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第51話 感情忙しない自殺少女

主に大剣や弓でモンスターをハントしてライズして太陽を破壊する世界に転生していたのですが、ちょっと飽きてきましたので、気晴らしに続きを書きました<(*¯꒳¯*)>


 

 ひょんなことから、俺は飛び降り自殺を図った少女を助けた。なんか色々面倒くさそうなので、適当に病院に運んでおいても良いのだが、それだとまた自殺しようとするだろう。折角助けたんだから、ちゃんと生きて欲しい。


 だが、今は眠い。頭が枕から離れないのだ。


(⋯⋯明日じゃダメか?)

【それはマスターがお決めになることです】

(⋯⋯⋯⋯うぅ)


 俺は布団に入ったまま、分身体を生み出して隣に寝かせると、そのまま秘密基地へと転移した。

 正確な転移先は、ログハウス内のベッドの上。つまり、寝そべることはやめない。


「睦喜に気付かれると面倒だな」


 俺はそのまま自分の部屋に結界を施した。結界にも色々と設定を弄れるが、今回のやつは音や匂い、気配といった要素を遮断する結界であり、俺が来たことを気付かせないためのものだ。


「さて⋯⋯」


 そして俺は、時間を停止させておいた異空間を開く。と同時に、そこから人が落ちてくる。尻から落下して小さな悲鳴を上げたのは、高校生だと思われる制服を着た可憐な少女だ。名前はたしか、緋山葵。


 青みがかった黒髪に、黒いブレザーと赤いネクタイを着用した姿はよく似合っていて、普通に可愛い。というか雅たちといい、可愛い子によく出会うものだ。今日の面接をしてくれた先生の中にも可愛い人がいたし。

 だが、こんなモテそうな顔をしておいて、何故自殺なんかしたのか。


 俺は横を向いて寝そべりながら、その少女の反応を窺う。

 女の子座りで唖然とした面白い顔を晒しながら、俺の事を一点に見つめている。そのまま時が止まったように動かない。瞬きもする様子がないので、俺は少し心配になり声を掛けた。


「大丈夫か?生きてるか?」

「⋯⋯⋯⋯ぇ?」


 僅かに反応が返ってきた。そして、ようやく意識が戻ってきたかのように辺りをキョロキョロと見回したかと思うと、おもむろに口を開いた。


「あ、あの⋯⋯ここは、天国⋯⋯ですか?」

「ぶふっ!」


 俺は思わず吹き出してしまった。

 こんな普通の部屋に天国の要素など皆無だが、彼女はついさっきビルの屋上から飛び降りたのだ。ある意味で正常な思考なのかもしれない。


 いや、別に天国がどういう所かを実際に知っているわけではないが。

 そしてつい、俺はいつになったら本当の意味で死ぬんだろうと素朴な疑問を抱いてしまった。まぁ、それは置いといて。


「いや、ここは現実だよ。俺の部屋に君を招待したわけだ。緋山葵さん」

「私の名前⋯⋯やっぱり貴方は神様ですか?もしかして異世界転生させてくれるんですか!?」

「⋯⋯なんでそうなる?」


 どこからどう見ても普通の子供じゃないか。失礼しちゃうぜ、まったく。

【⋯⋯⋯⋯⋯⋯】


 なんか今、スキルさんに呆れられた気がするが、きっと気のせいだな。スキルに自我があってたまるか。


 それにしても異世界転生ときたか⋯⋯。アニメの見すぎだとか思う場面なのかもしれないが、如何せん経験者なので苦笑いするしかない。


 とりあえず話が進まないので、ビルの屋上から落下してくる彼女を助けて、ここに連れてきたことを話した。その最中、どんどん彼女の顔色は悪くなっていった。


「じゃあ、死ねてないんですね」


 異世界転生とか言ってキラキラしていた顔はどこへやらだ。ここが本当に現実だとわかると悲痛な表情を浮かべて、今にもまた自殺を図りそうな危うさがある。


「そんなに死にたいのか?」

「⋯⋯⋯⋯はぃ」

「それは、その身体の傷が原因だよな。誰にやられた?」

「──ッ!!」


 俺が踏み込んで聞くと、彼女は目を見開いて驚いた。

 肩やお腹などの、露出されていない部分に数箇所大きな痣がある。明らかに陰湿な攻撃だ。


「イジメか?」


 その問いかけに、ふるふると首を振った。

 ならば、もう一つの方か。


「家でやられたか?」

「⋯⋯⋯⋯」


 今度は黙り込み、俯いてしまう。

 図星なのだろう。手をギュッと握って肩を僅かに震わせながら、目を瞑ってしまう。そして、今度は何かを思い出したのか、両手で耳を塞ぎ、イヤイヤと首を凄い勢いで左右に振り始めた。

 その取り乱しようは尋常ではなく、俺はさすがにそのまま寝っ転がっている訳にはいかなくなり、彼女の傍に近寄ろうとした。


「来ないでっ!!」


 少女の悲痛な叫び。

 その声は、明確な拒絶の言葉だったが、俺には助けを訴えるSOSに聞こえた。


「⋯⋯まったく。周りの大人は何してんだか」


 俺は頭を搔きながら愚痴を零すと、彼女が認識できない速度で近付き、俺の小さな腕と胸の中に彼女の頭をすっぽり覆った。まぁ、端的に言えば、正面から抱き締めた。普通なら俺の身長では届かないが、彼女は丁度しゃがんでいるのでほぼ同じ高さに頭がある。


 そして、久しぶりにあのスキルの出番だ。


「カーミング」


 乱れた心を癒し、気持ちを落ち着かせる。

 前世では死にスキルだったが、意外と活躍の場があるものだ。


「落ち着」

「うわああああああん!うんんわあああ⋯⋯」


 落ち着いたはずなのに、俺の腕の中で大号泣し出した。今泣くというのは、本当の意味で落ち着くためには必要なプロセスなのかもしれない。溜まった負の感情を一気に吐き出しているのだろう。そんな気がした。



 たっぷり疲れるまで泣かせてやると、そのままスヤスヤと穏やかな寝息を立てて眠ってしまった。鼻水と涎で汚れた顔を拭いてやり、ベッドに寝かせる。そのついでに、ブレザーを脱がしてやり、彼女の身体の傷を全て癒しておく。


「あー、俺も眠い。まだ何も解決できてないけど⋯⋯まぁ、いっか。家に帰りたくなさそうだし」


 俺は適当にカーペットの上で寝転がり、そのまま瞼を閉じた。





 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


 翌朝。

 俺は、部屋の扉が蹴破られる大きな音で目を覚ました。それは、ベッドでスヤスヤ眠っていた少女──緋山葵も同様らしく、慌てた様子で上体を起こしていた。


「やっぱりいたー!祐也!今日こそは殺すよ!」


 無駄にハイテンションな睦喜は、まだ寝惚けて横になっている俺に向かって、ジャンプすると勢いを付けてかかと落としを放ってきた。

 普通の人間が寝ているところを、陸喜の全力かかと落としが炸裂すれば、体はひしゃげて床を突き破り、地面に大きくめり込むだろう。身体は原型を留めることなく、何が起きたのかもわからず絶命する。そんな桁違いの威力を伴った陸喜の右足を、俺は掴み取った。


「⋯⋯あん?」

「い、いやー」


 くだらない理由で俺の眠りを邪魔した罪は重い。

 そのまま葵にやったのと同じように、陸喜を異空間にしまった。これで邪魔者はいない。幸いにして今日は休みだ。出かける予定もないし、家の方は分身に任せておいて大丈夫だろう。


 これでゆっくり寝れる。


「⋯⋯あ、あの~」


 と思っていたら、後ろから女の声が聞こえてきた。

 完全に存在を失念していた俺は、寝返りを打って彼女のことを見た。といっても、まだぼやけていてよく見えないが⋯⋯。


 そのまま俺が何も言わないでいると、葵はか細い声で「どうして」と呟いた。


「⋯⋯ん」


 クエスチョンマークが語尾についているのかも怪しい寝ぼけた一言。それでも、葵はその先の言葉を紡いだ。


「どうして、私を、助けたん、ですか?」

「⋯⋯」

「私の居場所なんてこの世界にはないんです。死んで生まれ変わることに縋るしか⋯⋯」

「⋯⋯」

「もちろんそんなこと幻想だってわかってます。異世界転生も、結局は人が作ったものだって。でも、でも、でもっ。これ以上、辛い想いは⋯⋯したくないっ⋯⋯」


 葵の声はどんどん小さく、震えていく。

 そしてすっかり覚醒した俺の目には、辛そうに両手を胸の前で合わせて、涙目になって肩を震わせている弱々しい少女の姿が写っている。


 だが同情はしても、『死にたい』という気持ちの理解はできない。辛い想いをしたのなら、良い想いだってきっとある。その良い想いが相対的に小さい或いは少ないから、辛い想いが大きくなっていき、やがて決壊する。

 人は、どうしても譲れない想いがある時、辛い想いを与えてくる事柄に対して、勇気を持ってぶつかれるものだと俺は思う。ぶつかると言っても、もちろん無策で突っ込むことではない。1つの思考に固まらず、考えを巡らせて自分にとっての最適解を導き出せということだ。

 まぁ、要するに、この場合の最適解は、めっちゃ可愛くて強い俺を頼れってことだな。⋯⋯冗談はさておき。


「なら、逃げろ」

「⋯⋯⋯⋯え?」

「死にたいぐらい辛いなら逃げる。ごく普通の選択だろ?」

「でっ⋯⋯でも、あの人から逃げるなんて⋯⋯そんなこと、したら⋯⋯⋯⋯ん?あ、あれ?」


 弱みでも握られてるのか?傷を負わせられたのは家でと言うし、これDVってやつだよな?とか思っていると、葵は突然ガバッと制服のシャツをインナーごと少しだけ捲りあげた。綺麗な白い肌と可愛らしいお臍が露になる。


「何してんの!?」

「あっ、ご、ごめんなさい。えっと、その、痣が⋯⋯」


 突然脱ぎ出したかと思って焦った。

 彼女がついにイカれたのかと思って、なんか少し高い声が出た気がする。でも今の声は、子供がはしゃぐ時のキンキンする声に近かったなぁと思った。こんな声出せたんだ俺。


「あ、あぁ、それなら治しといた。魔法で、な」


 俺は、内心驚いたことを隠し、魔法というワードを提供した。さっきの口ぶりからするに、これに食いつかないわけが⋯⋯


「まっ!ま、まままま、魔法っ!?」


 ないよな。


「どう⋯⋯どういうことでっかっ!?やっぱり、その、貴方は神様なのますか!?」


 えっと、さっきまでの悲痛な顔はどこに?

 目が輝いてますよ、葵さん。そして、言葉が変ですよ。




※最後の台詞は誤字ではありません。

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