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第47話 阿田川陸の幼馴染

お久しぶりです!


久々すぎて自分でもどこまで書いたか覚えてないですが、たぶん祐也が小学校の1次試験を受け終わって、例の秘密基地に顔を出したところで終わってたと思います。


あと気づいたら、第8回ネット小説大賞の1次選考通過してたようです。

どうもありがとうございました!


※因みに、今話は俊介のクズ回ですので、嫌いな人はお気をつけください。


 

 俺はついこの前まで幼稚園の先生をしていた。

 だが、今は無職。いや、若が作られた不思議な拠点の管理を任されている。

 いったいどういう仕組みなのか、中心に建つログハウスから半径50mぐらいは更地になっていて、そこから外には出られないようになっている。

 もちろん柵なんかがあるわけではなく、何もないはずなのに出ることができない。

 まるで見えない壁でもあるかのようだ。


 さらに、その更地の中に彫像のように鎮座している巨大なゴーレムがいる。

 俺の心と身体を破壊しまくってくれた謎の生物だ。

 何度死の淵をさ迷ったかわからない。


 普段は微動だにしないが、若を出迎えるときと若が連れてきた睦喜がちょっかいをかけたときだけ動き出す。

 ゴーレムが動くときは、今でもあのときの光景が蘇り自分の身体が縮こまる。今までの人生で、こんな恐怖を味わったことはなかった。


 恐怖といえば、あの睦喜という奴も意味がわからない。

 俺にとっては破壊の権化であるゴーレムと普通に殴り合ってピンピンしているし、あまつさえあの若に何時も喧嘩を吹っかけている。

 何が若の逆鱗に触れて消されるかわかったもんじゃないのに、どういう神経をしているのか。


 あのとき、朱美を罠に嵌めたときに俺は死んだと思った。

 それほどあのときの若からはヤバい感じがした。

 まるで野生の熊にでも出会ったような感覚に陥り、その場から1歩も動けなかった。

 いやでも、それで正解だったんだろう。もし迂闊にも逃げ回ったりしていれば、それこそあっさり殺されていたろうから。


 なぜ俺は生かされたのか、若に忠誠を誓った今でもそれは謎のままだ。

 ただ単に若の気まぐれか、それとも何か別の意図があるのか。


 ………もしかしたら、この間頼まれて誰なのかも知らずにしてきた墓参り。

 あれが関係しているのだろうか。実の親にすら知られたくない人の墓なのだろう。

 さもなくば、家族で普通に墓参りに行くはずだからな。

 こっそり俺に代わりを頼む必要はない。


 これはただの勘だが、あの墓で眠っている阿田川恵子と陸という人物は若の謎めいた力に関係しているのではないか。

 一度そう考えてしまうと、このふたりの故人を調べたい欲に駆られた。

 若にバレたら折檻が待っているかもしれない。下手したら今度こそ殺されることだってありえるが。


「睦喜。もし若が帰られたら、俊介は墓参りに行っていると伝えてくれ」

「………ふーん」


 これは返事か?……まぁ、明日には戻るつもりだからいいか。


 俺は、この基地から唯一外に出ることのできる扉を潜った。

 これは、俺が勤めていた幼稚園と同じ地区にある寂れた公園のトイレに繋がっている。

 若の怒りを買いながらも俺はなんとか生き延びており、今はこうしてある程度自由に動くことが許されている。




 そこから北へ向かっていくつか電車を乗り継ぎ、〝あずき霊園〟という名の墓地に到着した。

 以前来た時は少し迷ったが、今回はすんなり目当ての墓石を見付けた。


『阿田川家之墓』

 阿田川恵子・陸以外にも何人かの先祖が眠っているようだ。


「さすがに枯れてるか。…………ん?」


 供えられている花は枯れているが、線香はまだ火がついている上に、長さがあまり減っていなかった。

 俺以外にも墓参りに来た人がいる。しかも、ついさっきか?


 俺は近くで枯葉掃除をしているじいさんに声をかけた。


「あそこの阿田川家の墓に線香やりに来た人いましたか?」

「ん?」

「あそこの墓!」

「あそこぅ?どこかのう」

「あそこだっつってんだろ!ジジイっ!!」


 俺はそのじいさんの腕を掴んで強引に引き寄せ、そのまま墓前まで移動した。


「ここに墓参りに来た人が俺の前にいなかったか!?」

「……あ、あぁ。女性が。痛いから離してくれんかの」

「おっと悪い」


 力を入れすぎていたようで、ようやく手を離した。


「ふぅぃ~。年寄りはもっと労らんかい」

「……で?女がきたのか?」

「………う、うむ。ついさっき。ほれ、向こうの駐車場に戻ってったみたいじゃから、探してるならまだ追い付くかもしれんの」

「マジかっ!」


 俺はすぐに駐車場へ向かった。

 すると、丁度出口へ出てきた赤い軽自動車を見つけたので、進行方向に仁王立ちして止めた。


「すみません。少しお話よろしいでしょうか?」


 俺は運転席の窓越しに話しかけた。

 なるべく警戒心を持たせないように、穏やかな口調を心がけながら。


「は、はぁ…………ッ!?」

「ん?えっと、どこかでお会いしましたっけ?」

「……………ぃぇ」


 それにしても綺麗な女だな。

 俺の好みドストライクな大人の色気がある。

 どっかの乳がデカいだけのお子様とは女としての格が違う。

 以前の俺なら、朱美の時のように獲物認定していたかもしれない。


 ッ!!!!!………今、物凄い悪寒が………これ以上考えるとマズイ。超人的な若の勘、いや、超能力にひっかかる。


「……あの。お、お話って?」

「あ、あぁ。その前に確認なのですが、阿田川さんのお知り合いでしょうか?」

「……どうしてあなたが、それを?」

「阿田川恵子さん、陸さんとは昔少し付き合いが………え?」


 突然、その女は車から降りると、俺に抱きついてきた。


 ポタ……ポタ………。


 え?……なっ、なんだ?これは。

 ……赤い………血?


「な、に……」


 バッと女が離れた。

 俺の腹部には、サバイバルナイフのような鋭利な小型の刃物が、深々とはいかないまでもがっつり刺さっており、その箇所からはどっぷりと赤黒い液体が流れ落ちていた。


 その事象を脳が一泊遅れて処理した。

 俺は、この女に刺されたのだと。


「あぐっ……お前、は……」


 自分を刺した女を睨みつけながら、上手く立っていられずに膝から崩れ落ちる。

 ズキズキと感じる鈍い痛みを歯を食いしばって耐えながら、決してナイフを抜かずに力いっぱい出血箇所を押さえた。


「その汚い口で陸の名前を出さないで」

「……ッ!!その声、その、目っ………お前、まさか」


 俺は、この女を知っている。


「恨まれる方はそんなもんよね。あんたと陸がどういう関係だったのか気にはなるけど、良い関係じゃないのは確か。だから、アンタが死んでも陸はきっと何とも思わない」

「………咲良。てめぇ………」

「なんだ。思い出したの。じゃ、美智のことも当然覚えてるわよね」

「…………」

「アンタに殺された美智よっ!!!忘れたなんて言わせないッ!!!!」


 俺は腹の痛みで顔を歪ませながらも、キッと冷たい瞳で睨んでくる咲良の身体中を舐めまわすように見た。

 ……やはり、良い女だ。若い頃は、あの朱美と遜色がなかったんだろうと思わせられるぐらいの強烈な色香がある。


「………美智か。あれも良い女、だったな」

「死ねッ!!このゲスッ!!!!!!」


 激昂した咲良は、車の中からもう一本のナイフを取り出すと、一筋の涙を流しながら、それを思いっきり振り被った。



 ……どうせ死ぬなら、やっぱり若の目を盗んで朱美を一度抱いとくんだった。



 ──ドスッ!!







 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



「はぁはぁはぁ。殺っちゃった……やったよ、美智」


 凡そ30年前に死んだ阿田川陸の幼馴染だった飯田咲良は、目の前で横たわる河合俊介を見下ろした。


 それだけの月日が流れていれば、咲良の年齢も推し量れるだろうが、見た目は実年齢を感じさせない程に若々しく、美しかった。

 だがそれ故に、彼女もまた彼の標的となったのだ。



 咲良の大学時代の親友・倉橋美智は、俊介に身体を汚された挙句、恥ずかしい写真や動画で脅され言いなりになっていた。

 咲良はそんな親友の苦しみを露ほども知らなかった。



 咲良は昔から陸一筋で、陸が死んだ後はその深い悲しみを埋めるようにして適当な彼氏を作り、子供を産んでしまった。

 成り行きでできちゃった婚をしたものの、そんな関係が続くはずもなく、男は他に女を作ってあっさり離婚した。

 それからは仕事に子育てに奔走する日々が続いたが、娘とふたりで幸せに暮らしていた。


 だが、またしても咲良の不幸体質が、その幸せを妬むかのように引き裂いた。

 〝安立小学校集団失踪事件〟によって。


 咲良の娘を含む十数人の小学生たちが突如として行方不明になったのだ。

 メディアを大いに賑わせた戦後最大の失踪事件である。



 それから咲良は、被害者家族の会を設立し、あらゆる機関に協力を仰ぎながらひたすら娘を探し続ける日々が始まった──


 しかし一向にその事件に進展はなく、1年、2年と無情にも月日は流れ、常人なら絶望感に打ちひしがれて憔悴するところだろうが、咲良は決して諦めなかった。

 陸の時とは違って、娘は絶対にどこかで助けを求めているはずだと信じて行動する……その意志の強さたるや、過酷な異世界を生き抜いた祐也に酷似していた。


 だが、さらにそこへ追い打ちをかけるように何度目かの不幸が舞い込んできた。

 大学時代の親友・倉橋美智の訃報が届いたのである。


 高所からの飛び降りによる自殺だったという。

 原因は、会社でのトラブル。

 周囲の人間には「もう会社辞めたい」等と漏らしていたらしい。

 実際に過度なセクハラが起きていたという調べがつき、警察が介入してそこの社長が逮捕されたのだが……。



 咲良が美智と最後に会ったのは、あの事件前のゴールデンウィークで、そこから全然会ってなかったことに咲良は酷く後悔した。

 娘を血眼で探していたため、咲良が後悔することもないことだが、メッセージでの会話履歴でさえ数年前で止まっていたのだ。


 そして、咲良はすぐに行動を起こす。

 一欠片も進展のない娘の捜索活動を泣く泣く一旦中断し、美智の身に何が起こったのかを調べ始めた。


 普段は大人しいけど、負けん気も正義感も人一倍強く、大学時代には痴漢のひとりやふたり捕まえてたあの美智が、死を選んでしまう程に酷いセクハラを受けていたというのが信じられず、咲良は直感的に別の理由があるのではいかと考えたからだ。


 仕事、家族、私生活等美智と関わりのある人を回って聞いていった。

 娘の捜索の時に依頼した探偵に頼ったりもした。


 しかし、ここでもあまり進展はなく、半年ほど経とうとしていた頃、咲良は河合俊介という男と出会った。

 最初は美智の前の会社の後輩と言って咲良に近づいてきたが、その魂胆は美智同様に咲良をも毒牙にかけることだった。


 案の定咲良は騙され、どこかのホテル跡のような薄暗い場所に連れていかれた。

 そこで、俊介の仲間らしき男たちから、美智がどんな目にあっていたかを聞かされた。下品な笑いをBGMにして。


 そこから咲良の記憶は酷く曖昧になった。

 罪悪感や後悔、怒りや絶望とごちゃ混ぜになった感情に支配されていた咲良は、目隠しをされているわけでもないのに視界に靄がかかったように色を失った。


 それは、ひとり静かで真っ暗な海の底に沈められ、息ができずに藻掻いているかのように、咲良は自分ではどうすることもできず、ただ弱々しく両手を前に伸ばすのみで───


 そんな救いを求めるかのように震えている両手を、優しく包み込み、心が落ち着くような温もりを与えてくれた人がいた。

 けれど、咲良の視界は上手く定まらず、目の前の人物のシルエットしか知覚できない。

 それでも、彼女は何故か凄く安心したのだ。



 やがてそのシルエットは、「大丈夫。大丈夫だよ」と呟くと、咲良が何か言う間もなくすぐに遠ざかっていった。


「…………………………りくぅ?」


 その弱々しい呟きと共に、咲良は意識を失った。






 気が付いたら、咲良は近くの病院に入院していた。

 暫くは記憶が混濁しており、美智のことも俊介のことも拉致られたことも忘れていた咲良だったが、ふとしたきっかけで記憶を取り戻した。


 その後、拉致られたラブホの跡地を探し出し、戻ってみたが、あの時の痕跡は何も残っていなかった。

 美智を死に追いやった俊介の手がかりもそこには全くなく、どこに姿を消したのかもわからない。

 警察が動いている気配もなく、咲良は道に倒れていたところを発見されたらしかった。


 一見夢の中の出来事のように錯覚するが、拉致られたときに助けを求めようとして壊わされ今も手元にあるスマホだけが、あの出来事が現実で起きたと教えてくれた。

 ただ、咲良はなんとなく死んだはずの陸が、自分の窮地に助けにきてくれたんじゃないかと思った。


 だから、命日にはまだ早いけど陸に会いにいった。

 けど、やっぱりよくわからなくて。


「アイツを探して、もし見つけることができて。のうのうと生きてるなら、私は………」


 陸の墓前で、咲良はそんなことを話した。

 陸からの許しを欲していたのだろうか。

 俊介を殺す、その許しを。



 しかし今日、なんの因果か俊介と再会し、美智の仇を取った。

 髪型を変え、髪色を変え、化粧を変えただけで、俊介は咲良と気付けずに油断した。

 陸のところに来る前から、咲良は覚悟を決めていたのだ。


「美智、ごめんね。助けてあげられなくて。本当にごめんね」


 涙が止まらない。

 復讐を成し遂げても虚しさだけが残った。


「私さ、まだやらなきゃいけないことがあるの。あの子を助けないとなの。だから──」


 しかし、ふいに。

 背後から、何かが落ちる音がして、次いで有り得ないはずの声が聞こえた。


「びびったぁ。さすがに死んだと思ったのに。おー怖い怖い。若も人が悪い」


 地面に落ちた自らの血で染まる二本のナイフを拾い上げながら、肉食獣のように獰猛な目で咲良の全身を睨め上げる俊介の姿があった。




……集団失踪。

ファンタジーでは大体あれしかないですねぇ。


※明日か明後日にもう1話投稿します。

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