第34話 暗殺包囲網
あまり返信はしていないですが、感想は逐次読ませてもらってます。
いつもありがとうございます<(_ _*)>
俺は今、人で賑わう歓楽街を抜けたところにある廃ビルが見える細い脇道にいた。
あの朽ち掛けの建物が、俊介が蜂崎なる男から拳銃を受け取った場所だそうで、今回コンタクトを取らせてまたここで会う約束を取り付けてもらった。
拳銃はどういう入手経路で、誰が関わっているのか。
割と気になった俺は、こうしてわざわざ隣町まで歩いてやって来た。
ちょっとした散歩気分である。
実際のところ面倒だからほっといてもいい気がしたが、簡単に拳銃なんて一般人に渡されては困るので、元を潰すという結論に至った。
まぁでも、一番は興味本位である。
「……なんか面白そうだな」
この静かな通りに入ってから、小さい音だがビービー鳴っているのだ。
俺のスキル『危機感知』が。
このスキルは本当に些細なことでも鳴る設定にしてある。
信号無視した酔っ払い運転の車が突っ込んできても鳴るぐらい緩い設定だ。
俺にとって全く1ミリも脅威にはならないのだが、だからといって周りに影響を及ばさないかと言われると及ぼすわけで。
つまり、周辺の人やモノのために迫る危機に敏感にしているのだ。
俺は危機感知を無視して、この辺り一帯を俯瞰して見る。
すると、計七人のスナイパーやら暗殺者風の連中が各々の建物の屋上にいた。
目立たないように忍んでいるが、俺の眼には筒抜けである。
さらに、窓から僅かに突き出ている筒状のものもチラホラ確認できた。
恐らくスナイパーライフルだろう。
ここら一帯を、十人以上は取り囲んでいるようだった。
「なんかガチだな。場所間違えたか?」
俊介相手にここまで用意するのはおかしい。
それに、敵の規模が想像以上すぎる。
それでも、久しぶりの敵陣って感じがして少しだけテンションが上がってきたのは、ありとあらゆる戦場を闊歩してきた勇者としての性か。
「まぁ、蜂崎ってやつに聞いてみればいいか」
そう呟くと、脇道から出て目当ての廃ビルに向かう。
「変身」
俺は『変身』のスキルを使用して、リアンの姿になる。
足りない部分は魔力のオーラにて補うことができるが、体格や身長がだいぶ異なる為に結構な量を消費してしまった。
それでも、魔力が増えた今は全体の二割ほどだ。
そうして完全にリアンの姿(茶髪の癖毛イケメン)となった俺は堂々と道を歩いてき、廃ビルの前で一回立ち止まって見上げてから中に入っていく。
「おお。やっぱこっちの方がよく見えるなぁ。子供だとほとんど見上げないとだからなぁ。今度手品ってことにして浮いてみようか。舞〇術とか言って」
ブツブツと独り言を零しつつ、さっさと最上階まで行き、開けた部屋に辿り着く。
事前に感知していた通り、そこにはふたりの人間がいた。
「来たか。やはり、可愛い俊介君とは似ても似つかねぇ。誰だてめぇは」
ソファに腰掛けている黒コートの男が、煙草を口に咥えながら話しかけてきた。
一見呑気に見えるが、俺の一挙手一投足に気を配っているのがわかる。
かなり警戒されているらしい。
俊介から聞いた蜂崎という男の印象としては齟齬がある気がするが、黒いコートに煙草というのは一致するから彼がそうなのだろう。
男の言葉を無視して、隣に立っている少年に視線を向ける。
俺より少し年上、小学生ぐらいの幼い少年がいるにはここは些か場違いだが、気持ち悪いぐらいの笑みが常人ではないと教えてくる。
「おい。耳ついてんのか?誰だって聞いてんだ」
蜂崎と思われる男が、煙草を吐き捨てて睨んでくる。
いかんよ、ポイ捨ては。
「………あ?」
いつの間にか俺の手にある煙草を見て、次いで今捨てたばかりの床を見た蜂崎は、再度俺の手元を見る。
吐き捨てた煙草がいつの間にか俺の手元にあるのだ。
そりゃ驚くだろう。
俺は、おもむろに吸いかけの煙草をにぎにぎして丸めると、指で弾く。
ピンッ──ヒュゥッッ───ドッ。
それは見事少年の額に命中し、後方へ大きく吹き飛ばしていった。
壁を突き破って落ちていったようだ。
「手加減したんだけど、意外と飛んだな」
蜂崎を見ると、目を白黒させている。
何が起きたのか理解できていないのだろう。
まぁ、ふたりで会うという最初に交わした条件(俊介から聞いた)を破ったのはこの男だ。
途中退場してもらっても文句言われる筋合いはない。
「俺が誰かって?そんなことはどうだっていい。拳銃を民間人に渡してるお前のバックにいる組織だか人間だかを教えろ」
そうして俺は、亜空間収納から取り出した拳銃を突きつける。
俊介が持っていた物だが、弾が切れていたので複製したのだ。
「ふっ、なるほど。てめぇが巨大な〝何か〟……か」
よく意味がわからないことを呟くと、蜂崎は右腕を上げた。
何かの合図、普通に考えて狙撃の──。
直後、大窓に大きな衝撃が加わるが、派手に割れることも穴が開くこともなかった。
「…………あ?」
今度は完全に目を見開いて驚いている。
窓を凝視して「何が……」と言っている。
「ぶふっ。いや、ごめん。あまりに滑稽すぎて……」
つい笑ってしまった。
こんなので俺が殺せると?ご冗談を。
狙撃を無力化する方法なんて何十通りもある。
今の俺に直撃したとしても肌に感覚すら残さないで弾かれるはずだ。
窓を強化して防いだのは、単なる気分でしかない。
「お前こそ人の話を聞けよ。本当に撃っちゃうよ?」
「ちっ、随分用意が良いな。まさか窓を強化していたとは……」
ん?用意?
なんかひとりで納得している姿が、また微妙にツボる。
「今ので死んでれば楽だったものを。面倒な奴をその気にさせたばっかりに……可哀想に」
なぜか今度は憐れんだ目を向けられる。
……なるほど。念の為、魔力を纏っとくか。
刹那、俺の背後に影が指す。
そして音を置き去りにしたそいつの回し蹴りを、右腕で受け止める。
一拍遅れて発生する強烈な衝撃波と底に響くような轟音。
それにより、一時的にだけ強化していた窓ガラスが全て割れ、部屋が揺れる。
今にでもこの廃ビルが崩れそうなほどだった。
普通の人間の身体能力を超越したかのようなその蹴りを受けて、俺は自然と目を細めていた。
「只者じゃないとは思ってたけど、お前人間か?」
「うおーーー!すげすげっ!ボクの本気の蹴りを腕で止めるなんて初めて見たーーー!どうして破裂しないのその腕ー?すごーーいっ」
「やかましい」
俺が無造作に繰り出した右ラリアットが、その少年の頬を打ち、窓ガラスが割れた格子を抜けて外に吹き飛んでいった。
場外ホームランである。
「ほんとよく飛ぶ子だなぁ」
俺が呑気に少年が飛んでいった方角を眺めていると、カチャッと後頭部に押し付けられる物が。
「動くと撃つ」ってやつだな。
しかし、そのテンプレに反して蜂崎はあっさりと引き金を引いた。
あー、それ自爆案件。
ボゴンッと大きな破裂音がして、拳銃が落ちる音と同時に声にならない悲鳴が聞こえる。
のんびり振り向くと、「ウグッ……」とか言いながら、血が滴り落ちる右手を左手で押さえている蜂崎の姿があった。
たぶん指が吹き飛んだのだろう。結構な出血量である。
「アガっ………何、が………」
激痛に顔を歪めながら、必死に俺のことを睨んでくる。
心底不思議なことだろう。
蜂崎は銃の扱いにおいてプロフェッショナルだ。
改造も手入れも完璧に実行する。
銃が、それも自身の愛銃が暴発するなど青天の霹靂であった。
右手を押さえて後ずさる蜂崎に向けて、再度銃を突きつける。
「やめた。お前口堅そうだもんな。俊介なんかと違ってプロの犯罪者って感じだし。でも、殺し屋なら堂々と姿を見せちゃダメでしょ」
俺は容赦なく引き金を引いた。
スキルさん『自白剤を作成して飲ませればよかったのでは?』
祐也「ああ。その手があったか」
スキルさん『マスターは阿呆ですか。仕方ないですね。蜂崎というワードにてアクセスします』
祐也「助かる。───ッ!!今、ことが寂しがってる気がしたっ。こんなとこで遊んでる暇はねぇっ」
スキルさん『………やれやれです』