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第46話 行動観察試験をカンニングしてみた

 

 受験組に用意された食堂は子供たちで騒がしかったため、学園の中庭にあるベンチに移動し、朱美お手製のお弁当を食べたあと、いよいよ午後から行動観察試験が始まる。


 この行動観察に至っては、正直あまり自信はない。

 朱美や恭介は何故かやたらと「いつも通りやれば大丈夫」と謎の信頼を寄越すが、いつも通りやっても受からないことは目に見えている。

 少し予習しただけだが、朱美が買ってきた共通対策本によれば、「子供らしさ」というのがとても大事なようなのだ。


 子供らしさというのはつまり、元気・純粋・素直とかそこらへんのことを言う。

 例えば表情。色んな経験を積んでしまった大人の笑顔なんか以ての外で、屈託のない少年の笑顔が求められている……はず。

 俺はまだ一応両親の前では、子供らしさを捨ててはいないが、果たして子供の扱いのプロ(先生)たちに通じるか気がかりなのだ。


(……泉と約束しちゃったし、落ちたら格好つかないな。あの母親に朱美がバカにされるのも癪だ)



 はい。というわけでね。やってきました。

 試験官の皆さんがいる教室です。

 認識阻害のスキルを使っている俺の姿を他者が視認することはできず、意気揚々と入っていく。

 もちろんカメラなんかの機械類にも作用するので、偶然写真に写ってホラー写真みたくなることもない。

 まぁ、それはそれで面白そうではあるが…。


 その教室内にはモニターが複数設置され、それぞれ別の教室を映し出している。

 行動観察試験中の子供たちをモニタリングしているのだ。

 そして、そのすぐ前に先生たちが陣取り、映像を食い入るように見ながら他の先生と相談し合い、手元の端末上で評価を付けていた。

 そう、もう試験は始まっている。


 その中のひとつのモニターには、()()()()が、良い笑顔を浮かべ、ひとりで外を眺めている女の子に話しかけていた。

 うん。そういう積極性は大事だと思うぞ。


 ……って、お前まで何を呑気に外を見てるんだ。

 遊べよ、試験中なんだから。


「菊池先生。このふたり、何をしてるんでしょうね?」

「なんだか地面を見てる感じですね。何かあるのかしらね」

「いくら自由と言ってもさすがにこれは無いですよね……」

「んー。私はもう少し様子を見ますよ。掛井先生はこっちの子達をお願いします」

「あっ、この子でしたっけ。例の」

「えぇ、白井祐也君です」


 試験をモニタリングしている先生たちの会話が聞こえてきた。

 どうやら本体はがっつり目立ってらっしゃるようだ。

 絶対悪目立ちだが……。


(こうしてはいられん。ボケっーとしてる本体に、さっさと何かやらせねぇとっ)







 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 〝多重意思〟を分身体に埋め込み、スパイとして試験をモニタリングするであろう教室に送り込んだ俺は、意気揚々と1階の試験会場に入室した。

 筆記試験を行った教室の倍ぐらいはある大きな教室で、何個かテーブルや椅子が配置され、各テーブルの上には様々な物が置いてあった。

 パッと見た限りだが、図形ブロックを枠内にはめ込むタイプのパズルや某アニメのかるた、何冊かに積み上げられている絵本なんかが置いてあるようだ。


「さて。これから皆さんには、この教室で自由に遊んでもらいます」


 教壇に立った女性試験官は、この教室に集められた十人の子供たちの顔を見渡しながら、ゆっくりとそう話し出した。


「制限時間は20分です。この教室から出なければどのように過ごしても大丈夫です」


 ふむ。我関せずに昼寝していてもいいわけか。

 俺はそんなことを考えながら、床に敷かれた赤くて丸い絨毯を横目で見た。

 4個別々に敷かれているということは、子供たちがいくつかのグループに分かれて何かすることを想定しているのか。


 ……どんな評価になるのか気にはなるが、ここは真面目にやっておこう。



「この砂時計の砂が落ちきったら終了です。それでは始めますが、その前に何か質問はありますか?」

「はーい!おトイレはどうしますか?」

「後ろにありますので、ご自由にどうぞ」


 うん。入ったときから気付いてたけど、教室内にまさかのトイレがある。

 掃除用具入れの隣に、「♂︎(これ)」と「♀︎(これ)」のマークが書いてある扉が2つ並んでいるのだ。

 筆記試験した教室には無かったから全部の教室にあるわけではないだろうが、さすがは金持ち学校といったところか。


「他に質問はありますか?」

「ないですっ!」


 いや、お前はなくても他のやつがあるかもしれんだろう。

 自信満々に答えるその男子は、トイレの質問をしたやつで、やたらと目がランラン輝いているのが印象的だ。

 よく居る、グループを進んで仕切りたいタイプだな、きっと。

 ちなみに、俺はそういうやつを無視して勝手にどっか行くようなタイプだった。

 ……あ、これ、前前世の話ね。

 今はもう少し大人になっていると思うよ……。


「分かりました。特にないようですので、試験開始です」


 女性試験官は教壇の上に置いてある砂時計を逆さまにし、教室を出ていった。

 それを揃って見届けた子供たちは、各自思い思いの行動を取り始めた。

 大抵の子供は興味のある玩具に群がり、早速自由に遊び始めた。

 さっきの仕切りタイプの少年は、早速何人かに呼びかけてトランプに興じていた。

 どうやら神経衰弱をするつもりのようだ。


(俺も混ぜてもらおうかなぁ……神経衰弱は得意だし)


 大丈夫。決してズル(透視)はしないよ。

 身体能力強化で記憶力も爆上がりしてるからね。

 ……いや、これもある意味ズルかも?


 気を取り直して俺もなにかするかと思いながら振り返ると、ひとりの女の子が何をするでもなく、窓際で黄昏てるかのように外を眺めているのが目に入った。

 うん、クラスにひとりはいるけどさ、それだと受からないと思うがなぁ。


「ねぇ、何見てるの?」

「…………アリさんのおしごと」

「お仕事?あぁ、なんか運んでるね」


 その子の第一印象は、不思議ちゃんだった。

 話し方も仕草もなんと言うか、ぽわぽわしていた。

 小声で、食料を運ぶ蟻を応援しているのだから、変わってるのは間違いない。


「アリさん好きなの?」

「ぁっ……」


 俺の質問は無視され、今しがた運搬中の蟻が他の蟻に襲われて食料を強奪されたため、その女の子は悲しそうな声を漏らした。

 涙目にもなっている。


(純粋とは、こういうのを言うのだろうか……おっ)


 強奪した蟻に果敢に立ち向かっていく三匹の蟻がいた。


「勇敢な友達がいるみたいだよ」

「………ぇ?」


 奪われた食料を取り返そうと、仲間の蟻たちが戦っている。

 一対三の状況だが、女の子は三匹の蟻を応援していた。

 そして、なんとか三匹蟻が食料奪還に成功した。


「やったっ、取り返したぁ」

「あぁ、良かった【良くなーい!全然良くないぞっ!】な………」


 和んだ気持ちでいたというのに、俺の頭にキーンと響いてきた別意思Aの声に、イラッとした。


(うっせぇなっ!自由遊びなんだからこれだってそのうちだろ?学校が用意したものを使えとは言われてねんだから)

【これ?幼女と一緒に外をボケっーと眺めてただけじゃないのか?】

(……蟻の生態観察?)

【なんだそれ、夏休みの自由研究か?とにかくちゃんと遊べよ。なんかそれ終わったら感想文書かせるみたいだから】

(感想文?……そういや、この20分で試験終わりとは言ってないか)

【そういうことだ。真面目にやれ】


 ということらしいので、蟻の観察はここまでにしとこう。

 しかし、となりの彼女はいまだに働き蟻を眺めているが、試験受けにきてるんだよな、この子も?


「ねぇ、蟻さん頑張ってるのに、君は頑張んなくていいの?」

「……え?」

「とりあえずこれでもやんない?」


 そう言って俺は、机の上から適当に拝借してきた〝かるた〟を見せた。

 しかし、ちゃんと見てから気付いたのだが、それは普通のかるたではなかった。


「なんだこれ……」


 頭文字とイラストが書かれた絵札は普通だが、読み札の方は頭文字が決まってるだけで何も書かれていない。

 読み札を自作しなければいけない妙なかるただった。


「みうも頑張る」

「そうか。じゃあ、これ」


「あ」から始まる白紙の読み札を手渡すと、女の子──みうちゃんというらしい、は楽しそうに書き始めた。


『ありさん がんばってます』


 いや、対応する絵札には雨が降っている中、傘を差している二足歩行の犬が描かれているから、蟻は関係ないのだが……。

 まぁ、楽しそうに書いてるのを水刺すのも野暮か。




 俺も読み札を作りながら、他の遊びをしていた子達を巻き込み、最終的には全員で読み札を書き綴り、終了間際にかるたを全部完成させた。


「「「やったーー!!」」」


 自分たちで作ったかるたが完成し、子供たちがはしゃいでいると、ドアが開き試験官が入ってきた。


「この教室での行動観察試験はこれで終わりです。では、教室を移るので付いてきてください」


 という試験官に従い、席が人数分並べられた普通?の教室で先程の感想を書かされた。

 さすがに原稿ではなく、白紙の紙に自由に書くだけだったが、俺は真面目に縦書きで書いた。

 中には絵日記みたいに書いているやつもいたな。



 そうして、よくわからんまま行動観察試験が終了した。

 別意思Aが言うには、2人じゃ絶対終わらないような課題(かるた制作)を周りに助けを求めて完成させたというのが結構評価されたらしい。

 合格・不合格はこれから協議して決定するらしいが、試験官らの話を聞いていた限りでは、恐らく俺は安牌らしい。


 ……評価されたのは結構なことだが、別に助けを求めたわけではなく、丁度遊びのキリが良さそうだったやつらに何気なく声をかけただけなのだが、気付いたら神経衰弱をやってたやつらまで読み札を書いていて、時間内に終わったというだけなのだ。


 てなことを評価云々はさておき、帰りに朱美に話したら、「うふっ。やっぱり祐也には人を惹きつける何かがあるのよ」と的外れなことを言っていた。

 どうしても俺を〝デキる人間〟にしたいらしい。


「まぁ、とりあえず、終わった終わった」






 無事に試験が終わり、翌日。

 久しぶり……といっても1週間ぶりくらいか、に秘密基地にやって来た。

 いつもの睦喜の挨拶(飛び蹴り)をいなしつつ、樹海独特の美味しい空気を吸っていると、俊介がいないことに気付いた。


「なぁ、俊介は買い出しかなんかか?」

「イテテ。また腕がもげるかと思った……」

「俊介は買い出しか?」


 語気を強めて繰り返すと、睦喜は俺が捻った腕を押さえながら、あっけらかんと言い放った。


「さぁ?もう何日も見てないよ」




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