔が映る。なんとも覇気のない顔。


 数年前は皆に乗せられてご主人様の仇だと無我夢中で邪神を殺した。でも、何もスッキリしなかった。フィーにとって、邪神を殺すことは何の意味もないと気付いてしまった。ただ虚しいだけだと。


「また死のうとしてるの?」

「…………」

「聞いたよ。英雄リアンの仲間だったんでしょ?」

「過去形にするな。ご主人様は今も生きてる」

「そっか。ごめん」


 最近この集落に来た勇者、ユイ。

 ご主人様と同じ世界からやってきたということを除いても、なぜか気になる存在。彼女を見ると、常にご主人様を思い出して泣き出しそうになる。別に外見とか雰囲気とかも似てるわけじゃないのに、何がそうさせるのかフィーはずっと不思議でしかたない。


「なんの用」

「そんなに威嚇しないで。私はただフィーちゃんの大事なご主人様のお話が聞きたくて。リアンさんって実際どんな人だった……なのかなって」


 また過去形にしたので睨むと、ユイは目を逸らした。でも、ご主人様のことを悪意なく聞かれるのは素直に嬉しい。


「聞きたい?」

「う、うん」

「ご主人様は、とにかく優しい。やること全部が規格外で、凄いことをやってるのに全然気にしてなくて、フィーみたいな汚い犬っころを救ってくれて。救ってくれた時も最初は面倒くさそうにしてたのに、お風呂入れて洗ってくれたり、宿に泊まらせてくれたり、旅に連れてってもらったりして面倒見が良くて。強くなる修行も付けてくれて、何かあると凄く褒めてくれて、優しく頭を撫でてくれて。凄く幸せで。でも、フィーはこのままじゃいけないと思って。恩返しがしたくて我武者羅に獣術の修行とかしたけど、当然ご主人様には届かなくて。でも、雑魚避けぐらいにはなって。ご主人様は挑戦者が来なくてつまんないって言ってたけど、フィーをモフモフするとすぐご機嫌になって、そんなご主人様も可愛くて。それで、フィーよりも強い三獣傑っていう獣人が来た時はあっさり倒しちゃって凄くカッコよくて。でも、街が半壊したから貴族に怒られてて。ご主人様はつまんないとすぐ寝るから、怒られてる最中に寝てて、そんなご主人様を起こそうと触れた途端にその貴族が投げ飛ばされて。失神しちゃったから、騎士たちに追われることになって。その時のご主人様はとても楽しそうに笑ってて、フィーの手を引っ張って走ってた。それから──」

「えっと、ごめんフィーちゃん。どんどん早口になって何言ってるのかわかんない」


 フィーはハッとした。ご主人様との思い出を脳内に描いていたら、その軌跡を辿るように口から言葉が溢れた。自分でも何と言っていたのかわからないぐらい。


「素敵な人だったんだね」

「う……うん。……あ、過去形にすんな」

「ふふ」


 すると、ユイがフィーの頭に手を伸ばしてきた。普段ならカウンターパンチを食らわすか避けるところ。でも、なぜかご主人様の手とダブって見えてフィーは動けなかった。


 優しくフィーの頭を撫でるユイの手。ご主人様に拾われてからご主人様以外の人に触らしたのは初めてで、見るものが見たらビックリするに違いない。



「……ユイは、ここの人たちのこと、避けてる?」

「えっ!?」


 ふいに浮かんだちょーろーの言葉を思い出し、何気なくユイに聞いてみると、あからさまに狼狽えている。図星っぽい。


「フィーも避けてた。ご主人様以外の人が何も信用できなくて。でも、ちょーろーとやんきーはちょこっとだけ信用できる、と思う」

「ぶふっ!ふっふ……長老はギアスさんとして、や、ヤンキーってもしかして、ルイーゼさん?」

「たぶん。ご主人様が教えてくれた。アレはヤンキーっていう人種だって」

「~~~~~」


 何処にツボがあったのか、ユイは腹を抱えて笑ってる。大声こそ出してないけど、変な引き笑いまで出てる。

 よくわかんないけど、なんかこの勇者はご主人様に近いものがあるってフィーは感じた。ご主人様もよくわかんないことで爆笑してた。


「あ~面白かった。こっちの世界でこんなに笑ったの初めてかも。愉快な人ね、リアンさんって」

「ん」

「…………フィーちゃんには正直に話すけど、私がここの人たち、というか、この世界の人たちと距離を置いてるのは、過度に干渉したくないから。転生して第二の人生を歩んでいたリアンさんと違って、私は無理矢理この世界に喚ばれた。だから喚ばれた目的である邪神を倒して必ず日本に帰る。その為には、余計なことに時間を使っている場合じゃないし、情が移るようなことはしたくない。……もう間違えたくないの。。。。って寝てる!?私結構思い切って話してるんだけど!?」


 フィーは長い話苦手。


「終わった?」

「う、うん。終わったよ……」

「よくわかんないけど、フィーはご主人様のためなら何でもする」

「ん?」

「だから、ユイも何でもすればいい」

「───っ!」


 フィーは思ったことをそのまま言う。ご主人様のためだったら、フィーはその他全部を敵にできる。ユイも何かしたいことがあるなら、その他全部を敵にしたらいい。だって、それは譲れないものだから。


「フィーちゃんは強いね」

「ユイももっと強くなる気がする。ご主人様には遠く及ばないけど」


 ユイは「ふふ」と僅かに笑うが、すぐに真剣な顔になった。その直後、一人の人物がこの部屋に駆け込んで来る。


「ユイ!今朝、狩りに出かけたエルフたちが襲われているらしいです!相手は悪魔です!」


 桃色髪の女で、確かユイの仲間。

 名前は知らない。おっぱいが大きいから覚えてた。


「釣れたわね。すぐ行きましょう。康太君にも声をかけて」

「はい!」


 慌ただしく入ってきてすぐ出ていくユイの仲間。彼女を追うようにしてユイも出ていこうとするが、その前にこっちを振り向いた。


「フィーちゃん。ありがとね」


 それだけ言うと、ユイは部屋を出ていった。その後ろ姿に、フィーは一抹の不安を覚えた。と同時に、何故だか幸せを予感した。




 フィーはご主人様の忠実なる犬。

 ご主人様の匂いを追うことにかけて右に出る者はいない。


「ご主人様の……匂いがしゅる!!」


 フィーは、その野性的な本能に従い、部屋の窓から外に飛び出した。バリンという窓が割れる音が響く。


「フィー!?」

「フィーちゃんっ!?」

「フィリアが出たぞ!また自殺しないように……って、あれいない?」


 全ての音を置き去りにして、フィーは加速した。一瞬で集落を抜け、ユイの匂いを頼りに荒野を疾駆する。


 そして、フィーは見た。

 禍々しい魔力の奔流が、今まさにユイを飲み込もうとしているところを。


 その魔力をフィーは知ってる。

 戦ったこともあるそれは、邪神の魔力。これによって生み出されている魔法は、ご主人様からほぼ全ての魔力を消したとされる神法・御死罹素(オシリス)


 ご主人様の時とは違い一柱分の魔力だけど、フィーたち凡人には充分すぎる威力を孕んでいる。一瞬で魔力が空になって死ぬ程に。だから、フィーが邪神を倒した時に一番気をつけていた魔法。

 これは、ユイも例外じゃない。このままだとユイが死ぬ。


 フィーは速度を落とさずにその中心へ突っ込み、右足を大きく後ろに振りかぶる。フィーの接近に気付いたユイが、凄く驚いた顔をする。


「フィーちゃ──」


 でも次の瞬間には、フィーの蹴りが勢い良くユイに当たる。当然の如く吹き飛んでいくユイ。あ、ごめん、脇腹折ったかも。でも無事に御死罹素から抜け出たから許してほしい。



 いや、もうそれはどうでもいい。

 フィーの周りに殺到する死の魔力。

 その先に──


「ご主人様~~~。フィリア、今行きます!!!」


 何の根拠もない。何の確証もない。

 でも、フィーにはわかる。


 この瞬間、この死の先に待つ、愛しのご主人様の匂いが。





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