第39話 芦原風季
どうも。皆さんいかがお過ごしでしょうか。
マイペース投稿でお馴染みのまっつーです。
いつも鋭いご指摘ありがとうございますm(_ _)m
明日にオーストラリアとの親善試合を控え、軽く夜道を走っていると、ジャージのポケットに突っ込んであったスマホが鳴った。
突然の着信音にびっくりして、慌てて出る。
『もしもし。俺、祐也だけど』
「お、おお。どうした?こんな時間に」
電話の相手は、白井祐也だった。
このぶっきらぼうな口調からは想像できないだろうが、まだ五歳のちっこい少年だ。
縁があって二年前から良くしているが、友達かと言われると微妙で、関係性がよくわからない。
雅なら迷わずに友達だと答えるんだろうが、俺の場合は知り合いって方がしっくりくる。
『大したことじゃないから、忙しかったら切るけど』
「いや、平気だぞ。ちょっと走ってるだけだから」
こういう社会人的気遣いができるあたりが、すごく不気味なんだよな。
そんなあいつを一回怒らせたことがあったが、あんときはマジでちびりそうだった。
俺にとっては、得体の知れない、だが悪い奴ではないガキンチョって認識なんだ。
『明日、お父さんと友達と三人で見に行くから。一応それだけ言っとこうと思って』
なんだ、そんなことか。
態々言わなくても、渡した席は下からでも見やすい位置だから来てたらすぐに気付くのに……変に律儀だな。
あとなんか、声が少し明るいし機嫌が良いのだろうか。
……これはチャンスかもしれない。
「そうか。なぁ、祐也」
『うん?』
聞き方も柔らかい。
なんか今のは年相応って感じがした。
「俺が明日の試合でホームラン打ったら、雅を呼び出してくれないか?」
『……言ってる意味がよくわからないけど』
「とにかく呼んでほしいんだ。もちろん俺がいるときに」
『よくわかんないけど、わかった。あっ、ことっ。それ食べちゃだめだよ。まったく………』
なるほど。妹の琴那ちゃんのおかげだったか。
感謝感謝。
「今の言葉忘れんなよ?」
『ん?ああ』
───そして、現在。
引き付けすぎて詰まった打球は、ファウルボールとなって客席へ飛んで行った。
バットを振り抜いたと同時に、俺はハッとした。
なぜなら、打球の方角がもろあいつのいる辺りだったからだ。
『ファウルボールにご注意ください』
いや、おせーよ。
もっと早くアナウンスしろっ!
だが、俺の心配は杞憂に終わった。
丁度人が横切って視線が切れたが、どうやら祐也がキャッチしてくれたみたいだった。
グローブをたまたまはめていたとはいえ、俺の鋭い打球(自分で言う)をキャッチするなんて、あいつ野球の才能あるんじゃないか?
「でも、よかっ───うっ!?」
ふいに視線が通って、俺と祐也の目が合う。
その瞬間に全身を寒気が襲った。
め、めちゃめちゃキレてる……!!
「やべー。このままじゃ約束を反故にされるっ」
とても子供とは思えない不機嫌オーラを全開にして睨みつけてくる祐也に向かって、俺は全力で手を合わせて頭を下げた。
こっちは謝罪オーラを全開にして許してもらえるように祈る。
そのとき、俺の頭に軽めの衝撃がきた。
何かがぶつかったような………。
頭を押さえて閉じていた目を開けると、足元にはボールが転がっていた。
何かが書かれているようで、不思議に思いながら拾い上げる。
『下手くそ』
その野球ボールには、マジックペンでそう殴り書きされてあった。
ハッとして顔を上げると、またしても祐也と目が合い、彼はジェスチャーを始めた。
隣に座っている祐也の友達を指さしたあと、その指を俺に向けてから再度その友達をさした。
そして、無表情で俺を見つめてから、首を掻っ切るポーズをした。
……なんか、言われてることがわかってしまった。
あいつは絶対こう言った。
『俺の大切な友人にぶつけたら……殺す』
マジで怖い。
あいつ本当に何なんだよっ!
しかも、これあいつが投げ返してきたのか!?
俺がひたすら祐也に対して恐怖を抱いていると、球審から注意を受けた。
今まで全神経があいつに行っていたが、気付いたら周りの人たちが訝しんだ目で俺を見ていた。
あんなところから俺の頭に命中させた規格外には、誰も注視していなかった……。
俺は慌てて野球ボールをポケットに仕舞い、大きな咳払いで誤魔化しつつ打席に入る。
それでも、全然試合には集中できず、センターに打ち上げてアウトになった。
今の精神状態では当然の結果で、特にくやしくもなく打席を後にする。
ベンチに戻る際、チラッと確認したが、祐也は友達と楽しそうに話しているようだった。
………あれは腹黒いなんてもんじゃねーや。
「ボーっとして、どうかしたの?」
ベンチに戻るとすぐに寄ってきて、コテンと首を傾げて聞いてくる浅井を見て、こいつの方がよっぽど子供だと思った。
だが一度マウンドに立つと、まるで人格が入れ替わったかのような完璧な投球を見せる。
見た目だって、俺と遜色ない(客観的事実)。
こいつとあいつを知ると、人間は外見で判断してはいけないということが嫌でも分かる。
「…………はぁぁ~~」
俺は、心配そうに色々聞いてくる浅井を無視して、大きなため息をついた。
すると、浅井は何を思ったのか、顔をずいっと近付けてきた。
お互いの鼻が接触しそうなほど近い。
「な、なんだよっ。近いって」
「芦原君っていっつも試合中は自信満々なのに、今日は変だよ。さっきのファウルと関係あるの?」
「余計なお世話だ。てか、離れろ」
「やだ。絶対何かあるもん」
もんって……お前はガキか。
俺は浅井の両肩に手を置いて強引に引き離す。
「相変わらずお前ら仲良いなー。でも、さすがにその距離は勘違いされるぞ?」
「なっ、違いますよ錦さん。俺は女が好きですから」
「真顔で言うな」
浅井の学校の何個か上の先輩で、今は俺と同じチームでピッチャーをしている錦さんがひやかしにきた。
プロになりたての頃に結構お世話になった人で、黒人と見紛うほどに肌が黒く体格も俺以上にがっしりしている。
「浅井。たぶんそいつが気にしてんのは、今日の試合に招待した人たちだと思うぞ?丁度ボールが飛んでった方だったしな。まぁ、そうそう当たらんとは思うけどな。しかも知り合いに」
「なるほど。それは初耳です。錦先輩ありがとうございます」
「ああ。まぁ、その話は後にしろ。……ほれ、交代だ。行ってこい」
結局その回も無得点で、俺たちは守備につくためにベンチを出た。




