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第57話 ルイーゼは幽霊を脱し、咲良は愛娘を探す

※ルイーゼ=師匠


 

 フィリアと永遠のお別れをした後、色々と話をしたかった為、この集落の長が住まう家に案内された。ドデカい木の中身をくり抜いたような家だった。このような木造建築の家は、エルフの集落では珍しくはなく、他の家とそんなに格に違いはなかった。


「師匠、ずっと気になってたんだけど、それ幽霊みたいだぞ?」


 俺が何気なく聞いた言葉に、葵はコクコクと頷いている。俺と同じで気になって仕方なかったらしい。


「仕方ないだろう。聖女も魔道具職人も死んだんだから。足を失った直後はもちろん義足を使ってたが、壊れてからは修理できるやつが見当たらなかったんだ」

「そうか。メアリーも死んだのか」

「あぁ、そんな名前だったな」


 世界に跨る教会組織──聖クレアス教の十一代目聖女であるメアリーとは何度か会ったことがある。

 聖女とは、祈りに属する高い魔法適性と神からの信託を受けるに相応しい清い身体を持つ少女の中から選ばれる存在だ。ゆえに、回復魔法に秀でており、難しいとされる欠損の回復すら可能とする。

 そこら辺の治癒士では、切り離された手足を繋げるならともかく、失った足を言わば蘇生して、元の状態に復元する最上魔法〝逆行回復(リカバリー)〟を唱えるのはかなり難しいと言わざるを得ない。

 義足も然り。職人がいないのでは、メンテナンスもできまい。想像以上に今のアークスはヤバいらしい。


「ん」

「……ん?」

「ん!」


 家の居間。そこで突然寝そべった師匠は、何か無言の圧力を与えてくる。そっぽを向きつつ、「ん」の一言で分かるだろとでも言うように、俺に体を差し出してきた。

 これは……ついに師匠も子供が欲しくなったと?まぁ、こんな状況だからな。魔法バカで、体以外は女らしさ皆無の師匠でも子孫を残したくなったのかな。


「……おい、子供の姿でいやらしい妄想をするな。恐らく、お前が思ってるようなことではない」

「大丈夫。今の俺の体ではどっちにしろ無理だから」

「殺すぞ?」

「ごめんなさい」


 だから、なぜわかる。俺自慢のポーカーフェイスが、師匠の前では全く意味を成していない。


「……すまない。こいつを治してもらえないだろうか。散々化け物とか言っていたが、お前のことは信頼してるんだぞ」


 師匠にしては珍しくそっぽを向きつつ、しどろもどろにそう言って、自分の欠損している足元を指さした。いやそれよりも、滅多に褒めてくれない師匠が素直になる瞬間は、めっちゃ可愛いのだ。さっきの『殺すぞ』との落差はエグいが。


「そこまで言われたら仕方ないな。……ほい、元通り」

「…………」

「…………しゅごい」


 お望み通り、師匠の足を治してあげた。

 無言で自分の足を見つめる師匠と、ビックリした様子で呟く葵。葵はともかく、師匠の反応も少し驚いているように見える。


「……まさか本当に治るとは。子供に転生したというのに、魔法の腕は衰えるどころか、意味わからんぐらい自然にやりやがって。リアン、今のは何だ?」

「えっ?リカバリーだけど。あと、俺の名前はゆう──」

「いつ魔法を構築した?」

「……今?」

「魔法制御は?欠損してる足を再生するイメージは?」

「一瞬?」

「……じゃあ、詠唱は?私の記憶が正しければ、前はしてたよな?」

「別にいいかなって」

「…………ほんとッ、おま──」


 ・

 ・

 ・

 ※師匠の話が長くなったのでバッサリカット。魔法のことになるとなおうるさい。



「元気だのう、お主らは。儂はもう歳だわい」


 そのまま師匠の愚痴?を右から左に聞き流していると、一人のエルフの男性が部屋に入ってきた。その話し方にはそぐわない、若々しい長身のエルフだ。しかし、たしかに少し腰が曲がってる気がしないでもない。エルフの年齢を見分けるのは頗る難しい。……なるほど、264歳か。エルフの最長年齢はたしか300歳ぐらいだから結構なお年だ。


「リアン、話はまた後でだ」

「まだするのか?」

「あぁ?」


 師匠のことは無視して、今入ってきた人物に顔を向ける。

 その雰囲気から、ここの家主であり、この集落の長であることに当たりをつける。


「お初にお目にかかる、リアン殿。儂はこの集落で纏め役をしておるギアスという。かの有名な勇者様に会えて光栄に思う」

「あ、うん」


 流れで握手をするが……長い。

 はよ、離せ。


「して、そちらのお嬢さんは?リアン殿」

「私も気になっていた。仲間を連れてるのは珍しいな、リアン」

「祐也だっつってんだろ!」

「「初耳だ(のう)」」

「そうだったか?今世ではユウヤ・シライだ」

「そうか。だが、私にとってリアンはリアンだ。今更呼び方を変えるつもりは無い」

「ほう。じゃあ儂も。リアン殿はこの世界の英雄じゃし、分かりやすい方が良いじゃろう」


 自由!俺より自由だな!

 確かに呼び方なんて何でも良いんだが、『リアン』と呼ばれると最後に負けた人生だし、古傷を抉られるというか、もっと上手く立ち回れただろという後悔を思い出してしまうのだ。敗戦勇者だし。


「あの。緋山葵です。祐也くんと同じ異世界から来ました。えっと、その、死のうとしてるところを祐也くんに助けてもらって……居場所はきっと他にもあるって」


 話が若干脱線しそうになっていると、葵がおずおずと口を開いた。その内容に、流石の師匠も黙って聞いている。いや、この人は元々寡黙なはずなんだけど。


「それで……小さい頃にこんな自分と仲良くしてくれてた唯ちゃんが、今この世界で凄く頑張ってるって聞いて、私決めたんです」

「「「…………」」」


 俺を含めたこの場にいる三人は、黙って葵の言葉を聞いている。師匠もギアスも、どこか暖かみのある表情で次の言葉を待っていた。


「唯ちゃんが必死で守ろうとしているこの世界を、私も守りたいって。正直私はこの世界のことはよく知りません。命を懸けて守ろうとする理由もありません。でも、それが私の親友・唯ちゃんの願いなら叶えてあげたいです。もちろん私には、ここに来る途中で会った狼とかオークジェネラルみたいな怪物と戦う力なんてありません。それでも……祐也くん」

「ん?」

「唯ちゃんを連れていくのは、もう少し待ってあげてくれませんか?」

「……そうだな。葵の気持ちはわかった。咲良のことがあるし、すぐにでも問答無用で連れ去る予定だったけど、その前にやる事ができちゃったしな」

「やる事?」


 俺は一つ頷き、おもむろに天井を見上げた。


「あぁ。どうやら向こうから来てくれたらしい」


 俺がそう告げた次の瞬間、師匠特製の結界が、濃縮な魔法攻撃によって砕け散った。







 

 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 朝起きて、本体から『自殺しようとした少女を連れて異世界に行ってくる』という突拍子もない連絡を受けた俺は、本体がいない間に何か面白いイベントでも起こってくれという願望を抱きながら、リビングに入った。


「お母さん、おはよ……どうかしたの?」

「あっ、祐也。今この子お腹の中で動いたみたいなのよ」

「本当っ!?」


 朱美のお腹の中にいる赤ちゃんはまだ性別も判明していない時期だ。妊婦が赤ちゃんの胎動を感じ始めるのは、早くて4ヶ月ぐらいだと聞いたことがある。それよりもずっと早い。


「もう蹴ったのかしら。祐也のときも早かったけど、もっと早いわ」


 これはレアイベントだ。分身である俺も同様だから当然だが、めっちゃ兄弟愛が強い本体が悔しがる姿が目に浮かぶ。なんせ、初めて赤ちゃんの生命を感じ取れるのだから。


 俺はすぐに朱美が座っているソファに近付き、彼女のお腹に手を当てる。その手の甲に、朱美は微笑みながら自分の手を翳して、赤ちゃんが動いたと思われる箇所へ誘導してくれる。


「ここ?お兄ちゃんだぞー。元気に蹴っていいよー」


 しかし、反応はない。

 だが決してめげずに、なるべく優しい声を心掛けて話しかける。ふと、フィーのことをこうやってあやしていたのを思い出した。そんな時だった。


 手のひらに、トッと小さな小さな衝撃がきた。

 赤ちゃんが精一杯の力を振り絞って、自分はここにいるよと訴えかけているようだった。

 俺は嬉しくなり、色々なことを話しかけ続けた。その度に、赤ちゃんの胎動を感じ取り、既に二人の子を産んでいるお母さん(朱美)は驚きながらも、俺の手と一緒に自らのお腹を撫でていた。愛情を注ぐように。



「あっ、いけない。祐也、ご飯食べないと遅刻しちゃう」

「大丈夫。自分で用意するから、お母さんは座ってて」

「ごめんね。お味噌汁だけ温め直してね」

「うん」


 その後、朝食を食べた俺と朱美、琴那は、朱美の運転する車で幼稚園に通園した。朱美は先生と話があるらしく、今日はバスではなかった。もう少ししてお腹が大きくなったら外出するのも大変になるということで、今のうちに用事を済ませたいらしい。


 そうして、幼稚園内に車を入れる瞬間、入口付近で見知った顔を見かけた。それは、警察病院を退院したばかりの咲良であり、警備員の人と何か話をしている。


「今の人、誰かのお母さんかしら?初めて見るわね」

「……うん、そうだね」


 咲良がこの幼稚園に来る理由など一つしかない。

 俊介の消失と娘の失踪に繋がりを感じ取ったのだろう。あの病室で。


 本体、こっちも面白いイベントが起きそうだぞ。



祐也が行くと安寧崩れる説w


異世界と日本同時進行していこうかなぁと思います。

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