第50話 お誕生日&お疲れ様会
遅くなりましたが、たまごかけご飯さん、レビューありがとうございました。
50話記念ということで、人物紹介を裏話含めて投下しようと思います。そのうち……。
っていうか、おかしいな。当初は50話ぐらいでもう高校生ぐらいになってるはずだったのに……。
赤鳳学園初等部の面接試験を終えて、俺と朱美(琴那抱っこver.)は帰宅した。
恭介は仕事なので、琴那を家に置いていく訳にはいかず、試験中面倒を見てもらっていたのだ。
面接をしたことからわかるように、例の1次試験は受かっていた。泉と玲華も問題なかったようだな。
家に着くなり琴那が抱っこをせがんでくるので、もちろん普通に抱っこする。
最近の琴那は、あまり泣かなくなり、どういうわけか以前にも増して引っ付いてくる。
その愛らしい顔を俺の肩に埋めて、匂いを嗅いだり力いっぱい顔を押し付けてきたりするのだ。
「どうした?寂しかったのか?」
「うぅん~~~~♪」
まだまだ言葉は拙いが、物凄く上機嫌だということはわかる。
知らない人の前だと途端に大人しくなるようで、外から帰ってきたら大概こうして甘えてくるから、とにかく可愛い。
「こと。にぃにって言ってみ?」
「いぃい!!」
「にぃに」
「いーー!」
「……なんか特撮の悪役みたいだな」
そんな感じでとにかく琴那とじゃれていると、テーブルの上に置いてある朱美のスマホが『ピロリン♪』と音を発した。
誰かからLINEが来たようだ。
課金とかアプリインストールとかしなければ自由に使ってもいい許可を貰っている俺は、なんとなく気になりそのスマホを手に取った。
『こんばんわ。今度の日曜日はご在宅ですか?』
それは、雅からのメッセージだった。
雅なら俺が送ってもいいよな。
『残念ながら、その日は予定がある』と打ち込み、送信!
するとすぐに、朱美の好きなミュージャンが歌うロックテイストの曲が流れ始めると同時にスマホが震え始めた。
……なんで電話かけてきたこいつ。
「祐也ー!電話誰からか見てもらえるー?」
洗面所でなんかやってる朱美が流れてる曲に気付いたようで、向こうから声をかけてきた。
これは無視するわけにもいかなくなった……。
「雅お姉ちゃんだから、出とくね」
「はーい」
俺は渋々通話ボタンを押した。
「はい、もしもし」
『あっ、ゆうくん?久しぶりー。今度の日曜日なんだけどさ』
「それは断ったろ?」
『ママさんも出掛ける感じ?』
「ん?お母さんに用があるのか?」
『おやぁ?なになに。もしかしてゆうくんに会いたいとか言うと思ったのかな?』
「……お母さんなら日曜はいるはずだから。それじゃ」
『ちょっと待ってよ、なんかお話ししよっ♡』
ウザ絡みしてくる雅の相手を軽くしながら、思い出したように調べ物をする。
前前世の幼馴染である咲良についてだ。七年前に起きたという『足立小学校失踪事件』に関しての記事は大量に見付かった。複数の目撃者の証言によると、十数人の子供たちが突然消えたというのだ。淡い光を発しながら…。
その現象には見覚えがある。
恐らく転移の魔法陣だ。術式は魔法が使える者でないと視認できないが、魔法の残滓が光となって現れる。
……やっぱり間違いないか。
咲良の娘は、異世界にいる。
俺とは違い、召喚という方法で。
このまま放っておくわけにはいかないよな。
『……ねぇ、聞いてる?』
「あぁ、聞いてる。悪い、これから外に食べに行くんだ」
『そんなんだ。………あっ!?』
「ん?」
『そっか。今日ゆうくんの誕生日か。すっかり忘れてたー。おめでとう!』
「あぁ、ありがとう」
『今度、お祝いしに行くねっ!』
「うん」
『バイバイ。ママさんによろしくねぇ』
そう言って、雅はあっさり通話を切った。
何時ものようにすぐに押しかけてくるのかと思ったが、今日はお忙しいようだ。
『ピロリン♪』
続け様に、またLINEの通知が来たようだ。だが、雅かと思ったら差出人は恭介であり、俺は見てはいけないものを見てしまったのかもしれない。
『この店で19:00から予約取ったからよろしく。祐也には秘密な』
…………。
俺は悪くない。朱美からよくスマホを借りているのを知ってるはずなのに、確認せず送ってきた恭介が100%悪い。
だいたい今日は俺の誕生日なんだから、秘密にしなくても察せられるってものだ。
「お母さんー。今お父さんから連絡あって、19時に駅前のレストランだってー。OKって返して良い?」
「良いわよー」
朱美の普段の返事が返ってきた。どうやら、秘密というのは恭介だけが考えているらしい。
ブルドッグのOKスタンブを送ると、朱美がリビングに入ってきた。
「あら。なんで秘密にしたがるのかしら、あの人。祐也にバレないわけないのに」
LINEを見た朱美の言葉だ。俺もそう思います。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
朱美と俺は、恭介から連絡のあったレストランへ歩いて向かっていた。最寄りではなく結構離れている駅なのに何故歩いているのか。それは、恭介も朱美も酒を呑む気満々だからだ。普段家ではあまり呑んでいないし、こういう時ぐらいは呑みたいのだろう。俺も少しぐらいならと許可した。ただ、朱美にいたっては、とある理由から当分の間呑めないので、今日が最後だと念押しした。
そんなわけで、朱美が琴那を抱えながら少し前を歩き、俺が後ろをついていくようにして歩いていた。やがて大きい建物が道の両脇に現れ始め、徐々に駅に近付いていた。
そんな時だった。
俺の常人離れした視力が、数百メートル先のビルの屋上に立っている女を見付けたのだ。その女は手摺の外に立っており、まさかと思った次の瞬間──その身を投げた。投げやがったのだ。
(いやちょっと待てぇ!)
「ゆ……」
俺は咄嗟に、その女と地面との間の空中に転移した。可愛いらしい顔の制服を着た女が、目を瞑りながら落下してくる。だが、その落下時間さえ惜しい。なぜなら、転移する直前に朱美が何かを言いかけていたからだ。幸い前を向きながらだったが、振り向かれたら一貫の終わり。
俺はビルの壁を垂直に駆け上がり、その自殺女をキャッチする。と同時に、時の止まった異空間へ収納。すぐさま転移で朱美の後ろへ戻った。
「……べたい?」
そう言って振り向く朱美と俺が戻るのはほぼ同時だった。ギリギリだったが、朱美の表情的に怪しまれてはいないようだ。
「え?何?」
「祐也は何か食べたいものとかある?」
「あぁ──」
俺はバレることなく、なんとか会話を繋げることができた。ふぅ、今のはマジで肝を冷やしたぜ。さっきの女には後で説教くれてやる。二回も死んだことがある俺直々の説教だ。泣いて許しを乞うまで性根を叩き直してやろう。
しかし、今は余計なことに首を突っ込んでる暇は無いんだがな…。
さて。そんな感じの多少のアクシデントはあったものの、レストランに到着して恭介と合流した。恭介はスーツではなく、カジュアルスタイルってやつらしいラフな格好で俺たちを待っていた。
「よく来たな。今日は祐也のお誕生日&お疲れ様会だぞ」
「誕生日はわかるけど、お疲れ様?」
「今日小学校の面接だったろ?本当は合格祝いでも良いんだけどな」
「……合否まだだけど」
「祐也は俺と違って優秀な子だからな。まぁ、もし落ちててもそれは学校側に見る目がないってことだから。祐也が気にする事はないぞ……っと、ほれ、何食べる?」
そう言いながら、メニューを見せてくる。
なるほど。俺が落ちたら、学校側のせいってことになるのね。……大丈夫か?自分の子供の言うことを全て鵜呑みにするモンスターペアレントになったりしないよな?
って、なんで俺がそんなことを心配してんだろうか。アホらし。
「じゃあ、オムライスにしようかな。って高いねこれ」
「あら、本当。いつもより値段するわね」
「い、今節約中なのは分かってますとも。でも、今日ぐらいは、な?」
急に謙ったな、コイツ。
確かに恭介の言う通り、今家は節約中だ。理由はふたつ。一つは、これから家を買うからだ。流石の稼ぎと言うべきか、テレビに出るような有名な建築家に依頼し、全ての希望を通したのだ。もちろんローンを組むことにはなるのだろうが、それでもあの若さで普通に凄いと思う。
もう一つは、何と三人目の子供が発覚したからだ。これは完全に予想外。何故か恭介と朱美ですら驚いていたな。
そんなわけで、今我が家はあまり無駄遣いできないのだ。
「もう、仕方ないわね。でも私の貯金は崩さないわよ」
「もちろん。そこまで厳しくないから平気だろう」
二人が家計の話をしている横で、俺は琴那とイチャイチャしながら、ウェイターを呼んだ。
「すいませーん。注文良いですか?」
「ちょっ、祐也。まだよ」
「ちょっ、祐也。まだだ」
息ピッタリに突っ込んできた。何だかんだ仲良し夫婦だな。
いや、そんなことよりさっさと決めろし。
「ご注文をお伺いします」
「知らないよ。あっ、俺はオムライスで、あとこのお子様ランチなんですけど、この子用に柔らかくできますか?あと味も薄めでお願いします」
「……かしこまりました。凄く可愛らしいですね。どれぐらいなんですか?」
ウェイターのお姉さんは、俺の言葉に何故か最初はびっくりしていたが、すぐに柔和な笑みを浮かべて頷いた。その後、朱美と恭介に視線を向けて質問を投げたが、いち早く答えたのは俺だった。
「一歳半です」
「…あっ、なるほど。かしこまりました。他にご注文はございますか?」
だから、何故驚く。
そんなに俺が敬語使うのが意外か。でも初対面だよな、アンタ。
「まだ決まってないので、もう少し考えさせて下さい」
「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」
恭介がジト目で見てくる。
俺は素知らぬ顔で、琴那と遊んでいた。
夕食を食べ終わると、室内が軽く暗転し、お約束のようにホールケーキが運ばれてきた。火の灯ったロウソクが六本刺さっており、『ゆうやくん お誕生日おめでとう』と書かれているチョコレートが添えられている。
更には、バースデーソングを歌われている。ウェイターの声に合わせて、他の客まで口ずさむ始末だ。当然、恭介も朱美もニッコリ笑いながら歌っている。そんな中、琴那はその歌を子守唄にして愛らしい寝顔を見せていた。
前の世界じゃ有り得なかった平和で幸せな空間が出来上がっていた。思わず、涙が出そうになったぐらいだ。この俺が…。
「「(お)誕生日おめでとう、祐也!!」」
「ふぅ~~」
歌い終わりを見計らって、俺はロウソクの火を消した。途端に、周りの人たちが一斉に拍手する。
うるさいなぁ。ことが起きたらどうすんだよと思ったりもするが、悪い気はしない。
周りのお客さんへお礼を言った後、早速ケーキを食べる。美味いという言葉しか出てこないぐらいには語彙力が死んでいる。でも、本当に美味いんだ。高いだけはある。
「あら。甘さ控えめで柔らかいし、口の中で溶けるみたいね。これなら琴那も食べられそうよ」
「ママ!」
ケーキの匂いに釣られて起きたのか、拍手の騒がしさで起きたのか分からないが、琴那はケーキをせがんでいた。ハムっと一口食べると、めちゃくちゃ嬉しそうに顔が緩んだ。
(かわええ……)
俺も釣られて、緩んでそうな顔で琴那を眺めていると。
「祐也。今日の面接どうだった?」
サイダーのような色合いのスパークリングワインを呑みながら、ケーキを食べている恭介が話を振ってきた。もう結構呑んでいる気がするが、あまり顔にも態度にも出ていない。俺の場合は、酔うとすぐ寝る感じだったが、そういうことも無さそうだ。
⋯⋯もちろん前世の話な。
反対に、朱美が飲んでいるのはノンアルコールだ。ノンアルコールっていっても、若干アルコール成分が入っているらしいが、まぁ妊娠初期ならギリギリ大丈夫だろう。これから子を産むまでは絶酒だと思うと、母親には頭が上がらないな。
⋯⋯子が思うことではないな、うん。
「面白かった、かな。本に載ってるような質問もあったんだけど、突飛なやつが多かったよ」
「ほう?それは気になるな。例えば、どんな質問だ?」
グイッと顔を近づけてくる。酒臭い。
「『妹さんがいるとのことですが、どのようなお兄さんになりたいと思いますか?』とか」
「そんなこと聞かれるのか。…どう答えたんだ?」
「『困った時、一番に頼って貰えるような格好良い兄になりたいです!』て感じだったかな」
実はこの時、頭で思っていたことは違う。もちろんこれは嘘ではないが、言おうとして止めた言葉がある。
『近い将来こう言わせたいです。お兄ちゃんのお嫁さんになる!…と』
いやぁ、口が滑んなくて良かった。こんなのを思い付いたのは、雅に見せてもらった漫画のせいだ。
一人の男が学園でラブコメを繰り広げるストーリーなんだが、妹はヒロイン枠ではない。兄に懐いてお嫁さんになる!と言っていたのは幼少期のみという、同じ妹を持つ兄としては悲しいものだった。それからは、ずっとツンケンしていて辛く当たられていた。
「……ねぇ、お母さん。ことにも反抗期とかあるのかな?」
帰りの道で、何気なく朱美にそう聞くと目を丸くしていた。琴那をおんぶしている恭介も同様だ。
「相変わらず、次から次へとどこで覚えてくるのよ。そういうの」
「俺の漫画の中に出てたか?」
二人とも呆れている。
流石に、そんなことを考えるのは尚早か。まだ一歳だもんな。
「ふふ。お母さんは、祐也の方が心配なんだけどね。反抗期でグレたりしないかしら」
「確かにな。今は想像できないが、祐也がグレたりしたら手が付けられなさそうだな」
そう言って二人とも笑っている。
俺の反抗期、か…。母親を亡くした後、荒れに荒れていた頃の自分を思い出し、苦笑いした。
そんな他愛もない話をしながら帰宅し、さぁ寝るぞ、と布団に入った訳だが──
【マスターの〝うっかり〟が更新されました。現在、マスターは誘拐犯と同義です】
「───?……あっ………」




