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第54話 現実は『ひっ殺』だった件

コメント頂いたので、更新早めました。

今年はゲーム発売ラッシュ・・・(汗)


 

 俺は葵を連れて地上へ着地し、状況を推察する。

 辺りに転がっている人間の死体とオークの死体から、両種が激突し人間側が敗れたことがわかる。人間の死体(全て男)はそれなりの武装をしているので途中までは優位だったのだろうが、オークの上位個体であるオークジェネラルの登場によって一気に瓦解したのだろう。

 しかも、どうやら普通のオークジェネラルではないようで、おどろおどろしい赤黒い魔力を纏っているのが、俺の魔感知で視えた。


 新しい獲物(葵)の登場により、そのオークジェネラルは一旦担いでいた女騎士を放り投げると、薄気味悪い笑みを浮かべていきなり突っ込んできた。その様子に、葵は俺の背に隠れながらもぽつりと呟いた。


「⋯⋯くっ殺?」

「⋯⋯どうだろうな」


 俺が異世界にいた時は気にも留めなかったが、『くっ、殺せ!』なる文化が今の日本にはあるらしい。流石に六歳にもなれば、そのぐらい知っているのさ。


「ウボオオオオオオォォォ!!」

「くっ、殺せ!」

「⋯⋯祐也君が言うのは違うような?」

「そうか。じゃあ、葵言ってみてよ」

「えっ?って、きてます!きてますきてますきてますぅぅぅぅ!」


 その切羽詰まった葵の声の通りに突進してきたオークジェネラルは、鬱陶しいハエを叩くかのように俺の事を平手で弾き飛ばした。「うわー」とか言いながら、もんどり打って転がっていく俺。ぐるんぐるん回りながら俺は思った。魔力で防御も受け身も取ってないのに、なんで痛みがないのだろうと。本当に人間をや⋯⋯ゲフンゲフン。このオークジェネラルが、ちょっと邪神の影響を受けて普通と違うだけで、結局のところ弱かっただけだ。そうに違いない、うん。別にリアンだった頃でも無傷なはずだ。


「⋯⋯へ?⋯⋯へ?」


 俺がやられるなんて全く思ってなかった葵は、目の前の巨体生物に射竦められ、涙目で腰を抜かした。


 ここだ!!

 さぁ、今こそあの台詞を言い放つ時だぞ、葵!


「い⋯⋯やぁ⋯⋯やだぁ⋯⋯こな⋯⋯」

「グボオオオオッホ」

「やだあああぁぁぁ」


 ⋯⋯あかん。ガチ泣きさせてもうた。

 悪ふざけが過ぎたようだ。俺は冷や汗をかきつつ、すぐにオークジェネラルを消し炭にしようと魔力を練り上げる。だが──


 ザシュッ!!


「グボッ?」


 先程まで気絶していた女騎士が、背後から斬り付けたのだ。しかし、完全な不意打ちにもかかわらず大したダメージにはなっていないようで、オークジェネラルはニヤリとした笑みを湛えて余裕そうに振り返った。

 そりゃそうだろう。彼女は魔力を纏っている訳ではないし、ましてや持っている剣も並だ。それであの禍々しい魔力でガードしているデカブツに効くはずがないのは道理だ。⋯⋯その魔力を纏った平手をモロに受けてなぜ俺は何ともないのだろうか。蚊に刺されるよりも何ともない。つまり、コイツは蚊以下だ。



「くっ、これでもダメか。おい。私がコイツを引きつける。その間に早く逃げ──ッ!!」


 葵に向かって言葉を紡いでいた次の瞬間、オークジェネラルはその大きな手を地面に突っ込んで土の塊を掴み上げると、それを女騎士目掛けて投げつけた。それを咄嗟に剣で防御している所へ、悠々と近づき女騎士の頭を片手で鷲掴みにすると持ち上げてしまう。


「うぐっう⋯⋯」

「グッホ」


 なんか、一人で遊んでたらドエライことになった⋯⋯。

 ま、まぁ、とりあえず、おも○しまでしてしまっている葵にそっと近づき、クリーンの魔法をかける。


「⋯⋯祐也⋯⋯くん?」

「おぉ、悪い。怖い思いさせちゃって」

「こ⋯⋯ごぉ⋯⋯ごわがっだよおおぉぉぉぉ」


 ヨシヨシと、物凄い力で抱き着いてきた葵の頭を撫でる。

 自分が撒いてしまった種だ。精一杯慰める。こればっかりは俺の悪い癖です。ごめんなさい。


「ひっ!?いやっ⋯⋯そんな⋯⋯無理っ。こ、殺せよ!!」


「なに!?」


 俺の耳が、絶賛マイブーム中の台詞を拾った。

 視線を向けると、いつの間にか半裸にされた女騎士が這いずって逃げ、それを余裕綽々と追い詰めるオークジェネラルの光景が飛び込んできた。そして、オークジェネラルの方はというと、腰にしてたボロ布を剥ぎ取り、極太のアスパラガスを晒して迫っている。そりゃ、『くっ殺』案件にもなるか。いや、彼女の場合は『ひっ殺』か?



「色んなとこが見えてるし、とりあえずこれでも羽織っとけ」


 心の中でくだらない事を思いながら、俺は懸命に這いずっている女騎士に近付き、適当にリアン時代の上着を被せた。


「へ?あ⋯⋯あぇ?」


 そこでようやく女騎士は振り返った。四つん這いの尻丸出しのまま⋯⋯。

 ん?あぁ、オークジェネラルなら消させてもらったよ。なんかばっちいもん見た気がするし、あの台詞も聞けたしな。


「大丈夫か?」

「え?えっと⋯⋯君は?」

「俺は祐也。こっちが、葵。訳あって人を探してるんだけど、向こうの集落まで案内頼めるか?」

「──っ!」


 するとその女騎士は素早く俺の上着に袖を通すと、剣を握ってそれを俺たちに向けてきた。命の、女としての恩人に対して取る行動ではないが、まだ味方とわかったわけではないのだから当然の行動と言えばそうなのかな。でも、ちゃっかり上着は着るんだな。


「⋯⋯貴様ら、悪魔か?」

「あぁ、なるほど」


 邪神が好き勝手してる影響で、悪魔も好き勝手できちゃっているということか。


 悪魔とは、魔界から呼び出して契約する存在で、実体を持たずに魔力でできている。そのため自在な変化が可能で、魔法に疎い存在ではまず見破れない。おまけに人の死や不幸を好物とする奴がほとんどだ。部外者にもかかわらず、集落の場所を知っているとなると、疑われても不思議ではない。

 方向感覚を惑わす大規模な結界が集落の周りに張られているものの、俺のスキルにより筒抜けになっているだけなのだが。というか、この結界凄く見覚えがある。⋯⋯まさか、な。


「どうなんだ!答えろ!」

「⋯⋯⋯⋯」

「やはりそうか。こんな子供にまで化けるとはっ!」


 うっ⋯⋯。

 中身オッサンだからあながち間違っていない。でも、この問答が既に面倒くさいと感じた俺は、一瞬で彼女の背後に移動する。


「ぅっ⋯⋯」

「ごめんねぇ」


 優しく首チョンし、気を失った彼女を異空間へ放り込むと、葵のもとへ戻る。葵は葵で泣き腫らした酷い顔をしているので、適当に桶と水を出してやる。


「これでも使って顔洗いな。そしたら、早速唯を探しに行くから」

「あっ⋯⋯はい。えっと、その⋯⋯」

「ん?」

「ずっと異世界に行きたいって言ってましたけど、こっちだったらもっと早く死んでたなぁ、と⋯⋯色々見て思いました」

「⋯⋯まぁな。異世界転生でも、今のここはハズレだと思うぞ。なんせ、邪神が蔓延ってるんだからな。国だってまともに機能してるとこはなさそうだし」

「⋯⋯⋯⋯」


 何か思い詰めたように考え事をしている葵。

 でも、両手をぎゅっと強く握り、ゆっくり立ち上がった。


「こんなところでも、ゆいちゃんは変わらず頑張ってるんですよね。強いなぁ。でもきっと辛い想いもたくさんしてると思います。だから私⋯⋯」

「あぁ、ここで生き抜いてるっていうのは素直に凄いと思うぞ。だから、会ったらまず褒めてやればいい」

「は、はいっ!!」


 前を向いて進む葵と共に林の奥にある小さな集落へと向かった。


 ──十数分後


 その集落の前で俺と葵は数人の狩人風の者たちから弓矢を向けられていた。集落は高さ10m程の木の柵が円型に造られており、正面には大きな門扉が鎮座している。その両横にある櫓の上から捕捉されているのだ。


 今にでも一斉に矢の雨が降ってきそうな程のピリピリとした空気が漂っている。日本では有り得ない光景た。


「ひぇ⋯⋯ゆ、ゆゆ、祐也くん。どうにかしてぇ」

「よし。プランBでいこう」


 俺たちのことを信用してくれた案内人がいればすんなり入れると思ったが仕方ない。面倒だから気絶させちゃったし、ここは違う形で利用させてもらおう。


「プランB?」

「あぁ。あのっ!助けてくださーい!向こうでオークに襲われて、ラミお姉ちゃんが重体なんですぅ!」


 プランB──気絶した女騎士(ラミ)を使って、お仲間を助けてやったんだから入れろよコラ大作戦である。


 すると僅かに門扉が開き、人が一人出てきた。すぐに閉まった門扉といつでも矢を放てるようにしている者たちを見れば、依然警戒されていることがわかる。だが、話はしてくれるらしい。問答無用で襲われた方が楽だったのに。


「あぁ、()ぇ足が疼く」

「「───っっ!」」


 その人物を見た俺と葵は同時に目を見開いて驚いた。

 何故なら、その人物は膝から下がなく数十cm程宙に浮いているように見えたからだ。いや、葵が驚いたのはそこだけだろうが、俺が驚いたのはそれも含めて別のところだった。


「⋯⋯師匠?」



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― 新着の感想 ―
>命の、女としての恩人に対して取る行動ではないが、 くっころ聞きたくて舐めプしてたんだから仕方がないような気が……。
[良い点] 面白かったので一気に読みました [気になる点] 更新頻度が低いのが気になります [一言] 頑張ってください
[良い点] また更新していただけるようになって嬉しいです。 続きも楽しみにしています。
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