第36話 とある少女暗殺者
この週末はすることがゲームか執筆しかないです。
はぁ。祐也のように好き放題生きたいっ。
うちは桜耶。
SEGRETOっちゅう日本の組織に所属する暗殺者やねん。
元は欧州の方で活動してたんやけど、あん男に引き抜かれてから今は日本を中心にアジア圏内で活動してるんよ。
引き抜きっちゅうか、半ば脅しやったけどなぁ。
これでも凄腕のスナイパーで、向こうでは
〝Cecchino Falco〟って呼ばれてたぐらいやねんで。
鷹のように確実に最短で対象を仕留める狙撃手っちゅうことで、そう呼ばれるようなったわけや。
まぁでも、それは何年か前のはなし。
今は組織内でも烏合の衆……平均的な技術しか持たん一暗殺者でしかないんよ。
あん男の命令で爪を隠してるいうわけや。
このSEGRETOっちゅう組織には、うちでも知らん命令系統を除いて、十人の選ばれし暗殺者がおる。
それぞれが決まったコードネームで呼ばれ、また彼らのことを一括りに十殺傑って呼び、他の暗殺者たちに対して絶対的な命令権を有してるんや。
まぁ、うちに指図できんのはあん男だけやけど。
そんで、今回うちが受けた任務は暗殺現場の監視。
それだけやった。
監視なんてのはいつも組織の調査班がやっとることで、うちに回すようなものではないんやけど。
にもかかわらず、そんな誰でも出来そうな依頼をよこしたんや、あん男は。
「ほんとわけわからんわ」
うちは愚痴るが、あん男に逆らっても良いことなんてないとわかってるから素直に受けたんや。
なんの意味があるんやろと思っとったうちやけど、正直空いた口が塞がらなかったわ。
だっていざ来てみると、十殺傑がふたりもおったんやから。
それも、睦喜と蜂崎いう怪物揃いや。
うちでも殺すのに一苦労も二苦労もする(できないとはいわん)のに、あのふたりを投入するなんて、お相手はどないな化け物やねんちゅう話や。
おまけに、周りをうちの暗殺者たちが取り囲んどるし。
えらい厳重体制やわ。
それから二時間ほどして、下の路地にひとりの男が現れおった。
めちゃくちゃ遅刻やんけ!というツッコミが喉元まで出かかるが、そんなことどうでもいいと思えるぐらいに超イケメンやった。
見た目は優男風やけど、眼光の奥がえげつないほどに鋭いのを双眼鏡越しに見たうちは胸の奥が熱を帯びたのを感じてん。
「……めちゃめちゃタイプやねん」
生憎うちのいる建物の屋上には他に誰もおらんので、今の呟きも赤くなった顔も見られずにすんだ。
でもそないなことよりも、その男から目を離すことができんくなったんが、うちはかなり屈辱やった。
今回は暗殺の対象やのうて、ただの監視任務やけど、それでもこれから殺されるだろう相手にこないにときめいてしまうなんて……暗殺者失格やねんな。
「仕草や態度を見るに、並大抵の男やないのは一目瞭然。こないに用意しとるこっちの本気度から見ても、決して侮れない相手なんやろう。でも……」
その先の独り言は呟くことができんくなった。
なぜなら、不可解な出来事が1km先の廃ビル内で起こったからや。
たしかにうちは目にした。
あのイケメンが何かを指で弾いた直後に、睦喜が壁を突き破って後ろに吹き飛んでいく光景を。
───ありえへん。
あないな……車が時速100kmで激突しても押し止めた小さな怪物を、容易く吹き飛ばすなんてことはっ。
うちが仰天してる間に、イケメンは懐から銃を取り出した。
やはり、同業者やったんか?
とそこで、蜂崎が手を挙げおった。
あれは狙撃の合図。
刹那、十の方向から一斉にイケメンへと弾丸が放たれた。
作戦など聞いとらんかったうちはこれにも驚く。
「過剰すぎやろ。なにも蜂の巣にせんでも……まぁ、蜂崎やからしょうがないんか」
しかし、イケメンを遮る窓は無傷やった。
もちろんイケメン自身も──。
それはまるで、狙撃を予期していて予め強化ガラスにすり替えていたような嘲笑いようやった。
そしてイケメンが呆れたように笑ったのをうちは見逃さんかった。
「情けないわぁ。下準備がハナクソやねんな。強化ガラスにも気付かへんなんて、ここまで低レベルとは思っとらんかったわ。狙撃手なら、初撃を外した瞬間に殺られるっちゅう覚悟を持たんと」
うちはそう呟き、地面に置いていたピンクの花柄でむっちゃ可愛いキャリーケースから、ライフルセットを取り出して瞬時に組み立てる。
うちの愛用ライフル〝Falco
Distanza Special〟の有効射程は1500ヤードとかなり余裕があるし、うちなら到底外す距離じゃない。
ライフルをスタンドに乗せてスコープを覗くと、再び睦喜が外に吹き飛んでいくところだった。
「なんやねんいったい……」
気を取り直して、対象が隙を作る瞬間を待つ。
先程、睦喜が何かをしてくれたおかげで邪魔な強化ガラスは消え去っとるから、タイミングを待つだけでええ。
うちなら確実に仕留められる。
本来の任務は監視のみやったけど、この好奇心は抑えられんようや。
あのかっこいいイケメンを殺す、うちの手ぇで。
どっちみち組織に狙われたら、待っているのは絶望的な〝死〟やからな。
そして、その瞬間がきた。
一瞬、背後から銃を突きつけていた蜂崎に殺されたと思ったが、なぜか彼の銃が暴発し腕をダランとさせながら血を垂らしとる。
そのおかげで、イケメンはうちに無防備な背中を晒してくれた。
「adieu! Tu es beau」
(さよなら。イケメンくん)
うちは彼の心臓に照準を合わせて、静かに吸って吐く呼吸に乗せて引き金を引いた。
確実に仕留めるなら頭部やけど、あのイケメン顔を汚したくないしこっちでも十二分に仕留めることが可能や。
ドリルのように回転しながら高速で飛翔したその弾丸は、確実に対象の心臓を捉えた。
にもかかわらず、その対象は何事もなかったかのように手負いの蜂崎を撃ち殺した。
「…………」
スコープ越しで対象──イケメンの後ろ姿を呆然と見ることしかできひん。
思考が完全にフリーズしとったそのとき、ふと振り返ったイケメンと目が合うた。
「~~~~~~ッ!!」
ゾクゾクと肩や唇が震える。
身体中に一筋の稲妻が落ちたような、とにかくうちは戦慄した。
こないな感覚は、あん男と初めて対峙したときにすら感じんかった。
これは、畏怖?それとも………。
そして、うちが気付いたときには、廃ビルはバラバラに崩れ落ち、必死に離脱を測る雑魚暗殺者たちがおった。
反対に現場に近付いていくのは、組織の調査班のようや。
その身のこなしが、彼らとは一線を画しているのでわかりやすい。
「……うちも引き上げよか。あん男がギリギリの距離で監視しろって言うたんがようわかったわ。あのイケメンのヤバさったらない………んやけど、むっちゃかっこよかったわぁ」
うちは両頬に若干の熱を感じながら、急いでその場をあとにした。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
───ハァハァハァ。
「くっそッ!!ふざけんじゃねぇよッ!なんで俺がこんな目」
──ピュン!
小さく空気を切り裂いたような音がしたあと、文句を紡ぎながらなりふり構わずに走っていた男が崩れ落ちる。
その目は大きく見開かれ、額にはひとつの弾痕があり赤いドロドロした液体を垂れ流している。
彼が走っていた方向には、死神を体現したかのような真っ黒の装いの男が、サプレッサーを装着したハンドガンを向けていた。
「身の程も知らずに政治家を脅迫した、自身の頭の悪さを恨め」
そう吐き捨てるように呟いた死神風の男──逸核は、処理班に男の死体を運ばせ、この場を去ろうとしたとき、なにかに気付いて顔を上げた。
すると赤い点が現れ、自分の胸元から額へとゆっくり移動する。
「レーザーポインターなど無くてもお前の位置ぐらいわかる」
数キロ先のビルの屋上を見上げながらそう呟いた逸核の無線イヤホンに、関西弁の少女の声が聞こえてくる。
『さすがマジモンの化け物やわぁ。かなり離れてんのにぃ」
「お前こそ、この距離からでも狙撃可能とは恐れ入る」
『えっへん。もっと褒めてええよぉ』
「図に乗るな。そのぐらいできなければ、あのときに殺していた」
『ツレないなぁ。あいかわらずツンツンやねん』
「そんなことよりも、任務の結果を聞かせろ」
『………それなんやけど。うち、惚れてもうたかもしれへん』
「………あ?」
暇なので明日にも一話上げようと思います。
よろしくお願いしますm(_ _)m




