第4話 初めてのお友達
無事入園式が終わった。
これから、クラスごとに写真撮影をするらしいので、『さくら』と書かれたプラカードを持っている女の先生がいる辺りへ、のんびり歩いて行く。
この"わかば幼稚園"のクラス名は全部花の名前で、他には、あじさい組やひまわり組などがあるようだ。
欠伸をしながら歩いていると、キョロキョロ周りを見回して泣きそうにしている女の子がいた。
目が大きくて愛らしい顔をしているその子は、目がウルウルと潤んでいて、俺の庇護欲を思いっきり刺激してくる。
そして胸に着けている名札には、『さくら組』と書かれていた。
ふむ。さくら組の集合場所を探しているのか、それとも親を探しているのかどっちだろうか。
とりあえず、困っているようなので声をかけてみることにした。
「ねぇ。さくら組はあっちみたいだ……え?」
近づいて教えてあげようとしたら、その子がズボンを履いてることに気付いた。
制服のリボンもよく見たら青だ。
因みに女子はスカートで、リボンの色は赤となっている。
まさか、男?この愛らしい顔で!?
す、すげぇな。
向こうの世界でも、ここまで判断を誤らせる美少年は中々いなかったぞ。
俺が、そう心の内で驚いていると。
「あ。ありがとう」
ほんわかしていて少し涙目になりながら、嬉しそうにお礼を言ってくる。
なんか知らんが、めっちゃ可愛いなっ!
「気にすんな。もう皆集まってるみたいだし行くぞ。それから、男なら簡単に泣くな」
「う、うん!」
歩き出した俺の隣にやって来て、目元をゴシゴシして拭うと、また「ありがとう」と言ってくる。
なんか、仕草まで女の子みたいなんだな。
「あ、えっと。僕、桐沢 泉」
名前まで中性的なのかよ!
あぁ、こりゃ女だと間違えてもしょうがないな、うん。
「俺は、祐也だ。白井祐也。よろしくな、泉」
俺がそう返すと、泉はパァッと花が咲いたような笑顔を見せ、コクコク頷いている。
普通に可愛い。本当に男なのか?こいつ。
俺はおもむろにスキルを発動した。
サーチエンジン!
【お呼びですか、マスター】
(泉は男なのか?)
【是。間違いなく性別は男です。容姿が中性的なのは、遺伝だと思われます】
(じゃあ、この女の子みたいな仕草はなんだよ)
【親の躾でしょう。…はぁ】
(ん?今、呆れなかったか?)
【なんのことでしょうか。マスターの聞き間違えでは?】
(嘘つけ!そんなことで呼ぶなっていうため息だったろ!)
【……では、何かありましたらまたお呼びください】
(お、おい!逃げんな!)
………スキルに逃げられた。
まったく、こんな勝手なスキルがあっていいのかよ。
しかし、躾か。
ということは、親は娘が良かったから、女の子風にしつけたってことか?
と俺がいろいろ考えている間に、目的地に到着した。
俺が立ち止まって、園児の人数を数えている先生を見ていると、隣を歩いてたはずの泉がいないことに気付く。
「あれ?どこいった?」
俺が後ろを振り返ると、違うクラスの集団に巻き込まれ、あらぬ方向へ流されている泉を発見した。
うおい!お約束のドジっ子属性まで持ってんのかよ。
……いや、まだこの歳なら普通か?まぁ、この講堂の広さもどうかと思うが。
はぁ。ったく仕方ねえなぁ。
俺は頭をかきつつ、その集団へ近付いて泉の手を取ると、強引に引き寄せる。
「なにやってんだよ。しっかり付いてこい」
「グスッ。ありがと、ゆうやくん」
また目をウルウルさせている泉が、俺の手を強く握り返してくる。
なんか俺、保護者みたくなってね?
まったく。手のかかりそうなやつと友達になっちゃったもんだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「はーい!皆、こっちにちゅうもくしてくださーい!えっと、今日から皆と一緒に学んでいく『さくら組』の担任の、吉澤遥です。よろしくお願いします!」
写真撮影を終えた後、各クラスで教室に集まり、担任の先生の挨拶や連絡事項等を聞いている。
それが終われば、後は自由だ。
先生や友達と写真を撮っていてもいいし、すぐ帰宅してもいいらしい。
後ろの壁際には、親御さんたちが並んでいる。
その中でも目立っている人がふたり程いる。
一人は、窓際に立っていて、着物を着ているおばさん。
化粧が濃くて、いかにもPTAでもやってそうな感じだ。
そしてもう一人が、俺のお母さん。
清楚なワンピースを着ていて、滑らかな黒髪によく映える。
今では見慣れているが、かなりの美人だ。
そして、副担任の男の先生が、さっきからチラチラ見ているのが気にくわない。
子供たちの前で、何を意識してやがんだか。
「はい。それじゃ、何か質問はありませんか?」
先生が連絡事項の話を終えると、最後にそう聞いてきた。
吉澤遥先生。
背が低くて可愛い感じの先生だ。
話し方とか雰囲気とかから、先生になってまだ日が浅いんだと思う。
あまり面倒をかけないようにするか。
さて、今は質問か。
誰も手を挙げないみたいだから、ちょっと聞いてみるかね。
「はい!僕、質問あるんだけど」
「はい、いいよ。えっと、白井祐也君だね」
「そっちの先生がさっきから、僕のママをチラチラ見てるんだけど何かあるの?」
俺の──3歳児の超ドストレートな質問。
幼児の無垢?な質問に対して、周りの大人たちは驚いている。
特に父親勢は、それはしょうがないみたいな雰囲気を出していた。
「河合先生!?本当ですか?」
「チラチラは別に見てないですよ。親御さん方が、どういう方たちか見てはいましたがね」
「そ、そうですか」
ホッと息をついている遥先生。
この反応は、もしかしたら……。
「というわけでゴメンね、祐也君。特に何もないよ」
そう言う副担任──河合俊介先生。
爽やかな笑顔を貼り付けてはいるが、俺を騙すには嘘くさすぎる。
そしてまた、チラッと朱美を見て、ほんの一瞬だけ表情を崩した。
その後は、なに食わぬ顔をして元の位置に戻った。
こういう何かよからぬことを企んでいそうな奴は、一番嫌いなんだよな。
そうしてこの男は、俺の中で警戒するべき相手として認識するようになった。
「ゆ、ゆうやくん。顔怖いよ」
ずっと手だけは離してくれない泉が、俺の顔を覗き込んでそう言ってくる。
お前は可愛いな。あーいや、違う違う。
「わるい。なんでもない。……これならいいか?」
「うん!優しくて格好いい顔に戻ったよ~」
お前は──本当に男、だよな?